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第423回 シーズン43 エピソード3
どこまで分解できるかな?(前編)

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早くも第3刷になりました!

結城浩『群論への第一歩』はこちらです!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

僕の部屋

ユーリといっしょに因数分解の問題を楽しんでいる(第421回参照)。

公式を使って解くような単純な問題じゃない。

ちょっと試行錯誤が必要な高次式の因数分解だ。

が教えた因数定理ユーリは使えるようになった(第422回参照)。

ユーリ「ユーリ、因数分解は完璧だよ! もっと難しい問題、出してよ!」

「頼もしいなあ。じゃあ、これを因数分解してみる?」

クイズ

次の式をできるだけ因数分解してみよう。

$$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 $$

ユーリ「どらどら……?」

「できるだけ、でいいからね」

ユーリ「んー、これも因数定理使えばいいわけじゃん?」

「何を使ってもいいよ。因数分解できれば」

ユーリ「試しに $1$ を入れてみる!」

「……」

$x$ に $1$ を代入してみる

ユーリは、問題として与えられた $$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 $$ の $x$ に数を試しに代入して、 $0$ になるかどうか調べようとしている。

因数定理を使うためだ。

もしも $x$ に $1$ を代入して、この $4$ 次式の値が $0$ になったら、この式は、 $$ x - 1 $$ という因子を持つことになる。

ユーリ「じゃ、やってみるねー。 $x$ に $1$ を代入すると……やったー! $0$ になったよ!」

$$ \begin{align*} &\PHANTOMEQ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 \\ &= 1^4 - 10\times1^3 + 26\times1^2 - 10\times1 + 25 && \REMTEXT{$x$に$1$を代入}\\ &= 1 - 10 + 26 - 10 + 25 \\ &= \textbf{やったー!$0$になったよ(?)} \end{align*} $$

「ちょっと待って。ユーリ、どうして $$ 1 - 10 + 26 - 10 + 25 $$ が $0$ になるんだ?」

ユーリ「ありり? いやあー勘違い勘違い。 $1$ と $26$ と $25$ とマイナスがちらちら見えたから、 頭の中で $1+25$ と $-26$ を計算しちゃったぜ」

「『計算しちゃったぜ』じゃないよ」

ユーリ「でも、そーゆーこと、あるよね。 $0$ になってほしい!……というキミの強い願いが心を動かすんだ」

「そんな感動ドラマっぽく言われても、単なる計算ミスだからね」

ユーリ「ちぇっ……ともかく、 $x$ に $1$ を入れても $0$ になりませんでしたー」

$$ \begin{align*} &\PHANTOMEQ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 \\ &= 1^4 - 10\times1^3 + 26\times1^2 - 10\times1 + 25 && \REMTEXT{$x$に$1$を代入}\\ &= 1 - 10 + 26 - 10 + 25 \\ &= 32 \\ &\NEQ 0 \end{align*} $$

「そうだね。次は何を試す?」

ユーリ「$1$ の次は $2$ を代入してみるー!」

「え? それはなぜ?」

ユーリ「え? それはダメ?」

「……僕だったら、別の数を試すからね」

ユーリ「別の数? 試しにいろんな数を $x$ に入れてみて、 $$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 $$ が $0$ になる数を見つけるんだよね?」

「そうだね。 $a$ を入れて $0$ になれば、 $x-a$ が因子になる」

ユーリ「あー、そかそか。 $$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 = (x-a)(x-b)(x-c)(x-d) $$ みたいな形にするんだった。 $a,b,c,d$ を掛けたら $25$ になるはずだから、 つまり、 $$ abcd = 25 $$ のはず。だったら、 $2$ はありえない!」

「いや、『ありえない』は言い過ぎだけど、 $2$ よりも先に試したい数はある」

ユーリ「掛けて $25$ になる数だから、たとえば $5$ だ!」

「うん。僕だったらそれを試す。 $25$ の約数をまず試す。 符号も考えると、 $$ +1\qquad -1\qquad +5\qquad -5\qquad $$ を試すかな。 $25$ を試してもいいけど、 $1$ と $-1$ を先に試してダメだったら、 $25$ もたぶんダメ」

ユーリ「そっか。マイナスもあるね。んじゃ、 $-1$ を試してみる!」

$x$ に $-1$ を代入してみる

$$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 $$

ユーリ「$x$ に $-1$ を入れたら……あっ、ダメだ!  $0$ にならない!」

「ユーリ、判断が早い」

ユーリ「ユーリは鱗滝うろこだきさんにホメられた!」

「鬼滅ネタやめい」

ユーリ「だって、マイナスついてるのが $-10x^3$ と $-10x$ だけだもん。 偶数乗の $x$ しか残ってない」

「おお、冴えてるなあ。 そうだね。 $$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 $$ の $x$ に $-1$ を代入したら、 《$x$ の偶数乗》は $1$ で《$x$ の奇数乗》は $-1$ になる。 ところが、《$x$ の偶数乗》になってる項の係数はぜんぶプラスで、 《$x$ の奇数乗》になってる項の係数はぜんぶマイナス。 だから、この式の値は必ずプラスになる」

$$ \begin{array}{ccccllll} x^4 &- 10x^3 &+ 26x^2 &-10x &+ 25 & \\ \REDFOCUS{x^4} & &\REDFOCUS{+ 26x^2} & &\REDFOCUS{+ 25} & \REDFOCUS{\textrm{$x$の偶数乗}}\\ &\BLUEFOCUS{- 10x^3} & & \BLUEFOCUS{-10x} & & \BLUEFOCUS{\textrm{$x$の奇数乗}} \end{array} $$

ユーリ「そーゆーこと!」

「そして実際、計算すると……

$$ \begin{align*} &\PHANTOMEQ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 \\ &= (-1)^4 - 10\times(-1)^3 + 26\times(-1)^2 - 10\times(-1) + 25 && \REMTEXT{$x$に$-1$を代入}\\ &= 1 + 10 + 26 + 10 + 25 \\ &\NEQ 0 \end{align*} $$

……確かに $0$ にならない」

ユーリ「あっ、てことは $x$ に $-5$ を入れるのもダメか。じゃあ、次は $5$ を入れてみる!」

$x$ に $5$ を代入してみる

「今度はどうかな?」

$$ \begin{align*} &\PHANTOMEQ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 \\ &= 5^4 - 10\times5^3 + 26\times5^2 - 10\times5 + 25 && \REMTEXT{$x$に$5$を代入}\\ &= \textbf{(けっこうめんどい……)} \\ \end{align*} $$

ユーリ「あ、けっこうめんどい……ええと、 $5^4$ って $25\times25$ だから——」

「$25$ でくくれそうだよ。だって……

  • $5^4 = 5^2 \times 5^2 = 25\times \REDFOCUS{25}$
  • $10\times 5^3 = 10\times5\times5^2 = 50\times\REDFOCUS{25}$
  • $26\times 5^2 = 26\times\REDFOCUS{25}$
  • $10\times5 = 2\times5\times5 = 2\times\REDFOCUS{25}$
  • $25 = 1\times\REDFOCUS{25}$
……だからね」

$$ \begin{align*} &\PHANTOMEQ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 \\ &= 5^4 - 10\times5^3 + 26\times5^2 - 10\times5 + 25 && \REMTEXT{$x$に$5$を代入}\\ &= 25\times\REDFOCUS{25} - 50\times\REDFOCUS{25} + 26\times\REDFOCUS{25} - 2\times\REDFOCUS{25} + 1\times\REDFOCUS{25} && \REMTEXT{$25$を見つける} \\ &= (25 - 50 + 26 - 2 + 1)\times\REDFOCUS{25} && \REMTEXT{$25$でくくる} \\ &= (52 - 52)\times\REDFOCUS{25} \\ &= 0 \end{align*} $$

ユーリ「なんと小賢しいワザを使いおって……」

「いや、もちろん真面目に計算してもいいけど、 $10\times5$ や $25$ が見えていたら $5^2 = 25$ でくくれそうだとわかる」

ユーリ「ふみゅー」

「ともかく、 $5$ を代入したら $0$ になった」

ユーリ「そーだよ! ユーリが問題解いてたんじゃん!  $x - 5$ で $x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25$ を割る!」

$x - 5$ で $x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25$ を割る

「うん、うまく割り切れたね。これで、 $$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 = (x-5)(x^3 - 5x^2 + x - 5) $$ までできた。さてさて、ユーリ先生、次の一手は?」

ユーリ「そりゃもちろん、$\REDFOCUS{\textrm{ココ}}$んとこを因数分解するんだけど……」

$$ x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25 = (x-5)(\,\underbrace{\REDFOCUS{x^3 - 5x^2 + x - 5}}_{\REDFOCUS{\textrm{ココ}}}\,) $$

「じゃあ、また $x$ に $1$ を代入して因数定理を使う?」

ユーリ「……んにゃ、違うね! その手には乗りませんよーだ!(ベー)」

「おお」

ユーリ「だって、左辺の $x^4 - 10x^3 + 26x^2 -10x + 25$ で $1$ を代入して $0$ にならなかったんだから、 右辺の $\REDFOCUS{x^3 - 5x^2 + x - 5}$ に $1$ を代入しても $0$ になるはずない! ……でしょ?」

「ご明察」

ユーリ「……」

「だったら、ユーリは何を悩んでるんだろう」

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(2024年5月24日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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