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登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕とユーリ、そしてテトラちゃんは、 双倉図書館で開催されているイベント《いにしえの代数学》を巡っている。 会場にはパネルがたくさんあり、解説や数学の問題が書かれている。
僕たちは、解説パネルで アル=フワーリズミーが行った方程式の分類を見ていた(第445回参照)。
そこでユーリが気になることを言い出した——
方程式の分類
アル=フワーリズミーは、 著書『アル=ジャブルとアル=ムカーバラの書』 の中で、解くべき方程式を系統立てて分類した。 取り扱うものは主に以下の $3$ 種類で、すべて正の数であり、係数も正の数であった。
また、方程式を以下のように $6$ パターンに分類した。
僕「うん、ここにさっき(第445回参照)ユーリが言ってた『負の数が使えないと何が大変か』が書かれている」
ユーリ「……?」
僕「係数に負の数やゼロを使えるなら、 $$ ax^2 + bx + c = 0 $$ と一つの式で書けるのに、正の数しか使えないという制限があるから、 わざわざ $6$ パターンに分類しなくちゃいけなかったんだよ、きっと」
ユーリ「$6$ パターンに分類——あれっ、ちょっと待ってお兄ちゃん! この分類、おかしいよ。抜けがある!」
僕「え?」
テトラ「ユーリちゃん?」
ユーリは、パネルの前に置いてある紙をとって何かを書き始めた。
彼女はいったい、何に気付いたんだろう……
ユーリ「《ふわーりずみー》の分類ってこーじゃん?」
ユーリのメモ(1)
$$ \begin{array}{cccccccc} ax^2 = bx &\quad&\to &\quad& ax^2 &-& bx &+& 0 &=& 0 \\ ax^2 = c & &\to & & ax^2 &+& 0x &-& c &=& 0 \\ bx = c & &\to & & 0x^2 &+& bx &-& c &=& 0 \\ ax^2 + bx = c & &\to & & ax^2 &+& bx &-& c &=& 0 \\ ax^2 + c = bx & &\to & & ax^2 &-& bx &+& c &=& 0 \\ bx + c = ax^2 & &\to & & ax^2 &-& bx &-& c &=& 0 \\ \end{array} $$
僕「なるほど。ぜんぶ移項してみたんだね。うん、確かにこうなる」
ユーリ「$x^2$ の係数は $a$ か $0$ か $-a$ で、 $x$ の係数は $b$ か $0$ か $-b$ で、 定数は $c$ か $0$ か $-c$ だから……あー、 もー、要するにこーゆーこと!」
ユーリのメモ(2)
$$ \begin{array}{cccccccc} \textrm{$x^2$の係数} & \textrm{$x$の係数} & \textrm{定数} & \textrm{分類にある?} \\ \hline 0 & 0 & 0 & \textrm{×} \\ 0 & 0 & c & \textrm{×} \\ 0 & 0 & -c & \textrm{×} \\ 0 & b & 0 & \textrm{×} \\ 0 & b & c & \textrm{×} \\ 0 & b & -c & \textrm{○} \\ 0 & -b & 0 & \textrm{×} \\ 0 & -b & c & \textrm{×} \\ 0 & -b & -c & \textrm{×} \\ a & 0 & 0 & \textrm{×} \\ a & 0 & c & \textrm{×} \\ a & 0 & -c & \textrm{○} \\ a & b & 0 & \textrm{×} \\ a & b & c & \textrm{×} \\ a & b & -c & \textrm{○} \\ a & -b & 0 & \textrm{○} \\ a & -b & c & \textrm{○} \\ a & -b & -c & \textrm{○} \\ \end{array} $$
($x^2$ の係数が $-a$ の場合は省略)
テトラ「ユーリちゃんは、すべてのパターンを作ろうとしたんですね」
ユーリ「そだよん。だって、 $6$ 個のパターンってぜったい少ないもん。 $x^2$ の係数、 $x$ の係数、定数があって、 $0$ とプラスとマイナスがあるから……」
テトラ「$3 \times 3 \times 3 = 27$ 通りあるはずですよね」
僕「すごいなあ……ユーリは鵜呑みにしないでちゃんと考えたんだね」
ユーリ「すごい? すごい?」
僕「いや、すごいと思うよ。 ところで、どうしてアル=フワーリズミーは $6$ 通りしか考えなかったんだろう?」
ユーリ「見落とし」
僕「違うと思うな。たとえば、 $$ ax^2 + bx + c = 0 $$ に相当するパターンが出てこないのはなぜかというと、右辺の $0$ を表すことができなかったというのはあるけど、 $a,b,c,x$ がすべて正の数なら、最初からこれを満たす $x$ は存在しないことがわかっていたからじゃないのかなあ」
ユーリ「おー……にゃるほど。 $a,b,c,x$ がぜんぶプラスだったら、 $ax^2 + bx + c$ もプラスだってことかー」
テトラ「$c = 0$ や、 $bx + c = 0$ などもそうなりますね」
ユーリ「そっかー……わかりきってたからかー」
僕「本当のところはどうなのか、僕は知らないけどね」
テトラ「こちらには、アル=フワーリズミーの本について、また別のパネルがありますね」
アル=フワーリズミーと算術
十進位取り記数法はゼロを考え出した6〜7世紀頃のインドに由来する。 アル=フワーリズミーの書いた『インド数字による計算法』は、 インドにおける記数法を扱った先駆的な算術書である。 この本の原本は残っておらず、ラテン語による手稿数点が残っている。 この中で $1$ から $9$ までの数を表す文字と $0$ を表す文字と位取り記数法を提示した。 ただし小数はまだ使われていない。
僕「インド数字? アラビア数字とはまた違うのかなあ」
ユーリ「お兄ちゃん、知らないの? インドからアラビア世界を経由してヨーロッパに伝わったから アラビア数字って呼ばれてるんだよ」
僕「ああ、そういうことか! ユーリ、よく知ってるなあ」
ユーリ「へへ。お兄ちゃんの後ろにあるパネルに書いてあった」
インド数字とアラビア数字
現在「アラビア数字」と呼ばれている数字の起源はインドである。 しかし、インドからアラビア世界を経由してヨーロッパに伝わった経緯から、 ヨーロッパでは「アラビア数字」と呼ばれるようになった。 つまり「アラビア数字」という呼称は、起源ではなく経路を表現していることになる。 なお、アラビア世界では「アラビア数字」ではなく「インド数字」と呼んでいる。
僕「アラビア世界ではインド数字って呼んでいる……なるほどね。おもしろい話だな」
ユーリ「あれ? 何だか変だよ。 《ふわーりずみー》は、算術書ではゼロも扱っているのに、 どーして、方程式では正の数しか扱わないんだろ? おかしくね?」
僕「おお……言われてみれば確かに!」
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