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第426回 シーズン43 エピソード6
二乗したとき起きること(後編)

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早くも第3刷になりました!

結城浩『群論への第一歩』はこちらです!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

図書室にて

は後輩のテトラちゃんと複素数の計算をしていた。

複素数 $A$ が与えられたとき、 $$ A = z^2 $$ となる複素数 $z$ を見つけようという問題で、テトラちゃんは根気強く計算をした。

ようやく答えまでたどり着いたところ(第425回参照)。

テトラ「ようやくできましたっ! ……ところで先輩も、こういう計算をユーリちゃんにしてみせたんですか?」

「うーん……そういうわけじゃない。僕は、ぜんぜん違う計算をしてた」

テトラ「ぜんぜん違う計算……とは?」

「いや、《ぜんぜん違う》は言いすぎかな。 最初はテトラちゃんと同じように $A = u + vi$ として $A = z^2$ を考え始めたんだけど、 入り組んだ計算になりかけたところで方針変更したんだ。 だから、いまテトラちゃんの計算を見ながら『ああ、根気よく進めばちゃんとたどり着くんだ……』と思ってたところ。 ありがとう、テトラちゃん」

テトラ「いえいえ。でも、方針変更——そうはいっても、 与えられた複素数 $A$ に対して $A = z^2$ となる複素数 $z$ を作るという方針は 変わらないんですよね? だとしたら、 $$ z = a + bi $$ として $z^2$ を計算するしかないですよね?」

「そうでもないよ。僕は、 $$ z = r(\cos\theta + i\sin\theta) $$ として $z^2$ を計算したんだ」

テトラ「三角関数?!」

「そうだね。 でも、この表し方はテトラちゃんも知ってるんじゃなかった?」

テトラ「は、はい……でも、あたしはそういうふうには頭が回りませんでした。 『複素数について一般的に考える』となると、 $$ z = a + bi $$ のようにして、複素数 $z$ を二つの実数 $a,b$ と虚数単位 $i$ を使って表す——と考えてしまいます」

「いや、もちろんそれは間違っていないし、悪いことでもないよ、テトラちゃん。 というか、とても素直で正しい方向だと思う。

  • $z = a + bi$ は、直交座標ちょっこうざひょうで複素数を考えていて、
  • $z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ は、極座標きょくざひょうで複素数を考えている
といえるね」

$z = a + bi$

$z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$

テトラ「なるほど。確かにそうですね」

「そしてテトラちゃんは、 直交座標で $z = a + bi$ と $A = u + vi$ のように複素数を考えたことによって、

  《$A$ が与えられて $z$ を求める問題》

  《$u,v$ を使って $a,b$ を表す問題》

に変換したといえるね。要するに《連立方程式を解く問題》形に変換したんだ(第425回参照)」

テトラ「確かに先輩のおっしゃる通りです。その変換で『これ、あたしにも解ける!』と思えました」

「だよね。問題を、自分の解ける形に変換するのはすごく大切だと思うな」

テトラ「自分のバトルフィールドに持ち込むわけですねっ! アウェイじゃなくてホームで戦うっ!」

「まあ……そういうことになるのかな。もっとも、計算は大変だったけど」

テトラ「根気勝負ですっ! ……あ、すみません。それで、極座標だと、計算はどうなるんでしょう?」

「極座標でもやることは同じだよ。 $z^2$ の計算をするんだ。 複素数 $z$ を、 $$ z = r(\cos\theta + i\sin\theta) $$ で表して $z^2$ を計算すると、 $$ \begin{align*} z^2 &= \PS{r(\cos\theta + i\sin\theta)}^2 && \REMTEXT{$z$の定義から} \\ &= r^2 (\cos\theta + i\sin\theta)^2 && \REMTEXT{$2$乗を分けて計算} \\ &= r^2 (\cos^2\theta + 2i\cos\theta\sin\theta + i^2\sin^2\theta) && \REMTEXT{$2$乗を展開} \\ &= r^2 (\cos^2\theta + 2i\cos\theta\sin\theta - \sin^2\theta) && \REMTEXT{$i^2 = -1$} \\ &= r^2 (\cos^2\theta - \sin^2\theta + 2i\cos\theta\sin\theta) && \REMTEXT{実部をまとめた} \\ &= r^2(\cos^2\theta - \sin^2\theta) + r^2(2\cos\theta\sin\theta)i && \REMTEXT{実部と虚部に分けた} \end{align*} $$ となる。すなわち、 $$ z^2 = r^2(\cos^2\theta - \sin^2\theta) + r^2(2\cos\theta\sin\theta)i $$ となって——」

テトラ「あっ! 先輩っ! その先の流れ、わかりましたよ。テトラ、しゃべってもいいでしょうか?」

「もちろんいいよ。何か気付いたの?」

テトラ「あたしたちがいまやろうとしているのは、 複素数 $A$ から、 $z^2 = A$ を満たす $z$ を求めることです。 いま先輩は $z^2$ を計算してますよね。 このあとに続くのは、 $A$ の方を $$ A = u + vi $$ とおいて、

  《$z^2$ の実部が $u$ に等しくて、虚部が $v$ に等しい》

という条件を使うんじゃないでしょうか。 そして、それはすぐにできます。 だって、 先輩の計算から、実部と虚部をまとめると、 $$ z^2 = \underbrace{r^2(\cos^2\theta - \sin^2\theta)}_{\REMTEXT{実部}} + \underbrace{r^2(2\cos\theta\sin\theta)}_{\REMTEXT{虚部}} i $$ なりますからっ! つまり、 $$ \begin{cases} u &= r^2(\cos^2\theta - \sin^2\theta) && \REMTEXT{実部} \\ v &= r^2(2\cos\theta\sin\theta) && \REMTEXT{虚部} \qquad\qquad\cdots\cdots\clubsuit \end{cases} $$ という連立方程式を解くことになるはずですっ!」

テトラちゃんは、そこまで一気に話して満足げにストップした。鼻息が荒いな。

「うん、計算自体はおかしくないんだけど、それだとちょっぴりちぐはぐ・・・・だよ」

テトラ「ちぐはぐ……?」

「$z$ の方を極座標で考えて、 $A$ の方を直交座標で考えていることになるからね。 それはテトラちゃんのバトルフィールドとやらにこだわり過ぎていると思うな」

テトラ「ははあ……それではどうするんでしょう」

「$A = u + vi$ じゃなく、 $A$ の方も極座標で表示してみる。たとえば、 $$ A = R(\cos\phi + i\sin\phi) = \underbrace{R\cos\phi}_{\REMTEXT{実部}} + i\underbrace{R\sin\phi}_{\REMTEXT{虚部}} $$ とおいてみる。これで、 $R$ と $\phi$ ファイを使って複素数 $A$ を表したことになる」

テトラ「あれ、でも、そこから結局 $$ A = z^2 $$ という式を書き換えて、 実部と虚部の連立方程式を作るんじゃないでしょうか。つまり、 この連立方程式のことです」

$A = z^2$ から極座標を使って得られた連立方程式

$A$ と $z$ をそれぞれ $$ A = R(\cos\phi + i\sin\phi) $$ および $$ z = r(\cos\theta + i\cos\theta) $$ とおき、 $$ A = z^2 $$ から以下の連立方程式を得た。

$$ \begin{cases} R\cos\phi &= r^2(\cos^2\theta - \sin^2\theta) && \REMTEXT{実部} \\ R\sin\phi &= r^2(2\cos\theta\sin\theta) && \REMTEXT{虚部} \end{cases} $$

「そうだね」

テトラ「……」

そこで、テトラちゃんは考え込んでしまった。

正直、は議論を先に進めたくてうずうずしていたけれど、 彼女の考えがどこかに着地するのを待つことにする。

テトラちゃんは、この連立方程式から何を考えるんだろうか。

「……」

テトラ「……あの、先輩?」

「うん」

テトラ「テトラの考え、聞いていただけますか?」

「もちろん。どうぞどうぞ」

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(2024年6月14日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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