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第385回 シーズン39 エピソード5
「理解する」を理解する(前編)

書籍紹介:『数学ガールの秘密ノート/数を作ろう』

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

$ \newcommand{\TEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\REAL}{\mathbb R} \newcommand{\ZEE}{\mathbb Z} $

図書室にて

テトラちゃんは、村木先生からの《カード》に書かれていたベクトル空間の定義に取り組もうとしている。

今日はいつもとは違う。

教えるのではなくて、二人で一緒に読んでいくというスタイル——《二人三脚読み》——を試みようとしているのだ(第384回参照)。

「……これで、『$K$ を、たいとします』を読んだことになるね。 ここからさらに体の定義を厳密に追う方向に進む選択肢もあるけど、 いまは《カード》を先に進めることにしようか」

テトラ「《理解の最前線》……といえるかどうかわかりませんが、いま読んでいる《最前線》が一歩進みました!」

「そうだね。《二人三脚読み》で一歩進んだことになる!」

テトラ「それでは、引き続き《カード》を読んでいきましょう!」

村木先生の《カード》

  • $K$ を、たいとします。
  • $V$ を、加法群(群演算を加法と考え、二項演算子を $+$ で表したアーベル群)とします。
  • $K\times V$ から $V$ への写像 $(a,x) \mapsto ax$ が存在して、
  • 以下の(1)から(4)のすべてが満たされているとします。

(1)$K$ の任意のげん $a$ と、 $V$ の任意の元 $x,y$ に対して、$$a(x + y) = ax + ay$$が成り立つ。

(2)$K$ の任意の元 $a,b$ と、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$(a + b)x = ax + bx$$が成り立つ。

(3)$K$ の任意の元 $a,b$ と、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$(ab)x = a(bx)$$が成り立つ。

(4)$K$ の単位元を $1$ とすると、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$1x = x$$が成り立つ。

  • このとき、 $V$ を「$K$ 上のベクトル空間」といいます。
  • $V$ の元を「ベクトル」といいます。
  • $K$ の元を「スカラー」といいます。
  • 写像 $(a,x) \mapsto ax$ を「スカラー倍」といいます。
  • $V$ の元 $ax$ を「$x$ の $a$ 倍」といいます。

松坂和夫『代数系入門』を参考にしています。

加法群

  • $V$ を、加法群(群演算を加法と考え、二項演算子を $+$ で表したアーベル群)とします。

「なるほど。今度は $V$ だね」

テトラ「はい。先ほどは $K$ についてでした。今度は $V$ についてです。 ここから先、《カード》に出てくる $V$ というものが何を表しているか。 $V$ はいったい何を表すものとして議論が進むのか……それをはっきりさせるために、 ここで $V$ の説明が書かれいてる——わけですよね?」

「そうだね」

テトラ「それはいいんですけれど、あたし……正直いいまして、目がちらちらします」

「というと?」

テトラ「$K$ については、《体》という一言で済みました。 でも、ここに出てくる $V$ では《加法群》《群演算》《加法》《二項演算子》《アーベル群》という用語がどんどこ襲ってきます……こういう状況は、 苦手なんです」

「なるほど……どんどこ、ね。でも、テトラちゃんは群について、知ってるんじゃない?」

【CM】

ユーリ「テトラさんの《群》へのチャレンジは、『数学ガール/フェルマーの最終定理』をどーぞ!」

テトラ「はい……ぜんぜんわからないわけではありません。先輩やミルカさんから《群》についてのお話は何回かおうかがいしましたから。 でも、《加法群》《群演算》《加法》《二項演算子》《アーベル群》のようにばばばばっとやってくると、 あれもこれも、あたしはちゃんと理解はしていないんだ……と思ってしまいます。それで、どきどきしちゃうんです」

「テトラちゃんは、すべての用語といっぺんに《お友達》になろうとする傾向があるからね」

テトラ「ああ……そうかもしれません」

「たくさんの用語が出てくると、確かにちょっと焦っちゃうけれど、逆に手がかりが増えるから助かるともいえるよ」

テトラ「手がかり——といいますと?」

数学用語との付き合い

「つまりね、文章を読みながら、出てくる用語を使って、自分の理解が正しいかどうかを軽くチェックできるということ。 《体》という一言だと、それを知ってるかどうかだけで決まっちゃうけど、 いろんな用語が書かれていると、それを使って自分の理解をチェックできる」

テトラ「はあ……でも、意味がわからない用語があると、困りませんか?」

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(2023年3月3日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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