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第338回 シーズン34 エピソード8
電場と位置エネルギー(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

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図書室にて

ここは高校の図書室。

は後輩のテトラちゃんとおしゃべりをしていた。

オームの法則や(第332回参照)、 クーロンの法則や(第333回参照)、 キルヒホッフの法則などについて話した後(第335回参照)、 電場についておしゃべりをしていた(第337回参照)。

テトラ「《静電気力の世界》と《重力の世界》とがペアでダンスを踊っているような……」

「ああ、そうだね。法則を書き表している《式の形》がそっくりだから、その二つの世界は、似た性質を持つ」

テトラ「たとえば、力の大きさが《距離の二乗に反比例♪》するという性質がそうですね」

「そうそう。静電気力はクーロンの法則による力、クーロン力ともいうね。 引っ張り合う引力と、押しのけ合う斥力があって、その大きさは《距離の二乗に反比例》する」

テトラ「重力の方は万有引力の法則ですね。 こちらは引力だけですけれど、大きさは静電気力と同じで《距離の二乗に反比例♪》します」

「二つの世界にある力に、似た《性質》が見つかる。またそこから、二つの世界に対して、似たような《概念》も作り出せたりする」

テトラ「《概念》を作り出す……?」

「あ、いや、ごめん。話が先走りすぎた。僕が考えていたのは《位置エネルギー》のことなんだ」

テトラ「位置エネルギー……?」

「重力による《位置エネルギー》を考えるのと同じように、 静電気力による《位置エネルギー》を考えることができる」

テトラ「……」

「重力に抗して質点に対して仕事をすると、その仕事の分だけ、質点が持っている重力による位置エネルギーが増える。 それとまったく同じように、 静電気力に抗して電荷に対して仕事をすると、その仕事の分だけ、電荷が持っている静電気力による位置エネルギーが増える。 重力の大きさと静電気力はそっくりだから、 重力による位置エネルギーと、静電気力による位置エネルギーもそっくりになる」

テトラ「え……あ……」

「そして、重力による位置エネルギーを理解するときに、僕たちが《高さ》のイメージを活用するのと同じように、 静電気力による位置エネルギーを理解するときも《高さ》のイメージを活用できる。 うん。電流を考えるときに高いところから水が落ちてくるようすを使うと理解しやすいのは、 きっとその《高さ》のイメージのおかげだね。 さらにそこから考えを進めると、重力加速度は、ちょうど……」

テトラ「ちょ、ちょっとお待ちください。テトラの頭はいま、たくさんの言葉であふれかえっていますっ!」

テトラちゃんはそういって頭を抱えた。

頭から言葉があふれ出て、こぼれていくのを防いでいるのかもしれない。

「ごめんごめん。ペース、速すぎた?」

テトラ「あのですね。ひとつひとつの言葉は聞いたことがありますし、 それなりにわかっているつもりではあるんです。 で、でも、続けざまだと追いつかなくて反応が鈍ってしまって……すみません」

「いやいや、謝る必要は何もないよ。 ……そうだよね。テトラちゃんはいろいろわかっている。 じゃあ、いっしょに一つ一つ確認してみようか。 僕も自分の理解の整理になるし」

テトラ「す、すみませ……あっと! ありがとうございます!」

重力による位置エネルギー

「じゃあ、基本的なところから一緒に復習しようか。 テトラちゃんは重力による位置エネルギーを覚えてる?」

テトラ「はい、 $mgh$ ですよね」

「うん、そうだけど……」

テトラ「大丈夫です。ちょっとお時間をください。それぞれの文字の意味もちゃんといえます」

「はいはい」

テトラ「重力による位置エネルギーは、こんなふうにいえます。 質量が $m$ の質点があるとして……」

重力による位置エネルギー(テトラちゃんの説明)

  • 質量が $m$ の質点があるとします。
  • 重力加速度定数を $g$ とします。
  • 地上からの高さを $h$ とします。

このとき、この質点が持つ重力による位置エネルギーは、

$$ mgh $$

で表されます。

「さすがテトラちゃん! きちんと文字が何であるかも説明してくれたんだ」

テトラ「あたしの説明で、大丈夫ですよね?」

「そうだね。一点だけ、あえて補足するとしたら……」

テトラ「先輩! 待ってください。補足が必要ということですね? 少し考えさせてください」

テトラちゃんはそういって考え始めた。

少しして、彼女は親指の爪を軽く噛む。

さらには、指で自分の頬をつまみ、むにーっと引き延ばした。

フックの法則の実験をしているわけではない。

「……」

テトラ「質量の単位はキログラム(kg)で、高さの単位はメートル(m)とします。 質点の質量は極端に大きなものではないつもりです。 それから、これは地球上の話のつもりです。 あとは……地上から極端に高い場所の話ではないとしています。 他に補足は必要でしょうか?」

「テトラちゃんは質量と高さがそれぞれ適切な範囲に収まっている、ということを考えたんだね。なるほど、なるほど」

テトラ「先輩が気付いたことはなんでしょうか」

「うん、位置エネルギーの基準をどこにするかをはっきりした方がいいなと思ったんだよ」

テトラ「あっ! そうでした。そうですよね……あたしが言った重力による位置エネルギー $mgh$ というのは、 質点が地上にあるときの位置エネルギーをゼロとしたときのものです。 そういうことですね?」

重力による位置エネルギー(テトラちゃんの説明+補足)

  • 質量が $m$ の質点があるとします。
  • 重力加速度定数を $g$ とします。
  • 地上からの高さを $h$ とします。

このとき、この質点が持つ重力による位置エネルギーは、

$$ mgh $$

で表されます。

※ただし、ここでは地上での位置エネルギーを $0$ と定めています。

「そうだね。ふだんは気軽に《位置エネルギーは $mgh$》で済ませちゃうこともあるけど、いまは仕事との関係をきちんとしたいから」

テトラ「はいはい……思い出してきました。《仕事》というのは日常用語とまぎらわしいのですが、物理学の用語ですね。《仕事》は、力と変位の積です」

【CM】

ユーリ「はいー! 出てきました《仕事》と《位置エネルギー》! テトラさんが粘りに粘った議論はこちらで!!」

「うん。いま力は一定だとわかっているし、変位つまり位置の変化を考えれば、重力による《仕事》がわかる。 そして、そこから重力による《位置エネルギー》もわかる」

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(2021年10月8日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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