登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕「……そんな話をユーリとしていたんだよ。先週」
テトラ「……」
ここは高校の図書室。
僕は後輩のテトラちゃんとおしゃべりをしていた。
オームの法則や(第332回参照)、 クーロンの法則や(第333回参照)、 キルヒホッフの法則などについて話して(第335回参照)、 ホイートストーンブリッジも簡単に説明したところ(第336回参照)。
いつものようにテトラちゃんは熱心に話を聞いていたけれど、 最後の方になると黙りこくってしまった。珍しいな。
僕「どうしたの?」
テトラ「あ、いえいえ、ちょっと目まいがしただけです」
僕「えっ、大丈夫?」
テトラ「だ、大丈夫です。目まいというのは《もののたとえ》で……ええとですね。 《大きな世界》と《小さな世界》との行き来が激しかったので、まるでジェットコースターみたいで」
僕「?」
テトラ「電気のお話って、そういうところがありますよね……」
僕「ええと、テトラちゃんがいう《そういうところ》って何のこと?」
テトラ「はい、あのですね、電気のお話って、《電子》が出てきますよね。 電流は電子の流れというお話もありました」
僕「そうだね。流れの向きは反対向きだけどね」
テトラ「電子を考えているときはとても《小さな世界》を考えているんですが、 電子の数を考えるときは急に大きな数が出てきました」
僕「うんうん。ざっくり10の20乗というすごいオーダーになるからだね。想像を絶するくらい大きな数だと思う」
テトラ「地球上の人類が100億人いたとして、その一人一人が100億人のいる星をそれぞれ抱えていたようすを想像する……となると、 今度は急激に大きな数をイメージすることになりました。 これってかなりクラクラと来ますっ!」
僕「うん、わかるよ。電気なんて毎日使っているありふれたものなのに、 想像するのがむずかしいくらい、ものすごいことが起きているんだよね!」
テトラ「ですです。ライトのスイッチを入れるだけで、 とんでもない数の電子がわあああああああっと……」
テトラちゃんはそういうと、両腕を揃えて左から右へ大きく動かした。 きっと《とんでもない数の電子の流れ》を表現しているんだな。
僕「で、テトラちゃんは目まいがすると」
テトラ「はい、そうです。これは、地球の重力を考えたときとはまた違う感覚ですね……」
僕「地球の重力って?」
テトラ「重力があるところでボールを投げる。そのようすを考えたことがありました。 ニュートンの運動方程式を使って、ボールが放物線を描くことを示しましたよね?」
僕「そうだね。ニュートン力学」
【CM】
ユーリ「はいー! さっそく出てきました《ニュートン力学》! 物理学の基本! ボールを投げると放物線を描くのはなぜ?! ユーリがその謎に挑戦するアドベンチャーはこちらから!!」
テトラ「(いまCMはスルーしても大丈夫でしょうか)」
僕「(大丈夫だよ)」
テトラ「《地上でボールを投げる》というのは、とても身近なお話です。 でも、物理法則を考えているうちに気がついたら《宇宙にロケットを飛ばす》お話になっていました。 あのときも《小さな世界》と《大きな世界》を行き来していたことになりますね(書籍参照)」
僕「なるほど、確かにそうだね。そこでいう《小さな世界》は僕たちのふだんの生活で、 《大きな世界》は地球や月や宇宙みたいな……」
テトラ「そうですっ! ですから物理学って、電子のようなものすごく《小さな世界》から、 あたしたちの日常生活から、宇宙のようなものすごく《大きな世界》までを、 ぜーんぶ扱おうとしているんだと感じましたっ!」
《ぜーんぶ》と言いながら、テトラちゃんは両手を大きく広げる。
まるで、全宇宙を抱きかかえるみたいに。
物理学は《小さな世界》から《大きな世界》までを扱おうとしている
※「いらすとや」さんのイラストを加工しています。
テトラ「ところで、先輩のお話の中でまだよくわからないことがあります」
僕「なんだろう」
テトラ「電場のことです」
僕「電場?」
テトラ「はい。電気を帯びたものを配置すると、そのまわりに電場ができる……というお話がありましたよね(第334回参照)」
僕「うん、そうだね。電気力線を使って電場の向きと大きさを表したけど、そんなに難しかった?」
電気力線で表した電場
※This image is by Andrew Jarvis (Representation of the electric field produced by two charges). This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International license.
テトラ「難しいといいますか、《わかってない感じ》がするんです」
テトラちゃんの《わかってない感じ》が出てきた。
彼女はいつも熱心に話を聞き、素直に考える。
でも、素直に考えるというのは、すぐに納得するという意味ではない。まったく違う。
言われたことをそのまま受け取るけれど、 それに対して自分が抱いた疑問を大切にする。 そこで感じる《もやもや》や《あやふや》な感覚……彼女はそんな《わかってない感じ》をずっとキープできるんだ。
僕「どのあたりに引っかかるんだろう。電気力線?」
テトラ「いえ、はい、そうですね。 電気力線の図はわかりやすかったです。正電荷から負電荷に向かう曲線があって、 いかにも『ここには電場があるぞー』という感じはするんですが、 それは《感じ》だけで、あたしはそれが何なのか、ちゃんと説明できないんです……電場とは何でしょうか?」
僕「なるほど」
テトラ「電場は電気量とは違いますよね。速度や加速度とも違います……よね? あたしは『電場とは何か』と聞かれても答えられないようです」
僕「うんうん、それはつまり電場の定義を押さえたいということだね」
テトラ「あっ、そうですね。《感じ》とか言ってないで、そう言えばいいんですね。そうです。 あたしは電場の《定義》を知りたいんです」
僕「いろんな表現の仕方があるけれど、ある位置における電場はこんなふうに定義できると思うよ」
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