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第336回 シーズン34 エピソード6
キルヒホッフの法則(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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電圧をゼロにしてみた

ユーリは、 オームの法則や(第332回参照)、 クーロンの法則や(第333回参照)、 コンデンサの仕組みや(第334回参照)、 キルヒホッフの法則についておしゃべりしていた(第335回参照)。

ちょうど、クイズを解いたところ。

「……ところでさっきのクイズの答えは、こうだったね」

$$ \begin{align*} I &= I_1 + I_2 \\ &= (V + V')/R_1 + V/R_2 \\ \end{align*} $$

ユーリ「うん」

「この式を少し変形してみる」

$$ \begin{align*} I &= (V + V')/R_1 + V/R_2 \\ &= V/R_1 + V'/R_1 + V/R_2 \\ &= (1/R_1 + 1/R_2)V + V'/R_1 \\ \end{align*} $$

ユーリ「$V$ でくくった?」

「そうだね。そしてこの式をよく見て、ユーリがさっき『邪魔だ』って言った $V'$ をゼロにしてみよう。どうなる?」

ユーリ電圧をゼロにする……こーゆーこと?」

$$ I = (1/R_1 + 1/R_2)V $$

「そうそう。それで、これはちゃんと、 $R_1,R_2$ の並列つなぎになっているよね。 だって、合成抵抗を $R$ としたとき、こうなるから(第332回参照)」

$$ I = (1/R)V $$

ユーリ「?」

「クイズで出した回路で $V' = 0$ にしたなら、単なる抵抗の並列つなぎになる。だとしたら《式の形》でも、ちゃんと並列つなぎの式になるはずだなあと思ったんだ。 そして、ちゃんとそうなっている。だから、途中で計算ミスをしている可能性は低いな、と思ったんだよ」

$V' = 0$ にしてみた

ユーリ「そんなことしていーんだ」

「だって、 $V'$ のように文字を使うのは、そのためだよね。 値を変化させて、おもしろいことは起きないか、みたいな。 文字にいろんな値を入れてみて、どういう変化をするか、とかね」

ユーリ「ほほー。む、ちょっと待った! もしも $I = (1/R)V$ で……」

「うん」

ユーリ抵抗をゼロにすることにしたら?  $R = 0$ にしたらどーなんの? 電流が無限大?!」

抵抗をゼロにしてみたら?

「ああ、それを考えていたのか。Rが分母にあるから、ゼロにするのはまずいね。ゼロ割になってしまう」

ユーリ「違うの、違うの。完全にゼロにしなくても、Rをものすごーく小さくするんだよー! そしたらIはものすごーく大きくなるよね?」

$$ I = V/R $$

「そうだね。たとえば、この回路でRをすごく小さくするということは、電気抵抗の大きさを小さくしているわけだから、 電流が大きくなる。それは正しいよ」

ユーリ「それ、やばいよね。だって、Rはいくらでも小さくできるから、Iはいくらでも大きくなる」

「うん。それはそう。でも、現実の回路では、そうはならないし、そうはできないんだ」

ユーリ「え、なんで?」

「理由はいくつかあるよ。まず、電気抵抗Rをゼロに近付けるのには限界がある。金属の中を自由電子が移動するときには、 どうしても抵抗が発生してしまう。物体を極端に冷却して《超伝導》の状態を考えればまた話は違うけれど」

ユーリ「超伝導、聞いたことある。QuizKnockのナイスガイ須貝さんが研究してる」

「そうそう」

ユーリ「抵抗はゼロにできなくても、抵抗をなくしちゃったら?」

「それは、電池をショートさせるってことだね。それはとっても危険!」

ユーリ「危険?」

「ものすごく大きな電流が流れるから、高温になってやけどしたり、発火したりすることがある」

ユーリ「あー、やっぱり電流は大きくなるんだ」

「そうだね。それはそう。でもいくらでも大きくなるわけじゃない。 電池が自由電子を運ぶ働きは無限大じゃないから、電圧がキープできなくなるんだ」

ユーリ「電圧がキープできない? どーゆーこっちゃ」

「抵抗を小さくすると、流れる電流は大きくなる」

ユーリ「それはわかる」

「抵抗をとても小さくして、電流がとても大きくなると、電圧が小さくなるんだ」

ユーリ「は? そんなの、 $I = V/R$ から言えんの?」

「言えない。 $I = V/R$ というのはオームの法則だよね。 電流が大きくなると電圧が小さくなるというのは、電池の性質から来るものだよ」

ユーリ「電池の性質って、電圧を作る? えーと、電位差? 起電力だっけ?」

「うん。順を追って話そう」

ユーリ「おっけー」

電池

「電池は化学的な反応を使って、プラス極とマイナス極のあいだに電位差(でんいさ)を作る」

ユーリ「うん。1.5ボルトとか」

「そうだね。乾電池の1.5ボルトというのは、 プラス極とマイナス極のあいだの電位差の大きさを表している。 電流が流れていないとき、 この電位差のことを電池の起電力(きでんりょく)という」

ユーリ「お? いま、なにげに条件つけたね?」

「よく気付いたね」

ユーリ「ふふん。ユーリさまは条件を聞き逃すことはないのさっ!」

「すごいな」

ユーリ「《電流が流れていないとき》とわざわざ断ってたじゃん?」

「そう。今回の話のポイントはそこにある。 電流が流れていないとき、プラス極とマイナス極のあいだ……つまり電極間の電位差を起電力という」

ユーリ「てことは、電流が流れているときは違う?」

「そうなんだ。微妙な話になるから、 電極間の電位差のことを《端子電圧》(たんしでんあつ)とよぶことにしよう。 そうすると、電流が流れていないときには《端子電圧》と電池の《起電力》は等しい」

ユーリ「……」

「電流を流すと、電池の《端子電圧》は下がっていくんだ。これは電池が持っている性質。 大きな電流を流せば流すほど、《端子電圧》は下がる」

ユーリ「たくさん電流を流すと、《端子電圧》……電池のプラス極とマイナス極の間の電位差が小さくなるってこと?」

「そういうこと。現実世界の電池は、無限に大きな働きができるわけじゃないんだね」

ユーリ「ふーん」

「ところで、《起電力》と《端子電圧》と分けて考えるとおもしろいことがわかる」

ユーリ「おもしろいこと?」

「そうだよ。『電流がたくさん流れると《端子電圧》が下がる』というのを、 こんな仮想的な回路で説明することができるんだ」

  ↓↓↓

ユーリ「何これ。大きな電池の中に小さな電池が入ってる?」

「電池の絵の内部に描いた電池は《起電力》を表現する。起電力は電位差Eを作り出すものとする。 そして、いくら大きな電流が流れてもEの値は変化しないとする」

ユーリ「んー、理想の電池みたいなもん?」

「そう考えてもいいよ。そして、小さな電池の上に抵抗を描いた。これは、仮想的に、電池の内部にあると考えた抵抗で、内部抵抗(ないぶていこう)と呼んでいる。 そして《端子電圧》をVとする。Vが僕たちに見える外側の電池が作り出す電位差だね」

ユーリ「ちょっと待ってよ。話をややこしくしてる?」

「してない、してない」

ユーリ「じゃ、何やってるの?」

「『電池に電流を流すと《端子電圧》が下がる』という電池の性質をうまく説明するモデルの話をしてるんだ」

  • 電位差Eは、《起電力》を表現している。
  • 電位差Vは、《端子電圧》を表現している。

ユーリ「うーん……」

「もうちょっと話が進むと『にゃるほど』になるよ」

ユーリ「お兄ちゃんの猫語、へんだよ」

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(2021年9月24日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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