この記事は『数学ガールの秘密ノート/確率の冒険』として書籍化されています。
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕とユーリは確率についてのおしゃべりをしている。
表と裏が交互に出てくる《ロボットコイン》というアイディアをユーリが出し、 僕はそれを検討していた(第253回参照)。
いまは二人でおやつを食べ終わったところ。
ユーリ「おせんべ、美味しかったね。栗ヨーカンはなかったけど」
僕「栗羊羹はさすがにないよ。 ところで、ロボットコインの話はもうすっきりしたの?」
ユーリ「うん! だいじょーぶ。フェアなコインを $2$ 回投げたときは、 $1$ 回目の表裏は $2$ 回目の表裏に《影響を与えない》んでしょ。 そしてそれは、確率の掛け算でわかる」
僕「その通りだね」
ユーリ「でも、表裏がかわりばんこに出てくるように作られたロボットコインの場合は、 $2$ 回投げたときは、 $1$ 回目の表裏は $2$ 回目の表裏に《影響を与える》。 それも、確率の掛け算でわかる」
僕「掛け算が出てくる理由も納得?」
ユーリ「うん! 《何を全体とするか》を変えてるだけだもん。 栗ヨーカンを横に切るのは全体を $\frac12$ にしてるの。 そしてそれを縦に切るのは、それをさらに $\frac12$ にしてる……でしょ」
僕「そうだね。ユーリはよく理解してるみたいだ」
ユーリ「でしょでしょ? 栗ヨーカンを $\frac12\times\frac12 = \frac14$ にしたとき、 そこに入ってる栗も全体の $\frac14$ になってる! だから、 $1$ 回目に横に切って上半分を選ぶか下半分を選ぶかは、 $2$ 回目に影響してないっていえる。 栗ヨーカンを考えればすぐわかるよん。フェアなコインのときと、 ロボットコインのときはぜんぜん違うもん」
フェアなコイン
ロボットコイン
僕「いいねえ」
ユーリ「うん! だから、 $1$ 回目が $2$ 回目に《影響を与えない》ってゆーのは、 栗ヨーカンの中で、栗が《偏っていない》ってことだよね! ユーリ、完璧に理解した!」
僕「ん?」
ユーリ「え?」
僕「いまのユーリのセリフは引っかかるなあ」
ユーリ「あー、はいはい。あのね《完璧に理解した》ってのは軽いジョークなのだよ」
僕「いや、そこじゃないよ。 ユーリは《影響を与えない》というのは《偏っていない》ことだって言ったよね」
ユーリ「うん」
僕「それは違うと思うなあ」
ユーリ「は? だってそーじゃん。フェアなコインのときには、 $4$ 通りの場合がぜーんぶ同じ確率なんでしょ? それを《偏ってない》って言っちゃダメ?」
フェアなコインを $2$ 回投げるときの確率
僕「いや、それは正しいよ。フェアなコインを $2$ 回投げたら、表表、表裏、裏表、裏裏の $4$ 通りが起きる確率はどれも $\frac14$ ずつ。確率は等しい。 それを《偏ってない》と呼ぶのはおかしくない」
ユーリ「でしょ? でもロボットコインのときには、表表と裏裏は絶対に起きないから確率 $0$ になる。表裏と裏表はそれぞれ確率 $\frac12$ になる。 $0$ になるところと $\frac12$ になるところがあるから《偏ってる》って言える」
ロボットコインを $2$ 回投げるときの確率
僕「うん、いいよ。偏っている。偏りがあると言える」
ユーリ「フェアなコインのときには、 $1$ 回目は $2$ 回目に影響しないけど、 ロボットコインのときには、 $1$ 回目は $2$ 回目に影響する……よね?」
僕「そうだね。フェアなコインは《影響しない》けど、ロボットコインは《影響してる》」
ユーリ「うーむむむ! だったら、だったら! 《偏りがない》って《影響しない》ってことじゃないの? どれも起こりやすくて、確率が等しくて、偏りがないこと……それが、 それが影響しないってことじゃないの?」
僕「あのね、 フェアなコインとロボットコインの場合には確かにユーリが言う通りだよ。
ユーリ「はあっ? わけわかんない! だったら、証明してよ!」
僕「証明?」
ユーリ「そうじゃない場合があるんでしょ? だったら、 $2$ 回投げたとき《影響しない》けど《偏りがある》不思議なコインを見せて!」
僕「それは簡単だよ。落ち着いて考えれば、 すぐにそういう例を作ることができる。 だって、もともとロボットコインのようなすごい例を考えなければ、 コイン投げというのは $1$ 回目が $2$ 回目に《影響しない》のが普通だからね」
ユーリ「そりゃそーだけど……で?」
僕「うん、混乱しやすいから、ちゃんと整理して話そうか。 《ゆがんだコイン》を例に出そう」
ユーリ「ゆがんだコイン?」
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/確率の冒険』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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