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第210回 シーズン21 エピソード10
逆転インバース(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。

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図書室にて

テトラちゃんは、 関数 $\frac{1}{f(x)}$ の微分についておしゃべりをしていた。 具体的には、 $$ \left(\, \dfrac{1}{f(x)} \,\right)' = - \frac{f'(x)}{\bigl(\,f(x)\,\bigr)^2} $$ という計算をしていたんだ(第209回参照)。

「せっかく、 $\frac{1}{f(x)}$ の微分がわかったんだから、 その《式の形》をしっかり見るのは大事だよね。さもないと……」

テトラ「はい、もったいないです!」

「それでね、テトラちゃん。さっきまで僕たちは、 $$ \frac{1}{f(x)} $$ のことを、 《関数 $f(x)$ の逆数として作った関数》だと考えてきたよね」

テトラ「そうですね……」

「もちろん、それはまちがいじゃないんだけど、 これを《二つの関数を合成した関数》だと考えることもできるんだ。つまり合成関数だね」

テトラ「ああ、なるほどです!……と、 すぐに言えたらステキだなあと、あたしはいつも思うんです。 でも、あたしはそんなにパパッと理解することができません。 《二つの関数を合成した関数》というのはどういうことでしょうか。 $\frac{1}{f(x)}$ には、 $f(x)$ という一つの関数しか出てきませんよね?」

「テトラちゃんのノリ突っ込みはレアだなあ。 パパッとわかる必要はないよ。そんなに難しい話でもないし。 僕が言いたかったのは 《逆数を求める》という計算も一つの関数と見なせるよということなんだ。 具体的には、 $$ g(y) = \frac{1}{y} $$ という $y$ の関数を新たに考えるということ」

テトラ「ははあ……だとしたら、 $\frac{1}{f(x)}$ というのは、 関数 $f(x)$ と関数 $g(y)$ を合わせたもの……合成したものだと?」

「そういうことだね。 $x$ が与えられれば、 $f(x)$ の値が決まる。 そして、この $f(x)$ の値を $y$ とおくことにする。 $y$ が与えられれば、 $g(y)$ の値が決まる。 ということは、結局、 $x$ を与えれば $g(y)$ の値が決まることになる。 そしてその値は、 $$ \frac{1}{f(x)} $$ に等しくなる……ということ。くどく言えばね。簡単に言えば、 $\frac{1}{f(x)}$ という関数は、 $g(f(x))$ という形で表せるという話」

関数 $\frac{1}{f(x)}$ を、二つの関数の合成と見なす

$g(y) = \frac{1}{y}$ とすると、 $$ g(f(x)) = \frac{1}{f(x)} $$ がいえる。

テトラ「はい。ここまでは理解したと思います。少なくとも、先輩のおっしゃっていることで、 わからないことはありません……」

「でも?」

テトラ「でも……なぜそういうふうに考えなくてはならないか、それがわかりません。 逆数は逆数のままで、あたしにはわかりやすいと思うんです。 $\frac{1}{f(x)}$ は $f(x)$ の逆数で作った関数ですよね? それにまちがいないなら、 それを、どうしてわざわざ関数の合成と見なさなければならないか、そのお気持ちがわかりません」

「そうだよね。テトラちゃんなら、そう言うと思ったよ。 まずね、こういうふうに考えなければならないってわけじゃないんだ。 $\frac{1}{f(x)}$ は $f(x)$ の逆数で作った関数と考えるのは正しいことだから。 僕が関数の合成を持ち出したのは、 式の形を見ているうちに《そう考えても、ちゃんとつじつまが合うなあ》と思ったからなんだ」

テトラ「つじつまが合うというのは?」

「さっきテトラちゃんは、 《逆数になった関数の微分》を計算したよね。 つまり、 $\frac{1}{f(x)}$ を微分したらどうなるかを、 $f(x)$ と $f'(x)$ を使って表した」

テトラ「そうですね。逆数の定義を使って、 $$ \left(\, \dfrac{1}{f(x)} \,\right)' = - \frac{f'(x)}{\bigl(\,f(x)\,\bigr)^2} $$ という式を導きました」

「それはそれとして、僕は《合成関数の微分》の方法を知っている。 そして、 $\frac{1}{f(x)}$ を合成関数だと見なして、 その方法にあてはめると、 ちゃんとテトラちゃんが求めたものと同じ導関数が得られるんだよ。 つまり、式の形をどのように見なしたかに依存せず、正しい答えが得られる。 その部分で、なるほど!とすっきりしたんだ」

テトラ「逆数だと見なしても、合成関数の微分と見なしても、同じ結果が出るということですか?  《どちらの道を通っても、同じ村にたどり着く》みたいな話ですね」

「そうだね。合成関数の微分の公式はこうだよ」

合成関数の微分

$$ \left(\,g(f(x))\,\right)' = g'(f(x))\cdot f'(x) $$

テトラ「は、はい……これは、あたしも覚えています。 理解は怪しいんですけれど」

「$g(f(x))$ というのは、 二つの関数 $f$ と $g$ をこの順番で合成して得られる関数だね。 $$ x \mapsto f(x) \mapsto g(f(x)) $$ という《二段階ジャンプ》の途中を見ない振りして、 $$ x \mapsto g(f(x)) $$ という関数だと思ったわけだ」

テトラ「はい、わかります。ブラックボックスの二段重ねですねっ!」

$g(f(x))$ はブラックボックスの二段重ね

「そういうこと。 そしてこの関数 $g(f(x))$ を $x$ で微分したときに得られる導関数はどうなるか、 というのがこの公式だね」

$$ \left(\,g(f(x))\,\right)' = g'(f(x))\cdot f'(x) $$

テトラ「はい。以前、この公式を見たとき、 さっぱり意味がわかりませんでした。 特に、この部分です。 $$ g'(f(x)) $$ いまから求めようとしている $g(f(x))$ の微分がいきなり出てきたと思って、 テトラは大混乱しました。意味がまったくわからない公式だと思ったんです」

「そうだよね。 $g'(f(x))$ という書き方はまぎらわしいよね。 $g(f(x))$ という関数を微分したものみたいに見えちゃうから」

  • $g(y)$ という $y$ の関数がある。
  • $g(y)$ を $y$ で微分した導関数を $g'(y)$ と書く。
  • その $y$ の部分に $f(x)$ をあてはめて得られる $x$ の関数を $g'(f(x))$ と書く。

テトラ「そうですそうです!」

「僕は四角を使ってまとめて覚えたなあ」

$$ \left(\,g(\fbox{ $f(x)$ })\,\right)' = g'(\fbox{ $f(x)$ }) \cdot \fbox{ $f(x)$ }\,\,' $$

テトラ「$f(x)$ の部分をまとめて $\fbox{$ f(x) $}$ と考えるということですね」

「そうそう。でね、この《合成関数の微分》の公式に $\frac{1}{f(x)}$ をあてはめてみると、 テトラちゃんがさっき求めた《逆数で作った関数の微分》と同じ形になるんだよ。 当然といえば当然だけれど」

テトラ「それは、 $y = f(x)$ と $g(y) = \frac{1}{y}$ を合成するということですね?」

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(2017年10月6日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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