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第473回 シーズン48 エピソード3
フェルマーの小定理(前編) ただいま無料

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

図書室

ここはの高校。いまは放課後。

図書室に入ると、いつものように後輩のテトラちゃんが見えた。

「テトラちゃん?」

テトラ「あっ……先輩! いらしてたんですね」

「いま来たところ。 それは……村木先生からの《カード》かな?」

は彼女が持っていた白い紙を指さした。

村木先生は数学教師。僕たちにときどき《カード》をくれる。

テトラ「はい、そうです」

「どんな謎? 思わせぶりなパズルかな?」

村木先生の《カード》には、数学の問題が書かれているときもあるけれど、 たいていは謎めいた記号や、説明なしの数式や、奇妙な図形が書かれている。

僕たちはそれを見て自由に考え、楽しむのだ。

テトラ「パズルというわけではありませんね……今回は数学の問題。 ギミックなしですっ!」

テトラちゃんはそういって《カード》を見せてくれた。

《カード》

$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

このとき、

$$ \large n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$

が成り立つことを証明せよ。

「これはフェルマーの小定理だよね?」

テトラ「はい、そうです」

「でも、フェルマーの小定理なら、以前いっしょに証明したことなかったっけ?」

テトラ「ありました。それはよくわかっています。 あのときは数学的帰納法二項定理を使って証明しました(第399回参照)」

「そうだったね」

そうだった、とは思い出した。

あの《$p$ を法とする世界の二項定理》を使った証明の後、 はイトコのユーリと一緒に《パスカルの三角形》で遊んだんだ(第400回参照)。

テトラ「でも、あたしはこの機会に、 あれとは別の証明を見つけることができないかと考えています」

「おお、それはすごい!」

テトラ「あたしは、 このフェルマーの小定理はいったい何を言ってるのか、 もっと深く知りたいと思ったからです。 あたしが思い描いているイメージにぴったりくる証明は考えられないか……と思いました」

「すごいなあ。 テトラちゃんが思い描いているフェルマーの小定理のイメージって、どういうもの?」

がそう言うと、テトラちゃんは顔の前で両手をぶんぶんと振った。

テトラ「い、いえっ、そんなに大した話ではありません。 あたしは、ただ、 あたしが感じている不思議ポイントを解消したいというだけなんです……」

「テトラちゃんが感じているフェルマーの小定理の不思議ポイント、教えてよ」

テトラ「は、はい……では、 あたしが考えていた道すじに沿ってお話ししてもいいでしょうか?」

「もちろん!」

こんなふうにして、テトラちゃんの《フェルマーの小定理》を探る旅が始まった。

小さな数で考える

テトラ「で、ではお話しします。 まず、この《カード》を見たとき、いつもながらあたしはドキドキしました。 難しそうに見えるからです。『これは知ってる。《フェルマーの小定理》だ。証明もしたことある』 と思ってもダメです。やっぱりドキドキします」

フェルマーの小定理

$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

このとき、

$$ \large n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$

が成り立つ。

「まあ、確かにね。 でも・・あたしは・・・・

テトラ「でも、あたしは……先輩、あたしのセリフを予測するのやめてくださいね」

「ごめんごめん」

テトラ「でも、 あたしは《小さな数で確かめる》ことをすれば落ち着くことを知っています。 具体的な数で根気よくやってみれば、 見かけの難しさはちゃんと消えてくれるんです。 その代わり、本当に難しいところが現れてくるんですけれど……」

「なるほどね。ともかくテトラちゃんは具体的に試してみた?」

テトラ「はい。《フェルマーの小定理》に書かれている言葉をそのままなぞりながら進みます。 『$p$ は素数』 というのですから、 $$ p = 2,3,5,7,11,\ldots $$ のどれかを選んで試すことができます。たとえば、 $$ p = 7 $$ として試すことにします」

「うん」

テトラ「それから、 『$n$ は $p$ と互いに素な整数』 というのですから、 『$n$ と $p$ の最大公約数は $1$』 ということになります。 それが《$n$ と $p$ は互いに素》という意味ですから。 $n$ と $p$ の最大公約数を $\GCD{n}{p}$ と書くことにすると、 $n$ と $p$ が互いに素というのは、 $$ \GCD{n}{p} = 1 $$ と書けます。 いま $p = 7$ として考えているので、 $$ \GCD{n}{7} = 1 $$ という $n$ を何か選ぶことにします。 たとえば、 $$ n = 2 $$ を選ぶことにしました」

「テトラちゃん、さくさく進むね」

テトラ「このあたりはいつも通る道ですからっ! 出てきた言葉の定義を確認して、 その具体例を作って試してみる。具体例を作ることで、 自分がその言葉の定義をちゃんと理解していることを試す。 まさに《定義は理解の試金石》ですっ!」

「確かに!」

テトラ「そして《フェルマーの小定理》の式がこれです。 $$ n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$ これを $p = 7$ で $n = 2$ として書くなら、 $$ 2^{7-1}\equiv 1\pmod 7 $$ となって、文字が消えました。 こうなれば、こわくありません。 具体的に計算すれば、成り立つかどうか確かめられますから。 まず $2^{7-1}$ を計算すると、 $$ 2^{7-1} = 2^6 = 64 $$ になります。 そして $\pmod 7$ ですから、 あたしたちは《$7$ を法とする世界》で考えています。 $$ 64 \div 7 = 9\,\text{余り}\,1 $$ ですから、 $64$ を $7$ で割った余りは $1$ です。 したがって、確かに、 $$ 2^{7-1}\equiv 1\pmod 7 $$ は成り立ちます。 これで、 $p = 7$ で $n = 2$ のとき、 $$ n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$ が成り立つことが確かめられました」

滑らかに進むテトラちゃんの説明に、はうなずいた。

「うんうん。これがテトラちゃんのいう《フェルマーの小定理》のイメージなの?」

テトラ「え? あっ、違います違います。 これはあたしが胸のドキドキを鎮めるための儀式みたいなものです。 《小さな数で考える》や《具体的な数を当てはめてみる》ということですっ!」

テトラちゃんはそういうと、両手を胸に当ててにっこり微笑んだ。

「ここからテトラちゃんのイメージが展開するんだね」

さまざまな $n$ で試してみる

テトラ「いまあたしが試したのは $p = 7$ で $n = 2$ の場合だけでした。 でも、《フェルマーの小定理》がいうのは、

  • $p$ が、どんな素数であっても……
  • $n$ が、 $p$ と互いに素などんな整数であっても……
  • $n^{p-1} \equiv 1 \pmod p$ が成り立つ!
という主張ですね。 そこで、いろんな $p$ といろんな $n$ で試してみたくなります。 といっても $p$ と $n$ の両方を動かしていくのはたいへんなので、 $n$ だけを動かしてみます」

「……」

テトラ「$p = 7$ は素数ですから、 $\GCD{n}{p} = \GCD{n}{7} = 1$ となる $n$ を探すのは難しくありません。 だって、 $p$ の倍数でない整数 $n$ はすべて $\GCD{n}{7} = 1$ となるわけですから」

「そうだね。 $p$ は素数だから素因数は $p$ だけ。 $\GCD{n}{p} = 1$ ということは $n$ は $p$ を素因数に持たない。 いいかえると $n$ は $p$ の倍数ではない」

テトラ「はい。そういうことです。なので、 $p = 7$ と $n = 1,2,3,4,5,6$ で $$ n^{p-1} \equiv 1 \pmod p $$ が成り立つことを試してみます」

$p = 7$ で $n = 1$ のとき

$n$ は何乗しても $1$ なので、 $$ 1^{7-1} \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ です。 確かに $n^{p-1}\equiv 1\pmod p$ が成り立っています。

$p = 7$ で $n = 2$ のとき

これはさっきもやりましたけど、 改めてもう一度。 まず、 $$ 2^0 \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ です。 次に両辺に同じ数を掛けても合同式は成り立ちますから、 $2$ を掛けると $$ 2^1 \equiv \MARK2 \pmod 7 $$ です。 さらに $2$ を掛けて、 $$ 2^2 \equiv \MARK4 \pmod 7 $$ になります。 また両辺に $2$ を掛けると、 右辺は $4\times2 = 8$ で、 $7$ で割った余りは $1$ なので、 $$ 2^3 \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ になります。 さらに両辺に $2$ を掛けると、 $$ 2^4 \equiv \MARK2 \pmod 7 $$ になり、これを繰り返して、 $$ 2^5 \equiv \MARK4 \pmod 7 $$ となり、 $$ 2^6 \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ ですね。 つまり、 $$ 2^{7-1} \equiv 1 \pmod 7 $$ なので、 確かに $n^{p-1}\equiv 1\pmod p$ が成り立っています。

$p = 7$ で $n = 3$ のとき

$n = 2$ のときと同じように、 合同式の両辺に $3$ を繰り返し掛けていきます。

$3^0 = 1$ を $7$ で割った余りは $1$ です。 $$ 3^0 \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ この両辺に $3$ を掛けて、 $$ 3^1 \equiv \MARK3 \pmod 7 $$ となります。 さらにこの両辺に $3$ を掛けますと、 $3\times 3 = 9$ を $7$ で割った余りは $2$ ですから、 $$ 3^2 \equiv \MARK2 \pmod 7 $$ になります。 また、両辺に $3$ を掛けます。 $$ 3^3 \equiv \MARK6 \pmod 7 $$ さらに両辺に $3$ を掛けて、右辺の $6\times 3=18$ を $7$ で割った余りは $4$ なので、 $$ 3^4 \equiv \MARK4 \pmod 7 $$ となります。 またまた両辺に $3$ を掛けて、右辺の $4\times3=12$ を $7$ で割った余りは $5$ なので、 $$ 3^5 \equiv \MARK5 \pmod 7 $$ ですよね。 そしていよいよ両辺に $3$ を掛けて、右辺の $5\times3=15$ を $7$ で割った余りは $1$ となり、 $$ 3^6 \equiv \MARK1 \pmod 7 $$ ですから、 $$ 3^{7-1} \equiv 1 \pmod 7 $$ ということで、 確かに $n^{p-1}\equiv 1\pmod p$ が成り立っています。

テトラちゃんは愚直に計算していく。根気よく試していく元気少女、それがテトラちゃんの持ち味だ。

でも正直いって愚直すぎるのではないだろうか。

「ねえ、テトラちゃん。いま繰り返して $3$ を掛けたけど、 $$ 3^3 \equiv 6 \pmod 7 $$ まで来たなら、両辺を $2$ 乗して $3^6 \equiv 36 \pmod 7$ が得られて、 すぐに $$ 3^6 \equiv 1 \pmod 7 $$ まで行けたんじゃない?」

テトラ「はい、でも……」

「$a \equiv b \pmod p$ のとき、 $a^2 \equiv b^2 \pmod p$ なのは証明できるよ。 だって $a - b$ が $p$ の倍数なら、 $a^2 - b^2 = (a+b)(a-b)$ も $p$ の倍数だからね」

テトラ「たしかに、その方が $3^{7-1}\equiv 1 \pmod 7$ については早く確かめられます。 それは先輩のおっしゃる通りです。 でも、先ほどあたしは、意識的に $3$ を繰り返し掛けようと思ったんです」

「それはまたどうして?」

テトラ「はい、 それは、 $$ \MARK1\to \MARK3\to \MARK2\to \MARK6\to \MARK4\to \MARK5\to \MARK1 $$ という《ジャンプ》の繰り返しを見たかったからです」

「ははあ、なるほどね! 《$n$ 倍して $p$ で割った余りをとる》という計算を《ジャンプ》に見立てたわけだ」

$n$ 倍して $p$ で割った余りをとる《ジャンプ》($n = 3$ および $p = 7$ の場合)

《ジャンプ》の繰り返しを観察する

テトラ「実はさっきまでこんな表を作っていたんです。 これは《$7$ を法とする世界の $n^k$》の表です」

$7$ を法とする世界の $n^k$ $$ \small \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|} \hline & k = 0 & k = 1 & k = 2 & k = 3 & k = 4 & k = 5 & k = 6 \\ \hline n = 1 & \PEM101 &\PEM111 & \PEM121 & \PEM131 & \PEM141 & \PEM151 & \PEM161 \\ \hline n = 2 & \PEM201 &\PEM212 & \PEM224 & \PEM231 & \PEM242 & \PEM254 & \PEM261 \\ \hline n = 3 & \PEM301 &\PEM313 & \PEM322 & \PEM336 & \PEM344 & \PEM355 & \PEM361 \\ \hline n = 4 & \PEM401 &\PEM414 & \PEM422 & \PEM431 & \PEM444 & \PEM452 & \PEM461 \\ \hline n = 5 & \PEM501 &\PEM515 & \PEM524 & \PEM536 & \PEM542 & \PEM553 & \PEM561 \\ \hline n = 6 & \PEM601 &\PEM616 & \PEM621 & \PEM636 & \PEM641 & \PEM656 & \PEM661 \\ \hline \end{array} $$

「あっ、これは楽しい!」

テトラ「楽しいですよね! 繰り返しのパターンが見えてくるようです。 $n$ を掛けるたびに次の数に《ジャンプ》する様子はこうなります」

$7$ を法とする世界で $n$ を掛けるたびに《ジャンプ》する様子 $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline n = 1 & \MARK1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 2 & \MARK1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& 1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 3 & \MARK1 &\to& 3 &\to& 2 &\to& 6 &\to& 4 &\to& 5 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 4 & \MARK1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& 1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 5 & \MARK1 &\to& 5 &\to& 4 &\to& 6 &\to& 2 &\to& 3 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 6 & \MARK1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& \MARK1 \\ \hline \end{array} $$

「うんうん、パターンが見えてくるね」

テトラ「ここ! ここにあたしが感じる不思議ポイントがあります。 $n$ はみんなばらばらに見えるのに、 $\MARK1$ からはじめて $6$ 回《ジャンプ》したとき、 みんなそろって $\MARK1$ に着地してますよね。 これがすごく不思議です」

「確かにテトラちゃんのいう通りだね。 それで、この不思議ポイントからテトラちゃんは《フェルマーの小定理》の証明まで行きたいということ?  数学的帰納法と二項定理を使った証明とは別の証明に」

テトラ「は、はい。できれば。 この《ジャンプ》の繰り返しパターンから行きたいと思いました」

「うん」

そこでテトラちゃんは一息おいて言った。

テトラ「あたしが考えていたのはいわゆる鳩の巣論法です」

「おっと、いきなり大技が出てきたね」

鳩の巣論法

鳩の巣論法

$N$ を正の整数とします。

鳩の巣が $N$ 個あって、そこに $N+1$ 羽の鳩さんが入っているとしたら、 $2$ 羽以上入っている鳩の巣が存在します。

テトラ「《$p$ を法とする世界》で $1$ から始めて $n$ を何度も掛けていきます。 つまり、さっきの《ジャンプ》です。 $$ 1\to n\to n^2\to n^3\to \ldots $$ これは無限に続けられますけれど、 $p$ を法として考えていますので、 《ジャンプ》した着地先は必ず、 $0,1,\ldots,p-1$ の $p$ 個の数のどれかになるはずです。 つまり鳩の巣が $p$ 個ある設定です! なので、 《ジャンプ》していれば、いつかは $1$ に戻ってくるはずですね?」

はちょっと考える。

「いや、それはおかしいよ。テトラちゃんのいう《ジャンプ》した着地先が $p$ 個のどれかになるのは正しい。 $n$ 倍して $p$ で割った余りだから。 でもだからといって、それだけの理由で $1$ に戻ってくるとまではいえないよね。 $1$ 以外のところだけを飛び回るループになるかもしれない、と反論できちゃうから。 有限個をぐるぐるジャンプした着地先のどこかに $1$ があることをいわなくちゃいけない」

の反論に、テトラちゃんは眉根を寄せる。

テトラ「……確かにそうですね。有限個のどこかに着地するからといって、 それだけでは $1$ に着地するとはいえません……で、でも必ず $1$ には着地するんですよ!」

「さっきテトラちゃんが持ち出してきた《鳩の巣論法》でいえたことを合同式の形で書いてみようよ。 $1$ から始めて $n$ 倍する《ジャンプ》を繰り返す。 $$ 1 \to n \to n^2 \to n^3 \to \ldots $$ これを $p$ を法とする世界で考えると、以前着地した経験があるところに再着地するといってたわけだ。 つまり、 $0$ 以上の整数 $j$ と $k$ が存在して、 $j < k$ でしかも $$ n^j \equiv n^k \pmod p $$ が成り立つ。鳩の巣論法からいえるテトラちゃんの主張はこれだね。そしてここまでは正しい」

テトラ「これは《$j$ 回目のジャンプで着地した巣》と《$k$ 回目のジャンプで着地した巣》が同じということですね」

「そうそう。 $j < k$ という条件で着地になるわけだ。 でもテトラちゃんが言いたかったのは、 $$ n^d \equiv 1 \pmod p $$ という正整数 $d$ が存在することだよね?」

テトラ「確かにそうです!  $d$ 回目の《ジャンプ》で $1$ に着地するんですから……あっ、 わかりました。わかりました! $$ n^j \equiv n^k \pmod p $$ の両辺を $n^k$ で割り算すればいいんですよ! そうすれば、 $$ n^{j-k}\equiv 1 \pmod p $$ が成り立ちますから! これでいいですね!」

「うん、それで正解なんだけど、そこで割り算ができる理由をいう必要があるね。 ちょうど等式のときにゼロ割りではないことを宣言するのと同じ理由が要る」

テトラ「ああ……忘れていました。合同式での割り算には条件があるんでした。 法 $p$ と互いに素な数でなければ割っては駄目です。 でもっ! いまはっ! 大丈夫ですっ! なぜなら《フェルマーの小定理》では $n$ は $p$ と互いに素という条件がありますから!」

フェルマーの小定理

$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

このとき、

$$ \large n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$

が成り立つ。

「テトラちゃんのいう通り。 $n$ は $p$ と互いに素だから $$ n^j \equiv n^k \pmod p $$ の両辺を $n$ で割り算できる。 繰り返して $k$ 回割り算すれば $$ n^{j-k} \equiv n^{0} \pmod p $$ になって、めでたく $$ n^{j-k} \equiv 1 \pmod p $$ がいえた。 $d = j-k$ と置けば、 $j > k$ という条件から $d > 0$ であり、 $$ n^{d} \equiv 1 \pmod p $$ が成り立つ」

テトラ「これで証明ができましたねっ!」

「いやいや、テトラちゃん。 ここまでで証明できた命題はこれだよ」

$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

このとき、ある正の整数 $d$ が存在して、

$$ n^d\equiv 1\pmod p $$

が成り立つ。

テトラ「確かに!  $d$ 回ジャンプすれば $1$ に着地することはいえました。 でも、 $p - 1$ 回ジャンプしたときに $1$ に着地することは、 まだいえてません……難しいですね」

「いや、でも、さっきテトラちゃんが作ってくれた表を単純化すると、 パターンが見やすくなるから、そこからヒントが得られる」

$7$ を法とする世界における $n^1,n^2,\ldots,n^6$ の表 $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\\hline n = 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & \MARK1 \\ \hline n = 2 & 2 & 4 & 1 & 2 & 4 & \MARK1 \\ \hline n = 3 & 3 & 2 & 6 & 4 & 5 & \MARK1 \\ \hline n = 4 & 4 & 2 & 1 & 4 & 2 & \MARK1 \\ \hline n = 5 & 5 & 4 & 6 & 2 & 3 & \MARK1 \\ \hline n = 6 & 6 & 1 & 6 & 1 & 6 & \MARK1 \\ \hline \end{array} $$

テトラ「パターンがあるのはわかります。 $2,4,1$ の繰り返しや、 $6,1$ の繰り返しなどがありますから。でもその先がわかりません」

「こんなふうに $\MARK1$ で終わる $\fbox{まとまり}$ を考えるとすっきりするはず。 これは $p = 7$ のときだから横に $1,2,3,4,5,6$ のマス目がある。 $p-1$ 個だね」

テトラ「$d$ 回ジャンプすれば $1$ に着地する。 $p-1$ 回ジャンプしたときに $1$ に着地することはどうすればいえるか……」

「……」

テトラ「証明はわからないんですが、 どういうパターンなのかはわかりました。 同じ $\fbox{まとまり}$ が繰り返すんですが、 $\fbox{まとまり}$ のなかにある数の個数は $1$ 個か、 $2$ 個か、 $3$ 個か、 $6$ 個のどれかになります。 そしてそれは、 $p - 1 = 6$ の約数ですね!」

「うん、だから、あとはこれを証明できれば、 《フェルマーの小定理》が証明できる」

問題

次の命題を証明せよ。

命題

$p$ を素数とする。 $n$ を $p$ と互いに素な整数とする。

いま $d$ を、 $$ n^d \equiv 1 \pmod p $$ を満たす正整数のうち、最小のものとする。

このとき $d$ は $p - 1$ の約数である。

テトラ「あとはこれを証明すればいい?」

「そういうことだね。すでにこのような $d$ が必ず存在することは示した。 $d$ が $p-1$ の約数なら、 $d$ 回ジャンプするごとに $1$ に着地するんだから、 $p-1$ 回目のジャンプでも $1$ に着地するわけだ。 ちゃんと書くなら、 $d$ が $p-1$ の約数ということは、 $p - 1 = dm$ という $m$ が存在するということで、 そのとき、 $$ n^{p-1} = n^{dm} = (n^d)^m $$ になるから、 $n^d \equiv 1 \pmod p$ より、 $(n^d)^m \equiv 1 \pmod p$ になって、 $$ n^{p-1} \equiv 1 \pmod p $$ になる。 だから、 $d$ が $p-1$ の約数であることを示すのがラスボスだよ!」

テトラ「ラスボス!」

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(第473回終わり)

(2026年7月10日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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