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第472回 シーズン48 エピソード2
カレンダーの秘密(後編) ただいま無料

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

カレンダーの計算から合同式へ

とイトコのユーリは、 カレンダーを使った計算を楽しんでいた。 あたかも《数の足し算》をするように《曜日の足し算》ができる。 そんな話だ(第471回参照)。

それからは、 《同じ曜日かどうか》を調べるには《日付の差が $7$ の倍数かどうか》を調べればいいと言って……

合同式ごうどうしきを使うと、 《曜日が同じである》 ことをめちゃめちゃすっきり書けるんだよ。 たとえば、 日付 $2$ と日付 $16$ が同じ曜日であることを、 $$ 2 \equiv 16 \pmod 7 $$ と書ける!」

ユーリ「ごーどーしき?」

「そう。便利だよ!」

ユーリ「そんなに便利なんだったら、先にそれを教えてよね!」

「ごもっとも……じゃあ、ちゃんと話すよ」

合同式

合同式

$m$ を $0$ 以外の整数とする。

整数 $a$ と整数 $b$ の差が $m$ の倍数になるとき、

  $a$ と $b$ は $m$ をほうとして合同ごうどうである

といい、

$$ a \equiv b \pmod m $$ と書く。このような式を合同式ごうどうしきという。

ユーリ「……めんどくさい話になってきた?」

「いやいや、何もめんどくさくないよ。 たとえば、これはどう?」

等式

数 $a$ と数 $b$ の差が $0$ になるとき、

  $a$ と $b$ はひとしい

といい、

$$ a = b $$ と書く。このような式を等式とうしきという。

ユーリ「等式? めんどくさくないよ。 $a$ と $b$ が等しい。 $a=b$ と書く。知ってるもん」

「合同式は等式とよく似ている。 $a$ と $b$ が $m$ を法として合同。それを $a\equiv b \pmod m$ と書く」

ユーリ「まあ……似てるっちゃ、似てる?」

「こんなふうに定義を書いた方がわかりやすいかな?」

合同式と等式の定義は似ている

$$ \renewcommand{\arraycolsep}{2pt} \begin{array}{lcl} a \equiv b \pmod m &\LONGBOTHIMPLIES& a - b = mk \,\text{となる整数 $k$ が存在する} \\ a = b &\LONGBOTHIMPLIES& a - b = 0 \end{array} $$

ユーリ「おっ、似てる似てる!」

「具体的に見るとはっきりわかるよ。たとえば、この合同式は成り立つ。 $$ 8 \equiv 1 \pmod 7 $$ なぜかというと……なぜだかわかる?」

ユーリ「同じ曜日だから?」

「そうだね。カレンダーでいえばそう。 どんなカレンダーのどんな月でも $8$ 日と $1$ 日は同じ曜日になる。 それは、カレンダーを見ればわかる。 でもいまは定義に戻って考えよう。 こんなふうにね」

$$ 8 \equiv 1 \pmod 7 \LONGBOTHIMPLIES 8 - 1 = 7k \,\text{となる整数 $k$ が存在する} $$

ユーリ「$k = 1$」

「そうだね。 $k = 1$ とすれば $8 - 1 = 7k$ が成り立つ。 つまり、 $8 - 1 = 7k$ となる整数 $k$ が存在する。 だから、 $8\equiv 1\pmod 7$ は成り立つ」

ユーリ「それって《同じ曜日の日付の差は $7$ の倍数になる》って言ってる?」

「そうだよ。カレンダーを見て《二つの日付が同じ曜日かどうか》を考えているときは、 《二つの日付の差が $7$ の倍数かどうか》を考えている。 言い方を変えると、 《二つの整数が $7$ を法として合同かどうか》 を考えているわけだ」

ユーリ「わかってきた!《$m$ を法として》の感じ。一週間が $m$ 日なんだね」

「じゃあ、これは成り立つ?」

$$ 2 \equiv 16 \pmod 7 $$

ユーリ「$2 - 16 = -14$ だから、成り立つ!  $k = -2$ でしょ?」

「そうだね。 $k = -2$ とすれば $2 - 16 = -14 = 7k$ が成り立っている。 だから、 $2$ と $16$ は $7$ を法として合同といえる」

ユーリ「……」

「……どうした?」

ユーリ「お兄ちゃん、 $0$ って $7$ の倍数だよね?」

「うん、 $0$ は $7$ の倍数だよ」

ユーリ「だったら、 $$ a \equiv a \pmod 7 $$ は $a$ が何でも成り立つ?」

「すばらしいな! その通りだよ!」

ユーリ「だって、 $$ a - a = 0 $$ だから。差が $7$ の倍数。だから $a$ と $a$ は法のもとで平等」

「そうそう。ただ、『法のもとで平等』じゃなくて『$7$ を法として合同』だよ」

ユーリ「あっ! ちょっと言い間違えただけじゃん!」

「それはともかく……ユーリの発見からも、 等式と合同式が似ていることがわかるね。 つまり、 $a = b$ なら $a \equiv b \pmod m$ が成り立つから」

$a$ と $b$ が等しいとき、 $a$ と $b$ は合同になる $$ a = b \LONGIMPLIES a \equiv b \pmod m $$

ユーリ「同じ日は同じ曜日だから。 あー、でも曜日が同じでも同じ日とは限らないよね?」

「その通り。 $a$ と $b$ が合同だからといって、 $a$ と $b$ が等しいとは限らない。 たとえば、 $1\equiv8\pmod 7$ だけど、 $1\NEQ8$ だね」

$a$ と $b$ が合同だからといって、 $a$ と $b$ が等しいとは限らない $$ a = b \notLONGREVIMPLIES a \equiv b \pmod m $$

ユーリ「ふむふむ」

同じ数を足したり引いたり

「$a = b$ という等式が成り立つとき、 $a + C = b + C$ も成り立つ。 つまり、同じ数を足してもいい」

ユーリ「当たり前」

「では、 $a \equiv b \pmod m$ という合同式が成り立つとき、 $a + C\equiv b + C\pmod m$ も成り立つだろうか?」

ユーリ「えーと……成り立つっしょ?」

「早いな!」

ユーリ「だって、 $a$ と $b$ が同じ曜日だったら、両方を $C$ 日動かしても同じ曜日だもん」

$a = 9$ 日と $b = 23$ 日が同じ曜日だったら、両方を $C = 4$ 日動かしても同じ曜日

「なるほど。ユーリは $7$ を法として考えたわけだね。いいね! ところで、 それは $m = 7$ 以外でもいえる?」

するとユーリは一瞬だけ天井を見て答えた。

ユーリ「いえる! 一週間が何日でも同じことがいえるから!」

$a$ 日と $b$ 日が同じ曜日だったら、両方を $C$ 日動かしても同じ曜日

「ユーリはちゃんとわかっているんだね。 でも、数式でも確かめよう。定義に戻って証明するんだ」

ユーリ「なんで? もうわかってるのに?」

「きちんと確かめるためだね」

ユーリ「ふーん」

「といっても、 $$ a \equiv b \pmod m \LONGIMPLIES a + C\equiv b + C\pmod m $$ を証明するのは簡単だよ」

命題

$m$ を $0$ 以外の整数とし、 $a$ と $b$ を整数とする。

このとき、 $$ a \equiv b \pmod m $$ ならば、 どんな整数 $C$ に対しても、 $$ a+C \equiv b+C \pmod m $$ が成り立つ。

証明

$a\equiv b \pmod m$ ならば、 $$ a - b = mk $$ を満たす整数 $k$ が存在する。 このとき、どんな整数 $C$ に対しても $$ (a + C) - (b + C) = mk $$ が成り立つ。 よって、 $$ a + C\equiv b + C\pmod m $$ が成り立つ。

(証明終わり)

ユーリ「あらま。簡単ですこと」

「だよね。これで合同な二つの整数に同じ整数 $C$ を足しても合同であることがわかった」

ユーリ「ふんふん」

「もちろん、 $C$ を引いても合同だね。 $C' = -C$ として $C'$ を足すと考えればいいから」

同じ数を掛ける

ユーリ「足し算、引き算……だったら、掛け算もできそう! $$ a\equiv b\pmod m $$ のとき、 $$ aC\equiv bC\pmod m $$ になる?」

「どう思う?」

ユーリ「できる! ユーリ、証明やってみる!」

問題

次の命題を証明せよ。

$m$ を $0$ 以外の整数とし、 $a$ と $b$ を整数とする。

このとき、 $$ a \equiv b \pmod m $$ ならば、どんな整数 $C$ に対しても、 $$ aC \equiv bC \pmod m $$ が成り立つ。

「どう?」

ユーリ「できた! お兄ちゃんのさっきの証明とおんなじだ!」

証明

$a\equiv b \pmod m$ ならば、 $$ a - b = mk $$ を満たす整数 $k$ が存在する。 このとき、どんな整数 $C$ に対しても $$ aC - bC = mkC $$ が成り立つ。 よって、 $$ aC\equiv bC\pmod m $$ が成り立つ。

(証明終わり)

「いいねえ!」

ユーリ「これで割り算もできることがわかった!」

「おっと! 割り算もできるとはならないよ!」

ユーリ「へ?  $C$ を掛けて成り立つんだから、 $C' = 1/C$ として $C'$ を掛ければいいじゃん?」

「そうはいかないよ。 $a\equiv b\pmod m$ が成り立つからといって、 どんな整数 $C$ でも $$ \frac{a}{C}\equiv\frac{b}{C}\pmod m $$ とはならない

ユーリは首を傾げた。

同じ数で割れる?

ユーリ「あー! わかった。ゼロ割りになっちゃうかもしれない! だから、 『どんな整数 $C$ に対しても $a/C\equiv b/C\pmod m$ が成り立つ』じゃなくて、 『ゼロ以外の整数 $C$ に対して $a/C\equiv b/C\pmod m$ が成り立つ』にすればいいね!」

「えらい! よく気がついたね。でも、それではまだ不十分なんだ」

ユーリ「なんで?」

「まず第一に、 $a$ と $C$ が整数のとき、 $a/C$ が整数になるとは限らないから」

ユーリ「あっ……確かに。 $a=1$ と $C=2$ で $a/C = 0.5$ ってことか……」

「しかも、割り算の結果が整数になる場合でも、合同じゃなくなることがある」

ユーリ「へー……さっぱりわからん」

「たとえば、 $m = 6$ として考える。 $6$ を法とするということだよ。 このとき、 $$ 8 \equiv 2 \pmod 6 $$ が成り立つよね?」

ユーリ「$8 - 2 = 6$ で $6$ の倍数だから?」

「そうだね。では $8$ と $2$ をそれぞれ $2$ で割ってみよう」

$2$ で割ってみる(法は $6$)

$$ \begin{array}{rcllll} 8 &\equiv & 2 &\pmod 6 & \\ \downarrow & & \downarrow & & \REMTEXT{$\downarrow\quad2$で割った}\\ 4 &\not\equiv& 1 &\pmod 6 & \end{array} $$

ユーリ「ほんとだ。 $4 - 1 = 3$ だから $6$ の倍数じゃない……」

「だから、 $D$ を $0$ 以外の整数として、 $aD\equiv bD\pmod m$ だとしても、 $a\equiv b\pmod m$ になるとは限らない」

ユーリ「えー……なんで? 足し算はスッと引き算にできたのに、 掛け算はスッと割り算にできないの?」

「不思議に思うよね」

ユーリ「思う思う。数学ってもっと、こう、シュッと行くんじゃないの?  ミステリーじゃあ!」

「そのミステリーを考えてみよう」

ユーリ「おお!」

割り算は掛け算の逆演算

「$8\equiv 2\pmod 6$ のとき、《$2$ で割る》のがうまくいかなかった。 割り算は掛け算の逆演算だと考えると、《$2$ 倍する》のを考えたらいいと思う」

ユーリ「なんで?」

「こういう図を見ればわかるよね」

ユーリ「わからん。これなに?」

「これは $1,2,3,4,5,6$ をそれぞれ $2$ 倍して、 $1,2,3,4,5,6$ のどれと合同になるかを描いたんだよ。 $1$ を $2$ 倍したら $2$ に合同になるから、 $1\mapsto 2$ の矢印がある。 $5$ を $2$ 倍したら $10$ で、 $10$ は $4$ と合同だから、 $5\mapsto4$ の矢印がある」

$$ \begin{xalignat*}{2} 1\longmapsto2 && 1\times2 \equiv 2 \pmod 6 \\ 2\longmapsto4 && 2\times2 \equiv 4 \pmod 6 \\ 3\longmapsto6 && 3\times2 \equiv 6 \pmod 6 \\ 4\longmapsto2 && 4\times2 \equiv 2 \pmod 6 \\ 5\longmapsto4 && 5\times2 \equiv 4 \pmod 6 \\ 6\longmapsto6 && 6\times2 \equiv 6 \pmod 6 \end{xalignat*} $$

ユーリ「ふんふん。そんで?」

「よく見ると、同じ数に二つの数から矢印が向かっていることがわかる。 $1$ と $4$ から $2$ に、 $2$ と $5$ から $4$ に、 $3$ と $6$ から $6$ に、それぞれ向かっている。 ということはだよ。たとえば、 $6$ を法としたとき、

$2$ 倍したときに $4$ と合同になる数は何ですか?

と言われても答えは一つに決まらない。 矢印は $2$ から来たのかもしれないし、 $5$ から来たのかもしれない」

ユーリ「ははー……」

「$2$ 倍したときに $4$ と合同になる数が別々のところからきちゃったら、 元に戻ることはできないよね。つまり $2$ で割ることはできない」

ユーリ「だったら、こーゆー図の方がいーんじゃないの?」

「あっ……そうだね。ユーリの言うとおりだ。 $2$ 倍したときにはこの黄色いマルのところでぶつかるから、 元に戻れない。だから $2$ で割ることはできない」

ユーリ「でもね、 割れないことがあるのはわかったけど、 だったら、割り算できないってこと?」

「言いたかったのは、割り算を考えるときには、 掛け算の逆を考えた方が……わかった、ちょっと仕切り直そう」

ユーリ「へいへい」

同じ数で割るには?

「いまは整数を考えているから、 《等式での割り算問題》をこんなふうに考えよう」

等式での割り算問題

どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ aD = bD $$ ならば、 $$ a = b $$ が成り立つようにしたい。

そのときの整数 $D$ が満たすべき条件を考えよう。

ユーリ「$D\NEQ 0$ ?」

「それでいいよ。等式だったら $D\NEQ0$ なら $D$ で割れる。 $aD = bD$ のとき $(a - b)D = 0$ だから、両辺を $D$ で割って $a - b = 0$ なので $a = b$ がいえるからだね。 問題は合同式だ。 いま考えたいのはこういう《合同式での割り算問題》になる」

合同式での割り算問題

$m$ を $0$ 以外の整数とする。

どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ aD\equiv bD\pmod m $$ ならば、 $$ a\equiv b\pmod m $$ が成り立つようにしたい。

そのときの整数 $D$ が満たすべき条件を考えよう。

ユーリ「$D\NEQ 0$ だけじゃダメ」

「うん。 等式だったら $0$ 以外で両辺を割れる。 でも合同式はそうじゃない。 割り算できるときもあれば、 割り算できないときもある。 たとえば、 $6$ を法として、 $$ 35 \equiv 5 \pmod 6 $$ が成り立つ。なぜなら $35-5=30$ は $6$ の倍数だから。 そしてこのとき $35$ と $5$ を $5$ で割った $$ 7 \equiv 1 \pmod 6 $$ も成り立つ。 なぜなら $7-1=6$ は $6$ の倍数だから。だから $6$ を法としたとき、 $5$ なら割り算ができるときがある」

$5$ で割ってみる(法は $6$)

$$ \begin{array}{rcllll} 35 &\equiv & 5 &\pmod 6 & \\ \downarrow & & \downarrow & & \REMTEXT{$\downarrow\quad5$で割った}\\ 7 &\equiv & 1 &\pmod 6 & \end{array} $$

ユーリ「$2$ で割ったら駄目だった。 $5$ で割ったらうまくいった」

「ちなみに、 $5$ 倍したときのユーリの図はこんなふうになる」

ユーリ「あっ、 $5$ 倍だとぶつからない! だから $5$ で割れる? ……でも、なんで?」

「定義にかえって、具体的に考えてみよう。次の二つを見比べてみる」

$2$ で割って駄目だった場合

$$ 8\equiv2\pmod 6 $$

が成り立つのは、合同式の定義から

$$ 8 - 2 = 6\quad\text{($6$の倍数である)} $$

が成り立つから。両辺を $2$ で割ると($\spadesuit$)

$$ 4 - 1 = 3\quad\text{($6$の倍数ではない)} $$

となるから、

$$ 4\not\equiv1\pmod 6 $$

になってしまう。

$5$ で割ってうまくいった場合

$$ 35\equiv5\pmod 6 $$

が成り立つのは、合同式の定義から

$$ 35 - 5 = 30\quad\text{($6$の倍数である)} $$

が成り立つから。両辺を $5$ で割ると($\heartsuit$)

$$ 7 - 1 = 6\quad\text{($6$の倍数である)} $$

となるから、 $$ 7\equiv1\pmod 6 $$ が成り立つ。

ユーリはしばらく考える。そして言った。

ユーリ「……わかったかも?」

「何がわかった?」

ユーリ「$\spadesuit$ では、 $2$ で割ったから $6$ の方が割れちゃった! だから、 $6$ の倍数になれなくなった。 でも、 $\heartsuit$ では、 $5$ で割っても $30 = 6\times 5$ の $6$ の方は割れたりしない。 だから、 $6$ の倍数のままになる」

「そういうことになる。 $D$ で割り算するときに、 法になっている $m$ はそのままになってないといけない」

ユーリ「$m$ が $D$ の倍数になってちゃダメなんだね!  $\spadesuit$ では、 $m = 6$ が $D = 2$ の倍数だからうまくいかなかったんだ……」

「$m$ が $D$ の倍数になっていたらダメ。それは確かにそう。 でも、 $m$ が $D$ の倍数になっていなければ大丈夫というわけでもない。 たとえば、こんな場合もうまくいかない」

$4$ で割ってうまくいかない

$$ 16\equiv4\pmod 6 $$

が成り立つのは、合同式の定義から

$$ 16 - 4 = 12\quad\text{($6$の倍数である)} $$

が成り立つから。両辺を $4$ で割ると($\clubsuit$)

$$ 4 - 1 = 3\quad\text{($6$の倍数ではない)} $$

となるから、

$$ 4\not\equiv1\pmod 6 $$

になってしまう。

ユーリ「ほんとだ」

「$m = 6$ は $D = 4$ の倍数じゃない。でも $\clubsuit$ のところで $4$ で割るとうまくいかない」

ユーリ「$4$ で割ったときに $12$ が $3$ になった。 $6$ の倍数じゃなくなるのがダメなんだから、 $m=6$ と $D=4$ が同じ数 $2$ で割れちゃダメなんだよ」

「その通り。 $m$ と $D$ が《同じ数》で割れちゃダメ。 それを言い換えると、 $D$ の条件は、

  $m$ と $D$ の最大公約数が $1$ である

になる。それには専用の言い方がある。

  $m$ と $D$ がたがいにである

という言い方だね。 $m$ と $D$ が共通の素因数を持たないといってもいい」

ユーリ「たがいにそ」

合同式の割り算の謎に答える

$m$ を $0$ 以外の整数とする。

$m$ と $D$ が互いに素であるとき、 どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ aD\equiv bD\pmod m $$ ならば、 $$ a\equiv b\pmod m $$ が成り立つ。

証明

$aD\equiv bD\pmod m$ ならば、合同式の定義から $$ aD - bD = mk $$ を満たす整数 $k$ が存在する。 左辺を $D$ でくくると、 $$ (a-b)D = mk $$ である。 $(a-b)D$ は $m$ の倍数だが、 $m$ と $D$ は互いに素なので、 $D$ は $m$ の素因数をひとつも持っていない。 したがって、 $m$ の素因数は重複も含めてすべて $a-b$ が持っている。 それは、 $a-b$ が $m$ の倍数であるということに他ならない。 したがって、 $$ a - b = k'm $$ を満たす整数 $k'$ が存在する。 よって合同式の定義から $$ a\equiv b\pmod m $$ が成り立つ。

(証明終わり)

「だから、合同式についてこんなふうにまとめることができる。 合同式では、割り算だけが条件付きになる」

$m$ を $0$ 以外の整数とする。 $C,D$ は整数とする。

$\BULLET$ どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ a\equiv b\pmod m \NARABA a+C\equiv b+C\pmod m $$ が成り立つ(足し算)。

$\BULLET$ どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ a+C\equiv b+C\pmod m \NARABA a\equiv b\pmod m $$ が成り立つ(引き算)。

$\BULLET$ どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ a\equiv b\pmod m \NARABA aC\equiv bC\pmod m $$ が成り立つ(掛け算)。

$\BULLET$ $\REDTEXT{$m$と$D$が互いに素のとき}$、 どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ aD\equiv bD\pmod m \NARABA a\equiv b\pmod m $$ が成り立つ(割り算)。

がまとめたのを見て、 ユーリが長考に入った。 そして言った。

ユーリ「ねー、お兄ちゃん……」

「何?」

ユーリ「等式のとき、割り算ができる条件は $D\NEQ 0$ だったよね?」

「そうだよ」

$\BULLET$ $\REDTEXT{$D\NEQ 0$のとき}$、 どんな整数 $a,b$ に対しても、 $$ aD = bD \NARABA a = b $$ が成り立つ(割り算)。

ユーリ「だったらさー……

 $\REDTEXT{$m$と$D$が互いに素}$

っていうのは

 $\REDTEXT{$D\NEQ0$}$

みたいなもの? だって、それが割り算のための条件なんでしょ?」

「ユーリは賢いなあ! その通りだよ! 

  • 《合同式》の世界における《$D$ は法 $m$ と互いに素
  • 《等式》の世界における《$D\NEQ0$》
この二つはそっくりだよね!」

ユーリ「だよね!」

「否定を考えることもできるよ。 《互いに素である》というのは《最大公約数が $1$ である》ということだから、 《互いに素ではない》というのは《最大公約数が $1$ より大きい》になる。 つまりそれは《共通の素因数を持つ》ということだ!」

  • 《合同式》の世界における《$D$ は法 $m$ と共通の素因数を持つ
  • 《等式》の世界における《$D=0$》

ユーリ「へえ……」




補足解説

$m$ と $D$ が互いに素であることは、 任意の整数 $a,b$ について $$ aD\equiv bD\pmod m \NARABA a\equiv b\pmod m $$ であることに必要十分です。

「僕」は、 $m$ と $D$ が互いに素であることの十分性は証明していますが、 必要性を証明していません。 以下では対偶法により必要性を証明します。

命題

$m$ と $D$ が互いに素でないならば、 $$ aD\equiv bD\pmod m \KATSU a\not\equiv b\pmod m $$ となる 整数 $a,b$ が存在する。

証明

$m$ と $D$ の最大公約数を $g$ とする。

$a = \frac{m}{g}$ とおくと $g$ は $m$ の約数だから $a$ は整数になる。 また、 $b = 0$ とおく。 すると、 $$ aD - bD = m \cdot \frac{D}{g} $$ となる。 $g$ は $D$ の約数だから $\frac{D}{g}$ は整数である。 よって、 $aD - bD$ は $m$ の倍数であり、 $$ aD \equiv bD \pmod m $$ がいえる。

一方、 $$ a - b = \frac{m}{g} $$ であるが、 $m$ と $D$ が互いに素でないことから $g\NEQ1$ であり、 $$ 0 < \ABS{\frac{m}{g}} < \ABS{m} $$ なので、 $\frac{m}{g}$ は $m$ の倍数ではない。 したがって、 $$ a \not\equiv b \pmod m $$ となる。

(証明終わり)

※なお、上記の証明では「$m$ と $D$ の最大公約数」の代わりに「$m$ と $D$ の共通な素因数」を使うこともできます。

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(第472回終わり)

(2026年7月3日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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