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第422回 シーズン43 エピソード2
ゼロで割ってない?(後編)

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早くも第3刷になりました!

結城浩『群論への第一歩』はこちらです!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

僕の部屋

ユーリに因数分解の問題を出してきた。

$4$ 次式の因数分解を暗算で考えさせるんだからなあ……(第421回参照)。

もっとも、因数定理を使うことで、その挑戦に応えられたけどね。

ユーリ「高校生ってすごいなー!」

「ユーリだってすぐにできるよ」

ユーリ「じゃ、何か問題出してみてよ」

「じゃあ、たとえばこれは?」

クイズ

次の式を $x$ に関する一次式の積に因数分解せよ。

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 $$

ユーリ「ほほー……やってみる!」

「暗算じゃなくてもいいよ」

ユーリ「えーと……あっ、これ難しーじゃん!」

「どうしたいきなり」

ユーリ「だって、最後が $12$ だから、ぜんぶを $x$ でくくれないもん」

「そうだね。だからこの $x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12$ は $x$ を因子に持たないことになる」

ユーリ「ちぇっ……あ、でもこの問題も $x^4$ だから、こんな感じになりそう」

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (x-a)(x-b)(x-c)(x-d) $$

「そうだね。 $x^4$ の係数けいすうが $1$ だから、 $x$ の係数が $1$ になっている一次式が $4$ 個になりそうだ。 そんなふうにアタリをつけられる」

$$ \REDFOCUS{x^4} - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (\REDFOCUS{x}-a)(\REDFOCUS{x}-b)(\REDFOCUS{x}-c)(\REDFOCUS{x}-d) $$

ユーリ「そんじゃ、お兄ちゃんがさっき使ってた謎の方法使うか(第421回参照)」

因数定理だね」

ユーリ「いんすーてーり。 試しに数を $x$ に代入してみるんでしょ。それで $0$ になったらラッキー!」

「まあ、そうだね」

ユーリ「たとえば $x$ に $1$ を代入してみる!」

$x$ に $1$ を代入してみると……

$$ \begin{align*} & x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 \\ &= 1^4 - 4\times 1^3 - 1^2 + 16\times 1 - 12 && \REMTEXT{$x$に$1$を代入した} \\ &= 1 - 4 - 1 + 16 - 12 && \REMTEXT{$1^3 = 1$などを使って計算した} \\ &= 0 \end{align*} $$

「できたね」

ユーリ「やったやった。 $x$ に $1$ を代入したら $0$ になった。てことは……こーかな?」

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = \REDFOCUS{(x-1)}(x-b)(x-c)(x-d) $$

「そうだね。 $x$ に $1$ を代入したら左辺は $0$ になった。 ということは右辺も $0$ にならなくちゃまずい。 だから $x-1$ を因子に持つことになる」

ユーリ「じゃ、次は $x$ に $2$ を代入する!」

$x$ に $2$ を代入してみると……

$$ \begin{align*} & x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 \\ &= 2^4 - 4\times 2^3 - 2^2 + 16\times 2 - 12 && \REMTEXT{$x$に$2$を代入した} \\ &= 16 - 32 - 4 + 32 - 12 && \REMTEXT{各項を計算した} \\ &= 0 \end{align*} $$

「うんうん」

ユーリ「楽勝じゃん。 $x - 2$ が出てきた」

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (x-1)\REDFOCUS{(x-2)}(x-c)(x-d) $$

「次は?」

ユーリ「次は $x$ に $3$ を代入してみる……?」

「どうしていま、僕の顔を見たんだろう」

ユーリ「ここまでうまく行ったから、何か落とし穴がありそーだと思ったから」

「だとしても、顔を見てもしょうがないよね」

ユーリ「ちぇっ、ポーカーフェイス」

$x$ に $3$ を代入してみると……

$$ \begin{align*} & x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 \\ &= 3^4 - 4\times 3^3 - 3^2 + 16\times 3 - 12 && \REMTEXT{$x$に$3$を代入した} \\ &= 81 - 108 - 9 + 48 - 12 && \REMTEXT{各項を計算した} \\ &= 0 \end{align*} $$

「……」

ユーリ「おかしい! ここでも $0$ になった!」

「別に何もおかしくないよ。素直に行こうよ」

ユーリ「むー」

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (x-1)(x-2)\REDFOCUS{(x-3)}(x-d) $$

「じゃ、次は?」

ユーリ「素直に $4$ を代入してみる!」

「……」

$x$ に $4$ を代入してみると……

$$ \begin{align*} & x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 \\ &= 4^4 - 4\times 4^3 - 4^2 + 16\times 4 - 12 && \REMTEXT{$x$に$4$を代入した} \\ &= \cdots \\ \end{align*} $$

ユーリ「あっ、けっこうめんどい。 $4^4$ と $4\times 4^3$ は同じだから、ちょうど消えるよね。 それから $4^2$ は $16$ だから、 $16\times 4$ じゃなくて $16\times3$ を計算して……ダメだー。 $0$ になんない!」

$$ \begin{align*} & x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 \\ &= 4^4 - 4\times 4^3 - 4^2 + 16\times 4 - 12 && \REMTEXT{$x$に$4$を代入した} \\ &= \underbrace{4^4 - 4\times 4^3}_{=0} - 16 + 16 \times 4 - 12 \\ &= 16\times 3 - 12 \\ &\NEQ 0 \end{align*} $$

「ということは、 $x - 4$ は因子にならない。さあさあ、ユーリはどうする?」

ユーリ「お手上げ!」

「いやいや、少なくともここまではわかったよね。あともう一歩だ。 $d$ さえわかればいいんだから」

$d$ は何だろうか?

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (x-1)(x-2)(x-3)(x-d) $$

ユーリ「そーだけど……む? むむむむ?」

「……」

ユーリ「わかった!  $d$ は $-2$ だ!」

「おっと、いきなり出たね」

ユーリ「だって、そーじゃん。 $-1$ と $-2$ と $-3$ と $-d$ を掛けたら $-12$ になるはずでしょ? あー、 $x$ に $4$ を代入するのはムダだった!」

「こういうことだね。 $$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x \REDFOCUS{{}-12} = (x\REDFOCUS{{}-1})(x\REDFOCUS{{}-2})(x\REDFOCUS{{}-3})(x\REDFOCUS{{}-d}) $$ だから、 $$ (-12) = (-1)\times(-2)\times(-3)\times(-d) $$ になるので、 $$ d = -2 $$ となる」

ユーリ「できたー」

クイズの答え

$$ x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12 = (x-1)(x-2)(x-3)(x+2) $$

「お、符号まちがえなかったね。えらいえらい」

ユーリ「ふふん……それにしても、こーゆー引っかけが待ってるとは思わなかったぜ」

「え? どこにも引っかけ要素はないよね」

ユーリ「だって、 $1,2,3$ と来たら次は $4$ 試したくなるじゃん。そこが引っかけ」

「そうやって、出題者の裏読みばっかりしないほうがいいと思うよ」

ユーリ「ちぇっ」

「いまユーリは因数定理を繰り返し使って因数分解したけど、 たとえば $x - 1$ という因子が見つかったところで、多項式の割り算をすることもできるよ」

ユーリ「多項式の割り算?」

「こんなふうに筆算して、 数の割り算と同じように $x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12$ を $x-1$ で割ることができる」

筆算で $x^4 - 4x^3 - x^2 + 16x - 12$ を $x-1$ で割る

ユーリ「へー……」

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(2024年5月17日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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