【書籍紹介】
「何がわからないのか……わかりません $\NONA$」 学ぶことに慣れていないノナちゃんが初登場!
【書籍紹介】
「証明……わかりません $\NONA$」 ノナちゃんが図形の証明に挑戦!
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
ノナ:ユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。
数学を学ぶことに慣れていない中学生のノナは、たった一つの式 $x + y$ を持ち出してきた。
でも、それがいったい何を意味しているのか、知りたいのはどんなことなのか、 僕にはさっぱりわからない。
ノナを連れてきたユーリもわかっていないようだ。
五里霧中のまま、僕はノナにこう提案した。
僕「……じゃあね、式の計算について、ゆっくり話していくから聞いてくれる? ノナちゃんが知っていることもたくさん出てくると思うけど、復習だと思って聞いてくれるとうれしいな。 話しているうちにノナちゃんの疑問のそばを通りかかるかもしれない。 そのときに声を掛けてくれれば、僕たちは同じ景色を見ることができるはず」
こんなふうにして、僕とユーリとノナの三人の散歩——式の計算をめぐる《数学トーク》——が始まった。
僕「それじゃ、まず文字の話をするね。 ノナちゃんが書いてくれた $x + y$ にも出てきたけれど、 数学では $x$ や $y$ のような文字を使うことがある。 これはどうしてかというと……」
ユーリ「数を表すためでしょ?」
僕の語りにかぶせるようにしてユーリが言う。
僕「うん、そうだね。文字を使うのは数を表すためだ。 中学校の数学では、ほとんどの場合、 $x$ や $y$ のような文字は数を表すために使われる」
ユーリ「ほとんどってことは、数じゃないものを表すこともあるの?」
僕「うん、あるよ。文字が数を表さないこともある。 さてここで、ユーリの前に二つの道が示される」
ユーリ「は?」
僕「二つの道、それは——
ユーリ「あー、そゆこと? オッケー、いっしょに行きますぜ。 数を表さない文字については、ちょっとこっちに置いとけってことね?」
ユーリは《それはこっちに置いといて》のジェスチャをする。
さすがユーリは頭の回転が速いなあ。
僕「$x$ や $y$ は数を表すことがほとんどだ、という話をしていた。ここまではいいよね?」
僕はノナに声を掛ける。
ノナ「大丈夫……大丈夫です $\NONA$」
僕「アルファベットの小文字の $a,b,c$ や $x,y,z$ などをよく使うけれど、 絶対にそれを使わなければいけないというわけじゃない。 $26$ 文字あるアルファベットのどれを使ってもいいし、 小文字じゃなくて大文字を使ってもいい」
ノナ「$\NONA$」
ユーリ「……」
僕は、二人の中学生に向かって話を続ける。
彼女たちは、真剣な顔をして僕の言葉に耳を傾けてくる。
僕が話している目的は、ノナが抱いている疑問を見つけて、 できるだけていねいに解きほぐして、 もしも僕に答えられることなら答えて、 答えられないならいっしょに考えることだ。
そして《数学トーク》をいっしょに楽しめたらいいな、と思っている。
ノナの中で何が起きているのか、 まだよくわからない。 でも、式の計算について知っていることを少しずつ話していこうとしているんだ。
僕「それでね、 $x + y$ と書かれていたら、それは、
ユーリ「そりゃそーだ」
ノナ「大丈夫……大丈夫です $\NONA$」
二人の少女は、当然でしょうという顔で肯いた。
でも僕は心の中で、必ずしもそうじゃないな、と考えていた。
自分で語ったことに対して、心の中で意見を述べる。
$x$ が数で、 $y$ が数なら、 $x + y$ は「$x$ と $y$ を足し合わせた数」を表しているというのは間違いじゃない。 でも、それがすべてではなくて「$x$ と $y$ という二つの数を足し合わせる計算」を表しているといえないか? ……と、 そんなことを考えたのだ。
それは深く考えるのに値する疑問だ——と僕は思った。 でも、 いまそれを彼女たちの前に持ち出すわけにはいかない。 二人を——特にノナを——混乱させる危険性があるからだ。
さっきは冗談めかしてユーリに「二つの道が示される」なんて言ったけど、 何のことはない。僕自身の前にも常に、二つの道が示される。 話を進めていく道のことだ。
変化する話題に合わせて、あるいは相手の応答に合わせて、どの方向に話を進めていくのか。 それを決める必要がある。 ちょうど、散歩の途中で分かれ道に至ったときのように。
いや、二つの道どころじゃないな。 考えているときには、無数の道がいつも存在して、 そこから一つを選択して進まなければならない。
そしてその選択の連鎖こそ、考えを進める道筋に他ならないのだ。
ユーリ「お兄ちゃん? おーい、戻ってこーい!」
僕「……おっと、ごめんごめん」
ノナ「$x + y$ は……数です $\NONA$」
僕「そうだね。ところで、数学で数を文字で表すのには理由がある」
ノナ「大切……大切です $\NONA$」
僕「うん。理由は大切。もしもいま、 $3$ と $2$ という二つの数を足し合わせた数を表したいなら、 $3 + 2$ と書けばいいよね。数字を使って数を具体的に書いた方がわかりやすい」
ノナ「$5$ になる……足すと $5$ です $\NONA$」
僕「そうだね。 $3$ と $2$ を足したら $5$ になる。その通り。 数字を使えば、何を計算しているかわかりやすい。 でも、数学では $x$ や $y$ のような文字を使って数を表し、 $x + y$ のように書いて足し合わせた数を表す。それはどうしてだろう」
ノナ「$\NONAQ$」
ユーリ「……! ……!」
ユーリは、自分をガンガン指さしている。
自分に答えさせろという強いアピールだ。
僕は芝居がかった口調で彼女を指さす。
僕「はい。じゃあユーリさん、答えてください」
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