ここは僕の部屋。 いつものように僕と従妹のユーリは数学トークをしている。 対数の話をしていると、ユーリが問題を出してきた。
ユーリ「$\LOG2$ ってどんくらい大きい数なの?」
僕「え?」
ユーリ「$\sqrt{2}$ は $1.41\cdots$ でしょ? $\sqrt{10}$ は $3.16$ くらいだった。じゃ、 $\LOG2$ は?」
僕「覚えてないなあ……調べてみようか」
ユーリ「あ、じゃ、お兄ちゃんに問題! $\LOG2$ の値を求めなさーい!」
僕「$\LOG2$ を?」
ユーリ「そ! 円周率の $3.14\cdots$ みたいに《なにテンなになに》まで」
僕「うん、確か、対数を求める展開公式があったと思うな。覚えてないけど」
ユーリ「《定義にかえれ》でしょ?」
僕「何が?」
ユーリ「お兄ちゃん、さっきからよく言ってたじゃん。《定義にかえれ》って。 定義を考えると、 $\LOG2$ も求められるんじゃないの? 調べなくても」
僕「む……そうか、そうだな。うん、できる。 $\sqrt{\mathstrut\REMTEXT{ }}$は電卓使ってもいいかな」
ユーリ「まー、いいんじゃないかにゃ?」
問題
$\LOG2$ の値を小数点以下二桁まで求めよ。
※加減乗除と$\sqrt{\mathstrut\REMTEXT{ }}$は電卓を使ってよい。
僕「じゃあね、まず」
ユーリ「あ、そのまえに」
僕「がく。なに?」
ユーリ「お兄ちゃんって、こういう問題を考えるときって何してるの?」
僕「何してるって……そりゃ考えるさ」
ユーリ「そーじゃなくて。電卓使ってもいいかって聞いたってことは、 もう方法を思いついたんでしょ? どーやって思いついたのかにゃ?」
僕「ユーリが二つヒントくれたから、楽だったよ」
ユーリ「二つヒント?」
僕「うん。一つは《定義にかえれ》というヒント。 $\LOG2$ の定義をもう一度考えるということだね。 そして、もう一つは《円周率の $3.14\cdots$ みたいに》というヒント」
ユーリ「へー、円周率が出てくるの?」
僕「いや、そういうわけじゃなくて、ほらこのあいだ一緒に円周率を求めたじゃないか、 《アルキメデスの方法》を使って(『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』参照)」
ユーリ「うん、やったやった」
僕「あのときのことをちょっと思い出したんだよ。《はさみうち》だね。それで $\LOG2$ は求められそうだ」
ユーリ「へー……すごいね。ユーリって天才かにゃあ! 自分ではわかんないのにヒント出すなんて!」
僕「あはは。そうかもね」
ユーリ「そんで、 $\LOG2$ はどんくらい?」
僕「いやいや、まだ計算してないし」
ユーリ「早くやろーよ!」
僕「うん。まずはポリアの問いかけ《定義にかえれ》から。 $\LOG2$ というのはどういう数かというと……」
ユーリ「《$10$ を何乗したら $2$ になりますか》という数でしょ。もう何回もやったから覚えちゃった」
僕「そうだね。《定義にかえれ》っていうのは、もともとの問題を意味を変えずに言い換えていることになる。 でも $10$ を何乗したら $2$ になるかなんて、すぐにはわからないけど」
ユーリ「そーだね」
僕「そこで、別のポリアの問いかけ《似た問題を知っているか》を使ってみよう。《$10$ を何乗したら $2$ になりますか》に似た問題」
ユーリ「ふーん」
僕「たとえば、《$10$ を何乗したら $10$ になりますか》とか。 これならわかるよね、答えは $1$ だ。つまり、これは、 $\LOG{10} = 1$ ということだね」
ユーリ「うん」
僕「では、これは? 《$10$ を何乗したら $1$ になりますか》」
ユーリ「これもできるよ。えーと、 $0$ でしょ? $10^0 = 1$ だもん」
僕「そうだね。 $\LOG{1} = 0$ ということ」
ユーリ「でも、いま知りたいのは $\LOG{10}$ でも $\LOG1$ でもなく、 $\LOG2$ なんですけどー」
僕「ユーリのいう通りだ……そこで、こんなグラフを描いて考えてみよう」
$\LOG1$ と $\LOG{10}$ から $\LOG2$ の値を想像する
ユーリ「ほほー。 $\LOG1 = 0$ で、 $\LOG{10} = 1$ で……」
僕「だから、僕たちが知りたい $\LOG2$ は《$0$ より大きくて、 $1$ より小さい》ということが言える」
ユーリ「ふむふむ確かに! 円周率のときもこんなことやったね!」
僕「そうなんだよ。はさみうちで少しずつ正確にしていった」
ユーリ「うんうん。 $3.14$ まで出たとき感動したよ!」
僕「$\LOG2$ が《$0$ より大きくて、 $1$ より小さい》ということは、 $\LOG2$ は $0.\cdots$ という形をしていることになるね」
$\LOG2$ についてわかったこと(1)
$$ 0 < \LOG2 < 1 $$
ユーリ「……でも、お兄ちゃん。これだけじゃつまんない。ここからもっと詳しくわかるの?」
僕「うん、もう少しがんばれると思う。そのために、いま僕たちがやったことを振り返ってみよう。 ポリアの問いかけ《結果を一目で理解できるか》だよ。 どうやって $0 < \LOG2 < 1$ を求めたかを再確認しよう」
ユーリ「グラフ見たもん」
僕「確かにそれでいいんだけど、数式として確認しておきたい」
ユーリ「出たな数式マニア」
僕「僕たちはこう考えたんだよ」
《まとめ(1)》
$$ \begin{array}{cccccclll} 10^0 &<& 2 &<& 10^1 \\ & & \downarrow \\ \LOG{10^0} &<& \LOG2 &<& \LOG{10^1} \\ & & \downarrow \\ 0 &<& \LOG2 &<& 1 \\ \end{array} $$
ユーリ「えーと? ……まー、そだね」
僕「$\LOG2$ を攻める代わりに、僕たちは $2$ を攻めた。 まあ、攻めたというのは、はさみうちのことだけど。 何を使って攻めたかというと、 $10^x$ の形をした数を使った。 なぜかというと、 $10^x$ の形をした数なら、 $10$ を底とした対数をとったときに値を求められるから」
ユーリ「ふんふん」
僕「だから、この考え方を使って、さらに攻めればいい」
ユーリ「さらに攻めるって?」
僕「$0 < \LOG2 < 1$ のはさみうちの間隔をもっと狭くするんだよ」
ユーリ「そっか……えーと。わかった。 $10^0 < 2 < 10^1$ のはさみうちを狭くすればいい!」
僕「そうだね! ユーリは賢いなあ」
ユーリ「えへへ。もっとほめて……でも、どうすればいいの?」
僕「ポリアの問いかけ《求めるものは何か》だね」
ユーリ「求めるものは……はさみうち。狭いはさみうち」
僕「もう少し具体的にいえば、数を求めているんだよね。こんな形をした数 $10^x$ を求めたい」
こんな数 $10^x$ がほしい
$$ 10^0 < 10^x < 10^1 $$
ユーリ「……そっか。これだと $10^0 < 2 < \underline{10^x}$ か $\underline{10^x} < 2 < 10^1$ で《はさめる》から?」
僕「そういうことだね」
ユーリ「あれ? でも、 $10^x$ の値がわからなくちゃいけないよね。 $2$ より大きいのか小さいのか」
僕「そうだね。そして $x$ は $0$ と $1$ の間のはずだよ。 つまり、こんな $x$ が得られれば、はさみうちが狭くなり、 $\LOG2$ の値がもう少し正確に求められる」
こんな $x$ を見つけられるか?
ユーリ「ふーん。 $0 < x < 1$ って、たとえば $x = \dfrac12$ とか?」
僕「ユーリは $\PF12$ って何だかわかる?」
ユーリ「あっ! わかる! さっきやったじゃん! $\PF12 = \sqrt{10}$ だよ!(第79回参照)」
$x = \dfrac12$ の場合
僕「その通り。 $\PF12 = \sqrt{10}$ だから、電卓叩けば……」
$$ \PF12 = 3.16227766016838\cdots $$
ユーリ「あれ? $1$ より大きくなっちゃったよ。 $0 < \LOG2 < 1$ なんじゃなかった?」
僕「え? 違う違う、ユーリは混乱しているよ。対数を取るのはあとの話。 《まとめ(2)》を作ってみよう」
《まとめ(2)》
$$ \begin{array}{ccccccccccc} 10^0 &<& 2 &<& \PF12 &=& \sqrt{10} = 3.16227766016838\cdots \\ & & \downarrow \\ \LOG{10^0} &<& \LOG2 &<& \LOG{\PF12} \\ & & \downarrow \\ 0 &<& \LOG2 &<& \dfrac12 \\ \end{array} $$
ユーリ「あ、そっか。勘違いしてた。 $\sqrt{10}$ は対数取る前の話だった」
僕「うん、それで、ほら。 $0 < \LOG2 < \dfrac12$ になった。はさみうちがさっきより狭くなった」
$\LOG2$ についてわかったこと(2)
$$ 0 < \LOG2 < \dfrac12 < 1 $$
ユーリ「$\LOG2$ は $0.5$ よりは小さいんだね。でも、まだまだだよ。 だって、 $0.0\cdots$ なのか、 $0.1\cdots$ なのか、 $0.2\cdots$ なのか、 $0.3\cdots$ なのか、 $0.4\cdots$ なのかわからないんでしょ?」
僕「そうだね。でも、次にどうするか、ユーリはもうわかるだろ?」
ユーリ「わかる! はさみうちをもっと狭くする!」
僕「どうやって?」
ユーリ「え……さっきみたく、 $10^x$ を見つけるの。 こんどは $0 < 10^x < \sqrt{10}$ になる数を」
僕「うんうん、ユーリは話によくついてきてる。で、そういう $10^x$ はどうやって探す?」
ユーリ「えー……たぶん、だけど」
僕「うん」
ユーリ「もっかいルートとる?」
僕「いいね。やってみよう。 $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $10$ の何乗?」
ユーリ「これもさっきやったじゃん! $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $\PF14$ だよ!(第79回参照)」
僕「そうだね。 $\sqrt{\sqrt{10}} = \left(\PF12\right)^{\frac12} = 10^{\frac12 \times \frac12} = \PF14$ だから」
$$ \begin{array}{rllll} \PF12 &= \sqrt{10} &= 3.16227766016838\cdots \\ \PF14 &= \sqrt{\sqrt{10}} &= 1.778279410038923\cdots \\ \end{array} $$
ユーリ「$3.162\cdots$ から $1.778\cdots$ まで小さくなった!」
僕「$2$ より小さいから、はさみうちの場所に注意がいるね」
《まとめ(3)》
$$ \begin{array}{cccccclll} \PF14 &<& 2 &<& \PF12 \\ & & \downarrow \\ \LOG{\PF14} &<& \LOG2 &<& \LOG{\PF12} \\ & & \downarrow \\ \dfrac14 &<& \LOG2 &<& \dfrac12 \\ \end{array} $$
$\LOG2$ についてわかったこと(3)
$$ 0 < \dfrac14 < \LOG2 < \dfrac12 < 1 $$
僕「だいぶ狭くなったね。 $\dfrac14 = 0.25$ だから、 $0.25 < \LOG2 < 0.5$ だね。 ということは、 $0.2\cdots$ か、 $0.3\cdots$ か、 $0.4\cdots$ のどれかだ」
ユーリ「あとはこの繰り返しでしょ! もっぺんルートとる! 次は $\PF18 = \sqrt{\sqrt{\sqrt{10}}}$ だから、早く電卓電卓!」
$$ \begin{array}{rllll} \PF12 &= \sqrt{10} &= 3.16227766016838\cdots \\ \PF14 &= \sqrt{\sqrt{10}} &= 1.778279410038923\cdots \\ \PF18 &= \sqrt{\sqrt{\sqrt{10}}} &= 1.333521432163324\cdots \\ \end{array} $$
僕「あ……」
ユーリ「どしたの?」
僕「ユーリ。これじゃだめだ。 僕たちがほしいのは $\PF14 < 10^x < \PF12$ になる数 $10^x$ だけど、 $\PF18 < \PF14$ だから、 $\PF18$ じゃ、はさみうちの範囲が狭くならない」
ユーリ「あ……そっか! え、そんじゃ、《何回も $10$ のルートをとっていく》のはだめじゃん!」
僕「そうだなあ……実は、ルートを繰り返していけばいいと思ってたんだけど」
ユーリ「えーどーすんのー」
僕「《求めるものは何か》というと、 $\PF14 < 10^x < \PF12$ になるような数 $10^x$ なんだけど……」
ユーリ「……」
僕「あ、わかった。簡単だよ、ユーリ。《与えられているものは何か》を考えればいい。 与えられているもの……というか、すでにわかっているものは、 $\PF12, \PF14, \PF18, \ldots$ だ。 これらはルートを何度もとればいいから」
ユーリ「そうだけど……」
僕「だから、 $\PFF1418$ を考えればいい」
ユーリ「え? それ、 $\PF14$ と $\PF12$ の間にくる数なの?」
僕「そうだよ。だってね、 $\dfrac14$ に対して $\dfrac14$ を足しちゃうと $\dfrac12$ になってしまうよね。 だから $\dfrac14$ を足す代わりにもう一段階小さい数 $\dfrac18$ を足せばいい、って考えるんだ」
$$ \begin{align*} \dfrac14 + \dfrac14 &= \dfrac12 \\ \dfrac14 + \dfrac18 &< \dfrac12 \\ \end{align*} $$
ユーリ「……」
僕「実際、 $\PFF1418 = \PF38 = 10^{0.375}$ だから、 $\PF14 = 10^{0.25}$ と $\PF12 = 10^{0.5}$ の間に来る」
$$ \PF14 < \PFF1418 < \PF12 $$
ユーリ「へ、へー……」
僕「$\PFF1418$ は掛け算で計算できる。指数法則だ」
$$ \begin{align*} \PFF1418 & = \PF14 \times \PF18 \\ &= 1.7782794100389228\cdots \times 1.333521432163324\cdots \\ &= 2.371373705661655\cdots \\ \end{align*} $$
ユーリ「えーと、 $2.37$ って……どこに来るんだっけ?」
僕「$2$ よりは大きくて、 $\PF12 = \sqrt{10} = 3.16\cdots$ よりは小さいね」
《まとめ(4)》
$$ \begin{array}{ccccccccccc} \PF14 &<& 2 &<& \PF38 & \qquad (\PF38 = \PFF1418) \\ & & \downarrow \\ \LOG{\PF14} &<& \LOG2 &<& \LOG{\PF38} \\ & & \downarrow \\ \dfrac14 &<& \LOG2 &<& \dfrac38 \\ \end{array} $$
$\LOG2$ についてわかったこと(4)
$$ 0 < \dfrac14 < \LOG2 < \dfrac38 < \dfrac12 < 1 $$
ユーリ「$\dfrac14 = 0.25$ で、 $\dfrac38 = 0.375$ で、 $\LOG2$ はこのあいだ……てことは?」
僕「$0.25 < \LOG2 < 0.375$ だから、 $\LOG2$ は $0.2\cdots$ か、 $0.3\cdots$ ってことになる。 だいぶ絞れてきたね」
ユーリ「ねーお兄ちゃん。 $\dfrac14$ と $\dfrac38$ みたいに分数で考えると大きさがわかりにくいね。 $0.25$ と $0.375$ だったらどっちが大きいかすぐわかるのに」
僕「そうだね。特に $\dfrac38$ はわかりにくいね。まあ $\dfrac14 + \dfrac18$ と考えれば……」
ユーリ「考えれば?」
僕「……」
ユーリ「お兄ちゃん?」
僕「……」
ユーリ「ねー、どしたの?」
僕「おもしろいことに気付いたかも!」
ユーリ「なになに?」
僕「いまのところ、僕たちは $\LOG2$ をここまで追い詰めたよね」
$\LOG2$ の範囲
$$ \dfrac14 < \LOG2 < \dfrac14 + \dfrac18 $$
ユーリ「うん」
僕「この不等式を、こんなふうに書き換えてみるんだよ」
書き換えた
$$ \dfrac01 + \dfrac02 + \dfrac14 + \dfrac08 < \LOG2 < \dfrac01 + \dfrac02 + \dfrac14 + \dfrac18 $$
ユーリ「へ? なにこの $\dfrac01$ って。《$1$ 分の $0$》って、 $0$ じゃん!」
僕「そう、そうなんだよ!」
ユーリ「お兄ちゃん、何ひとりでコーフンしてんの?」
僕「もう少し書き換えると、こうなるんだ」
さらに書き換えた
$$ \dfrac0{2^0} + \dfrac0{2^1} + \dfrac1{2^2} + \dfrac0{2^3} < \LOG2 < \dfrac0{2^0} + \dfrac0{2^1} + \dfrac1{2^2} + \dfrac1{2^3} $$
ユーリ「……えっと? $1$ は $2^0$ で、 $2$ は $2^1$ で……あー、まーそだね。でも、それがどーしたの? ちゃんと教えてよー。この式は何?」
僕「うん、これは、《二進法》なんだよ!」
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