この記事は『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』として書籍化されています。
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。
僕とテトラちゃんとミルカさんは、《力学的エネルギー保存の法則》について話し合っている。
テトラちゃんが《仕事》という概念を通して《力学的エネルギー》の学びを深めたところ。
テトラ「……そうなんです。 《位置》や《速度》や《加速度》は何となく感覚的に分かります。 《力》や《質量》もわかります。 でも《力学的エネルギー》までくると、苦しくなります。 式の形がちらちらして、その形にどんな意味があるのかわからなくて不安になるからです」
僕「なるほどね。だから式の形が複雑になると、その不安が増大する……みたいな?」
テトラ「そうなんですっ! でも、 $Fs$ のようなシンプルな式だと、ちょっと安心します。 《力》と《位置の変化》の積が《仕事》……ですよね」
僕「そうだね。いまは《力》が一定で、しかも一次元で考えているから。《仕事》は《力 $F$》と《位置の変化 $s$》の積になる」
テトラ「はい。もう少しじっくり考えれば《仕事》とお友達になれそうです。 そして《仕事》とお友達になれたら《力学的エネルギー》とも仲良くなれるかな……なれたらいいなって」
ミルカ「こんな問題を考えても楽しい」
テトラ「どんな問題でしょう」
ミルカ「質点に《仕事》をすると、その《仕事》の分だけ、質点が持つ《力学的エネルギー》が増加する」
テトラ「はい……」
ミルカ「さっきは《位置エネルギー》に軸足を置きたかったから、準静的な質点の移動を考えた(第278回参照)。 《運動エネルギー》を $0$ に保ったまま質点に対して《仕事》を行い、 質点に行った《仕事》のすべてが質点の《位置エネルギー》になる設定を考えたことになる」
テトラ「は、はい……そうですが?」
ミルカ「それでは、質点に行った《仕事》のすべてが質点の《運動エネルギー》になる設定を考えたらどうなるか」
僕「んんん、どういうこと?」
ミルカ「新たな設定を考える。といっても質点に《仕事》をすることに違いはない。 質点に《仕事》をすれば、質点が持つ《力学的エネルギー》は増加する。 テトラ、《力学的エネルギー》とは何?」
ミルカさんはテトラちゃんを指さす。
テトラ「はい。《力学的エネルギー》は、《運動エネルギー》と《位置エネルギー》の和です。これはもう理解しました(第278回参照)」
$$ \REMTEXT{《力学的エネルギー》} = \REMTEXT{《運動エネルギー》} + \REMTEXT{《位置エネルギー》} $$
ミルカ「そう。だから、質点の《位置エネルギー》を変えないようにしつつ、質点に対して《仕事》をすれば、 質点の《運動エネルギー》が増加することになる」
テトラ「そうなりますね……ちょうど《仕事》の分だけ《運動エネルギー》が増加する、と思います。 でも《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするなんて可能なんですか?」
僕「それは可能だよ。だって……おっと」
ミルカさんの視線がこっちに向けられたので、僕は次に発する言葉を切り換える。
僕「きっとテトラちゃんなら、 《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするには、どうすればいいかわかるよ」
ミルカ「……」
テトラ「こういうことですよね」
ミルカ「向きも」
テトラ「あ、はい、そうでした。《力》はベクトルでした……」
僕「《仕事》は、さっき確認したよね」
テトラ「はい。質点に対して《仕事》をするということは、質点にかけた《力》の向きに、質点の《位置》を動かしていくわけですよね。 だって、《力》と《位置の変化》の積が《仕事》ですから」
僕「それでいいよ、テトラちゃん」
テトラ「で、でも、そうしたら、質点は上に動くことになりますから、《位置エネルギー》は増えてしまいます!」
ミルカ「上に動かさなければいい」
テトラ「え? ああ! テトラ、理解しました! 《位置エネルギー》を変えずに《仕事》をするという設定の意味をようやく理解しました。質点を水平方向に動かせばいいんですね!」
僕「そうだね。高さが変わらなければ、重力による《位置エネルギー》は変わらないから」
ミルカ「こういう問題にしよう。テトラはこの問題を解ける」
問題
質点の《位置》を $x = s$ まで動かしたときの質点の速度 $v$ を計算し、そのときに質点が持っている《運動エネルギー》を求めよ。
テトラ「あたしは、この問題を解ける……?」
僕「……」
ミルカ「……」
テトラ「……」
テトラちゃんはノートに計算をしている。 僕は暗算に挑戦したけど、結局ノートに書くことにした。
しばらく、静かな時間が過ぎる。
テトラ「あたし……できたと思います。あたしは、こんなふうに考えを進めました。聞いていただけますか?」
ミルカ「もちろん」
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この記事は『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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