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第273回 シーズン28 エピソード3
放物線をつかまえて:投げたボールを追いかける(前編)

書籍『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』

この記事は『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』として書籍化されています。

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

$ \newcommand{\TEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\FORCE}{\boldsymbol{F}} \newcommand{\ACC}{\boldsymbol{\alpha}} \newcommand{\BOLDMASS}{\boldsymbol{m}} \newcommand{\VECV}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ \end{pmatrix}} $

僕の部屋

ユーリは、 『ボールを投げると放物線を描いて飛ぶのはなぜか』という疑問について議論を続けている(第272回参照)。

「……投げたボールを質点と見なす。 質点が落ちていくときに、その質点に掛かっている力はたった一つ。 地球からの引力だけだ。さあ、これで準備は整った」

ユーリ「何の準備?」

「質点の運動を調べる準備だよ。 掛かっているは地球からの引力だけ。 そして僕たちは、力と加速度の関係を教えてくれるニュートンの運動方程式を知っている。 加速度は力に比例する、だから僕たちは、質点の加速度を手に入れることができる」

ユーリ「そーゆーふーに話は進むんだ。力から加速度へ?」

「そうだね。 掛かっている力がわかれば、ニュートンの運動方程式を使って加速度がわかる。 加速度がわかれば、僕たちは質点の運動……つまり時刻ごとの位置を得ることができる。 なぜなら、加速度を時刻で二回積分すればいいから」

 《位置》←《速度》←《加速度》

ユーリ「ふむふむふむふむ! いよいよ放物線になるのが確かめられる?」

「でもね、その前に考えることがある。 実は、さっきまでのニュートンの運動方程式の説明は、かなり大ざっぱで、いいかげんなものだった(第272回参照)」

ユーリ「なにそれいまさら!  $F = m\alpha$ がウソなの?」

「いやいや、ウソじゃないよ。 いいかげんといっても、《加速度は力に比例する》というのは間違いじゃないんだ。 でも、ここまでは加速度と力について、ほとんど《大きさ》の話しかしてこなかったよね」

ユーリ「へ? 《大きさ》以外に何があるの?」

「《大きさ》以外に《向き》がある。加速度にも力にも《向き》がある」

ユーリ「向き……」

「《大きさ》と《向き》の両方を考える必要がある。つまり、ニュートンの運動方程式はベクトルで考える必要があるんだよ」

ユーリ「《微分》と《積分》と《ベクトル》!」

「ベクトルと聞いて急に警戒態勢に入らなくてもいいよ」

ユーリ「警戒なんてしてないもん! ちょっとびっくりしただけだもん!」

「ベクトルといっても、 二つの方向を考えれば少しも難しくないよ。 水平方向と垂直方向の二つの方向のこと」

ユーリ「……それって、 $x$ と $y$ って意味?」

「そうだね。ボールの《位置》を表すためには $x$ と $y$ という二つの座標値が必要。 二つの数を $(x,y)$ という組にして《位置》を考える」

ユーリ「当たり前では」

「うん、もう僕たちはそれを当たり前だと感じる。ところで《位置》だけじゃなくて、 《力》や《加速度》も同じように二つの数の組で表さないとまずい。 どうしてかというと、力も加速度も大きさだけじゃなくて向きがあるからだ」

ユーリ「……」

「力は大きさだけじゃなくて、向きがある。 大きな力で引っ張るか小さな力で引っ張るかだけじゃなくて、 どの向きに引っ張るかを考えないとまずいよね?」

力はベクトル。向きと大きさがある

ユーリ「あー、それはわかる。力には向きと大きさがあるってこと」

「加速度も同じだね。速度が大きく変化するか小さく変化するかだけじゃなくて、 どっちの向きに変化しているか考えるわけだ」

加速度もベクトル。向きと大きさがある

ユーリ「んー、それもわかる。右に加速するのと、左斜め下に加速するのは違うってことでしょ?」

「そうだね。じゃあ、もうわかったも同然だよ。 大きさだけじゃなくて向きを考えるというのがベクトルで大事なことだから。 ベクトルの足し算・引き算と実数倍は、大きさと向きがどうなるかという計算のルールに過ぎないし。 だからベクトルって言葉でそんなに警戒しなくても大丈夫」

ユーリ「警戒なんてしてないって! ユーリはベクトル知ってるもん。 ベクトルの足し算、引き算、それから二つのベクトルの平均も知ってる。 教えてくれたじゃん!」

「ああ、そうだったね」

【宣伝タイム】

テトラ「はいっ、それではね、今日はね、ユーリちゃんと先輩が《ベクトル》を学ぶ対話をご紹介しようと思うんです。 ぜひ、こちらの一冊『ベクトルの真実』をごらんくださいっ!」

「なんだいまの」

ユーリ「宣伝テトラさんのしゃべり、ちょっと《YouTuber》っぽかったにゃあ」

「ともかく、ニュートンの運動方程式はベクトルで考えることになる」

ユーリ「あのね、ユーリはね、ベクトルを警戒しているわけじゃないの。 《力》とか《加速度》がベクトルなのはわかる。大きさと向きがあるから。 でも、《位置》もベクトルなの? 位置に大きさも向きもないじゃん? 《力》とか《加速度》みたいにギューンっていうのがベクトルじゃないの?」

「なるほど、そこに引っかかっていたんだ。あのね、ギューンみたいなイメージに引きずられない方がいいよ。 さっきも話したけど、質点の位置は二つの数の組で表せるよね」

ユーリ「座標 $(x,y)$」

「うん、それのこと。それで、原点 $(0,0)$ から点 $(x,y)$ に向けて矢印を引けば、 点の《位置》もベクトルだということがつかめると思う。 たとえば、 $(x(5), y(5))$ という《位置》はこんな矢印になる」

位置もベクトル。向きと大きさがある

ユーリ「ほほー!」

「そうなんだよ。《位置》を考えるときは特にギューンみたいな感覚はない。 大きさと言われてもピンと来ないかもしれない。 でも、原点を基準にして考えれば、 $(0,0)$ から $(x,y)$ までの距離を大きさと考えればいいんだ。 原点を基準にすれば $(x,y)$ の向きもわかるよね」

ユーリ「なーるほどー」

ニュートンの運動方程式

「それで、ニュートンの運動方程式の話。さっきは $F = m\alpha$ という式で表した(第272回参照)。 《力》と《加速度》がベクトルであることをはっきりさせるため、太字を使うことにしよう。 つまり、力は $F$ じゃなくて $\FORCE$ と書く。そして、加速度は $\alpha$ じゃなくて $\ACC$ と書くことにする。 そうすると、さっきまで $F = m\alpha$ と書いていたニュートンの運動方程式はこんな式になる」

$$ \FORCE = m \ACC $$

ユーリ「あり? ベクトルって文字の上に矢印つけるんじゃないの?」

「うん。そう書くこともある。どちらが正しいってわけじゃない」

ベクトルの表し方

ユーリ「えーと、 $m$ は $\BOLDMASS$ みたいに太字にしなくてもいいんかい?」

「質量はベクトルじゃないからね。大きさはあるけど、向きはない」

ユーリ「えっと、質量は下向きじゃん? 下にグッと……あっ、違うっ! いまのなし!」

「違うね。下向きなのは質点が地球から受ける引力の向きだね。質量には向きはない。だからベクトルの太字にはしない」

ユーリ「$F = m\alpha$ を $\FORCE = m \ACC$ にしましたよっと。そんで?」

「うん、式の書き方よりも大事なのはその意味だよね。 $F = m\alpha$ のときは、 力 $F$ と加速度 $\alpha$ は比例の関係にあるということを読み取れた。 では $\FORCE = m\ACC$ のときは何を読み取るか」

ユーリ「わくわくぅ!」

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(2019年11月1日)

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この記事は『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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