登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
ここは僕の部屋。 いとこのユーリと僕は数列についておしゃべりをしている(第201回参照)。
僕「うん、だからね。 $1,-1,1,-1,\ldots$ のように $1$ と $-1$ が交互に現れる数列は、 $(-1)^n$ と表すこともできるし、 $(-1)^{n+2}$ と表すこともできるし、 $\cos n\pi$ と表すこともできるし、 $\sin \left(n\pi + \frac{\pi}{2}\right)$ と表すこともできる。 どれが正しいなんてことはないんだよ」
ユーリ「えー、 でもいきなりコサインで書く人はいないんじゃない?」
僕「確かにね。 $(-1)^n$ はシンプルでわかりやすいから」
ユーリ「そーだよ。わざわざ三角関数で……」
僕「ああ、でも、ミルカさんがおもしろいこと言ってたなあ。 『数列も関数だよ』って」
ユーリ「いまの、ミルカさまのモノマネのつもり? あんま似てない」
僕「いや……そういうわけじゃないよ。 ともかく、数列は関数と考えることができる。数列は関数の一種だという話をしてたんだ」
ユーリ「数列って、関数なの?」
僕「納得いかない?」
ユーリ「だって、数列って数が並んでるものじゃん? でも、関数は……関数は……」
僕「関数は?」
ユーリ「関数は、わかんないけど、 もっとヒュンとしてる。ギュインって」
僕「なんだそりゃ」
ユーリ「だって、関数ってグラフみたいなものじゃん? ヒュンと直線だったり」
僕「ギュインって放物線だったり?」
ユーリ「そーそー、そゆこと」
僕「確かに、 関数をグラフで表すというのはよくやることだね。 そして関数をグラフで表したときに直線や放物線になることも、もちろんある。 そこまではユーリは正しいよ」
ユーリ「うんうん。そーだ! 関数って $f(x)$ みたいなの!」
僕「そうだね。 $x$ の関数のことを $f(x)$ と表すこともある。 それも正しい。でもね、《関数とは何か?》って改めて聞かれたら、 ユーリはなんて答える?」
ユーリ「関数とは、何か……」
僕「そうだね。 つまり、関数の定義を聞かれていることになる」
ユーリ「関数の定義! 関数に定義なんてあるの?」
僕「そりゃあるよ。そうでなくちゃ、 関数についてきちんと考えることは難しいよね。 どんなものなら関数と呼ぶことができるか。 どんなものは関数と呼べないか。 それをはっきりさせてくれるのが定義だからね」
ユーリ「関数の定義なんて考えたこともなかったよー」
僕「だったら、いまが考えるチャンスだね」
ユーリ「『いまでしょ!』とか言わないの?」
僕「言わない」
僕「関数を定義する前に、関数の例を見てみようか。 さっきユーリは直線とか放物線とかいってたよね」
ユーリ「うん。グラフ」
僕「たとえば、これは $y = x + 1$ という式で表されるグラフだよね」
$y = x + 1$ で表されるグラフ
ユーリ「そーそー、こーゆーの。これは直線でしょ?」
僕「そうだね。このグラフは直線になっていて、 $y = x + 1$ という式で表されている。 このグラフで $x$ の値が $0$ のとき、 $y$ の値は何になる?」
ユーリ「$x$ が $0$ なら、 $y$ は $1$ でしょ? $x$ に $1$ 足せば $y$ だもん」
$y = x + 1$ では、 $x = 0$ のとき、 $y = 1$ になる。
僕「そうだね、正解。 じゃあ、 $x$ の値が $5$ のとき、 $y$ の値は何になる?」
ユーリ「$1$ 足すから $6$」
$y = x + 1$ では、 $x = 5$ のとき、 $y = 6$ になる。
僕「うん。それでいいよ。このグラフで $x = 5$ のとき $y = 6$ だ」
ユーリ「カンタン。そんで?」
僕「だったら、 $x = -12345$ だったら?」
ユーリ「いきなりマイナス! えーと、 $y = -12344$ かにゃ?」
僕「そうだね。 $y = x + 1$ なんだから、 $x = -12345$ のときは $y = -12345 + 1 = -12344$」
$y = x + 1$ では、 $x = -12345$ のとき、 $y = -12344$ になる。
ユーリ「難しくない」
僕「次は難しいよ。 $x$ の値がユーリだったら、 $y$ の値は?」
ユーリ「は? なに言ってるですか? $x = \REMTEXT{ユーリ}$なんてありえないじゃん」
僕「それはどうしてだろう」
ユーリ「ユーリは数じゃないもん! $\REMTEXT{ユーリ} + 1$なんて計算できない!」
僕「そうだね。このグラフの $x$ 軸にユーリは出てこないし、 犬も猫も出てこない」
ユーリ「おどろいちゃった」
僕「さっきから、 $y = x + 1$ というグラフを使って、 《$x$ の値がナントカのとき、 $y$ の値はナニになる?》 と聞いたけれど、この質問に答えるのが関数なんだよ」
ユーリ「何それ突然!」
僕「関数の定義をきちんと書くとこうなるよ、ユーリ」
関数の定義
二つの集合 $X$ と $Y$ を考える。
集合 $X$ のどんな要素 $x$ に対しても、 集合 $Y$ の要素 $y$ がたった一つ定まる規則 $f$ があるとしよう。
このとき、 $x$ に $y$ を対応付ける規則 $f$ のことを、集合 $X$ から $Y$ への関数 $f$ と呼ぶ。
そして、関数 $f$ が $x$ に対応付けている要素のことを、 $$ f(x) $$ と書く。
集合 $X$ のことを、関数 $f$ の定義域(ていぎいき)という。
集合 $Y$ のことを、関数 $f$ の終域(しゅういき)という。
※これは写像の定義。集合 $Y$ が数の集合のときを関数ということが多い。関数は写像の一種である。
ユーリ「意味わかんない」
僕「がく。ちゃんと読んだ?」
ユーリ「何となくわかるけど、わざとややこしく書いてない?」
僕「いやいや、抽象的だけど、ややこしくはないよ。イメージがわかりにくいかったら、こんな図はヒントになるよ」
ユーリ「どっちにしても、よくわかんない」
僕「確かに、定義は抽象的に見えることが多いかもね。 だからこそ、定義を見たときには具体例を作ることが大事なんだ。 ほら、《例示は理解の試金石》だから」
ユーリ「《例示は理解の試金石》だし《礼儀は社会の潤滑油》だよね」
僕「ちゃかさない。関数の定義を $y = x + 1$ に照らし合わせてみよう」
ユーリ「へーい」
僕「さっき僕たちは $y = x + 1$ というグラフで、 関数のことをぼんやりと考えたけど、 関数の定義に合わせてきちんと表してみよう」
ユーリ「ほほー」
僕「僕たちは $y = x + 1$ のグラフを考えるとき、 どんな実数 $x$ に対しても、実数 $y$ が対応付けられていると考えるよね」
ユーリ「それって、 $x$ に対して $y$ は $x + 1$ になるってこと言ってるの?」
僕「そうだよ。実数 $x$ に対して実数 $y$ がたった一つ決まる。 $y$ を決める約束、ルール、対応付け、規則が決まっている。 その規則のことを関数と呼ぶんだ」
ユーリ「はあ」
僕「さっきの《関数の定義》では最初に、 《二つの集合 $X$ と $Y$ を考える》 といってたけど、 $y = x + 1$ のときには集合 $X$ も $Y$ もどちらも《実数全体の集合》としていいよ」
ユーリ「実数全体の集合……」
僕「うん。 $y = x + 1$ のグラフを考えるとき、 $x$ 軸上のどんな点 $x$ を選んでも対応する $y$ が一つ決まった。 $x$ 軸上の点を一つ選ぶというのは、 実数を一つ選んでいるということ。 そしてそれに対して $y$ が決まるけど、 これは $y$ 軸上の点つまり実数を一つ決めていることになる」
ユーリ「まわりくどいけど、いーよ」
僕「しかも、 $y = x + 1$ というグラフでは、 実数 $x$ に対して実数 $y$ がたった一つだけ決まる。つまり……
ユーリ「おー! あたりまえで、めちゃめちゃくどいけど、確かに」
僕「どんな実数 $x$ に対しても、実数 $y$ がたった一つだけ対応して必ず決まる。 その対応の規則は、 さっきの例では $y = x + 1$ という式で表されていた。 もしもこの規則に $f$ という名前を付けるとしたら、 $$ y = x + 1 $$ のことを、 $$ y = f(x) $$ と書ける」
ユーリ「解説、乙。 でもにゃあ……あたりまえにわかってることを回りくどく言ってるみたい」
僕「まあね。でも、関数の定義で、 集合 $X$ と集合 $Y$ をきちんと決めておくことが大事だとわかるよね。 さっきの『$y = x + 1$ で $x$ の値がユーリだったら $y$ の値は何?』 という質問が無意味なのは、ユーリが実数じゃないからなんだよ」
ユーリ「はあ」
僕「関数 $f$ の定義に出てくる集合 $X$ のことを定義域というんだ」
ユーリ「ていぎいき」
僕「$f$ が関数なら、定義域にある要素 $x$ を選んだとき、 対応する値が一つ定まることが保証される。 それを $f(x)$ で表すんだね」
ユーリ「うーん……ねえお兄ちゃん。説明はわかったけど、 飽きてきちゃった。だって、何だかぜんぶあたりまえみたいなんだもん」
僕「うん、関数の定義はこのくらいにして、さっきの話に戻ろう」
ユーリ「さっきの話って何だっけ?」
僕「数列も関数だよ、って話」
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