この記事は『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』として書籍化されています。
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ミルカさん:数学が好きな高校生。僕のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。
(なお、今回は時系列的に第103回よりも前になります)
ここは高校の図書室。いまは放課後。
僕は一人で計算をしている。
そこへ、風のようにミルカさんがやってきた。
ミルカ「テトラは?」
僕「いや、知らないけど……今日は来てないね」
ミルカ「ふうん……」
ミルカさんは無造作に僕の隣に座り、僕のノートをのぞきこむ。 顔が近い近い近い。
僕「……」
ミルカ「どうした?」
僕「何でもないよ……」
ミルカ「……」
僕「……」
ミルカ「……」
僕「ミルカさん、顔赤くない?」
ミルカ「自分の顔色なんて見えない」
僕「そういう意味じゃなくて、熱っぽくないの?」
ミルカ「そういう自覚は特にないな」
僕「だったらいいけど。……そういえば、村木先生のカード、今回はあまりおもしろくなかったよ」
ミルカ「どれ?」
僕「これ」
村木先生のカード
ミルカ「ふうん……それで?」
僕「これは $2$ 進数だよね。こんなふうにまとめたほうが見やすくなる」
ミルカ「……」
僕「$4$ 桁だから $4$ ビット。 $0000$ から $1111$ までの $16$ 通り。 それぞれのビットは $0$ か $1$ かの $2$ 通りだから、 $4$ ビットで $2^4 = 16$ 通りになって計算も合ってる。 《もれなく、だぶりなく》」
ミルカ「ふむ。その点に異議はないが」
僕「だから、そこまでの話をかんたんにまとめて村木先生に持っていくつもりだよ。明日かな。 ところで、いま僕が計算しているのは指数関数の」
ミルカ「順序はどう見る? それから演算も」
なぜか、ミルカさんは急にうれしそうな表情になる。 きっと何かを見つけたんだろう(それにしても、ミルカさんの顔、やっぱりいつもよりも赤いような気がするんだけど)。
僕「何の話?」
ミルカ「君はこの $4$ ビットのパターンを見て、 $0000$ から $1111$ までの $16$ 通りと見た。 そこまでなら、もっと単純な表でもいいはずだろう?」
僕「単純な表というのは、たとえばこういうもの?」
$$ \begin{array}{c} 0000 \\ 0001 \\ 0010 \\ 0011 \\ 0100 \\ 0101 \\ 0110 \\ 0111 \\ 1000 \\ 1001 \\ 1010 \\ 1011 \\ 1100 \\ 1101 \\ 1110 \\ 1111 \\ \end{array} $$
ミルカ「そういうもの」
僕「まあ、そうだなあ……確かにこの村木先生の描き方は意味ありげだよね」
この配置には、何か意味があるんだろうか?
ミルカ「数えるのが好きな君が見逃しているのはおかしいな」
僕「え? 見逃しているわけじゃないよ。 $4$ ビット中の《$1$ の個数》のことだよね? もちろん気付いているよ。 《$1$ の個数》が同じビットパターンは同じ行にまとまっている」
ビットパターン中の《$1$ の個数》に注目
ミルカ「気付いていたのか」
僕「もちろんだよ。一番下が《$1$ が $0$ 個のビットパターン》で、上に行くごとに $1$ ずつ増えて、 $0,1,2,3,4$ となってる。 一番上が《$1$ が $4$ 個のビットパターン》」
ミルカ「一番下が最小値、一番上が最大値」
僕「うん、そうだね。《数える》という意味では、こういうのもあるよ。 $1$ の個数じゃなくて、各行ごとに《ビットパターンの個数》を数える。 上からでも、下からでも、 $1,4,6,4,1$ になる。この数のパターンは明らかだよね。二項係数だ」
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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