僕とテトラちゃんはいつものように図書室で数学トークをしている。 今日は $2^x$ や $3^x$ などの指数関数が話題になり、 数の大小関係は意外に引っかかりやすいということから、 テトラちゃんは例を作ろうとしていた。
僕「指数関数を使うと、 $a > 1$ の場合、 $A < B$ ならば、 $a^A < a^B$ がいえる。 こうなるのは底 $a$ が $1$ より大きいときだよ」
数の大小の注意点(1)(底が $1$ より大きいなら、指数関数で不等号は反転しない)
$a > 1$ の場合:
$$ \begin{align*} A & < B \\ & \Downarrow \\ a^A & < a^B \\ \end{align*} $$
テトラ「そうですね」
僕「それから、 $0 < a < 1$ の場合、 $A < B$ ならば、 $a^A > a^B$ がいえる。今度は不等号が反転するんだ」
数の大小の注意点(2)(底が $0$ と $1$ の間なら、指数関数で不等号は反転する)
$0 < a < 1$ の場合:
$$ \begin{align*} A & < B \\ & \Downarrow \\ a^A & > a^B \\ \end{align*} $$
テトラ「えっと、えっと……」
テトラちゃんは《秘密ノート》を開いて熱心に書き込んでいる。
僕「どう、整理ついた?」
テトラ「はい……あたし、底を変えていろいろ例を作ってみたくなりました!」
僕「そうだね。一般的な話の後は具体的な話。どんな例がいいだろう」
テトラ「そうですね……そうですよ!」
僕「なにが?」
テトラ「わかりましたよ、先輩。例を作るコツです」
僕「え?」
テトラ「《境目に注意する》んですよ! 底が $1$ より大きいかどうかが境目なんですから、 うまくそれをまたぐように例を作るのがいいんじゃないでしょうか! $a = \dfrac12, 1, 2$ で考えてみます!」
僕「いいね!」
テトラ「まず、底 $a$ が $\dfrac12$ に等しい場合を考えてみます」
僕「え?」
テトラ「え?」
僕「$a = \dfrac12$ から考えるの? $a = 1$ からじゃなくて?」
テトラ「はい、小さい方から順番にと思ったんですが」
僕「ごめん、邪魔しちゃったね。どうぞどうぞ」
テトラ「はい……」
$a = \dfrac12$ の場合、 $x = -2$ ならば……
$$ \begin{align*} a^x &= \left(\dfrac12\right)^{-2} && \REMTEXT{$a = \dfrac12, x = -2$だから} \\ &= \left(\dfrac21\right)^{2} && \REMTEXT{指数$-2$の符号を変えるのは底の逆数を取ること} \\ &= 2^{2} && \REMTEXT{$\dfrac21 = 2$だから} \\ &= 4 \\ \end{align*} $$
$a = \dfrac12$ の場合、 $x = -1$ ならば……
$$ \begin{align*} a^x &= \left(\dfrac12\right)^{-1} && \REMTEXT{$a = \dfrac12, x = -1$だから} \\ &= \left(\dfrac21\right)^{1} && \REMTEXT{指数$-1$の符号を変えるのは底の逆数を取ること} \\ &= 2^{1} && \REMTEXT{$\dfrac21 = 2$だから} \\ &= 2 \\ \end{align*} $$
僕「うん、いいね」
テトラ「続けて計算します」
$a = \dfrac12$ の場合、 $x = 0$ ならば……
$$ \begin{align*} a^x &= \left(\dfrac12\right)^{0} && \REMTEXT{$a = \dfrac12, x = 0$だから} \\ &= 1 && \REMTEXT{$0$乗は$1$に等しいから} \\ \end{align*} $$
$a = \dfrac12$ の場合、 $x = 1$ ならば……
$$ \begin{align*} a^x &= \left(\dfrac12\right)^{1} && \REMTEXT{$a = \dfrac12, x = 1$だから} \\ &= \dfrac12 && \REMTEXT{$1$乗はそのままでいいから} \\ \end{align*} $$
$a = \dfrac12$ の場合、 $x = 2$ ならば……
$$ \begin{align*} a^x &= \left(\dfrac12\right)^{2} && \REMTEXT{$a = \dfrac12, x = 2$だから} \\ &= \dfrac14 && \REMTEXT{$\left(\dfrac12\right)^2 = \dfrac12 \times \dfrac12 = \dfrac14$だから} \\ \end{align*} $$
僕「うん、これって表にしてみるといいよね」
テトラ「あ、そうですね」
$$ \begin{array}{c|cccccccc} x & -2 & -1 & 0 & 1 & 2 \\ \hline \left(\dfrac12\right)^x & 4 & 2 & 1 & \dfrac12 & \dfrac14 \\ \end{array} $$
僕「うん、これでよくわかる。 $x$ が大きくなればなるほど、 $\left(\dfrac12\right)^x$ は小さくなる」
テトラ「はいはい、そうなってます」
僕「《$x$ が大きいほうが $\left(\dfrac12\right)^x$ は小さい》ということは、 確かに《$A < B$ ならば $a^A > a^B$》の例になっている。これは不等号が反転する場合だよね」
テトラ「はい、納得です。具体的に手で計算してみると大小関係がよくわかります」
僕「うん」
テトラ「あのですね、先輩。 《$0 < a < 1$ のとき $A < B$ ならば $a^A > a^B$》というルールを、 コトバとして覚えるのはとても難しいです」
僕「これはルールというよりも、性質だよね。勝手に決めたわけじゃないから。それで?」
テトラ「はい、それで、英語の例文を暗記するように《$0 < a < 1$ のとき $A < B$ ならば $a^A > a^B$》を暗記するのは、 できるかもしれませんけれど、いかにも間違えそうです」
僕「まあそうだよね」
テトラ「でも、 $a = \dfrac12$ という数を使って具体的に何乗かしてみると、 大小関係を具体的な数として考えられます」
僕「うんうん、そうそう」
テトラ「$\dfrac12$ を $1$ 乗したときは $\dfrac12$ のままなんですけれど、 $2$ 乗しちゃうと $\dfrac14$ のように分母の方が大きくなって、分数全体としては小さくなります。 もしも $3$ 乗、 $4$ 乗していったら、分母はもっと大きくなって、分数全体としてはもっと小さくなります……って、 そういうことが感覚としてわかります。 そうすると、 $A < B$ ならば $a^A > a^B$ のように不等号が反転するのも実感として納得するんです!」
僕「いいなあ、テトラちゃん。あのね、僕はよく数式をいじっているけれど、 いまテトラちゃんが話してくれたことをよく感じるよ。《感覚としてわかる》や《実感として納得する》というところ」
テトラ「えっ、先輩も?」
僕「そうだよ。具体的な数で試しに計算してみると、 『ああ、このくらいの大きさの数になるんだな』と《感覚としてわかる》んだね。 数の大きさを《実感として納得する》ようにしてると、 答えがあまりにも大きすぎる値になったときに『どこかで間違ったんじゃないか』と気付くこともあるよ」
テトラ「それってすごいですね! 答え合わせする前に間違ったことがわかるなんて!」
僕「$0$ より大きい数になるはずなのにマイナスだったり、 だいたい $10$ くらいの数なのに $1000$ になったら『こりゃ変だ』と思うよね」
テトラ「そうですね」
僕「だから、具体的な計算で大きさの感覚を身につけるのはとても大事なんだ」
テトラ「なるほどです」
僕「底が他の値のときもやってみようよ」
テトラ「はい。では次に $a = 1$ の場合の $a^x$ で……って、あれっ、これは全部 $1$ ですね!」
僕「そうそう。そうだよね」
$$ \begin{array}{c|cccccccc} x & -2 & -1 & 0 & 1 & 2 \\ \hline 1^x & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 \\ \end{array} $$
テトラ「$a = 2$ の場合の $a^x$ はこうなります」
$$ \begin{array}{c|cccccccc} x & -2 & -1 & 0 & 1 & 2 \\ \hline 2^x & \dfrac14 & \dfrac12 & 1 & 2 & 4 \\ \end{array} $$
僕「今度は、 $x$ が大きくなればなるほど、 $2^x$ は大きくなる」
テトラ「はい、底を $2$ にすると不等号が反転しない場合の例ということです。 《$A < B$ ならば $a^A < a^B$》の例です」
僕「$a = \dfrac12, 1, 2$ の表を一つにまとめるといいかも」
テトラ「あ、そうですね!」
《底の値を変えて $a^x$ を観察する》
$$ \begin{array}{c|ccccc|ccc} x & -2 & -1 & 0 & 1 & 2 & \\ \hline \left(\dfrac12\right)^x & 4 & 2 & 1 & \dfrac12 & \dfrac14 & \REMTEXT{$0 < a < 1$の例} \\ \hline 1^x & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & \REMTEXT{$a = 1$} \\ \hline 2^x & \dfrac14 & \dfrac12 & 1 & 2 & 4 & \REMTEXT{$a > 1$の例}\\ \end{array} $$
僕「うん、いいね」
テトラ「表にすると、 $0 < a < 1$ と $a > 1$ では、大小関係がちょうど反転することがよくわかりますね」
僕「うん、それにほら、 $x = -2$ のときの $\left(\dfrac12\right)^x$ と、 $x = 2$ のときの $2^x$ の値が等しい $4$ になるのにも気付くし」
テトラ「え?」
僕「え? こういうことだよ」
$$ \left(\dfrac12\right)^{-2} = \left(\dfrac21\right)^{2} = 2^2 $$
テトラ「あ、そうですね」
僕「一般に、 $\left(\dfrac1a\right)^{-x} = \left(\dfrac a1\right)^{x} = a^{x}$ だし」
テトラ「なるほど」
僕「指数法則で、 $\left(\dfrac1a\right)^{-x} = \left(a^{-1}\right)^{-x} = a^{(-1) \times (-x)} = a^{x}$ でもいいし」
テトラ「なるほどです!」
僕「テトラちゃんはさっき、具体的な数で計算すると《感覚としてわかる》といったけど、 もちろん、何個か計算するのは例にすぎないから、そこは気を付けないとね」
テトラ「はいはい、そうでしたそうでした」
僕「表として数を並べるのもいいけど、グラフのほうが全体像をとらえやすいともいえるかな」
テトラ「グラフで全体像をとらえる……それって何の全体像なんでしょうか」
僕「指数関数の全体像だよ、テトラちゃん。 $y = a^x$ という式で与えられている指数関数は、 $x$ が与えられれば、計算して $y$ を求めることができる」
テトラ「はい」
僕「具体的な数で計算するというのは、 $y = a^x$ という指数関数を使って、 $(x, y)$ という二つの数の組を求めていることになるよね」
テトラ「はい……それは、たとえば、 $(-1, a^{-1}), (0, a^{0}), (1, a^{1}), (2, a^{2})$ という組のことですよね?」
僕「そうそう。指数関数をとらえるためにテトラちゃんが選んだのは、 底が $a = \dfrac12, 1, 2$ で、 $x$ の値が $x = -2, -1, 0, 1, 2$ だったけど、 それは、指数関数のグラフ全体で見れば、ポツポツとした点になるよ」
$a = \dfrac12$ の場合
$a = 1$ の場合
$a = 2$ の場合
テトラ「はいはいはい、そうですね!」
僕「$a = \dfrac12$ だと、グラフが右下がり、つまり減少関数になるから《$A < B$ ならば $a^A > a^B$》はすぐにわかる」
テトラ「えっ? 減少関数だと……すみません、それはなぜですか」
僕「えっ? だって《$A < B$ ならば $a^A > a^B$》というのは減少関数というものを数式で表現しただけだよね? ゆっくり考えてみて」
テトラ「えっと……あっ! それはそうですね。 $x$ が $A$ から $B$ まで大きくなったら、 $y$ は、 $a^A$ から $a^B$ まで小さくなる……減少関数ですから。 確かにそうです。あたし、何ぼーっとしてたんでしょう」
僕「同じように、 $a = 2$ だと、グラフが右上がり、つまり増加関数になるから《$A < B$ ならば $a^A < a^B$》だよね」
テトラ「はいはい、今度は大丈夫です。これこそ増加関数です」
僕「だから、グラフを描くと指数関数の全体像がとらえられるんだね」
ミルカ「これが《指数関数の全体像》だって?」
僕「おっと!」
テトラ「ミルカさん!」
才媛ミルカさんの登場である。
ミルカ「指数関数は楽しい。でも、これで《指数関数の全体像》というのはさびしすぎないか」
テトラ「あ、あの……お言葉ですが、ミルカさん」
ミルカ「テトラ、何?」
テトラ「いまは底を $a > 0$ で考えていました。 $0$ と $1$ のところに境目があるので、 $0 < a < 1$ と、 $a = 1$ と、 $a > 1$ の三通りを考えていたんです」
ミルカ「ふむ。それが何か?」
テトラ「でも、境目が $0$ と $1$ にあるのですから、その三通り以外にはありえないんじゃないでしょうか……指数関数の全体像、ですよね?」
ミルカ「指数関数の底をその三通りに分けて考えるのは何も問題はない」
僕「じゃあ?」
ミルカ「指数関数 $y = a^x$ は、 $0 < a < 1$ のとき減少関数、 $a = 1$ のとき定数関数、 $a > 1$ のとき増加関数になるという検討は正しい。 しかし、それで終わりにしてしまったら、まったく《指数関数らしさ》が出てこないじゃないか」
僕「ああ、ミルカさんは、指数関数の《急激に増加する》ようすのことを言っているんだね」
ミルカ「そう」
僕「確かにそうかもね。単に増加と減少を見るだけだとつまらないかも。大事なことだけどね」
テトラ「急激に増加する……」
ミルカ「ふうん。では、《指数関数らしさ》をとらえるためのクイズを出そう」
僕「クイズ?」
テトラ「どんなクイズでしょう」
ミルカ「これだよ、テトラ」
クイズ $-5 \leqq x \leqq 5$ の範囲で、 $y = 10^x$ のグラフを描け。
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