オフシーズンのお知らせ
結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。
おかげさまでこのWeb連載も今回で第480回を迎えました! みなさまの応援に感謝します!
さて、たいへん恐れ入りますが、 次のシーズン準備と書籍執筆のため、 下記の通りしばらく更新をお休みいたします。
| 日程 | 内容 |
|---|---|
| 2026年8月28日(金) | 第480回更新 |
| 2026年9月4日〜11月13日 | オフシーズンのため更新はありません |
| 2026年11月20日(金) | 第481回更新(以降、毎週金曜日更新) |
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登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。
ミルカ「平方剰余の相互法則」
テトラ「それは、どういう法則になるんでしょう」
ミルカ「初等整数論における美しい定理だ。ステートメントはこうなる」
平方剰余の相互法則
相異なる奇素数 $p,q$ に対して、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ が成り立つ。
ただし、 $\tLegSym{q}{p}$ および $\tLegSym{p}{q}$ はルジャンドル記号である(第475回参照)。
テトラ「……」
僕「……」
僕とテトラちゃんはしばらく無言で、この式を見つめた。
出てくる文字は $p$ と $q$ だけ。
二つのルジャンドル記号の積が、こんなにシンプルな形に書けるの?
テトラ「ずいぶん複雑ですね……」
僕「え。僕はずいぶんシンプルだと思ったけど」
テトラ「ともかく、あたしは具体例を作ります! たとえば、 $p = 7$ で $q = 5$ とします。 $5$は$7$を法として$\TextNO$です(第476回参照)。 $p,q$ を反対にして、 $7$は$5$を法として(しばし計算)$\TextNO$です。 ということは、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = \LegSym{5}{7}\LegSym{7}{5} = (\LegNO)\times(\LegNO) = 1 $$ になります。 $1$ ですね。 一方、 $$ (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} = (-1)^{\frac{7-1}{2}\frac{5-1}{2}} = (-1)^{3\times 2} = 1 $$ なので、こちらも $1$ です。 確かに、 $p = 7, q = 5$ のとき $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ は成り立っていますね」
ミルカ「では、ガウスの補題を使った、 平方剰余の相互法則の証明を紹介しよう。 これは高木貞治の『初等整数論講義』に書かれていた証明で、 図形の対称性を用いた巧妙なものだ。 非常にわかりやすい。 ではまず、証明の設定をしよう」
そこでテトラちゃんがさっと手を挙げた。
質問がある、ということだ。
テトラ「いまからミルカさんは『平方剰余の相互法則』の証明をなさるんですよね?」
ミルカ「そのつもりだが」
テトラ「あの……わがままなことを言うようですが、 証明を小出しに していただくことはできますか?」
ミルカ「証明を小出しにする?」
テトラ「はい。 あのですね、 あたし、この《$p$ を法とする世界》に、少しだけ慣れてきたように思います。 フェルマーの小定理(第473回参照)、 ルジャンドル記号(第475回参照)、 オイラーの規準(第477回参照)、 ガウスの補題(第478回参照)などなど、 たくさんの《お友達》もできました。 それは、具体例をたくさん作ったからだと思うんです」
ミルカ「ふむ。それで?」
テトラ「平方剰余の相互法則 について、 証明全文をいきなり示されてしまうと、 ちょっと『もったいない』というか……一歩一歩をあたしも確かめつつ進みたいんです。 わ、わがままでしょうか」
ミルカさんは目を閉じ、一呼吸おいてから目を開く。
ミルカ「もちろん、わがままではない。 証明をただ追うのではなく、一歩一歩確かめながら進むことに異論はない。 むしろそれは、私の方の理解度が試される要求だな。 証明をただ再生するだけではいけないからだ」
僕「それは、どういう意味?」
ミルカ「そこまでの知識から自然に導ける部分と、 アイディアが必要な部分とを分ける必要があるからだ」
僕「へえ……」
テトラ「ぜひ、お願いします」
ミルカ「では最初に、グラフを描こう。方程式 $$ y = \frac{q}{p}x $$ で表されるグラフだ。もちろんこれは、原点を通る右上がりの直線になる」
僕「グラフ?」
こんなふうにして、ミルカさんの《講義》が始まった。
「平方剰余の相互法則」の証明だ。
ミルカ「座標平面に $y = \tfrac{q}{p}x$ のグラフを描く。この直線を $L$ と呼ぶことにする」
$y = \tfrac{q}{p}x$ のグラフ(直線 $L$)($p = 7, q = 5$ の場合)

テトラ「これは $p = 7$ で $q = 5$ の場合のグラフということですね。 傾きが $q/p = 5/7$ で、原点 $(0,0)$ と $(p,q)$ を通る直線です。 はい、特に疑問はありません」
ミルカ「次に、点 $A,B,C$ を次のようにとる。
長方形 $OACB$ を描く

テトラ「ちょっと待ってください。 直線 $L$ は点 $C$ を通らないですよね?」
ミルカ「通らない。 $p$ と $q$ は互いに素だから」
テトラ「はい。大丈夫です」
ミルカ「ここからの関心事は長方形 $OACB$ の内部にある 格子点になる」
テトラ「こうしてん?」
僕「格子点というのは、 座標平面上で $x$ 座標と $y$ 座標の両方が整数である点のことだよ、テトラちゃん」
テトラ「ああ、長方形 $OACB$ でいえば、こういう点ですね」
格子点

僕「長方形 $OACB$ の内部にある格子点だと、こうじゃないかな。
長方形 $OACB$ 内部にある格子点

ミルカ「テトラは、この図と《お友達》になれたかな?」
テトラ「はい、 大丈夫です。 $p = 7, q = 5$ で具体的に考えられていますし、 直線 $L$ も点 $A,B,C$ のこともよくわかります。 《お友達》かどうかはわかりませんが、ごあいさつはしました」
僕「この図が平方剰余の相互法則の証明につながっていくの?」
$p = 7, q = 5$ のとき

$p = 11, q = 7$ のとき

ミルカ「一歩一歩進もう。 平方剰余の相互法則には、 $\tLegSym{q}{p}$ と $\tLegSym{p}{q}$ の二つのルジャンドル記号が出てくる。 そこでまずは、 $\tLegSym{q}{p}$ に注目しよう。この値をガウスの補題を使って求めるとしたらどうなる?」
テトラ「はい。ガウスの補題に出てくる $n$ を $q$ として考えればいいんですね」
僕「平方剰余の相互法則で、 $p,q$ が相異なる素数としているから、 $q$ は $p$ と互いに素になるね」
ミルカ「その通り」
ガウスの補題($n$ を $q$ に変えて再掲)(第479回参照)
$p$ を奇素数とする。
$q$ を $p$ と互いに素な整数とする。
$x$ を $p$ で割った余りを $\BAR{x}$ で表す。 そして、 $\frac{p-1}{2}$ 個の正整数 $$ \BAR{1q}\CommaQuad \BAR{2q}\CommaQuad \BAR{3q}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}q} $$ のうち 《$\frac{p-1}{2}$より$\MARKC{\text{大きいもの}}$の個数》 を $\ell$ とする。 すると、 $$ \LegSym{q}{p} = (-1)^{\ell} $$ が成り立つ。
ただし、 $\tLegSym{q}{p}$ はルジャンドル記号である。
ミルカ「ガウスの補題と、この図の関係を考えるとどうなる?」
$p = 7, q = 5$ のとき(青い直線 $L$ は $y = qx/p$)


テトラ「直線 $L$ が $x = 1,2,\ldots,\frac{p-1}{2}$ という縦線をよぎるところが、 ガウスの補題と関係しそうなのはわかります。 $p = 7$ でいえば、 $x = 1,2,3$ のときです」

ミルカ「まず、この直線 $L$ は長方形の内部の格子点を通らない」
テトラ「はい」
僕「$k$ を $1\LEQ k \LEQ \frac{p-1}{2}$ の整数として、 直線 $L$ が通過する点 $(x,y) = (k,qk/p)$ が格子点になったとするなら、 $qk$ が $p$ で割り切れることになってしまう。 でも $k$ も $q$ も $p$ では割り切れないから、 そんなことは起きない。 何だかわかってきたぞ。格子点とのずれが余りに関係する?」
ミルカ「直線 $L$ は格子点を通らない。 ということは格子点の間を抜ける。 いま、直線 $L$ が長方形内部で《$x$ 座標が整数 $k$ になる点 $L_k$》と、 《その点のすぐ下にある格子点 $G_k$》との距離は、次のように表せる」
$$ \text{点$L_k$と、$L_k$のすぐ下にある格子点$G_k$との距離} = \BAR{kq}/p $$

僕「なるほど! $kq$ を $p$ で割った余りを $1/p$ にした値になるんだね」
テトラ「えっえっ?」
テトラちゃんはここで長考に入った。
テトラ「わからなくなってしまいました……」
僕「格子点の $y$ 座標は整数だから、すぐ下の格子点の $y$ 座標も整数だよね」
テトラ「そうですね」
僕「点 $L_k$ の $y$ 座標は $y = kq/p$ だから、 点 $L_k$ と、そのすぐ下にある格子点 $G_k$ との距離は、 $kq/p$ から整数部分をできるだけ取り除いた部分つまり小数部分になる。 それは $\BAR{kq}/p$ になるよね」
テトラ「わかりません……」
僕「$kq$ という整数を $p$ で割った余りのことを、 $\BAR{kq}$ と僕たちは書く」
テトラ「はい、それは大丈夫です」
僕「ということは $kq$ を $p$ で割ったときの商を $Q$ とすると、 $$ kq = pQ + \BAR{kq} $$ になるから、両辺を $p$ で割ると $$ kq/p = Q + \BAR{kq}/p $$ になる。 $Q$ は整数部分で、 $\BAR{kq}/p$ は小数部分」
テトラ「あっ、わかりました。わかってしまえば当たり前に見えます!」
ミルカ「テトラの《わかりました》は、 《当たり前に見えるところまで来ました》 の言い換えだからな」
テトラ「えっ、あっ、はい……」
僕「わかりにくいけど、ミルカさんはテトラちゃんをほめてるんだよね」
ミルカ「続きを話そう」
テトラ「あ、あの……テトラが気づいたことを言ってもいいでしょうか」
ミルカ「もちろん」
テトラ「直線 $L$ が通過するゲートがありますよね」
ミルカ「ゲート?」
テトラ「点 $L_k$ の上下の格子点を結ぶ長さ $1$ の線分です。 その長さ $1$ の線分というのは、
《$p$ を法とする世界》を $p$ 分の $1$ に圧縮している
わけですね?」
《$p$ を法とする世界》の圧縮($p = 5$ の場合)

ミルカ「そこまで来たら、ガウスの補題までもう一歩だ」
僕「そうか! 点 $L_k$ と格子点 $G_k$ の距離が $1/2$ より大きくなる $k$ の個数が $\ell$ だね」
ミルカ「ぴったり $1/2$ になるときはあるかな?」
僕「いや、それはないね。だって、 $\BAR{kq}/p = 1/2$ になったとしたら、 $p = 2\BAR{kq}$ で、 奇素数 $p$ が偶数になってしまうから。 もうすっかりわかったよ」
ミルカ「じゃあ、次の一歩は君に話してもらおうか」
急にミルカさんから話を振られて、僕はちょっとめんくらった。
そして思った。
人の説明に一言つけくわえたり、茶々を入れたりするのと、 自分が主導で説明をすることはまったく違う。
ミルカさんの真似をするわけではないけれど、 僕は大きく深呼吸をした。
そして、自分なりの説明を始めた。
僕「いま僕たちは、ガウスの補題に出てきた $\ell$ を調べたいんだよね。 つまり、 $$ \BAR{1q}\CommaQuad \BAR{2q}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{kq}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}q} $$ のうち 《$\frac{p-1}{2}$より$\MARKC{\text{大きいもの}}$の個数》 を知りたい。 そこで、 $$ \BAR{1q}\CommaQuad \BAR{2q}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{kq}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}q} $$ というのを、 $$ \BAR{1q}/{p}\CommaQuad \BAR{2q}/{p}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{kq}/{p}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}q}/{p} $$ に置き換えて考える。 そして、 直線 $L$ 上の点 $L_k$ から、すぐ下の格子点 $G_k$ を見下ろしたときの……いわば《低さ》を考える。 すると $\ell$ というのは、
《低さ》が$\frac{1}{2}$より$\MARKC{\text{大きい格子点}}$の個数
に等しいことがわかる」
テトラ「ええと……いまおっしゃった《低さ》とは、この赤い線の長さですか?」
《低さ》

僕「そうそう。 その赤い長さが $1/2$ より大きくなるような $k$ を数える」
テトラ「具体的にいうと、 $p = 7$ と $q = 5$ の場合には、 $k = 1$ だけですよね?」
僕「そうだね。 ただ、僕がいま見通せるのはここまで。 一般の $p,q$ で、どうやって、その個数を数えればいいんだろう?」
ミルカ「ここで一つアイディアがある。 《低さ》の代わりに《高さ》を考えるのだ。 直線 $L$ 上の点 $L_k$ からすぐ下の格子点 $G_k$ を見下ろす代わりに、 すぐ上の格子点 $U_k$ を見上げたときの《高さ》を考えよう。 そうするなら、 $\ell$ は、
《高さ》が$\frac{1}{2}$より$\MARKC{\text{小さい格子点}}$の個数
に等しい」
《高さ》

僕「いやいやいや、その言い換えは正しいけど、意味はないんじゃない? どうやって数えるか、 という問題が残るわけだから」
ミルカ「ところがそうでもない。 直線 $L$ を上に $\frac{1}{2}$ だけ平行移動した新しい直線 $U$ を描く。 つまり $U$ の方程式は、 $$ y = \frac{q}{p}x + \frac{1}{2} $$ になる。すると、 $\ell$ というのは、長方形 $OACB$ の内部にあって、 直線 $L$ と直線 $U$ のあいだの帯に含まれている格子点の数に等しいことがわかる。 この図でいうと $U_1$ だけだ」
直線 $U$(赤色)

直線 $L$(青色)と直線 $U$(赤色)の間の帯(オレンジ色)

僕「$1/2$ だけ上にある直線 $U$ が、いわば屋根になってくれるんだね。 いや、でもだからといって一般の $p,q$ では格子点の個数はわからないんじゃないかなあ」
テトラ「格子点の個数を求める定理ってありませんでしたっけ?」
僕「ピックの定理のこと? あれは、 格子点を頂点に持つ多角形の面積を、 格子点の個数から求める定理だから違いそうだよ」
ミルカ「私たちは $\ell$ を求めたいわけではない」
テトラ「違うんですか?」
僕「確かに、 $\ell$ は必ずしもわからなくてもいいか。 $(-1)^\ell$ を使うんだから $\ell$ の偶奇さえわかればいいはず」
ミルカ「平方剰余の相互法則に出てきた式はこうだった」
$$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$僕「……」
ミルカ「ここまで、 $\tLegSym{q}{p}$ を求めるための図形的解釈を行ってきた。 さあ、テトラの出番だ。次の一歩は?」
テトラ「……」
僕「そうか!」
ミルカ「君は黙って。テトラ?」

テトラ「次の一歩は、 $\tLegSym{q}{p}$ と同じようにして、 $\tLegSym{p}{q}$ を図形的に解釈する、でしょうか?」
僕「うんうん!」
ミルカ「テトラはその一歩を説明する」
テトラ「はい。い、いいえ。 何となくのイメージしか浮かんでないので、 具体的に説明することはできません」
ミルカ「具体的な説明が難しいなら、 抽象的な説明でもいいが」
テトラ「$p$ と $q$ の役割を交換するんです。 さっきの説明で $p$ が持ってた役割を $q$ に任せるような。 $p$ で割るんじゃなくて、 $q$ で割るみたいな……うーん……」
テトラちゃんが言いよどむのを見て、 ミルカさんは僕を指さした。
ミルカ「それでは、テトラの役割を君に任せよう」
僕「テトラちゃんが言ったように、 $p$ と $q$ の役割を交換すればいいと思う。 直線 $L$ を上に $1/2$ 平行移動する代わりに、 右に $1/2$ 平行移動した直線 $R$ を考える。それは、 $$ y = \frac{q}{p}\left(x - \frac{1}{2}\right) $$ だね。 すると同じような多角形が直線 $L$ の右側にできる。 直線 $L$ 上の点 $L_k$ のすぐ上の格子点を $U_k$ と呼んだのと同じように、 直線 $L$ 上の点 $L'_j$ のすぐ右にある格子点を $R_j$ と呼ぶことにするよ。 $L'_j$ は、整数 $j$ が $1\LEQ j\LEQ \tfrac{q-1}{2}$ のとき、 直線 $y = j$ と直線 $L$ の交点とする。 $\tLegSym{p}{q}$ にガウスの補題を当てはめると、 $$ \LegSym{p}{q} = (-1)^m $$ になる。そしてこの $m$ は、 いま作った多角形の中にある格子点 $R_j$ の数に等しい!」
直線 $R$(赤色)

直線 $L$(青色)と直線 $R$(赤色)の間の帯(オレンジ色)

ミルカ「それでいい。これで、 $\ell$ と $m$ が定まって、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^\ell(-1)^m = (-1)^{\ell+m} $$ までたどり着いた。さあ、テトラ。 $\ell+m$ というのは、 どんな格子点の個数に相当する?」
テトラ「それは、長方形 $OACB$ の内部にある格子点のうち、 直線 $U$ と直線 $R$ ではさまれた領域にあるものの個数?」
ミルカ「そういうこと」
$\ell+m$ は直線 $U$ と直線 $R$ ではさまれた領域内の格子点数

僕「おもしろい!」
ミルカ「では、ここからの次の一歩は?」
テトラ「平方剰余の相互法則に出てきた式は、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ ですよね。 ということは、
《$\ell+m$ の偶奇》と《$\tfrac{p-1}{2}\tfrac{q-1}{2}$ の偶奇》
が一致すれば証明完了ですっ!」
ミルカ「それは、最後の一歩だな」
僕「少なくとも《$\tfrac{p-1}{2}\tfrac{q-1}{2}$ の偶奇》の方は、もう少しかみ砕けるよ。 $\tfrac{p-1}{2}\tfrac{q-1}{2}$ が奇数になるのは、 $\tfrac{p-1}{2}$ と $\tfrac{q-1}{2}$ の両方が奇数になるということ」
偶数と奇数の積
$$ \begin{array}{rcl} \text{偶数} \times \text{偶数} & = & \text{偶数} \\ \text{偶数} \times \text{奇数} & = & \text{偶数} \\ \text{奇数} \times \text{偶数} & = & \text{偶数} \\ \text{奇数} \times \text{奇数} & = & \MARK{\text{奇数}} \end{array} $$
積が奇数になるのは、両方が奇数のときだけ。
テトラ「あ、あたし、なぜか手が震えてきたんですが、 $\tfrac{p-1}{2}$ と $\tfrac{q-1}{2}$ の両方が奇数になるとき、 格子点はどうなるんでしょう。どうなってほしいんでしょう?」
ミルカ「具体例を見よう」
僕「$p = 7$ で $q = 5$ だと、 $\tfrac{p-1}{2} = 3$ は奇数だけど、 $\tfrac{q - 1}{2} = 2$ は偶数だね」
テトラ「$p = 11$ と $q = 7$ なら、 $\tfrac{p-1}{2} = 5$ は奇数で、 $\tfrac{q - 1}{2} = 3$ も奇数です!」
$p = 11, q = 7$ のとき

僕「なるほど! $U_3$ が六角形の中心にくるんだ!」
テトラ「わかりました! 中心の $U_3$ 以外はペアになるんですね! $U_1$ と $R_3$ のペア、 $U_4$ と $R_1$ のペアができます。ですから、 中心が格子点のときはペアにならないので、 $\ell+m$ は奇数になります!」
ミルカ「これですべてがつながった。 ここで作られた六角形は、 $$ \left(\frac{p+1}{4},\frac{q+1}{4}\right) $$ という点を中心として点対称になり、六角形内部にある格子点同士も点対称の位置にある。 したがって、 この点を $G$ と呼ぶと、 点 $G$ が格子点のとき、そしてそのときに限り、内部の格子点の個数 $\ell+m$ は奇数になる」
僕「点 $G$ が格子点ということは、 $\tfrac{p+1}{4},\tfrac{q+1}{4}$ の両方が整数だから、 $\frac{p+1}{2}$ と $\frac{q+1}{2}$ の両方が偶数のとき。 つまり……」
テトラ「$\frac{p-1}{2}$ と $\frac{q-1}{2}$ の両方が奇数のときですっ!」
ミルカ「これで、平方剰余の相互法則が証明できた」
証明
$p,q$ を相異なる奇素数とする。 ガウスの補題より、 $$ \LegSym{q}{p} = (-1)^{\ell}\CommaQuad \LegSym{p}{q} = (-1)^{m} $$ となる。 ここで $\ell$ は、 $\BAR{1q}, \BAR{2q}, \ldots, \BAR{\tfrac{p-1}{2}q}$ のうち $\tfrac{p-1}{2}$ より大きいものの個数である ($\BAR{x}$ は $x$ を $p$ で割った余り)。 また $m$ は、 $p$ と $q$ の役割を交換して同様に定めた個数である。
座標平面上に、
を描く。 また、
として長方形 $OACB$ を作る。 $p$ と $q$ は相異なる素数だから、 直線 $L$ は長方形 $OACB$ の内部で格子点を通らない。
$1 \LEQ k \LEQ \tfrac{p-1}{2}$ を満たす整数 $k$ に対して、 直線 $x = k$ と直線 $L$ との交点と、 そのすぐ下にある格子点との距離は $\BAR{kq}/p$ である。 したがって $\ell$ は、 長方形 $OACB$ の内部で直線 $L$ と直線 $U$ にはさまれた領域内にある格子点の個数に等しい。 同様に $m$ は、 長方形 $OACB$ の内部で直線 $L$ と直線 $R$ にはさまれた領域内にある格子点の個数に等しい。
二つの領域を合わせてできる六角形は、 点 $G = \left(\tfrac{p+1}{4}, \tfrac{q+1}{4}\right)$ に関して点対称であり、 六角形の内部にある格子点も、 点 $G$ に関して対称な位置にペアで現れる。 ゆえに、 格子点の総数 $\ell + m$ が奇数になるのは、 対称の中心 $G$ 自身が格子点であるときであり、 そのときに限る。
点 $G$ が格子点であるのは、 $\tfrac{p+1}{4}$ と $\tfrac{q+1}{4}$ がともに整数のとき、 すなわち、 $\tfrac{p-1}{2}$ と $\tfrac{q-1}{2}$ がともに奇数のときである。 これは、 $\tfrac{p-1}{2}\tfrac{q-1}{2}$ が奇数になる条件に一致する。 したがって、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\ell + m} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ が成り立つ。
(証明終わり)
対称の中心 $G$ が格子点にならない例($p = 7, q = 5$)

対称の中心 $G$ が格子点になる例($p = 11, q = 7$)

ミルカ「これで、ひと仕事おしまい」
僕「おもしろかった! ミルカさん、ありがとう!」
テトラ「ミルカさん、ありがとうございます!」
僕は、ふと思った。
今日の僕たちは、一歩一歩を確かめながら歩いてきた。 グラフを描き、格子点を確かめて、余りの「$1/p$ 圧縮」に気づき、 《低さ》を《高さ》に言い換え、 $p$ と $q$ の役割を交換し、 最後には、六角形の点対称がすべてをつないでくれた。
でも、そのスタートはテトラちゃんの小さな一言だったのだ。 もしも彼女の《証明を小出しに》というお願いがなかったら、 ミルカさんは完成した証明を一気に語っていたはずだ。
僕「テトラちゃんも、ありがとう!」
テトラ「えっえっえっ?」
ミルカ「楽しかったな」
テトラ「そうですね……《$p$ を法とする世界》は、どうしてこんなに楽しいんでしょうねっ!」
参考文献
解説
平方剰余の相互法則に対して、ガウスは床関数を用いる初等的な証明を与えました(第三証明)。その後、アイゼンシュタインはこれを格子点を数える幾何学的な証明へと簡潔にまとめました。さらに高木貞治は、直線を上に $1/2$ 、右に $1/2$ だけ平行移動して得られる二直線に挟まれた領域の格子点を数えることで、より対称的で見通しのよい証明に整理しました。 本記事は高木貞治の証明を元にしています。
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(2026年8月28日)