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第480回 シーズン48 エピソード10
平方剰余の相互法則(後編)

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オフシーズンのお知らせ

結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。

おかげさまでこのWeb連載も今回で第480回を迎えました! みなさまの応援に感謝します!

さて、たいへん恐れ入りますが、 次のシーズン準備と書籍執筆のため、 下記の通りしばらく更新をお休みいたします。

日程 内容
2026年8月28日(金) 第480回更新
2026年9月4日〜11月13日 オフシーズンのため更新はありません
2026年11月20日(金) 第481回更新(以降、毎週金曜日更新)

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登場人物紹介

僕:数学が好きな高校生。

テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。

平方剰余の相互法則

ミルカ「平方剰余(へいほうじょうよ)の相互法則(そうごほうそく)」

ミルカさんはそういって、人差し指を立てた。

ここは高校近くのファミレス。

僕たちは、いつもの図書室から瑞谷先生の《下校時間宣言》に追われ、 ここに避難してきたのだ(第479回参照)。

テトラ「それは、どういう法則になるんでしょう」

ミルカ「初等整数論における美しい定理だ。ステートメントはこうなる」

平方剰余の相互法則

相異なる奇素数 $p,q$ に対して、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ が成り立つ。

ただし、 $\tLegSym{q}{p}$ および $\tLegSym{p}{q}$ はルジャンドル記号である(第475回参照)。

テトラ「……」

僕「……」

僕とテトラちゃんはしばらく無言で、この式を見つめた。

出てくる文字は $p$ と $q$ だけ。

二つのルジャンドル記号の積が、こんなにシンプルな形に書けるの?

テトラ「ずいぶん複雑ですね……」

僕「え。僕はずいぶんシンプルだと思ったけど」

テトラ「ともかく、あたしは具体例を作ります! たとえば、 $p = 7$ で $q = 5$ とします。 $5$は$7$を法として$\TextNO$です(第476回参照)。 $p,q$ を反対にして、 $7$は$5$を法として(しばし計算)$\TextNO$です。 ということは、 $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = \LegSym{5}{7}\LegSym{7}{5} = (\LegNO)\times(\LegNO) = 1 $$ になります。 $1$ ですね。 一方、 $$ (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} = (-1)^{\frac{7-1}{2}\frac{5-1}{2}} = (-1)^{3\times 2} = 1 $$ なので、こちらも $1$ です。 確かに、 $p = 7, q = 5$ のとき $$ \LegSym{q}{p}\LegSym{p}{q} = (-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} $$ は成り立っていますね」

ミルカ「では、ガウスの補題を使った、 平方剰余の相互法則の証明を紹介しよう。 これは高木貞治の『初等整数論講義』に書かれていた証明で、 図形の対称性を用いた巧妙なものだ。 非常にわかりやすい。 ではまず、証明の設定をしよう」

そこでテトラちゃんがさっと手を挙げた。

質問がある、ということだ。

テトラ「いまからミルカさんは『平方剰余の相互法則』の証明をなさるんですよね?」

ミルカ「そのつもりだが」

テトラ「あの……わがままなことを言うようですが、 証明を小出しに していただくことはできますか?」

ミルカ「証明を小出しにする?」

テトラ「はい。 あのですね、 あたし、この《$p$ を法とする世界》に、少しだけ慣れてきたように思います。 フェルマーの小定理(第473回参照)、 ルジャンドル記号(第475回参照)、 オイラーの規準(第477回参照)、 ガウスの補題(第478回参照)などなど、 たくさんの《お友達》もできました。 それは、具体例をたくさん作ったからだと思うんです」

ミルカ「ふむ。それで?」

テトラ「平方剰余の相互法則 について、 証明全文をいきなり示されてしまうと、 ちょっと『もったいない』というか……一歩一歩をあたしも確かめつつ進みたいんです。 わ、わがままでしょうか」

ミルカさんは目を閉じ、一呼吸おいてから目を開く。

ミルカ「もちろん、わがままではない。 証明をただ追うのではなく、一歩一歩確かめながら進むことに異論はない。 むしろそれは、私の方の理解度が試される要求だな。 証明をただ再生するだけではいけないからだ」

僕「それは、どういう意味?」

ミルカ「そこまでの知識から自然に導ける部分と、 アイディアが必要な部分とを分ける必要があるからだ」

僕「へえ……」

テトラ「ぜひ、お願いします」

ミルカ「では最初に、グラフを描こう。方程式 $$ y = \frac{q}{p}x $$ で表されるグラフだ。もちろんこれは、原点を通る右上がりの直線になる」

僕「グラフ?」

こんなふうにして、ミルカさんの《講義》が始まった。

「平方剰余の相互法則」の証明だ。

グラフ

ミルカ「座標平面に $y = \tfrac{q}{p}x$ のグラフを描く。この直線を $L$ と呼ぶことにする」

$y = \tfrac{q}{p}x$ のグラフ(直線 $L$)($p = 7, q = 5$ の場合)

テトラ「これは $p = 7$ で $q = 5$ の場合のグラフということですね。 傾きが $q/p = 5/7$ で、原点 $(0,0)$ と $(p,q)$ を通る直線です。 はい、特に疑問はありません」

長方形

ミルカ「次に、点 $A,B,C$ を次のようにとる。

  • $x$ 軸上で $x$ 座標が $(p+1)/2$ の点を $A$ とする。
  • $y$ 軸上で $y$ 座標が $(q+1)/2$ の点を $B$ とする。
  • $(x,y) = ((p+1)/2,(q+1)/2)$ の点を $C$ とする。
そして、長方形 $OACB$ を描く」

長方形 $OACB$ を描く

テトラ「ちょっと待ってください。 直線 $L$ は点 $C$ を通らないですよね?」

ミルカ「通らない。 $p$ と $q$ は互いに素だから」

テトラ「はい。大丈夫です」

ミルカ「ここからの関心事は長方形 $OACB$ の内部にある 格子点(こうしてん)になる」

テトラ「こうしてん?」

僕「格子点というのは、 座標平面上で $x$ 座標と $y$ 座標の両方が整数である点のことだよ、テトラちゃん」

テトラ「ああ、長方形 $OACB$ でいえば、こういう点ですね」

格子点

僕「長方形 $OACB$ の内部にある格子点だと、こうじゃないかな。

長方形 $OACB$ 内部にある格子点

ミルカ「テトラは、この図と《お友達》になれたかな?」

テトラ「はい、 大丈夫です。 $p = 7, q = 5$ で具体的に考えられていますし、 直線 $L$ も点 $A,B,C$ のこともよくわかります。 《お友達》かどうかはわかりませんが、ごあいさつはしました」

僕「この図が平方剰余の相互法則の証明につながっていくの?」

$p = 7, q = 5$ のとき

$p = 11, q = 7$ のとき

余りの圧縮

ミルカ「一歩一歩進もう。 平方剰余の相互法則には、 $\tLegSym{q}{p}$ と $\tLegSym{p}{q}$ の二つのルジャンドル記号が出てくる。 そこでまずは、 $\tLegSym{q}{p}$ に注目しよう。この値をガウスの補題を使って求めるとしたらどうなる?」

テトラ「はい。ガウスの補題に出てくる $n$ を $q$ として考えればいいんですね」

僕「平方剰余の相互法則で、 $p,q$ が相異なる素数としているから、 $q$ は $p$ と互いに素になるね」

ミルカ「その通り」

ガウスの補題($n$ を $q$ に変えて再掲)(第479回参照)

$p$ を奇素数とする。

$q$ を $p$ と互いに素な整数とする。

$x$ を $p$ で割った余りを $\BAR{x}$ で表す。 そして、 $\frac{p-1}{2}$ 個の正整数 $$ \BAR{1q}\CommaQuad \BAR{2q}\CommaQuad \BAR{3q}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}q} $$ のうち 《$\frac{p-1}{2}$より$\MARKC{\text{大きいもの}}$の個数》 を $\ell$ とする。 すると、 $$ \LegSym{q}{p} = (-1)^{\ell} $$ が成り立つ。

ただし、 $\tLegSym{q}{p}$ はルジャンドル記号である。

ミルカ「ガウスの補題と、この図の関係を考えるとどうなる?」

$p = 7, q = 5$ のとき(青い直線 $L$ は $y = qx/p$)

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(2026年8月28日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガとWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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