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第478回 シーズン48 エピソード8
オイラーの規準(後編) ただいま無料

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。

図書館にて

ここは高校の図書室。いまは放課後。

テトラちゃんは、 ミルカさんのヒントを受けてオイラーの規準の証明に挑戦していた。

オイラーの規準

$p$ を奇素数とする。

$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。このとき、 $$ \LegSym{n}{p} \equiv n^{\frac{p-1}{2}} \pmod p $$ が成り立つ。

ただし、 $\tLegSym{n}{p}$ はルジャンドル記号とする(第477回参照)。

オイラーの規準の証明、その前半はすでに証明できた。 $n$が$\TextYES$ならば $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegYES\pmod p $$ が証明できたのだ(第477回参照)。

後半は、$n$が$\TextNO$ならば $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegNO\pmod p $$ であることの証明だ。 僕たちは、証明完了の直前まではたどりついた(第477回参照)。

でも……

オイラーの規準の証明(後半)($\TextNO$ならば$\LegNO$と合同)

$p$ を奇素数とする。

$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。

$m = 1,2,3,\ldots,p-1$ に対して、 $$ n \equiv mm^* \pmod p $$ となる $m^* = 1,2,3,\ldots,p - 1$ が $m$ ごとに唯一存在し、 さらに、 $(m^*)^* = m$ となる。

$n$が$p$を法として$\TextNO$のとき、 どの $m$ に対しても、 $m \NEQ m^*$ となる。

したがって、 $1,2,3,\ldots,p-1$ は、 $m$ と $m^*$ からなる $\frac{p-1}{2}$ 組のペアに分けられることになる。 各ペアの積は $n$ に合同であり、 そのペアが $\frac{p-1}{2}$ 組あるのだから、

$$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv (p-1)! \pmod p $$ となる。

ここで……あれ?

「あれ? ちょっと待って。 $\LegNO$ にならないぞ? 僕たちは、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv (p-1)! \pmod p $$ にたどり着いた。 でも、僕たちのゴールは、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegNO \pmod p $$ だよね?」

テトラ「そうですよね」

ミルカ「あと一歩だ。ここでウィルソンの定理を使えば済む。 つまり」

テトラ「ちょ、ちょっと待ってください!」

テトラちゃんミルカさんを止める。

ミルカ「うん?」

テトラ「証明のゴールまであと一歩。 ということは、いまミルカさんがおっしゃろうとしているのは、 こういうことでしょうか。 $$ (p-1)! \equiv \LegNO \pmod p $$ が成り立つ?」

ミルカ「テトラ、その通りだ。 その命題はウィルソンの定理と呼ばれている。 MacTutorによれば、 証明をしたのはラグランジュ とのことだ。 これでオイラーの規準の証明が終わった」

オイラーの規準の証明(後半)($\TextNO$ならば$\LegNO$と合同)

$p$ を奇素数とする。

$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。

$m = 1,2,3,\ldots,p-1$ に対して、 $$ n \equiv mm^* \pmod p $$ となる $m^* = 1,2,3,\ldots,p - 1$ が $m$ ごとに唯一存在し、 さらに、 $(m^*)^* = m$ となる。

$n$が$p$を法として$\TextNO$のとき、 どの $m$ に対しても、 $m \NEQ m^*$ となる。

したがって、 $1,2,3,\ldots,p-1$ は、 $m$ と $m^*$ からなる $\frac{p-1}{2}$ 組のペアに分けられることになる。 各ペアの積は $n$ に合同であり、 そのペアが $\frac{p-1}{2}$ 組あるのだから、

$$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv (p-1)! \pmod p $$ となる。

ここでウィルソンの定理より、 $(p-1)!\equiv-1\pmod p$ なので、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegNO \pmod p $$ が成り立つ。

(証明終わり)

「うーん……最後の一歩で、 定理がどこからか降ってきて解決というのは、 ちょっと……何て言ったらいいか……」

テトラ「ストレスフル?」

ミルカ「欲求不満?」

「まあ、そんなところ」

ミルカ「だったら、ウィルソンの定理を証明すればいい」

テトラ「証明?」

ウィルソンの定理を証明する

ミルカ「あらためてウィルソンの定理を述べるとこうなる」

ウィルソンの定理

$p$ が素数のとき、 $$ (p-1)! \equiv -1 \pmod p $$ が成り立つ。

「主張自体はシンプルで綺麗だね。証明か……」

テトラ「あ、あの……もしかして、 あたしにもこのウィルソンの定理は証明できますか?」

ミルカ「いまのテトラなら、証明できてもおかしくはない」

テトラ「わかりました。 では、いつも通りに《具体例で確かめる》ところから始めます!  まず、 $p = 2$ のときですね。 $p = 2$ なら $$ (p - 1)! = (2 - 1)! = 1! = 1 $$ です。 $2$ を法として、 $1$ と $-1$ は……ええと……はい、合同です。 なので、確かに $p = 2$ のとき、 $$ (p-1)! \equiv -1 \pmod p $$ は成り立ちます」

ミルカ「テトラは、 $1\equiv -1 \pmod 2$ はなぜ成り立つかを一言でいう」

テトラ「はい。 $a \equiv b \pmod m$ というのは、 $a - b \equiv 0 \pmod m$ ということで、 つまり $a - b$ が $m$ の倍数ということです。 ここで $1 - (-1) = 2$ で、もちろん $2$ は $2$ の倍数です。 ですから、 $$ 1 \equiv -1 \pmod 2 $$ です。はい、あたし、だいぶ合同の計算に慣れてきたみたいです!」

テトラちゃんは、 みるみるうちに $p = 3,5,7$ についてウィルソンの定理を確かめていった。

$p = 3$ のとき、ウィルソンの定理を確かめる

まず、 $p = 3$ のとき、 $$ (p - 1)! = (3 - 1)! = 2! = 2 $$ です。 $2 - (-1) = 3$ で、もちろん $3$ は $3$ の倍数ですから、 $2 \equiv -1 \pmod 3$ となり、 $$ (3 - 1)! \equiv -1 \pmod 3 $$ です。 つまり、 $p = 3$ のとき $$ (p - 1)! \equiv -1 \pmod p $$ は成り立ちます。

$p = 5$ のとき、ウィルソンの定理を確かめる

$p = 5$ のとき、 $$ (p - 1)! = (5 - 1)! = 4! = 1\times2\times3\times4 = 24 $$ です。 $24 - (-1) = 25$ で、 $5$ の倍数ですから、 $24 \equiv -1 \pmod 5$ となります。 つまり、 $p = 5$ のとき $$ (p - 1)! \equiv -1 \pmod p $$ は成り立ちます。

$p = 7$ のとき、ウィルソンの定理を確かめる

$p = 7$ のとき、 $$ (p - 1)! = (7 - 1)! = 6! = 1\times2\times3\times4\times5\times6 = 720 $$ です。 $720 - (-1) = 721 = 7\times103$ で、 $7$ の倍数ですから、 $720 \equiv -1 \pmod 7$ となります。 つまり、 $p = 7$ のとき $$ (p - 1)! \equiv -1 \pmod p $$ は成り立ちます。

「いま、テトラちゃんの計算を見ていて気づいたんだけど、 $$ p - 1\equiv -1\pmod p $$ はいつも成り立つよね。 だって、 $$ (p-1) - (-1) = p $$ だから、 $(p-1) - (-1)$ は $p$ の倍数だ」

テトラ「そうですね。《$p$ を法とする世界》で、 $p$ は $0$ に合同ですし、 $p-1$ は $-1$ に合同です」

「ということは、ウィルソンの定理を証明する代わりに、 $$ (p-1)! \equiv p-1 \pmod p $$ を証明してもいいわけだね」

テトラ「それはそうですが……あまり違いがないような」

「そんなことないよ。だって $p-1$ は $p$ と互いに素だから、 $p-1$ で割って、 $$ (p-2)! \equiv 1 \pmod p $$ を証明すればいいことになる。もっといえば、 $$ 2\times3\times\cdots\times(p-3)\times(p-2) \equiv 1 \pmod p $$ を証明すればいい」

テトラ「それで話は簡単になっているんでしょうか」

「なっているよ。うん、これで証明までいけそうだ」

テトラ「ええ……?」

問題(ウィルソンの定理の証明)

$p$ が素数のとき、 $$ (p-1)! \equiv -1 \pmod p $$ が成り立つことを証明せよ。

ミルカヒントがだいぶ多いな」

「うん、僕はわかったと思う。証明を書き下ろせる準備までできた」

テトラ「あたしは……わかりません。 $p-1$ が $-1$ に合同であるということも、 $(p-2)!$ が $1$ に合同であることを示せばいいこともわかります。 でも、そういうヒントをいただいても、 ウィルソンの定理を証明するとなると……さっぱりです」

「オイラーの規準を証明するとき、 ミルカさんからもらったヒントがあった。 それも重要だね」

テトラ「ミルカさんからいただいたヒントというのは、 $$ n \equiv mm^* \pmod p $$ を満たす $m$ と $m^*$ というペアの存在を意識することでした(第477回参照)」

ミルカ対合ついごう

テトラ「ついごう?」

ミルカ対合たいごうというときもある。 $f\circ f$ が恒等写像になる全単射 $f$ を一般に対合という」

「あ、名前があるんだ」

テトラ「す、すみません。具体的には?」

ミルカ「$P = \SET{1,2,\ldots,p-1}$ とおく。 $n$ を $P$ の要素として、 $$ n\equiv mm^*\pmod p $$ となるペア $m$ と $m^*$ を考える」

テトラ「はい、それはわかります」

ミルカ「そのときの ${}^*$ を《$m$ から $m^*$ を得る写像》と考えると、 写像 ${}^*$ は対合になる。なぜなら写像 ${}^*$ は $P$ から $P$ への全単射で、 しかも ${}^*{}^*$ は恒等写像になるからだ」

「二回繰り返すと元に戻るということだね。 $(m^*)^* = m$ だから」

そこでテトラちゃんは両手を頭に乗せて困った顔になる。

コダックの真似をしているわけではない。

テトラ「あたしは、まだ話が飲み込めていないようです。 対合のお話も理解しているんですが、ウィルソンの定理にどうつながるか、 まださっぱりわかりません」

「僕が考えたこと、話してもいい?」

テトラ「はい……」

「僕は $mm^* \equiv n \pmod p$ の特別な場合として、 $mm^* \equiv 1 \pmod p$ を考えた。 このときは、 $m^*$ のことを $m^{-1}$ と書いた方がピンとくるね」

テトラ「あ、はい。 それについては表も作りましたよね。 《$p$ を法とする世界の逆数》です。 この表で縦の列に並んだ二つの数を掛け合わせれば $1$ に合同になります(第477回参照)」

$m$ と $m^{-1}$ の表

$$ \begin{array}{|c|cccccc|} \hline m & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline m^{-1} & 1 & 4 & 5 & 2 & 3 & 6 \\ \hline \end{array} $$ $$ mm^{-1} \equiv 1 \pmod p $$

「そこでね、 $$ 1,2,3,4,5,6 $$ と数を並べて、自分の逆数となるパートナーと手を結ぶ。 すると、こうなるよね」

$m = 1,2,3,4,5,6$ で $m$ と $m^{-1}$ とを結ぶ

テトラ「はい、わかります。 $1$ は自分自身と、 $2$ は $4$ と、 $3$ は $5$ と、 $6$ は自分自身と手を結びます。 手を結んだパートナーと掛け合わせれば $1$ と合同になります……えっ? あっ、あっ、あっ!」

「もうわかったよね」

ミルカ「テトラのアハ体験だな」

テトラ「わかりました!  $1,2,3,4,5,6$ を掛け合わせるときに、 ペアをまとめるんですね。 $$ 1\times2\times3\times4\times5\times6 = 1 \times \underbrace{2\times4}_{\text{ペア}} \times \underbrace{3\times5}_{\text{ペア}} \times 6 $$ となって、ペアの積は $1$ と合同ですから、 $$ 1\times2\times3\times4\times5\times6 \equiv 6 \pmod 7 $$ になります。 $6 \equiv -1 \pmod 7$ ですから、結局 $$ 1\times2\times3\times4\times5\times6 \equiv -1 \pmod 7 $$ です。これは $p = 7$ のとき $$ (p-1)! \equiv -1 \pmod 7 $$ になってますね!」

ミルカ「それでいい」

「これでウィルソンの定理が証明できる! すっきりだ!」

解答(ウィルソンの定理の証明)

$p$ を素数とする。

$p = 2$ の場合は、 $(2-1)!\equiv -1\pmod 2$ より確かに成り立つ。

$p = 3$ の場合は、 $(3-1)!\equiv -1\pmod 3$ より確かに成り立つ。

以下では $p > 3$ とする。

$p$ が素数であることから、 $m = 1,2,3,\ldots,p-1$ に対して、 $$ mm^{-1}\equiv 1 \pmod p $$ となる $m^{-1} = 1,2,3,\ldots,p - 1$ が $m$ ごとに唯一存在し、 $(m^{-1})^{-1} = m$ となる。

また、 $m = m^{-1}$ になるのは $m^2\equiv1\pmod p$ のときで、 $m^2 - 1 = (m-1)(m+1)$ が $p$ の倍数になるのは、 $p$ が素数であることにより、 $m = 1$ および $m = p-1$ の場合だけである。

したがって、 $2,3,\ldots,p-2$ は、 積が $1$ に合同になる $\frac{p-1}{2}-1$ 組のペアに分けられる。 よって、 $$ 1\times\underbrace{2\times3\times\cdots\times(p-2)}_{\text{$1$に合同}}\times(p-1) \equiv p-1 \pmod p $$ となる。 $p-1\equiv -1\pmod p$ より、 $$ (p-1)!\equiv -1\pmod p $$ が成り立つ。

(証明終わり)

テトラ「証明、できましたね……」

「できたね!」

テトラ「《$p$ を法とする世界》には不思議なおもしろさがありますね。 $p-1$ が $-1$ に見立てられるところもおもしろいですし……」

そこで、 ミルカさんが急に席を立ち、声を上げた。

ミルカ「ではここで、さらにおもしろい命題を考えよう」

テトラ「何ですか?」

ミルカ「数論におけるガウスの補題と呼ばれているものだ」

「ガウスの補題……」

ガウスの補題

ガウスの補題

$p$ を奇素数とする。

$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。

$x$ を $p$ で割った余りを $\BAR{x}$ で表す。 そして、 $\frac{p-1}{2}$ 個の正整数 $$ \BAR{1n}\CommaQuad \BAR{2n}\CommaQuad \BAR{3n}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}n} $$ のうち 《$\frac{p-1}{2}$より$\MARKC{\text{大きいもの}}$の個数》 を $\ell$ とする。 すると、 $$ \LegSym{n}{p} = (-1)^{\ell} $$ が成り立つ。

ただし、 $\tLegSym{n}{p}$ はルジャンドル記号である。

テトラ「ええと……?」

「これは……?」

テトラちゃんは、 このガウスの補題の意味を取るのに、 しばらく時間が掛かった。

述べている一つ一つのことは、それほど難しくない。

  • $p$ は奇素数。つまり、 $p$ は $2$ 以外の素数だ。
  • $n$ は $p$ と互いに素。つまり、 $n$ は $p$ の倍数ではない整数だ。
  • $x$ を $p$ で割った余りを $\BAR{x}$ で表す。つまり $\BAR{x}$ は $0,1,2,\ldots,p - 1$ であり、 $x - \BAR{x}$ は $p$ の倍数だ。
  • そして $\ell$ は……

テトラ「$\ell$ が難しいですね。セオリー通り、小さな数で試します! たとえば $p = 7$ と $n = 2$ として考えます」

テトラちゃんは、基本にどこまでも忠実なのだ。

「さすがだ……」

$p = 7, n = 2$ でガウスの補題を考える

テトラ「$p = 7$ で $n = 2$ のときを考えます。 もう何度も考えてきましたが、$7$を法として$2$は$\TextYES$です。 なぜなら、 $4^2 \equiv 2 \pmod 7$ のように平方して $2$ と合同になる整数 $4$ が存在するからです。 ということは、ルジャンドル記号を使って、 $$ \LegSym{n}{p} = \LegSym{2}{7} = \LegYES $$ となります」

「うん。それはいい。問題は $\ell$ だね」

テトラ「ですよね。ガウスの補題にしたがって考えますと、 $$ \BAR{1n}\CommaQuad \BAR{2n}\CommaQuad \BAR{3n}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}n} $$ を考えるというのですから、 $p = 7$ で $n = 2$ の場合ですと、この $3$ 個です。 $$ \BAR{1\times2}\CommaQuad \BAR{2\times2}\CommaQuad \BAR{3\times2} $$ 具体的に計算して $p = 7$ で割った余りに直しますと、 $\frac{p-1}{2} = 3$ よりも大きいものは $\MARKC4$ と $\MARKC6$ の $2$ 個です。 $$ \BAR{1\times2} = 2 \LEQ 3\CommaQuad \BAR{2\times2} = \MARKC4 > 3\CommaQuad \BAR{3\times2} = \MARKC6 > 3 $$ つまり、 $\ell = 2$ ということになります。 ガウスの補題では $(-1)^{\ell}$ を計算しますので、 $$ (-1)^{\ell} = (-1)^2 = \LegYES $$ となりますっ! た、確かに $$ \LegSym{n}{p} = (-1)^{\ell} $$ が成り立っていますね……これは、いったい何なんでしょうっ!」

ミルカ「ガウスの補題だ。$\TextNO$の場合も確かめよう」

$p = 7, n = 3$ でガウスの補題を考える

「僕がやってみるよ。まだ僕は $\ell$ をどうとらえていいかわからない。 $\TextNO$の場合だから、$p = 7$で$n = 3$で考える。 $7$を法として$3$は$\TextNO$だから、 $$ \LegSym{n}{p} = \LegSym{3}{7} = \LegNO $$ になる。これはもうわかっている。 $\LegNO$ になるには $\ell$ が奇数にならなくちゃいけない。 $p = 7$ で $n = 3$ だから、 $$ \BAR{1n}\CommaQuad \BAR{2n}\CommaQuad \BAR{3n}\CommaQuad \ldots\CommaQuad \BAR{\tfrac{p-1}{2}n} $$ を考えると、 $$ \BAR{1\times3}\CommaQuad \BAR{2\times3}\CommaQuad \BAR{3\times3} $$ になる。 $\frac{p-1}{2} = 3$ よりも大きいものは…… $$ \BAR{1\times3} = 3 \LEQ 3\CommaQuad \BAR{2\times3} = \MARKC6 > 3\CommaQuad \BAR{3\times3} = 2 \LEQ 3 $$ ……だから、 $\MARKC6$ の $1$ 個だけで、 $\ell = 1$ だ。 $$ (-1)^{\ell} = (-1)^1 = \LegNO $$ すごいなあ、確かに、 $$ \LegSym{n}{p} = (-1)^{\ell} $$ となる。どうしてこんなことがいえるんだろう」

テトラ「先輩、先輩、先輩! もっと確かめましょうよ!」

ミルカ「表にしたくなるな」

「確かに!」

$p=7$ でガウスの補題を俯瞰する

僕たちは夢中になって $p = 7$ でガウスの補題を確かめた。 $n = 1,2,3,4,5,6$ で考えるのだ。

$p = 7$ でガウスの補題を考える

$$ \begin{array}{|c|ccc|c|c|c|} \hline n & \BAR{1n} & \BAR{2n} & \BAR{3n} & \ell & (-1)^\ell & \tLegSym{n}{p} \\ \hline 1 & 1 & 2 & 3 & 0 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 2 & 2 & \MARKC4 & \MARKC6 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 3 & 3 & \MARKC6 & 2 & 1 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 4 & \MARKC4 & 1 & \MARKC5 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 5 & \MARKC5 & 3 & 1 & 1 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 6 & \MARKC6 & \MARKC5 & \MARKC4 & 3 & \LegNO & \LegNO \\ \hline \end{array} $$

$\MARKC{\text{緑色の数}}$は$\frac{p-1}{2} = 3$より大きい数を表す。

$\MARKC{\text{緑色の数}}$の個数が$\ell$である。

テトラ「すごいですね……本当にぴったりと $$ \LegSym{n}{p} = (-1)^{\ell} $$ が成り立っています!」

「いやあ、不思議だよ。特に僕がわからないのは $\ell$ の意味だなあ。 $k = 1,2,3$ について $\BAR{kn}$ を計算して、それが $4,5,6$ になる個数を $\ell$ とする。 いったい、 $$ \BAR{kn} > \frac{p-1}{2} $$ を満たす $k$ の個数 $\ell$ に、 どんな意味があるっていうんだろう?」

ミルカ「《週の前半》と《週の後半》を考える(第476回参照)」

「え?」

テトラ「はい?」

テトラちゃんは、さっと彼女を見る。

ミルカさんは、自分の手を見つめている。

「……?」

テトラ「……?」

ミルカさんは、両手の指を合わせて胸の前に小さな《鳥かご》を作っていた。

親指は親指に、 人差し指は人差し指に、 ……そして、小指は小指に合わせ、 ふくらませた形だ。

は、これを知ってる。 全単射の鳥かごだ(『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』参照)。

$p=11$ でガウスの補題を俯瞰する

ミルカ「$p = 11$ の表も作ろう。 そうすれば《右手の指》と《左手の指》が考えられる」

テトラ「?」

「?」

テトラちゃんは、 大きな疑問符を心に抱きながら、 $p = 11$ についてガウスの補題の表を作っていった。

$p = 11$ でガウスの補題を考える

$$ \begin{array}{|c|ccccc|c|c|c|} \hline n & \BAR{1n} & \BAR{2n} & \BAR{3n} & \BAR{4n} & \BAR{5n} & \ell & (-1)^\ell & \tLegSym{n}{p} \\ \hline 1 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 0 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 2 & 2 & 4 & \MARKC6 & \MARKC8 & \MARKC{10} & 3 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 3 & 3 & \MARKC6 & \MARKC9 & 1 & 4 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 4 & 4 & \MARKC8 & 1 & 5 & \MARKC9 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 5 & 5 & \MARKC{10} & 4 & \MARKC9 & 3 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 6 & \MARKC6 & 1 & \MARKC7 & 2 & \MARKC8 & 3 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 7 & \MARKC7 & 3 & \MARKC{10} & \MARKC6 & 2 & 3 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 8 & \MARKC8 & 5 & 2 & \MARKC{10} & \MARKC7 & 3 & \LegNO & \LegNO \\ \hline 9 & \MARKC9 & \MARKC7 & 5 & 3 & 1 & 2 & \LegYES & \LegYES \\ \hline 10 & \MARKC{10} & \MARKC9 & \MARKC8 & \MARKC7 & \MARKC6 & 5 & \LegNO & \LegNO \\ \hline \end{array} $$

$\MARKC{\text{緑色の数}}$は$\frac{p-1}{2} = 5$より大きい数を表す。

$\MARKC{\text{緑色の数}}$の個数が$\ell$である。

テトラ「先輩! あたし、この表で気づいたことがあります!」

「うん、僕もだ!」




参考文献

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(第478回終わり)

(2026年8月14日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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