登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。
テトラ「判別式ができましたね! しかも、 《実数の世界》と《$p$ を法とする世界》は、 判別式の形がそっくりです!」
《実数の世界》
$a,b,c$ は実数で、 $a$ は $0$ ではないとする。 このとき、 $$ ax^2 + bx + c = 0 $$ を満たす実数 $x$ が存在する条件は、 $$ b^2 - 4ac \GEQ 0 $$ である。
《$p$ を法とする世界》
$p$ を奇素数とする。
$a,b,c$ は整数で、 $a$ は $p$ と互いに素とする。 このとき、 $$ ax^2 + bx + c \equiv 0 \pmod p $$ を満たす整数 $x$ が存在する条件は、ルジャンドル記号を用いて $$ \LegSym{b^2 - 4ac}{p} \GEQ 0 $$ である。
ミルカ「ふむ」
僕「……」
ここは高校の図書室。いまは放課後。
テトラちゃんと僕は判別式の探求をしていた(第475回参照)。
そこに現れたミルカさんは、 平方剰余 と ルジャンドル記号を紹介し、 僕たちの解答を整理してくれたのだ(第476回参照)。
テトラちゃんは両手をぶんぶん動かしながら語り続けていた。 興奮している。
テトラ「すごいですっ! すごいですっ! 《実数の世界》では $$ b^2-4ac\GEQ0 $$ で実数解の存在がわかって、 《$p$ を法とする世界》ではルジャンドル記号を使えば $$ \LegSym{b^2-4ac}{p}\GEQ0 $$ で整数解の存在がわかるなんて! こんなに素敵な関係があるんですね!」
僕「うーん……」
テトラ「あれ? 先輩は、どうしてうなってらっしゃるんですか?」
僕「その二つの式はずいぶん違うような気がするんだ」
テトラ「そんなことありませんよ。どちらも $b^2-4ac$ という同じ形の式で表されています。 もちろん《$p$ を法とする世界》では $p$ が出てきますけど、 それは表記だけの問題ですよね?」
僕「そうなんだろうか……うーん」
ミルカ「うなってないで、テトラに伝わるように言語化する」
ミルカさんは僕を指さしてそう言った。
言われなくても、言語化しようとしてるんだけどな。
ええと……。
僕「つまりね、 $b^2 - 4ac$ はいいんだよ。与えられた係数 $a,b,c$ から計算できるから。 $b$ を $2$ 乗して、 $4ac$ を引く。何も難しくない。 問題はこのルジャンドル記号の方」
$$ \LegSym{b^2-4ac}{p} $$テトラ「え? でもミルカさんが定義をちゃんと書いてくださいましたよ。 与えられた整数が《$p$ を法とする平方剰余》かどうかを判定する記号ですよね? いわば《$p$ を法とする世界》における平方数判定装置です」
ルジャンドル記号
$p$ を素数、 $n$ を整数とする。
このとき、ルジャンドル記号を次のように定める。 $$ \LegSym{n}{p} = \begin{cases} \LegYES & \text{$n$が$p$を法とする$\TextYES$のとき} \\ \LegNO & \text{$n$が$p$を法とする$\TextNO$のとき} \\ 0 & \text{$n$が$p$の倍数のとき} \end{cases} $$
僕「うん。定義ははっきりしている。 でも、ねえ、テトラちゃん。 $p$ と $a,b,c$ が与えられたとき、 テトラちゃんはどうやって $$ \LegSym{b^2-4ac}{p} $$ の値を求めるの?」
テトラ「どうやってと言われましても……根気よく調べれば、 すぐ求められますよね。 $b^2 - 4ac$ を計算すると整数が得られます。 あとは、 $$ m = 1,2,3,\ldots,p-1 $$ を順番に使って $m^2$ を計算して、 $$ b^2 - 4ac \equiv m^2 \pmod p $$ になるかどうかを調べるだけです。 具体的には《$b^2 - 4ac$ を $p$ で割った余り》と《$m^2$ を $p$ で割った余り》が等しくなるような $m$ を探すだけです。
僕「うん、それはそう。 確かに実際に計算できる。 でも、それは$p$が大きいときには現実的じゃないよね? $\TextYES$なら途中で$m$が見つかるからまだいいけど、 でも、$\TextNO$だったら$m = 1,2,3,\ldots,p-1$をすべて試さなくちゃわからない」
テトラ「あ……でも、根気よくやれば!」
僕「それに、そこまで根気よく試すのなら、 最初から $x = 0,1,2,3,\ldots,p-1$ を使って $$ ax^2 + bx + c \equiv 0 \pmod p $$ が成り立つかどうか試すのと、 変わりないような気もする。 変わりないというのは言い過ぎだけど、 根気よく試してようやく求まるのを判別式と呼ぶのは引っかかるんだ」
テトラ「なるほどです……」
僕「テトラちゃんはさっき、 $$ x^2 + x + 1\equiv 0 \pmod 7 $$ に整数解があるかどうかを調べるときに、 $x = 0,1,2,3,4,5,6$ を根気よく代入していたよね。 あのときも、 それが気になっていたんだ。 《$p$ を法とする世界》だから、根気よく代入して試せるけど、 これでいいのかなって(第476回参照)」
テトラ「確かに《$7$ を法とする世界》なら、 $7$ 回代入すればすべて試せますが、 $p$ が大きいときはすごいことになっちゃいますね……」
僕「ねえミルカさん、言いたいことがあったら言っていいよ」
ミルカさんはさっきから、 満面の微笑みを浮かべて僕たちを見ていた。
彼女は、すました顔を懸命に保とうとしているけれど、 いかにも「言いたいことがあります」という表情だ。
わかりやすいなあ。
ミルカ「オイラー先生の話をしよう。 いわゆるオイラーの規準の話だ」
僕「クライテリオン? クライテリアじゃなく?」
テトラ「criterionはcriteriaの単数形ですね」
僕「あ、そうか」
ミルカ「日本語ではオイラーの規準や、 オイラーの判定法などという。 もっとも、オイラー先生自身がそう呼んでいるわけではない。 これは、18世紀にオイラー先生が書いた論文に書かれている定理だ。 この定理を使えば、平方剰余が比較的楽に計算できる」
オイラーの規準
$p$ を奇素数とする。
$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。このとき、 $$ \LegSym{n}{p} \equiv n^{\frac{p-1}{2}} \pmod p $$ が成り立つ。
テトラ「え? どういうことでしょうか?」
僕「え? こんなの、本当に成り立つの?」
テトラちゃんと僕は、 別方向に疑問符を投げる。
ミルカさんは言葉を続けた。
ミルカ「ルジャンドル記号 $\LegSym{n}{p}$ の値が $\LegYES$ か $\LegNO$ かは、 $n$が$p$を法として$\TextYES$か$\TextNO$かに対応している。 その値は実は $$ n^{\frac{p-1}{2}} $$ に合同だという。 それがオイラーの規準だ」
僕「おもしろい!」
テトラ「そんなことがいえるんですか!」
ミルカ「私たちが最初に確かめることは決まっている」
テトラ「《小さな $n$ で確かめる》んですね! テトラ、すぐにやります! まず、 $p = 7$ で $n = 1$ としたとき……」

テトラ「奇素数 $p = 7$ で $n = 1$ でオイラーの規準を確かめてみます。 まず、 $n = 1$ は $7$ を法として平方剰余です。 $1^2 = 1$ なので当然です」
僕「さっき、表も作ったよね(第476回参照)」
《$7$ を法とする平方剰余》
$$ \begin{array}{|c|ccccccc|} \hline n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline \textbf{平方剰余か?} & \text{未定義} & \YES & \YES & \NO & \YES & \NO & \NO \\ \hline \LegSym{n}{7} & 0 & \LegYES & \LegYES & \LegNO & \LegYES & \LegNO & \LegNO \\ \hline \end{array} $$
テトラ「はい。ですから、 $p = 7, n = 1$ のとき、 $$ \LegSym{n}{p} = \LegSym{1}{7} = \LegYES $$ が成り立ちます。一方、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} = 1^\frac{7-1}{2} = 1^3 = \LegYES $$ になりますから、確かに $p = 7, n = 1$ のとき、 $$ \LegSym{n}{p} \equiv n^{\frac{p-1}{2}} \pmod p $$ は成り立ちますね」
僕「$p = 7, n = 2$ のときは、 $$ \LegSym{n}{p} = \LegSym{2}{7} = \LegYES $$ になって、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} = 2^\frac{7-1}{2} = 2^3 = 8 \equiv \LegYES \pmod 7 $$ となる。うん、 $p = 7, n = 2$ のときも、ちゃんと $$ \LegSym{n}{p} \equiv n^{\frac{p-1}{2}} \pmod p $$ は成り立ってる。すごいなあ」
ミルカ「$\TextNO$の場合も確かめよう」
テトラ「はい。$n = 3$は$p = 7$を法として$\TextNO$です。 $2$ 乗して $3$ と合同になる整数は存在しないということです。 ですから、 $p = 7, n = 3$ のとき、 $$ \LegSym{n}{p} = \LegSym{3}{7} = \LegNO $$ です。一方、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} = 3^\frac{7-1}{2} = 3^3 = 27 \equiv \LegNO \pmod 7 $$ になります。 $7$ の倍数を考えると、 $7\times 4 = 28$ ですから、 $27$ はあと一歩で $7$ の倍数。つまり $\LegNO$ に合同です。 ということは、 $p = 7, n = 3$ のとき、 $$ \LegSym{n}{p} \equiv n^{\frac{p-1}{2}} \pmod p $$ になっていますね。 $\TextNO$のとき両辺とも$\LegNO$に合同ということです」
僕たちは $p = 7$ としたとき、 $n = 1,2,3,4,5,6$ のどの場合でもオイラーの規準が成り立つことを確かめた。
$p = 7$ のとき、オイラーの規準を確かめる
$$ \begin{array}{|c|cccccc|} \hline n & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline \LegSym{n}{7} & \LegYES & \LegYES & \LegNO & \LegYES & \LegNO & \LegNO \\ \hline n^{\frac{7-1}{2}} = n^3 & 1 & 8 & 27 & 64 & 125 & 216 \\ \hline \HAT{n^3} & \LegYES & \LegYES & \LegNO & \LegYES & \LegNO & \LegNO \\ \hline \end{array} $$
ここで、 $\HAT{n^3}$ は $n^3$ を $7$ で割った《絶対的最小剰余》を表す。
$p = 7$ のときの《絶対的最小剰余》(第476回参照)
$$ \begin{array}{|c|cccccccccc|} \hline x & \cdots & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & \cdots \\ \hline \HAT{x} & \cdots & 0 & 1 & 2 & 3 & -3 & -2 & -1 & 0 & \cdots \\ \hline \end{array} $$
僕「それにしても、驚きだなあ」
ミルカ「君は、その驚きを言語化する」
僕「その言い回し、気に入ってるの?」
ミルカ「いいから」
僕「$n$ が $\TextYES$か$\TextNO$かは、 テトラちゃんがさっき言ってたように、 $m = 1,2,3,4,5,6$ を使って $n \equiv m^2 \pmod 7$ になるかどうかをぜんぶ調べればわかる。 もちろん、それはそう。 でもそんなことをしなくても $\HAT{n^{3}}$ を計算すれば一発でわかるなんて、 それはやっぱり驚きだよ。
ミルカ「ふうん……」
テトラちゃんが、小声で話し始めた。
何だか恥ずかしそうだ。
テトラ「あの……あのですね。すごく恥ずかしい話なんですが、 あたしが毎回考えてしまうこと話してもいいですか。 あのですね、あたしは $$ n^{\frac{p-1}{2}} $$ を見ると、 $n$ の $\frac{p-1}{2}$ なんて計算して、整数になるの? とぎょっとします。 分数乗なんて! と一瞬だけ思ってしまうんです。 でも $p$ は奇素数ですから、 $p-1$ は必ず偶数。 ですから、 $\frac{p-1}{2}$ は必ず整数になるんですよね……たとえば、 $p = 7$ なら、 $p - 1 = 6$ で偶数で、 $\frac{p-1}{2} = 3$ で整数です。 はいっ! お馬鹿なテトラのお馬鹿な話でしたっ!」
僕「テトラちゃんは馬鹿じゃないよ」
ミルカ「馬鹿な話でもないな。
ミルカさんはそう言って、なぜか僕を見た。
彼女は、何を当たり前のことを言っているんだろう。
テトラ「?」
僕「?」
テトラ「それはそうですね。 $\frac{p-1}{2}$ を $2$ 倍すると、 $p - 1$ になります」
$\frac{p-1}{2}$ を $2$ 倍すると、 $p - 1$ になる?
そのとき、僕は気づいた。
僕「うわ!! そうか。 $\HAT{n^3}$ が必ず $\LegYES$ か $\LegNO$ になることは、 すぐに証明できるんだね!」
ミルカ「そうだな。君がいま頭の中で証明したことはこれだろう」
問題1
$p$ を奇素数とする。
$n$ を $p$ と互いに素な整数とする。
そのとき、 $$ n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegYES \pmod p \MATAWAREL n^{\frac{p-1}{2}} \equiv \LegNO \pmod p $$ が成り立つ。
このことを証明せよ。

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