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第476回 シーズン48 エピソード6
平方剰余とルジャンドル記号(後編) ただいま無料

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。

図書館にて

ミルカ平方剰余へいほうじょうよ

音もなく現れた我らがミルカさんは、 手のひらを上に向け、両腕をゆったり広げてそう言った。

まるで、 目には見えない大きな宝物をテトラちゃんに渡すように。

テトラ「へいほう……じょうよ?」

「平方剰余?」

ミルカ素数 $p$ を法とする平方剰余。君とテトラが探しているものはそれだ」

ここはの高校。いまは放課後。

テトラちゃんは村木先生からもらった《カード》の問題に取り組んでいた。

その《カード》には《表》と《裏》があり、求めるものが違う。

  • 《表》が求めるものは、 $ax^2+bx+c=0$ を満たす実数 $x$ が存在する条件。
  • 《裏》が求めるものは、 $ax^2+bx+c\equiv0\pmod p$ を満たす整数 $x$ が存在する条件。
いわば《実数の世界の判別式》と《$p$ を法とする世界の判別式》をそれぞれ求めようというのだ。

テトラちゃんは《表》と《裏》の解答をいったん作り上げた。 《表》は簡単だ。《裏》も同じ発想で一応は解けた。

カード《表》

$a,b,c$ は実数で、 $a$ は $0$ ではないとする。 次式を満たす実数 $x$ が存在する条件を求めよ。 $$ ax^2 + bx + c = 0\CDOTSNAME{\spadesuit} $$

《表》の解答第475回参照

$\spadesuit$ を満たす実数 $x$ が存在することは、 $$ X^2 = b^2 - 4ac\CDOTSNAME{\clubsuit} $$ を満たす実数 $X$ が存在することと同値である。

求める条件は、 $$ b^2 - 4ac \GEQ 0 $$ である。

カード《裏》

$p$ を奇素数とする。

$a,b,c$ は整数で、 $a$ は $p$ と互いに素とする。 次式を満たす整数 $x$ が存在する条件を求めよ。 $$ ax^2 + bx + c \equiv 0 \pmod p\CDOTSNAME{\heartsuit} $$

《裏》の解答第475回参照

$\heartsuit$ を満たす整数 $x$ が存在することは、 $$ X^2 \equiv b^2 - 4ac \pmod p\CDOTSNAME{\diamondsuit} $$ を満たす整数 $X$ が存在することと同値である。

求める条件は、 $X^2 \equiv b^2 - 4ac \pmod p$ を満たす整数 $X$ が存在する ことである。

テトラ「《表》の解答は、 $b^2 - 4ac$ がいわば《実数の世界の平方数》であることが条件で、 $b^2 - 4ac \GEQ 0$ と書けました……」

「《裏》の解答は、 $b^2 - 4ac$ がいわば《$p$ を法とする世界の平方数》であることが条件。 でも、 $b^2 - 4ac \GEQ 0$ のようなシンプルな形までは書けていない……」

ミルカ「君が言ったその《$p$ を法とする世界の平方数》にはすでに名前がある。 《$p$ を法とする平方剰余》だ。定義はこうなる」

平方剰余

平方剰余

$p$ を素数とする。 $n$ を $p$ と互いに素な整数とする。

ある整数 $m$ が存在して $$ n \equiv m^2 \pmod p $$ が成り立つとき、 $n$ は、 $p$ を法とする平方剰余へいほうじょうよであるという。

任意の整数 $m$ について $$ n \not\equiv m^2 \pmod p $$ が成り立つとき、 $n$ は、 $p$ を法とする平方非剰余へいほうひじょうよであるという。

「なるほど。 $n = m^2$ だったら平方数。 $n \equiv m^2$ だったら平方剰余。 確かに《$p$ を法とする世界の平方数》といえそうだね」

テトラ「ちょ、ちょっとお待ちください。 具体例を作らないと、ピンと来ません……たとえば、 $p = 7$ として例を作りますっ!」

「おおっ!」

テトラちゃんはすばやくノートを広げて表を作り始めた。

きっと素数 $p = 7$ として、どんな整数が平方剰余であり、 どんな整数が平方非剰余なのか、定義から確かめようというのだろう。

さすが、テトラちゃんは行動が早い。

テトラ「素数 $p = 7$ として考えます。 つまり、《$7$ を法とする平方剰余》がどんな数なのかを調べます。 整数 $n$ は $p=7$ と互いに素という条件がありますし、いまは《$p$ を法とする世界》で考えていますから、 $$ n = 1\COMMA 2\COMMA 3\COMMA 4\COMMA 5\COMMA 6 $$ で考えることにします……で、いいですよね?」

ミルカ「もちろん」

「いいよ」

$p = 7, n = 1$

テトラ「$n = 1$ とします。ええと、はい、 $n = 1$ は $7$ を法とする平方剰余といえます!」

ミルカ「それはなぜ」

テトラ「平方剰余の定義からいえます。 $p = 7, n = 1$ のとき、たとえば $m = 1$ とすれば、 $n \equiv m^2\pmod p$ が成り立ちます。 $$ 1 \equiv 1^2 \pmod 7 $$ ということです。ですから $n = 1$ は $7$ を法とする平方剰余です」

ミルカ「よし」

$p = 7, n = 2$

テトラ「$n = 2$ とします。これは……どうなんでしょうか。 $2^2 = 4$ ですし、 $3^2 = 9$ ですから……あっ、 これでいけそうです。 $p = 7, n = 2$ のとき、たとえば $m = 3$ とすれば、 $n \equiv m^2\pmod p$ が成り立ちます。 $$ 2 \equiv 3^2 \pmod 7 $$ がいえます。 $3^2 = 9$ ですが、 $7$ で割った余りは $2$ だからですっ! 次は $n = 3$ ですが……」

「ねえねえ、テトラちゃん、 先に《$m^2$ を $p$ で割った余り》の表を作った方がよさそうだよ」

テトラ「確かに! 結局 $m$ を動かして調べるんですもんね。 《$m^2$ を $p$ で割った余り》つまり $\BAR{m^2}$ の表を作ります……」

$m^2$ を $p$ で割った余り($p = 7$)

《$m^2$ を $p$ で割った余り》($p = 7$)

$$ \begin{array}{|c|cccccc|} \hline m & \Wd1 & \Wd2 & \Wd3 & \Wd4 & \Wd5 & \Wd6 \\ \hline m^2 & 1 & 4 & 9 & 16 & 25 & 36 \\ \hline \BAR{m^2} & 1 & 4 & 2 & 2 & 4 & 1 \\ \hline \end{array} $$

$\BAR{x}$ は $x$ を $p = 7$ で割った余りを表すものとする。

「……」

テトラ「この表を見ると、 $\BAR{m^2}$ は $1,4,2$ という値を取ることがわかります。 ですから、《$7$ を法とする平方剰余》は $1$ と $2$ と $4$ だけですねっ!」

ミルカ「それでいいのだが、厳密に言うなら $1$ と $2$ と $4$ だけではない。 $1,2,4$ のいずれかと合同な整数はすべて《$7$ を法とする平方剰余》だ」

テトラ「確かに、定義からするとそうなります。 $1,2,3,4,5,6$ の範囲という条件を付けるなら、 《$7$ を法とする平方剰余》は $1,2,4$ だけです」

ミルカ「それは正しい」

テトラ「これ、おもしろいですね。 $1$ と $4$ は《整数の世界の平方数》になっています。 だって、 $1 = 1^2$ だし、 $4 = 2^2$ だからです。 でも、 $2$ に関しては《整数の世界の平方数》ではありません。どんな整数を持ってきて二乗しても $2$ にはなりませんから。 でも、 $2$ は《$7$ を法とする平方剰余》にはなっているんですね……」

$7$ を法とする平方剰余

《$7$ を法とする平方剰余》

$$ \begin{array}{|c|cccccc|} \hline n & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline \textbf{平方剰余か?} & \YES & \YES & \NO & \YES & \NO & \NO \\ \hline \end{array} $$

ミルカ「いまテトラが平方剰余を調べてくれた。 $1\LEQ n \LEQ 6$ で考えるなら、

  • $1,2,4$ は $7$ を法とする平方剰余である。
  • $3,5,6$ は $7$ を法とする平方非剰余である。
ということになる」

テトラちゃんがさっと手を挙げる。彼女は質問のときに挙手をするのだ。

テトラ「ちょっと気になったんですが、 《平方剰余》ではなくて《平方剰余》というんですね」

ミルカ「数学書にはそう書いてあるな。理由は私も知らない」

テトラ「英語では何と言うんでしょう」

ミルカ「平方剰余はquadratic residueで、 平方非剰余はquadratic non-residue」

テトラ「nonの位置について対応はしてるんですね」

「……」

テトラ「先輩?」

$m^2 \equiv(p-m)^2 \pmod p$

「さっきテトラちゃんが《$m^2$ を $7$ で割った余り》の表を作ってくれた。 そのとき、 $m$ と $\BAR{m^2}$ はこうなってたよね。

$$ \begin{array}{|c|cccccc|} \hline m & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline \BAR{m^2} & 1 & 4 & 2 & 2 & 4 & 1 \\ \hline \end{array} $$

$1,4,2$ と $2,4,1$ になってる。これ、対称性があるね!」

テトラ「まるで、『か・る・い・い・る・か』という回文みたいです」

「軽いイルカ?」

ミルカ「一般化できる。こういうことだな。これは難しくない」

問題

$p$ を素数とする。 $1\LEQ m\LEQ p - 1$ を満たす整数 $m$ について、 $$ m^2 \equiv (p - m)^2 \pmod p $$ が成り立つことを示せ。

テトラ「難しく……ないですか?」

「《定義にかえれ》でいけそうだよ。 $$ m^2 \equiv (p-m)^2\pmod p $$ は、 $$ m^2 - (p-m)^2 = pk $$ となる整数 $k$ が存在することと同値。 ところで、 $$ m^2 - (p-m)^2 = m^2 - (p^2 -2pm + m^2) = p(2m - p) $$ だから、 $k = 2m-p$ とすればいいね」

テトラ「なるほど……」

素数 $p$ が $0$ のよう

は、いまの問題で気づいたことを、 半分ひとりごとのように口にした。

「たとえば、いま出てきた二つの式を見る。 $$ \begin{xalignat*}{1} m^2 &\equiv (p-m)^2 \pmod p \\ m^2 &= (0-m)^2 \end{xalignat*} $$ すると、 二つの式はぴったり呼応しているように見える。 《$p$ を法とする世界》では、 $p$ がまるで $0$ のような働きをすることがあるよね……」

ミルカ「ふむ」

「$p$ の倍数で割り算ができないのもそうだったし……」

テトラ「確かにそうですね。《$p$ を法とする世界》では、 $p$ がまるで $0$ のよう……」

「ちょっと待って!  そうか。 $6$ は $-1$ だよね?  ということは《余り》って、 正と負に分けられるんじゃない?」

ミルカ「その通り。 $(p-1)/2$ を超えたなら、 $-p$ シフトすればいい。 そのような剰余を、 通常の《最小非負剰余》に対して 《絶対的最小剰余ぜったいてきさいしょうじょうよ》という」

「あっ、名前があるのか! そりゃそうか……」

テトラちゃんがそこで両手をぶんぶんと振り回して、ミルカさんの会話に割り込んできた。

テトラ「せせせ先輩方っ! テトラを置いていかないでくださいっ!」

絶対的最小剰余

ミルカ「普段使っている剰余は《最小非負剰余》で、定義はこうだ。 私たちはいま $\BAR{x}$ を使って表している。 存在性と唯一性は証明が必要だが、いまは省略」

素数 $p$ を法とする最小非負剰余

$p$ を素数とする。 整数 $x$ に対し、整数 $q$ と $r$ がたった一組存在して、 $$ x = pq + r \qquad (0\LEQ r < p) $$ を満たす。 このときの $r$ を、 素数 $p$ を法とする $x$ の《最小非負剰余》といい、 ここでは、 $$ \BAR{x} $$ で表す。

素数 $p$ と整数 $x$ に対して、 $$ 0\LEQ \BAR{x} \LEQ p-1 $$ が成り立つ。

テトラ「はい。これはわかります。《余り》ですね。 $p = 7$ の場合はこうです」

$p = 7$ を法とする $x$ の《最小非負剰余 $\BAR{x}$》 $$ \begin{array}{|c|ccccccccc|} \hline x & \cdots & \Wd0 & \Wd1 & \Wd2 & \Wd3 & \Wd4 & \Wd5 & \Wd6 & \Wd7 & \cdots \\ \hline \BAR{x} & \cdots & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 0 & \cdots \\ \hline \end{array} $$

ミルカ「それに対して《絶対的最小剰余》をこのように定義する。 絶対値が最小になるように剰余を選ぶのだ。 ここでは仮に $\HAT{x}$ を使って表すことにしよう」

絶対的最小剰余

$p$ を奇素数とする。

$p$ を法とする $x$ の《絶対的最小剰余》を $$ \HAT{x} $$ と書き、次のように定義する。

$$ \HAT{x} = \begin{cases} \BAR{x} & \text{$0 \LEQ \BAR{x} \LEQ \frac{p - 1}{2}$のとき} \\ \BAR{x} - p & \text{$\frac{p+1}{2} \LEQ \BAR{x} \LEQ p - 1$のとき} \end{cases} $$

奇素数 $p$ と整数 $x$ に対して、 $$ -\frac{p-1}{2} \LEQ \HAT{x} \LEQ \frac{p-1}{2} $$ が成り立つ。

「$(p - 1)/2$ を超えたら、 $p$ を引いて負にするわけだね」

$p = 7$ を法とする $x$ の《絶対的最小剰余 $\HAT{x}$》 $$ \begin{array}{|c|cccccccccc|} \hline x & \cdots & \Wd0 & \Wd1 & \Wd2 & \Wd3 & \Wd4 & \Wd5 & \Wd6 & \Wd7 & \cdots \\ \hline \HAT{x} & \cdots & 0 & 1 & 2 & 3 & -3 & -2 & -1 & 0 & \cdots \\ \hline \end{array} $$

テトラ「ああ、理解しました!  $6$ は $p = 7$ から $1$ マイナスしたものだと考えて $-1$ になる。 $5$ はもう一つ引いて $-2$ となる。 $4$ は $-3$ ということで、 《絶対的最小剰余》は、 $0$ を中心にして、正と負に綺麗に分かれる!」

「週の前半と週の後半みたいなものだね」

テトラ「といいますと?」

「日曜日を $0$ として、そこを中心にする。すると、 週の前半は、

  • 月:日曜日の $1$ 日あと。
  • 火:日曜日の $2$ 日あと。
  • 水:日曜日の $3$ 日あと。
週の後半は、
  • 木:日曜日の $3$ 日まえ。
  • 金:日曜日の $2$ 日まえ。
  • 土:日曜日の $1$ 日まえ。
……ということだね」

カレンダーと《最小非負剰余》

カレンダーと《絶対的最小剰余》

テトラ「なるほど、ぐるぐる回るわけですね」

ぐるぐる《最小非負剰余》

ぐるぐる《絶対的最小剰余》

「この対称性はもっと探求したくなるなあ!」

ミルカ「そうだな。たとえば」

そのとき、テトラちゃんがまた手を挙げた。 質問らしい。

テトラ「あ、あの……探究中すみません。 《絶対的最小剰余》もいいのですが、 あたしは村木先生のカードの《裏》が気になっています」

ミルカ「ふむ?」

《$p$ を法とする世界》の判別式

カード《裏》(再掲)

$p$ を奇素数とする。

$a,b,c$ は整数で、 $a$ は $p$ と互いに素とする。 次式を満たす整数 $x$ が存在する条件を求めよ。 $$ ax^2 + bx + c \equiv 0 \pmod p\CDOTSNAME{\heartsuit} $$

テトラ「《$p$ を法とする平方剰余》を使うと、 求める条件は、 $b^2 - 4ac$ が《$p$ を法とする平方剰余》になることと言えますよね?」

「そうだね」

ミルカ「いや、抜けがある。 $b^2 - 4ac$ が《$p$ を法とする平方剰余》になるか、 または $b^2 - 4ac$ が $p$ の倍数になること」

テトラ「えっ?」

ミルカ「$p$ を法として《平方剰余》か《平方非剰余》かというのは、 $p$ と互いに素な整数についての話だ。 $p$ の倍数は《平方剰余》でも《平方非剰余》でもない。 だから、《裏》の解答はこう書ける」

《裏》の解答(再掲+修正)

$\heartsuit$ を満たす整数 $x$ が存在することは、 $$ X^2 \equiv b^2 - 4ac \pmod p\CDOTSNAME{\diamondsuit} $$ を満たす整数 $X$ が存在することと同値である。

すなわち、求める条件は、

  • $b^2 - 4ac$ が《$p$ を法とする平方剰余》になる
  • または $b^2 - 4ac$ が《$p$ の倍数》になる
ことである。

テトラ「あっ、そうなんですね」

ミルカ「それで、テトラは何をしようとしていた?」

テトラ「あ、あたしは具体例で試してみたいと思っていました。 つまりですね。あたしたちは、 $1$ や $2$ や $4$ が《$7$ を法とする平方剰余》になることをすでに調べました。 そのとき本当に $\heartsuit$ が整数解を持つことを確かめたいんです。 具体的に確かめるまでは《わかった感じ》がしないんです」

テトラちゃんは、すごい。

基本にどこまでも忠実なんだ。

ミルカ「ふうん……」

ミルカさんはそういって一瞬だけ、目を閉じる。

テトラちゃんもそれに合わせるように一瞬だけ、息を止める。

その瞬間は、少しも音を出してはいけないように感じるからだ。

「……」

テトラ「……」

ミルカ「たとえば、こんな式を考えよう。 $$ x^2 + x + 1 \equiv 0 \pmod 7 $$ これを満たす整数 $x$ は存在するか?」

テトラ「テトラ、考えます。 $x^2 + x + 1$ を $ax^2 + bx + c$ と見比べますと、 $a = 1, b = 1, c = 1$ です。 ですから、《$7$ を法とする世界の判別式》を使って、 $$ b^2 - 4ac = 1^2 - 4\times1\times 1 = -3 $$ です。ここで、 $$ -3 \equiv 4 \pmod 7 $$ です。はいはいはいはい、 $4$ は《$7$ を法とする平方剰余》になってます! ですから、 $$ x^2 + x + 1 \equiv 0 \pmod 7 $$ を満たす整数 $x$ は存在するはずです!」

ミルカ「では、テトラはその整数を見つけられる?」

テトラ「えっ……あっ、はい、やってみます。

  • $x = 0$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 1 \not\equiv 0 \pmod 7$ で、ダメです。
  • $x = 1$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 3 \not\equiv 0 \pmod 7$ で、ダメです。
  • $x = 2$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 7 \equiv 0 \pmod 7$ で、発見しました!!
$x = 2$ が整数解ですね! やはり、存在しました!」

ミルカ「$x = 2$ 以外には?」

テトラ「あっ……続けます。

  • $x = 3$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 13 \not\equiv 0 \pmod 7$ で、ダメです。
  • $x = 4$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 21 \equiv 0 \pmod 7$ で、これも解です!!
  • $x = 5$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 31 \not\equiv 0 \pmod 7$ で、ダメです。
  • $x = 6$ のとき、 $x^2 + x + 1 = 43 \not\equiv 0 \pmod 7$ で、ダメです。
$x = 2$ と $x = 4$ が求める整数解ですね!」

ミルカ「それでいい」

テトラ「一つでも具体例で確かめると、ちょっと安心します」

そのときは、あれ? と思った。 いまテトラちゃんは、 $x = 0,1,2,3,4,5,6$ を代入して解になるかを確かめた。 でも……。

が違和感を形にしようと思ったところで、 ミルカさんが急に立ち上がった。

ミルカ「ではここで、ルジャンドル記号を導入しよう。 平方剰余を考える上で重要な記法だ」

ルジャンドル記号

ルジャンドル記号

$p$ を素数、 $n$ を整数とする。

このとき、ルジャンドル記号を次のように定める。 $$ \LegSym{n}{p} = \begin{cases} 1 & \text{$n$が$p$を法とする平方剰余のとき} \\ -1 & \text{$n$が$p$を法とする平方非剰余のとき} \\ 0 & \text{$n$が$p$の倍数のとき} \end{cases} $$

テトラ「これは分数ではないんですよね?」

ミルカ「分数ではない。 $n$ と $p$ を明示した記法に過ぎない」

「$1$ か $-1$ か。それで平方剰余か平方非剰余かを示すということだね。 それはわかったけど……」

テトラ「テトラ、具体例を作ります。具体例を作らないと《わかった感じ》がしないので……先ほど作った 《$7$ を法とする平方剰余》の $\YES$ を $\LegYES$ に、 $\NO$ を $\LegNO$ にすればいいですねっ!」

《$7$ を法とする平方剰余》

$$ \begin{array}{|c|ccccccc|} \hline n & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline \textbf{平方剰余か?} & \text{未定義} & \YES & \YES & \NO & \YES & \NO & \NO \\ \hline \LegSym{n}{7} & 0 & \LegYES & \LegYES & \LegNO & \LegYES & \LegNO & \LegNO \\ \hline \end{array} $$

ミルカ「このルジャンドル記号を使えば、 《実数の世界》と《$p$ を法とする世界》は、こう対応することになる」

《実数の世界》

$a,b,c$ は実数で、 $a$ は $0$ ではないとする。 このとき、 $$ ax^2 + bx + c = 0 $$ を満たす実数 $x$ が存在する条件は、 $$ b^2 - 4ac \GEQ 0 $$ である。

《$p$ を法とする世界》

$p$ を奇素数とする。

$a,b,c$ は整数で、 $a$ は $p$ と互いに素とする。 このとき、 $$ ax^2 + bx + c \equiv 0 \pmod p $$ を満たす整数 $x$ が存在する条件は、ルジャンドル記号を用いて $$ \LegSym{b^2 - 4ac}{p} \GEQ 0 $$ である。




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(第476回終わり)

(2026年7月31日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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