登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。
ここは僕の高校。いまは放課後。
僕が図書室に入ると、 話をしていたクラスメートミルカさんと後輩のテトラちゃんがこっちを向いた。
ミルカ「やっと来たか」
テトラ「せんぱーい! こっちです! お待ちしてました!」
僕「ねえテトラちゃん。ここは図書室なんだから、大きな声を出しちゃだめだよ」
テトラ「あっ、そ、そうですよね。すみません……つい」
ミルカ「遅かったな」
テトラ「先輩のことをお待ちしてたんですよ」
僕「あ、そうなんだ」
テトラ「フェルマーの小定理の話をミルカさんもしてくれるということで、 先輩がいらっしゃるのを待ってたんです」
ミルカ「話はすぐに終わるんだが、テトラが『おあずけ』と命じるので我慢していた」
テトラ「そ、そんなこと言ってませんよぅ!」
フェルマーの小定理
$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。
このとき、
$$ \large n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$
が成り立つ。
ミルカ「フェルマーの小定理の証明は、以前一緒に追った(第400回参照)」
テトラ「はい。数学的帰納法を使いましたね」
僕「先日はテトラちゃんのイメージを形にするような証明を作ったよ(第473回参照)」
テトラ「そうです。たとえば $p = 7$ のときだと、 $n = 1,2,3,4,5,6$ のどれを使っても、みんな $p-1$ 回目の《ジャンプ》で、 $\MARK1$ にぴったり着地する。 その不思議ポイントから考えをスタートしました」
$7$ を法とする世界で $n$ を掛けるたびに《ジャンプ》する様子 $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline n = 1 & \MARK1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 2 & \MARK1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& 1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 3 & \MARK1 &\to& 3 &\to& 2 &\to& 6 &\to& 4 &\to& 5 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 4 & \MARK1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& 1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 5 & \MARK1 &\to& 5 &\to& 4 &\to& 6 &\to& 2 &\to& 3 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 6 & \MARK1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& \MARK1 \\ \hline \end{array} $$
ここで、 $x \to y$ という《ジャンプ》は、 《$x$ を $n$ 倍して $p$ で割った余り》が $y$ になることを意味する。
僕「最後のラスボスを倒すのには手間取ったけどね(第474回参照)」
ミルカ「その証明は、さっきテトラから聞いたよ」
テトラ「それで……ミルカさんのお話とは?」
ミルカ「テトラの観察は《$n$ を繰り返し掛ける》ところにあった。 $n$ を掛けるたびに《ジャンプ》をするという比喩を使い、 $\MARK1$ から始めて $p-1$ 回目の《ジャンプ》で $\MARK1$ に着地する。 まさにそれはフェルマーの小定理の主張だ」
僕「……」
テトラ「……」
ミルカ「ではここで視点を変える。 《ジャンプ》を表す写像 $f_n$ を考えよう」
《ジャンプ》を表す写像 $f_n$
$p$ を素数とし、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。
集合 $P$ を $$ P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1} $$ で定義し、 $P$ から $P$ への写像 $f_n$ を $$ f_n(x) = \BAR{nx} $$ で定義する。
僕「つまり、 $f_n(x) = \BAR{nx}$ というのは、 $nx$ を $p$ で割ったときの余りだよね?」
ミルカ「そうだ。 念のためにいっておくと、 $\BAR{nx} \in \SET{\MARKB0,1,2,3,\ldots,p-1}$ であり、 $\MARKB0\not\in P$ だから、 $f_n$ が $P$ から $P$ への写像であるというためには、 $x\in P$ のとき $\BAR{nx}\NEQ\MARKB0$ であることを示す必要がある。 まあ、これは読者の練習問題でいいだろう。 ところで、テトラは $f_n$ は何だかわかるのかな」
テトラ「はい。 $f_n$ がどんなものかはわかります。 たくさん練習しましたから。 たとえば、 $p = 7$ で $n = 2$ のとき、 $f_n$ つまり $f_2$ はこうなります。 $f_2(x)$ は $2$ 倍した $x$ を $7$ で割った余りをとればいいからです」
$p = 7$ で $n = 2$ のときの $f_n$ $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline x & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline f_2(x) & 2 & 4 & 6 & 1 & 3 & 5 \\ \hline \end{array} $$
$$ \begin{xalignat*}{2} f_2(1) &= 2 && \text{$2\times 1 \equiv 2 \pmod 7$} \\ f_2(2) &= 4 && \text{$2\times 2 \equiv 4 \pmod 7$} \\ f_2(3) &= 6 && \text{$2\times 3 \equiv 6 \pmod 7$} \\ f_2(4) &= 1 && \text{$2\times 4 \equiv 1 \pmod 7$} \\ f_2(5) &= 3 && \text{$2\times 5 \equiv 3 \pmod 7$} \\ f_2(6) &= 5 && \text{$2\times 6 \equiv 5 \pmod 7$} \end{xalignat*} $$

僕「うん、 $f_n$ はわかるよ。でもわざわざ $f_n$ と名前を付ける意味はないよね。 だって $\BAR{nx}$ と書けばいいんだから」
ミルカ「私が $f_n$ と名前を付けたのは、 カギになる主張を一言で言いたいからだ」
僕「カギになる主張?」
ミルカ「それは、
写像 $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射である
という主張だよ。 別の言い方として、
写像 $f_n$ は集合 $P$ 上の置換である
といってもいい」
テトラ「ど、どういう意味でしょう?」
僕「写像 $f_n$ は、 $1,2,3,\ldots,p-1$ を並べ替えると言ってるんだよ、テトラちゃん」
テトラ「ははあ……こういうことですか。 $p = 7$ で $n = 2$ の例でいうと、
写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ による $x = 1,2,3,\ldots,p-1$ の並べ替え $(p = 7, n = 2)$

僕「そうだね。 全単射だから《もれなく、だぶりなく》移されてくる。 だから並べ替えになる」
テトラ「あれ? それって、どんな $n$ と $p$ でも? そんなこといえるんですか?」
僕「そりゃそうだよね。だって、 $n$ と $p$ は互いに素なんだから」
テトラ「えっえっ?」
ミルカ「そこで引っかかるなら、ちゃんと示す価値がありそうだ」
問題
$p$ を素数とし、 $n$ と $p$ は互いに素とする。 $P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1}$ のとき、 $P$ から $P$ への写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は全単射になることを示せ。

テトラ「わからなくなってしまいました……」
ミルカ「どこまでならわかっている?」
テトラ「はい。 $n$ と $p$ が互いに素のとき、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ から $$ a\equiv b\pmod p $$ がいえることまではわかっています。 $p$ と《互いに素》な $n$ なら、 両辺を《割れる》んです」
僕「それだよ」
ミルカ「そこだな」
テトラ「えっ、えっ、えっ?」
テトラちゃんが僕とミルカさんを見比べるように顔を振る。
ミルカ「君が、まず単射性を示す」
ミルカさんはそう言って僕を指さした。
僕「テトラちゃんがいま言ったことは、 そのまま $f_n$ が単射であることの証明につながるよ。 $a,b$ を $P$ の要素として、 $f_n$ で移した先が等しいと仮定する。 つまり、 $$ f_n(a) = f_n(b) $$ を仮定する。これは $f_n$ の定義から $\BAR{an} = \BAR{bn}$ ということで、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ になる。テトラちゃんがいま言った通り、両辺を $n$ で割れるから、 $$ a\equiv b\pmod p $$ がいえる。 $a$ も $b$ も $1$ 以上 $p-1$ 以下だから、 $$ a = b $$ になる。 $P$ の要素 $a,b$ に対して $$ f_n(a) = f_n(b) \NARABA a = b $$ が示されたから $f_n$ は単射だね」
テトラ「あ……《移った先が等しいなら、もとも等しい》。 つまり $f_n$ は《だぶりなく》移す……つまり単射です」
ミルカ「そこから全射性はすぐに言える。 $P$ は、要素がちょうど $p-1$ 個ある有限集合で、 $p-1$ 個の要素が《だぶりなく》移るのだから、 移った先も $p-1$ 個になる。 ところが $P$ の要素はぜんぶで $p-1$ 個しかないから……」
テトラ「$f_n$ は《もれなく》移す全射にもなってます!」
ミルカ「単射かつ全射。ゆえに $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射」
問題(再掲)
$p$ を素数とし、 $n$ と $p$ は互いに素とする。 $P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1}$ のとき、 $P$ から $P$ への写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は全単射になることを示せ。
解答
$x\in P$ とする。 $p$ は素数であり、 $n$ も $x$ も $p$ で割り切れないので、 積 $nx$ は $p$ で割り切れない。 すなわち $\BAR{nx}\NEQ\MARKB0$ なので、 $f_n(x) = \BAR{nx}\in P$ である。
$a,b\in P$ が $f_n(a) = f_n(b)$ を満たすとすると、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ が成り立つ。 $n$ と $p$ は互いに素なので、 $$ a\equiv b\pmod p $$ が成り立つ。 $a$ も $b$ も $1$ 以上 $p-1$ 以下なので、 $$ a = b $$ である。よって、 $f_n$ は単射である。
$P$ は $p-1$ 個の要素を持つ有限集合なので、 単射 $f_n$ が $P$ の $p-1$ 個の要素を移した先は、相異なる $p-1$ 個の $P$ の要素である。 $P$ の要素は全部で $p-1$ 個なので、 $f_n$ は全射である。
したがって、 $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射である。
(証明終わり)
僕「ところで 《$f_n$ は全単射》 から何がいえるの?」
テトラ「フェルマーの小定理のお話ですよね?」
ミルカ「写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は $P$ 上の全単射だから、 $$ \SET{1\COMMA2\COMMA3\COMMA\ldots\COMMA p-1} = \SET{\BAR{1n}\COMMA\BAR{2n}\COMMA\BAR{3n}\COMMA\ldots\COMMA\BAR{(p-1)n}} $$ が成り立つ」
僕「そうだね」
テトラ「はい、順番は変わるかもしれませんが、 $1,2,3,\ldots,p-1$ という $p-1$ 個の要素を持つ集合ですよね」
ミルカ「そこで全要素をすべて掛け合わせると、 $$ 1\times2\times3\times\cdots\times(p-1) = \BAR{1n}\times\BAR{2n}\times\BAR{3n}\times\cdots\times\BAR{(p-1)n} $$ から、 $$ 1\times2\times3\times\cdots\times(p-1) \equiv 1n\times2n\times3n\times\cdots\times(p-1)n \pmod p $$ となり、 $$ (p-1)! \equiv n^{p-1}\times(p-1)! \pmod p $$ となる。 $p$ は素数なので、 $(p-1)!$ は $p$ と互いに素。 よって、両辺を $(p-1)!$ で割って左右を交換すると、 $$ n^{p-1} \equiv 1 \pmod p $$ となり、フェルマーの小定理が証明できた」
テトラ「あらららっ!!」
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