[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
Share

第475回 シーズン48 エピソード5
平方剰余とルジャンドル記号(前編)

$ \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\LEQ}{\leqq} \newcommand{\GEQ}{\geqq} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\COMMA}{,\,} \newcommand{\VDOTSX}{\,\,\,\vdots} \newcommand{\NOTOKI}{\quad\text{のとき}\quad}% \newcommand{\NARABA}{\quad\text{ならば}\quad}% \newcommand{\KATSU}{\quad\text{かつ}\quad}% \newcommand{\LONGIMPLIES}{\quad\Longrightarrow\quad} \newcommand{\LONGREVIMPLIES}{\quad\Longleftarrow\quad} \newcommand{\notLONGREVIMPLIES}{\quad\not\Longleftarrow\quad} \newcommand{\LONGBOTHIMPLIES}{\quad\Longleftrightarrow\quad} \newcommand{\BULLET}{\blacktriangleright\,\,} \newcommand{\ABS}[1]{\left|#1\right|} \newcommand{\GCD}[2]{\gcd(#1,#2)} \newcommand{\AMARI}{\,\text{余り}\,} \newcommand{\REDTEXT}[1]{\textcolor{red}{\text{#1}}} \definecolor{CUD-GREEN}{rgb}{0.012,0.686,0.478}% 3,175,122 \newcommand{\MARK}[1]{\textcolor{red}{#1}} \newcommand{\MARKB}[1]{\textcolor{blue}{#1}} \newcommand{\MARKC}[1]{\textcolor{CUD-GREEN}{#1}} \newcommand{\PEM}[3]{{#1}^{#2}\equiv{\MARK{#3}}} \newcommand{\SET}[1]{\{#1\}} \newcommand{\SETM}{\,|\,} \newcommand{\BAR}[1]{\overline{#1}} \newcommand{\NSET}[1]{\SET{\BAR{{#1}^1}\COMMA\BAR{{#1}^2}\COMMA\ldots\COMMA\BAR{{#1}^d}}} \newcommand{\MSET}[1]{\SET{\BAR{\MARKB{#1}\,n^1}\COMMA \BAR{\MARKB{#1}\,n^2}\COMMA \ldots\COMMA \BAR{\MARKB{#1}\,n^{d}}}} \newcommand{\REAL}{\mathbb R} \newcommand{\ZEE}{\mathbb Z} \newcommand{\CDOTSNAME}[1]{\quad\cdots\cdots(#1)} $

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。

図書室

ここはの高校。いまは放課後。

が図書室に入ると、 話をしていたクラスメートミルカさんと後輩のテトラちゃんがこっちを向いた。

ミルカ「やっと来たか」

テトラ「せんぱーい! こっちです! お待ちしてました!」

「ねえテトラちゃん。ここは図書室なんだから、大きな声を出しちゃだめだよ」

テトラ「あっ、そ、そうですよね。すみません……つい」

ミルカ「遅かったな」

テトラ「先輩のことをお待ちしてたんですよ」

「あ、そうなんだ」

テトラフェルマーの小定理の話をミルカさんもしてくれるということで、 先輩がいらっしゃるのを待ってたんです」

ミルカ「話はすぐに終わるんだが、テトラが『おあずけ』と命じるので我慢していた」

テトラ「そ、そんなこと言ってませんよぅ!」

フェルマーの小定理

$p$ は素数で、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

このとき、

$$ \large n^{p-1}\equiv 1\pmod p $$

が成り立つ。

ミルカ「フェルマーの小定理の証明は、以前一緒に追った(第400回参照)」

テトラ「はい。数学的帰納法を使いましたね」

「先日はテトラちゃんのイメージを形にするような証明を作ったよ(第473回参照)」

テトラ「そうです。たとえば $p = 7$ のときだと、 $n = 1,2,3,4,5,6$ のどれを使っても、みんな $p-1$ 回目の《ジャンプ》で、 $\MARK1$ にぴったり着地する。 その不思議ポイントから考えをスタートしました」

$7$ を法とする世界で $n$ を掛けるたびに《ジャンプ》する様子 $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline n = 1 & \MARK1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& 1 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 2 & \MARK1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& 1 &\to& 2 &\to& 4 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 3 & \MARK1 &\to& 3 &\to& 2 &\to& 6 &\to& 4 &\to& 5 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 4 & \MARK1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& 1 &\to& 4 &\to& 2 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 5 & \MARK1 &\to& 5 &\to& 4 &\to& 6 &\to& 2 &\to& 3 &\to& \MARK1 \\ \hline n = 6 & \MARK1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& 1 &\to& 6 &\to& \MARK1 \\ \hline \end{array} $$

ここで、 $x \to y$ という《ジャンプ》は、 《$x$ を $n$ 倍して $p$ で割った余り》が $y$ になることを意味する。

「最後のラスボスを倒すのには手間取ったけどね(第474回参照)」

ミルカ「その証明は、さっきテトラから聞いたよ」

テトラ「それで……ミルカさんのお話とは?」

ミルカ「テトラの観察は《$n$ を繰り返し掛ける》ところにあった。 $n$ を掛けるたびに《ジャンプ》をするという比喩を使い、 $\MARK1$ から始めて $p-1$ 回目の《ジャンプ》で $\MARK1$ に着地する。 まさにそれはフェルマーの小定理の主張だ」

「……」

テトラ「……」

ミルカ「ではここで視点を変える。 《ジャンプ》を表す写像 $f_n$ を考えよう」

《ジャンプ》を表す写像 $f_n$

$p$ を素数とし、 $n$ は $p$ と互いに素な整数とする。

集合 $P$ を $$ P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1} $$ で定義し、 $P$ から $P$ への写像 $f_n$ を $$ f_n(x) = \BAR{nx} $$ で定義する。

「つまり、 $f_n(x) = \BAR{nx}$ というのは、 $nx$ を $p$ で割ったときの余りだよね?」

ミルカ「そうだ。 念のためにいっておくと、 $\BAR{nx} \in \SET{\MARKB0,1,2,3,\ldots,p-1}$ であり、 $\MARKB0\not\in P$ だから、 $f_n$ が $P$ から $P$ への写像であるというためには、 $x\in P$ のとき $\BAR{nx}\NEQ\MARKB0$ であることを示す必要がある。 まあ、これは読者の練習問題でいいだろう。 ところで、テトラは $f_n$ は何だかわかるのかな」

テトラ「はい。 $f_n$ がどんなものかはわかります。 たくさん練習しましたから。 たとえば、 $p = 7$ で $n = 2$ のとき、 $f_n$ つまり $f_2$ はこうなります。 $f_2(x)$ は $2$ 倍した $x$ を $7$ で割った余りをとればいいからです」

$p = 7$ で $n = 2$ のときの $f_n$ $$ \begin{array}{|c|ccccccccccccc|} \hline x & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline f_2(x) & 2 & 4 & 6 & 1 & 3 & 5 \\ \hline \end{array} $$

$$ \begin{xalignat*}{2} f_2(1) &= 2 && \text{$2\times 1 \equiv 2 \pmod 7$} \\ f_2(2) &= 4 && \text{$2\times 2 \equiv 4 \pmod 7$} \\ f_2(3) &= 6 && \text{$2\times 3 \equiv 6 \pmod 7$} \\ f_2(4) &= 1 && \text{$2\times 4 \equiv 1 \pmod 7$} \\ f_2(5) &= 3 && \text{$2\times 5 \equiv 3 \pmod 7$} \\ f_2(6) &= 5 && \text{$2\times 6 \equiv 5 \pmod 7$} \end{xalignat*} $$

「うん、 $f_n$ はわかるよ。でもわざわざ $f_n$ と名前を付ける意味はないよね。 だって $\BAR{nx}$ と書けばいいんだから」

ミルカ「私が $f_n$ と名前を付けたのは、 カギになる主張を一言で言いたいからだ」

「カギになる主張?」

ミルカ「それは、

 写像 $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射ぜんたんしゃである

という主張だよ。 別の言い方として、

 写像 $f_n$ は集合 $P$ 上の置換である

といってもいい」

《ジャンプ》は全単射

テトラ「ど、どういう意味でしょう?」

「写像 $f_n$ は、 $1,2,3,\ldots,p-1$ を並べ替えると言ってるんだよ、テトラちゃん」

テトラ「ははあ……こういうことですか。 $p = 7$ で $n = 2$ の例でいうと、

  • $1$ は $f_2$ によって $2$ に移り、
  • $2$ は $f_2$ によって $4$ に移り、
  • $3$ は $f_2$ によって $6$ に移り、
  • $4$ は $f_2$ によって $1$ に移り、
  • $5$ は $f_2$ によって $3$ に移り、
  • $6$ は $f_2$ によって $5$ に移るので、
結局は、 $1,2,3,4,5,6$ を $2,4,6,1,3,5$ に並べ替える?」

写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ による $x = 1,2,3,\ldots,p-1$ の並べ替え $(p = 7, n = 2)$

「そうだね。 全単射だから《もれなく、だぶりなく》移されてくる。 だから並べ替えになる」

テトラ「あれ? それって、どんな $n$ と $p$ でも? そんなこといえるんですか?」

「そりゃそうだよね。だって、 $n$ と $p$ は互いに素なんだから」

テトラ「えっえっ?」

ミルカ「そこで引っかかるなら、ちゃんと示す価値がありそうだ」

問題

$p$ を素数とし、 $n$ と $p$ は互いに素とする。 $P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1}$ のとき、 $P$ から $P$ への写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は全単射になることを示せ。

テトラ「わからなくなってしまいました……」

ミルカ「どこまでならわかっている?」

テトラ「はい。 $n$ と $p$ が互いに素のとき、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ から $$ a\equiv b\pmod p $$ がいえることまではわかっています。 $p$ と《互いに素》な $n$ なら、 両辺を《割れる》んです」

「それだよ」

ミルカ「そこだな」

テトラ「えっ、えっ、えっ?」

テトラちゃんミルカさんを見比べるように顔を振る。

ミルカ「君が、まず単射性を示す」

ミルカさんはそう言ってを指さした。

「テトラちゃんがいま言ったことは、 そのまま $f_n$ が単射であることの証明につながるよ。 $a,b$ を $P$ の要素として、 $f_n$ で移した先が等しいと仮定する。 つまり、 $$ f_n(a) = f_n(b) $$ を仮定する。これは $f_n$ の定義から $\BAR{an} = \BAR{bn}$ ということで、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ になる。テトラちゃんがいま言った通り、両辺を $n$ で割れるから、 $$ a\equiv b\pmod p $$ がいえる。 $a$ も $b$ も $1$ 以上 $p-1$ 以下だから、 $$ a = b $$ になる。 $P$ の要素 $a,b$ に対して $$ f_n(a) = f_n(b) \NARABA a = b $$ が示されたから $f_n$ は単射だね」

テトラ「あ……《移った先が等しいなら、もとも等しい》。 つまり $f_n$ は《だぶりなく》移す……つまり単射です」

ミルカ「そこから全射性はすぐに言える。 $P$ は、要素がちょうど $p-1$ 個ある有限集合で、 $p-1$ 個の要素が《だぶりなく》移るのだから、 移った先も $p-1$ 個になる。 ところが $P$ の要素はぜんぶで $p-1$ 個しかないから……」

テトラ「$f_n$ は《もれなく》移す全射にもなってます!」

ミルカ「単射かつ全射。ゆえに $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射」

問題(再掲)

$p$ を素数とし、 $n$ と $p$ は互いに素とする。 $P = \SET{1,2,3,\ldots,p-1}$ のとき、 $P$ から $P$ への写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は全単射になることを示せ。

解答

$x\in P$ とする。 $p$ は素数であり、 $n$ も $x$ も $p$ で割り切れないので、 積 $nx$ は $p$ で割り切れない。 すなわち $\BAR{nx}\NEQ\MARKB0$ なので、 $f_n(x) = \BAR{nx}\in P$ である。

$a,b\in P$ が $f_n(a) = f_n(b)$ を満たすとすると、 $$ an\equiv bn\pmod p $$ が成り立つ。 $n$ と $p$ は互いに素なので、 $$ a\equiv b\pmod p $$ が成り立つ。 $a$ も $b$ も $1$ 以上 $p-1$ 以下なので、 $$ a = b $$ である。よって、 $f_n$ は単射である。

$P$ は $p-1$ 個の要素を持つ有限集合なので、 単射 $f_n$ が $P$ の $p-1$ 個の要素を移した先は、相異なる $p-1$ 個の $P$ の要素である。 $P$ の要素は全部で $p-1$ 個なので、 $f_n$ は全射である。

したがって、 $f_n$ は $P$ から $P$ への全単射である。

(証明終わり)

フェルマーの小定理?

「ところで 《$f_n$ は全単射》 から何がいえるの?」

テトラ「フェルマーの小定理のお話ですよね?」

ミルカ「写像 $f_n(x) = \BAR{nx}$ は $P$ 上の全単射だから、 $$ \SET{1\COMMA2\COMMA3\COMMA\ldots\COMMA p-1} = \SET{\BAR{1n}\COMMA\BAR{2n}\COMMA\BAR{3n}\COMMA\ldots\COMMA\BAR{(p-1)n}} $$ が成り立つ」

「そうだね」

テトラ「はい、順番は変わるかもしれませんが、 $1,2,3,\ldots,p-1$ という $p-1$ 個の要素を持つ集合ですよね」

ミルカ「そこで全要素をすべて掛け合わせると、 $$ 1\times2\times3\times\cdots\times(p-1) = \BAR{1n}\times\BAR{2n}\times\BAR{3n}\times\cdots\times\BAR{(p-1)n} $$ から、 $$ 1\times2\times3\times\cdots\times(p-1) \equiv 1n\times2n\times3n\times\cdots\times(p-1)n \pmod p $$ となり、 $$ (p-1)! \equiv n^{p-1}\times(p-1)! \pmod p $$ となる。 $p$ は素数なので、 $(p-1)!$ は $p$ と互いに素。 よって、両辺を $(p-1)!$ で割って左右を交換すると、 $$ n^{p-1} \equiv 1 \pmod p $$ となり、フェルマーの小定理が証明できた」

テトラ「あらららっ!!」

無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには「読み放題プラン」へのご参加が必要です。

ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 470本以上の記事がすべて読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。


参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら

結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加

(2026年7月24日)

[icon]

結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

Twitter note 結城メルマガ Mastodon Bluesky Threads Home