登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕とイトコのユーリは、 カレンダーを使った計算を楽しんでいた。 あたかも《数の足し算》をするように《曜日の足し算》ができる。 そんな話だ(第471回参照)。
それから僕は、 《同じ曜日かどうか》を調べるには《日付の差が $7$ の倍数かどうか》を調べればいいと言って……
僕「合同式を使うと、 《曜日が同じである》 ことをめちゃめちゃすっきり書けるんだよ。 たとえば、 日付 $2$ と日付 $16$ が同じ曜日であることを、 $$ 2 \equiv 16 \pmod 7 $$ と書ける!」
ユーリ「ごーどーしき?」
僕「そう。便利だよ!」
ユーリ「そんなに便利なんだったら、先にそれを教えてよね!」
僕「ごもっとも……じゃあ、ちゃんと話すよ」
合同式
$m$ を $0$ 以外の整数とする。
整数 $a$ と整数 $b$ の差が $m$ の倍数になるとき、
$a$ と $b$ は $m$ を法として合同である
といい、
$$ a \equiv b \pmod m $$ と書く。このような式を合同式という。
ユーリ「……めんどくさい話になってきた?」
僕「いやいや、何もめんどくさくないよ。 たとえば、これはどう?」
等式
数 $a$ と数 $b$ の差が $0$ になるとき、
$a$ と $b$ は等しい
といい、
$$ a = b $$ と書く。このような式を等式という。
ユーリ「等式? めんどくさくないよ。 $a$ と $b$ が等しい。 $a=b$ と書く。知ってるもん」
僕「合同式は等式とよく似ている。 $a$ と $b$ が $m$ を法として合同。それを $a\equiv b \pmod m$ と書く」
ユーリ「まあ……似てるっちゃ、似てる?」
僕「こんなふうに定義を書いた方がわかりやすいかな?」
合同式と等式の定義は似ている
$$ \renewcommand{\arraycolsep}{2pt} \begin{array}{lcl} a \equiv b \pmod m &\LONGBOTHIMPLIES& a - b = mk \,\text{となる整数 $k$ が存在する} \\ a = b &\LONGBOTHIMPLIES& a - b = 0 \end{array} $$
ユーリ「おっ、似てる似てる!」
僕「具体的に見るとはっきりわかるよ。たとえば、この合同式は成り立つ。 $$ 8 \equiv 1 \pmod 7 $$ なぜかというと……なぜだかわかる?」
ユーリ「同じ曜日だから?」
僕「そうだね。カレンダーでいえばそう。 どんなカレンダーのどんな月でも $8$ 日と $1$ 日は同じ曜日になる。 それは、カレンダーを見ればわかる。 でもいまは定義に戻って考えよう。 こんなふうにね」
$$ 8 \equiv 1 \pmod 7 \LONGBOTHIMPLIES 8 - 1 = 7k \,\text{となる整数 $k$ が存在する} $$ユーリ「$k = 1$」
僕「そうだね。 $k = 1$ とすれば $8 - 1 = 7k$ が成り立つ。 つまり、 $8 - 1 = 7k$ となる整数 $k$ が存在する。 だから、 $8\equiv 1\pmod 7$ は成り立つ」
ユーリ「それって《同じ曜日の日付の差は $7$ の倍数になる》って言ってる?」
僕「そうだよ。カレンダーを見て《二つの日付が同じ曜日かどうか》を考えているときは、 《二つの日付の差が $7$ の倍数かどうか》を考えている。 言い方を変えると、 《二つの整数が $7$ を法として合同かどうか》 を考えているわけだ」
ユーリ「わかってきた!《$m$ を法として》の感じ。一週間が $m$ 日なんだね」
僕「じゃあ、これは成り立つ?」
$$ 2 \equiv 16 \pmod 7 $$ユーリ「$2 - 16 = -14$ だから、成り立つ! $k = -2$ でしょ?」
僕「そうだね。 $k = -2$ とすれば $2 - 16 = -14 = 7k$ が成り立っている。 だから、 $2$ と $16$ は $7$ を法として合同といえる」
ユーリ「……」
僕「……どうした?」
ユーリ「お兄ちゃん、 $0$ って $7$ の倍数だよね?」
僕「うん、 $0$ は $7$ の倍数だよ」
ユーリ「だったら、 $$ a \equiv a \pmod 7 $$ は $a$ が何でも成り立つ?」
僕「すばらしいな! その通りだよ!」
ユーリ「だって、 $$ a - a = 0 $$ だから。差が $7$ の倍数。だから $a$ と $a$ は法のもとで平等」
僕「そうそう。ただ、『法のもとで平等』じゃなくて『$7$ を法として合同』だよ」
ユーリ「あっ! ちょっと言い間違えただけじゃん!」
僕「それはともかく……ユーリの発見からも、 等式と合同式が似ていることがわかるね。 つまり、 $a = b$ なら $a \equiv b \pmod m$ が成り立つから」
$a$ と $b$ が等しいとき、 $a$ と $b$ は合同になる $$ a = b \LONGIMPLIES a \equiv b \pmod m $$
ユーリ「同じ日は同じ曜日だから。 あー、でも曜日が同じでも同じ日とは限らないよね?」
僕「その通り。 $a$ と $b$ が合同だからといって、 $a$ と $b$ が等しいとは限らない。 たとえば、 $1\equiv8\pmod 7$ だけど、 $1\NEQ8$ だね」
$a$ と $b$ が合同だからといって、 $a$ と $b$ が等しいとは限らない $$ a = b \notLONGREVIMPLIES a \equiv b \pmod m $$
ユーリ「ふむふむ」
僕「$a = b$ という等式が成り立つとき、 $a + C = b + C$ も成り立つ。 つまり、同じ数を足してもいい」
ユーリ「当たり前」
僕「では、 $a \equiv b \pmod m$ という合同式が成り立つとき、 $a + C\equiv b + C\pmod m$ も成り立つだろうか?」
ユーリ「えーと……成り立つっしょ?」
僕「早いな!」
ユーリ「だって、 $a$ と $b$ が同じ曜日だったら、両方を $C$ 日動かしても同じ曜日だもん」
$a = 9$ 日と $b = 23$ 日が同じ曜日だったら、両方を $C = 4$ 日動かしても同じ曜日

僕「なるほど。ユーリは $7$ を法として考えたわけだね。いいね! ところで、 それは $m = 7$ 以外でもいえる?」
するとユーリは一瞬だけ天井を見て答えた。
ユーリ「いえる! 一週間が何日でも同じことがいえるから!」
$a$ 日と $b$ 日が同じ曜日だったら、両方を $C$ 日動かしても同じ曜日

僕「ユーリはちゃんとわかっているんだね。 でも、数式でも確かめよう。定義に戻って証明するんだ」
ユーリ「なんで? もうわかってるのに?」
僕「きちんと確かめるためだね」
ユーリ「ふーん」
僕「といっても、 $$ a \equiv b \pmod m \LONGIMPLIES a + C\equiv b + C\pmod m $$ を証明するのは簡単だよ」
命題
$m$ を $0$ 以外の整数とし、 $a$ と $b$ を整数とする。
このとき、 $$ a \equiv b \pmod m $$ ならば、 どんな整数 $C$ に対しても、 $$ a+C \equiv b+C \pmod m $$ が成り立つ。
証明
$a\equiv b \pmod m$ ならば、 $$ a - b = mk $$ を満たす整数 $k$ が存在する。 このとき、どんな整数 $C$ に対しても $$ (a + C) - (b + C) = mk $$ が成り立つ。 よって、 $$ a + C\equiv b + C\pmod m $$ が成り立つ。
(証明終わり)
ユーリ「あらま。簡単ですこと」
僕「だよね。これで合同な二つの整数に同じ整数 $C$ を足しても合同であることがわかった」
ユーリ「ふんふん」
僕「もちろん、 $C$ を引いても合同だね。 $C' = -C$ として $C'$ を足すと考えればいいから」
ユーリ「足し算、引き算……だったら、掛け算もできそう! $$ a\equiv b\pmod m $$ のとき、 $$ aC\equiv bC\pmod m $$ になる?」
僕「どう思う?」
ユーリ「できる! ユーリ、証明やってみる!」
問題
次の命題を証明せよ。
$m$ を $0$ 以外の整数とし、 $a$ と $b$ を整数とする。
このとき、 $$ a \equiv b \pmod m $$ ならば、どんな整数 $C$ に対しても、 $$ aC \equiv bC \pmod m $$ が成り立つ。

僕「どう?」
ユーリ「できた! お兄ちゃんのさっきの証明とおんなじだ!」
証明
$a\equiv b \pmod m$ ならば、 $$ a - b = mk $$ を満たす整数 $k$ が存在する。 このとき、どんな整数 $C$ に対しても $$ aC - bC = mkC $$ が成り立つ。 よって、 $$ aC\equiv bC\pmod m $$ が成り立つ。
(証明終わり)
僕「いいねえ!」
ユーリ「これで割り算もできることがわかった!」
僕「おっと! 割り算もできるとはならないよ!」
ユーリ「へ? $C$ を掛けて成り立つんだから、 $C' = 1/C$ として $C'$ を掛ければいいじゃん?」
僕「そうはいかないよ。 $a\equiv b\pmod m$ が成り立つからといって、 どんな整数 $C$ でも $$ \frac{a}{C}\equiv\frac{b}{C}\pmod m $$ とはならない」
ユーリは首を傾げた。

ユーリ「あー! わかった。ゼロ割りになっちゃうかもしれない! だから、 『どんな整数 $C$ に対しても $a/C\equiv b/C\pmod m$ が成り立つ』じゃなくて、 『ゼロ以外の整数 $C$ に対して $a/C\equiv b/C\pmod m$ が成り立つ』にすればいいね!」
僕「えらい! よく気がついたね。でも、それではまだ不十分なんだ」
ユーリ「なんで?」
僕「まず第一に、 $a$ と $C$ が整数のとき、 $a/C$ が整数になるとは限らないから」
ユーリ「あっ……確かに。 $a=1$ と $C=2$ で $a/C = 0.5$ ってことか……」
僕「しかも、割り算の結果が整数になる場合でも、合同じゃなくなることがある」
ユーリ「へー……さっぱりわからん」
僕「たとえば、 $m = 6$ として考える。 $6$ を法とするということだよ。 このとき、 $$ 8 \equiv 2 \pmod 6 $$ が成り立つよね?」
ユーリ「$8 - 2 = 6$ で $6$ の倍数だから?」
僕「そうだね。では $8$ と $2$ をそれぞれ $2$ で割ってみよう」
$2$ で割ってみる(法は $6$)
$$ \begin{array}{rcllll} 8 &\equiv & 2 &\pmod 6 & \\ \downarrow & & \downarrow & & \REMTEXT{$\downarrow\quad2$で割った}\\ 4 &\not\equiv& 1 &\pmod 6 & \end{array} $$
ユーリ「ほんとだ。 $4 - 1 = 3$ だから $6$ の倍数じゃない……」
僕「だから、 $D$ を $0$ 以外の整数として、 $aD\equiv bD\pmod m$ だとしても、 $a\equiv b\pmod m$ になるとは限らない」
ユーリ「えー……なんで? 足し算はスッと引き算にできたのに、 掛け算はスッと割り算にできないの?」
僕「不思議に思うよね」
ユーリ「思う思う。数学ってもっと、こう、シュッと行くんじゃないの? ミステリーじゃあ!」
僕「そのミステリーを考えてみよう」
ユーリ「おお!」
僕「$8\equiv 2\pmod 6$ のとき、《$2$ で割る》のがうまくいかなかった。 割り算は掛け算の逆演算だと考えると、《$2$ 倍する》のを考えたらいいと思う」
ユーリ「なんで?」
僕「こういう図を見ればわかるよね」

ユーリ「わからん。これなに?」
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