登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕「そうするとね、
《以下($\leqq$)》という関係
を
$R_{\leqq}$ という集合
として表せたことになるんだ」
テトラ「《関係》を《集合》として表す……ちょ、ちょっと考えさせてくださいっ!」
そう言うとテトラちゃんは爪を噛みながら真剣に考え始めた。
ここは僕の高校、放課後の図書室。
僕と後輩のテトラちゃんは《順序》について数学トークをしていた。
いまはちょうど《関係》を《集合》を使って表す説明をしたところ(第465回参照)。
僕は彼女が考えている様子を見つめる。
僕「……」
テトラ「も、もうちょっと考えてもいいですか?」
僕「もちろん。好きなだけ時間を使っていいんだよ」
数学ではよくある。
でも、わかるまでは、めちゃめちゃわからないこと。
何がわからないのか、 どうしてわからないのか、 それを言葉にすることすら難しいこと。
数学ではそういうことがたくさんある。
そして、 《わからない》 を 《わかった、そういうことか》 に持っていくためには、 自分の頭で考えることが必要になる。
でも、自分の頭で考えても、 すぐに《わかった、そういうことか》になるとは限らない。
だから、時間が必要になる。
やがて、テトラちゃんが顔を上げた。
テトラ「……整理させてください。こういうことでしょうか」
考えていることの整理
あたしたちは《関係》という数学的な概念を考えようとしています。 数学用語としての《関係》です。
単純な例として $0, 1, 2$ という三個の数からなる《集合》を題材に取りました。 その集合の名前を $S$ とします。
$$ S = \SET{0,1,2} $$
そして、 $0,1,2$ という三個の数から——つまり集合 $S$ の要素から——二個の数をペアにしたものすべてを集めた集合を考えます。
つまり、 $(0,0)$ や $(1,2)$ や $(2,1)$ のようなペアのすべてを集めます。
それが集合の直積 $S\times S$ です。
$$ \begin{array}{rcllllll} S \times S &=& \left\{\right. & \\ & & & (0,0), & (0,1), & (0,2), \\ & & & (1,0), & (1,1), & (1,2), \\ & & & (2,0), & (2,1), & (2,2) \\ & & \left.\right\} & \end{array} $$
そして、この九個のペアから——つまり集合 $S\times S$ の要素から——ええと、 $x \leqq y$ が成り立つペア $(x,y)$ をすべて集めた集合を考えます。
つまり、 $(0,0)$ や $(1,2)$ や $(0,2)$ などです。 でも、 $(2,0)$ は集めません。なぜなら $2 \leqq 0$ は成り立たないからです。
そうやって $x \leqq y$ が成り立つペア $(x,y)$ をすべて集めた集合を $R_{\leqq}$ と名付けます。
$$ \begin{array}{rcllllll} R_{\leqq} &=& \left\{\right. & \\ & & & (0,0), & (0,1), & (0,2), \\ & & & & (1,1), & (1,2), \\ & & & & & (2,2) \\ & & \left.\right\} & \end{array} $$
そして、 $R_{\leqq}$ という《集合》のことを《以下($\leqq$)》という《関係》だと見なしましょうっ!
……と、そういうお話だと理解しました。
僕「すごい! その通りだよ、テトラちゃん」
テトラ「ずいぶん時間が掛かってしまいましたが、 たぶん、納得できたと思います。 あのですね、先輩、テトラの話を聞いてください」
僕「うんうん。何?」
テトラ「あたしは、 先輩のお話を聞いていて、 頭の中が裏返ったような感覚がありました(第465回参照)」
僕「そう言ってたね」
テトラ「それは、どうしても、 《関係》を《集合》として表す という考えが、 なかなか頭に着地してくれなかったんです」
僕「うん」
テトラ「そのときのあたしの頭の中では、こういう考えがうごめいていました」
テトラの中でうごめいていた考え
《関係》というからには、二つのものがあって、 相互に絡み合い、 バランスを取り合い、 関わり合うような、 そんな状況を表しているはずだ。
それなのに《集合》という数学的なものが《関係》を表しているなんて、 いったいどういうことなのだろう……
僕「……」
テトラ「状況ともの。 それがどうして同じなのか……という考えが、 あたしの中でうごめいていたんです。 だから、その考えをうまくおさめるまでに時間が掛かってしまいました」
テトラちゃんはそう言うと、 大きな折り紙でも折りたたむようなジェスチャーをした。
うごめく考えをおさめる様子なんだろうか。
僕「なるほどなあ……すごくよくわかる。 テトラちゃんは自分が腑に落ちないところを丹念に探っていたんだね!」
テトラ「はい、でも、あたしなりに何とか納得できたと思います。 あのですね。それは $x \leqq y$ とは何かを考えてわかりました」
僕「おお!」
テトラ「あたしは《関係》という言葉のイメージに引っ張られて、 相互に絡み合うとか、バランスを取り合うとか、関わり合うということを考えてしまっていました。 でも、よくよく考えると《以下($\leqq$)》という《関係》は、最終的には、
$x \leqq y$ が成り立つか?
という問いの答えを決めているものなんですね?」
僕「うんうん!」
テトラ「そして、いま $x$ や $y$ というのは $0,1,2$ のどれかで考えているわけですから、
というのが《以下($\leqq$)》という《関係》を表すために必要な、すべての情報です。
そして、それは次の情報とまったく同じになります!
ここまで具体的に考えて、あたしはようやく先輩がおっしゃっていた、 $$ R_{\leqq} = \SET{ (0,0), (0,1), (0,2), (1,1), (1,2), (2,2) } $$ としたとき、
$x \leqq y$ が成り立つこと
は、
$(x,y)$ が集合 $R_{\leqq}$ の要素であること
と同値であると納得がいきました。 最初から先輩はそうやって説明してくださっていたのに、 あたしは具体的に一つ一つ確かめるまでは、わかりませんでした……いつもながらトロくてすみません」
僕「いやいや、とんでもないよ、テトラちゃん。 ぜんぜんトロくなんかない。 いまのテトラちゃんはもう、 $$ x \leqq y \LONGBOTHIMPLIES (x,y) \in R_{\leqq} $$ も納得できるね」
テトラ「えっと、はい。わかります。 これは、
僕「うん、そうなんだけど、 でも人から言われるだけじゃ、 なかなか納得はできないよね」
テトラ「はい……そういうところはあります。 自分で具体的に考えてみて、 はじめて『そういうことなんだ!』と納得できます。 その瞬間、すごくすっきりします」
僕「テトラちゃんは《表》の別表現を見たときに、 $(x,y)$ を点の座標のようだと言ってたよね。 そんなふうにいろんな数学的概念が結びつくのは楽しいと思う」
《以下($\leqq$)》という関係を表す表の別表現

テトラ「はい」
僕「この《以下($\leqq$)》という《関係》をグラフとして表すこともできるよね。 $(x,y)$ を $x$ 座標と $y$ 座標の組として扱うんだよ」
テトラ「《関係》をグラフとして表す……でも、 グラフといっても曲線にはなりませんよね? 点の集まりにしかなりません」
僕「でも、曲線だって点の集まりだよ。 座標平面上の点の集まりが曲線や直線のような図形になってるんだから……」
テトラ「あっ、あっ、もしかして、 《以下($\leqq$)》という《関係》をグラフとして表すというのは、 こういう意味ですか?」
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