[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
Share

第466回 シーズン47 エピソード6
《関係》って何だろう?(後編) ただいま無料

$ \newcommand{\MARK}[1]{\textcolor{red}{#1}} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\SET}[1]{\{\,#1\,\}} \newcommand{\BOTHIMPLIES}{\Leftrightarrow} \newcommand{\LONGBOTHIMPLIES}{\quad\Longleftrightarrow\quad} \newcommand{\REAL}{\mathbb R} $

Web連載読み放題プランのおすすめ

Web連載読み放題にご参加の方は、公開済みの記事はすべて読み放題です!

Web連載読み放題について詳しく

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

《関係》を《集合》で表す

「そうするとね、

 《以下($\leqq$)》という関係

  $R_{\leqq}$ という集合

として表せたことになるんだ」

テトラ「《関係》を《集合》として表す……ちょ、ちょっと考えさせてくださいっ!」

そう言うとテトラちゃんは爪を噛みながら真剣に考え始めた。

ここはの高校、放課後の図書室。

と後輩のテトラちゃんは《順序》について数学トークをしていた。

いまはちょうど《関係》を《集合》を使って表す説明をしたところ(第465回参照)。

は彼女が考えている様子を見つめる。

「……」

テトラ「も、もうちょっと考えてもいいですか?」

「もちろん。好きなだけ時間を使っていいんだよ」

数学ではよくある。

  • わかってしまえば、当たり前に見えること。
  • わかってしまえば、当然すぎると感じること。
  • わかってしまえば、なぜわからなかったのが不思議に思えること。

でも、わかるまでは、めちゃめちゃわからないこと。

何がわからないのか、 どうしてわからないのか、 それを言葉にすることすら難しいこと。

数学ではそういうことがたくさんある。

そして、 《わからない》 を 《わかった、そういうことか》 に持っていくためには、 自分の頭で考えることが必要になる。

でも、自分の頭で考えても、 すぐに《わかった、そういうことか》になるとは限らない。

だから、時間が必要になる。

やがて、テトラちゃんが顔を上げた。

テトラ「……整理させてください。こういうことでしょうか」

考えていることの整理

あたしたちは《関係》という数学的な概念を考えようとしています。 数学用語としての《関係》です。

単純な例として $0, 1, 2$ という三個の数からなる《集合》を題材に取りました。 その集合の名前を $S$ とします。

$$ S = \SET{0,1,2} $$

そして、 $0,1,2$ という三個の数から——つまり集合 $S$ の要素から——二個の数をペアにしたものすべてを集めた集合を考えます。

つまり、 $(0,0)$ や $(1,2)$ や $(2,1)$ のようなペアのすべてを集めます。

それが集合の直積 $S\times S$ です。

$$ \begin{array}{rcllllll} S \times S &=& \left\{\right. & \\ & & & (0,0), & (0,1), & (0,2), \\ & & & (1,0), & (1,1), & (1,2), \\ & & & (2,0), & (2,1), & (2,2) \\ & & \left.\right\} & \end{array} $$

そして、この九個のペアから——つまり集合 $S\times S$ の要素から——ええと、 $x \leqq y$ が成り立つペア $(x,y)$ をすべて集めた集合を考えます。

つまり、 $(0,0)$ や $(1,2)$ や $(0,2)$ などです。 でも、 $(2,0)$ は集めません。なぜなら $2 \leqq 0$ は成り立たないからです。

そうやって $x \leqq y$ が成り立つペア $(x,y)$ をすべて集めた集合を $R_{\leqq}$ と名付けます。

$$ \begin{array}{rcllllll} R_{\leqq} &=& \left\{\right. & \\ & & & (0,0), & (0,1), & (0,2), \\ & & & & (1,1), & (1,2), \\ & & & & & (2,2) \\ & & \left.\right\} & \end{array} $$

そして、 $R_{\leqq}$ という《集合》のことを《以下($\leqq$)》という《関係》だと見なしましょうっ!

……と、そういうお話だと理解しました。

「すごい! その通りだよ、テトラちゃん」

テトラ「ずいぶん時間が掛かってしまいましたが、 たぶん、納得できたと思います。 あのですね、先輩、テトラの話を聞いてください」

「うんうん。何?」

テトラ「あたしは、 先輩のお話を聞いていて、 頭の中が裏返ったような感覚がありました(第465回参照)」

「そう言ってたね」

テトラ「それは、どうしても、 《関係》を《集合》として表す という考えが、 なかなか頭に着地してくれなかったんです」

「うん」

テトラ「そのときのあたしの頭の中では、こういう考えがうごめいていました」

テトラの中でうごめいていた考え

《関係》というからには、二つのものがあって、 相互に絡み合い、 バランスを取り合い、 関わり合うような、 そんな状況・・を表しているはずだ。

それなのに《集合》という数学的なもの・・が《関係》を表しているなんて、 いったいどういうことなのだろう……

「……」

テトラ状況・・もの・・。 それがどうして同じなのか……という考えが、 あたしの中でうごめいていたんです。 だから、その考えをうまくおさめるまでに時間が掛かってしまいました」

テトラちゃんはそう言うと、 大きな折り紙でも折りたたむようなジェスチャーをした。

うごめく考えをおさめる様子なんだろうか。

「なるほどなあ……すごくよくわかる。 テトラちゃんは自分が腑に落ちないところを丹念に探っていたんだね!」

テトラ「はい、でも、あたしなりに何とか納得できたと思います。 あのですね。それは $x \leqq y$ とは何かを考えてわかりました」

「おお!」

テトラ「あたしは《関係》という言葉のイメージに引っ張られて、 相互に絡み合うとか、バランスを取り合うとか、関わり合うということを考えてしまっていました。 でも、よくよく考えると《以下($\leqq$)》という《関係》は、最終的には、

  $x \leqq y$ が成り立つか?

という問いの答えを決めているものなんですね?」

「うんうん!」

テトラ「そして、いま $x$ や $y$ というのは $0,1,2$ のどれかで考えているわけですから、

  • $0 \leqq 0$ は成り立つか?……○
  • $0 \leqq 1$ は成り立つか?……○
  • $0 \leqq 2$ は成り立つか?……○
  • $1 \leqq 0$ は成り立つか?……×
  • $1 \leqq 1$ は成り立つか?……○
  • $1 \leqq 2$ は成り立つか?……○
  • $2 \leqq 0$ は成り立つか?……×
  • $2 \leqq 1$ は成り立つか?……×
  • $2 \leqq 2$ は成り立つか?……○

というのが《以下($\leqq$)》という《関係》を表すために必要な、すべての情報・・です。

そして、それは次の情報とまったく同じになります!

  • $(0,0)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○
  • $(0,1)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○
  • $(0,2)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○
  • $(1,0)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……×
  • $(1,1)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○
  • $(1,2)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○
  • $(2,0)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……×
  • $(2,1)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……×
  • $(2,2)$ は集合 $R_{\leqq}$ の要素か?……○

ここまで具体的に考えて、あたしはようやく先輩がおっしゃっていた、 $$ R_{\leqq} = \SET{ (0,0), (0,1), (0,2), (1,1), (1,2), (2,2) } $$ としたとき、

  $x \leqq y$ が成り立つこと

は、

  $(x,y)$ が集合 $R_{\leqq}$ の要素であること

と同値であると納得がいきました。 最初から先輩はそうやって説明してくださっていたのに、 あたしは具体的に一つ一つ確かめるまでは、わかりませんでした……いつもながらトロくてすみません」

「いやいや、とんでもないよ、テトラちゃん。 ぜんぜんトロくなんかない。 いまのテトラちゃんはもう、 $$ x \leqq y \LONGBOTHIMPLIES (x,y) \in R_{\leqq} $$ も納得できるね」

テトラ「えっと、はい。わかります。 これは、

  • $x \leqq y$ ならば $(x,y) \in R_{\leqq}$ である。
  • $(x,y) \in R_{\leqq}$ ならば $x \leqq y$ である。
ということですから、さっきの話の言い換えですね……ああ、 これも先輩は最初からおっしゃっていました」

「うん、そうなんだけど、 でも人から言われるだけじゃ、 なかなか納得はできないよね」

テトラ「はい……そういうところはあります。 自分で具体的に考えてみて、 はじめて『そういうことなんだ!』と納得できます。 その瞬間、すごくすっきりします」

点とグラフ

「テトラちゃんは《ひょう》の別表現を見たときに、 $(x,y)$ を点の座標のようだと言ってたよね。 そんなふうにいろんな数学的概念が結びつくのは楽しいと思う」

《以下($\leqq$)》という関係を表す表の別表現

テトラ「はい」

「この《以下($\leqq$)》という《関係》をグラフとして表すこともできるよね。 $(x,y)$ を $x$ 座標と $y$ 座標の組として扱うんだよ」

テトラ「《関係》をグラフとして表す……でも、 グラフといっても曲線にはなりませんよね? 点の集まりにしかなりません」

「でも、曲線だって点の集まりだよ。 座標平面上の点の集まりが曲線や直線のような図形になってるんだから……」

テトラ「あっ、あっ、もしかして、 《以下($\leqq$)》という《関係》をグラフとして表すというのは、 こういう意味ですか?」

《以下($\leqq$)》という《関係》をグラフとして表す

「そうだね。 $x \leqq y$ という関係を満たす点 $(x,y)$ を黒い点で表している。 それはこの《以下($\leqq$)》という《関係》のグラフといえるし、 また $R_{\leqq}$ という《集合》の点を図示したものともいえる」

そこでテトラちゃんは小首をかしげた。

テトラ「……あたしは、 $x \leqq y$ という不等式を満たす座標平面上の領域を、 描いたことがあります。こういうものです。 これは $x$ と $y$ がどんな実数をとっても構わないからですね」

$x \leqq y$ という不等式を満たす座標平面上の領域

「まさにそうだね! いまテトラちゃんは、 《以下($\leqq$)》という《関係》を……

  • $S = \SET{0,1,2}$ という集合の直積 $S \times S$ の部分集合じゃなくて、
  • 実数全体の集合 $\REAL$ の直積 $\REAL \times \REAL$ の部分集合として考えた

……ということだね!」

テトラ「なるほどです! ……これ、おもしろいですね。 何だかぐるっと回って帰ってきたみたいです」

「え……それはどういう比喩なんだろう」

テトラ「$\SET{0,1,2}$ という小さなおもちゃで遊んでいたと思っていたら、 急に、あたしが知っている数学とつながったみたいな感じです。 わ、わかりにくいですよね」

「いや、わかるよ。 さっきの六個の点をこの領域に重ねて描くのもおもしろいね。 領域の離散バージョンみたいだ」

《関数》は《関係》

テトラ「ちょっとお待ちください、先輩!」

「ん?」

テトラ「もしかして《関数かんすう》も《関係かんけい》ですか?」

「ああ、そうだね。確かにそういえる。 あれ、そういえば……」

テトラ「あたし、思い出しましたよ。 すっかり忘れてました。 先輩とミルカさんと三人で、 《関数》というものを《集合》で表したことがありました!」

「あったあった(第206回参照)。 $f$ という《関数》に対して、 $y = f(x)$ を満たす点 $(x,y)$ 全体の《集合》を考えるわけだ」

テトラ「はい。そうすれば《関数》を《集合》で表せることになります。 そしてそれは《関係》を《集合》で表したのと同じ方法ですよね?」

「うん、そうなる。 ただし、《関数》の場合には、 $x$ に対して $f(x)$ の値はたった一つに定まる必要がある。 それは《関数》という言葉の定義。 でも、一般の《関係》にはそんな制限はない。 だから、《関係》がすべて《関数》になるわけじゃないね」

テトラ「ええと、ええと、それは…… たとえば $x \leqq y$ を満たす $(x,y)$ は $x$ に対して一つとは限らないから?」

「そういうこと。 もちろん逆はいえる。だから……

  • 《関係》は《関数》とは限らない。でも、
  • 《関数》は《関係》である。
ということだね」

テトラちゃんは両手を頭に乗せた。何かを思いついたようだ。

テトラ「《以下($\leqq$)》は《関数》じゃないですけど、 《等しい($=$)》は《関数》です。そうですよね?」

「ああ、そうなるね。 $x$ を決めたとき、 $x = y$ を満たす $y$ は一つに決まるから」

テトラ「納得です!」

「実際のところ、 《等しい($=$)》という《関係》と、《$f(x) = x$》という《関数》は同じグラフを描くことになるね。 $\REAL\times\REAL$ で考えた場合でも、 $S = \SET{0,1,2}$ の直積 $S\times S$ で考えた場合でも」

《等しい($=$)》という《関係》と、《$f(x) = x$》という《関数》は同じグラフ

(実数全体の集合 $\REAL$ の直積 $\REAL\times\REAL$ で考えた場合)

《等しい($=$)》という《関係》と、《$f(x) = x$》という《関数》は同じグラフ

($S = \SET{0,1,2}$ の直積 $S\times S$ で考えた場合)

余りを求める《関数》は……

テトラ「それにしても $S = \SET{0,1,2}$ という小さな集合を使って考えるのは楽しいです。 すべてを根気よく列挙すれば、具体的に確かめられますから!」

「なるほど。テトラちゃんらしいね。 ああ、だったら、こういう《関数》はどうだろう。 これも《関係》として《集合》で表せるよね」

$S = \SET{0,1,2}$ とする。

$S$ から $S$ への関数 $f$ を次のように定義する。

$$ f(x) = \begin{cases} 1 & \REMTEXT{$x = 0$のとき} \\ 2 & \REMTEXT{$x = 1$のとき} \\ 0 & \REMTEXT{$x = 2$のとき} \\ \end{cases} $$

テトラ「ははあ、つまり、

  • $f(0) = 1$
  • $f(1) = 2$
  • $f(2) = 0$
ということですから、一つずつズレる、というか回るということですね」

「そうだね。これは《$1$ を足して $3$ で割った余りを得る関数》になる」

テトラ「この関数 $f$ なら、 《表》で表すことも、 《集合》で表すこともできます!」

関数 $f$ を《表》で表す

関数 $f$ を《集合》で表す

《$f(x) = y$ を満たす $(x,y)$ 全体の集合》を $F$ とする。

$$ F = \SET{(0,1),(1,2),(2,0)} $$

「素早いね!」

テトラ「もう大丈夫です。理解しましたからっ!」

テトラちゃんは、ガッツポーズをして微笑んだ。

「ところで、《これ》ってじゃんけんに見えない?」

テトラちゃんは、ガッツポーズのまま、けげんな顔になった。

テトラ「じゃんけん? ……ああ、本当ですね。

  • $0$ で《パー》を表す。
  • $1$ で《チョキ》を表す。
  • $2$ で《グー》を表す。

そうすると、

  • $(x,y)$ は集合 $F$ の要素である
  • $f(x) = y$ が成り立つ
  • じゃんけんで $x$ に $y$ が勝つ

がすべて同値になります! いろんなものがつながりますね……」

じゃんけんを《表》で表す

(行の手に対して列の手が勝ったときに○、負けるかあいこのときに×)

じゃんけんを《集合》で表す

《$x$ に $y$ が勝つ $(x,y)$ 全体の集合》を $J$ とする。

$0$ で《パー》、 $1$ で《チョキ》、 $2$ で《グー》を表す。

$$ J = \SET{(0,1),(1,2),(2,0)} $$

「$F = \SET{(0,1),(1,2),(2,0)}$ で、 $J = \SET{(0,1),(1,2),(2,0)}$ にできる」

テトラ「$F = J$ になりました!」

この記事は期間限定で「ただいま無料」となっています。

ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 460本以上の記事がすべて読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。


参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら

結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加

(第466回終わり)

(2026年3月27日)

[icon]

結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

Twitter note 結城メルマガ Mastodon Bluesky Threads Home