登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕「そんな話をユーリとしてたんだよ」
テトラ「そうなんですね……順序、ですか」
僕「順序関係のことを勉強してから、 いろんなものについて順序関係という視点から考えられるようになったんだ。 おもしろいよ」
テトラ「ユーリちゃんと同じ感想をあたしも持ちました」
僕「へえ、ユーリと同じ感想? どんなの?」
テトラ「はい。『順序って、数学用語なんだ!』という驚きです」
僕「なるほど」
テトラ「順序って、私たちが普通に使う言葉じゃないですか。たとえば……
僕「そうだね。 ところで、 テトラちゃんは『順序なんてどうでもいい』みたいに、 ちょっとひねくれた例文は出さないんだね。 真面目だ」
テトラ「えっ、えっ、そんなことないですよう……」
テトラちゃんは、チャームポイントの大きな目をぱちぱちさせ、 顔の前で焦ったように両手を振る。
僕「ごめんね、変なチャチャを入れてしまった」
テトラ「と、ところで『順序』という数学用語は英語で何というんでしょうか」
僕「orderじゃないかな」
テトラ「なるほど、orderですか。英語でも普通の言葉……それはそうですよね」
僕「半順序はpartial orderで、 全順序はtotal orderだと思う(第464回参照)」
テトラ「ゲームや試合での勝ち負けで順序を決めるというのは、 とてもありふれた、普通にある話だと思うんですが……それが数学になっているというのは面白いですね」
僕「そうだね。 僕はミルカさんに順序の話を聞いたとき、 さっきも言った通り『視点が変わった』ように感じたんだ」
テトラ「視点が変わる……それはどういう意味でしょう」
テトラちゃんはそういって首をちょっとかしげた。
いつも思うんだけど、テトラちゃんは聞き上手だ。
それは、 単に彼女の受け答えが上手いという意味じゃないし、 もちろん、単に愛想がいいという意味でもない。
僕の話の中で、 うまく言語化できていなかった部分に、 彼女がそっと指をさすような趣がある……そういう意味だ。
彼女が指をさしたところにあるものを、 僕はよく吟味して、きちんと話したくなる。
僕「順序を学んで視点が変わったというのは、 そうだなあ……うん、 いろんなものを順序として見なせるようになったということ」
テトラ「いろんなもの、といいますと……たとえば?」
僕「たとえば、こういう関係のこと」
テトラ「ははあ、少しわかりました。 こういった多種多様なものに順序がある……もちろんそこに順序があることは知ってますけど、 その事実を改めて意識するということでしょうか」
僕「そうだね。 順序という概念を学ぶと、 いろんなものを意識的に順序として同一視することができる」
と、そこでテトラちゃんは考え込む。
テトラ「……意識的に同一視しないこともできそうです」
僕「え? どういう意味?」
テトラ「年上だから優れているとか、年下だから劣っているというような、 《年齢》と《優劣》という二つの順序を単純に同一視しないという意味です」
僕「おお、なるほどね。 確かにそれは大事なことだね。 《年齢》の方は生まれてから現在までの時間の大小を表しているものだし、 《優劣》というのは……何の大小を表しているんだろう」
テトラ「《優劣》という順序があるとしても、 《○○に関して優れている》や《○○という条件で高い得点を取ることを優れていると呼ぶ》 のように明確化できそうですよね」
僕「なるほどなあ……面白いよ、テトラちゃん。 僕が同一視といったのは、 サイクリックになっていない、みたいな数学的構造を念頭に置いてたんだけど、 テトラちゃんは概念と言葉の話を考えていたんだね」
テトラ「あ、ええと、そんなに大げさな話のつもりではありませんでした。 ただ、人を差別して見下すような場面では、 条件を不明確にした、雑な同一視が隠れているんじゃないかと思っただけです。 ……えっと、数学から離れちゃいましたね。ごめんなさい」
僕「いやいや、大事な話だと思うよ」
テトラ「そうですね」
僕「ところで、《順序》は確かに数学用語だけど、 《関係》も数学用語なんだよ」
テトラ「え? そうなんですかっ! 知りませんでした。そっちの方が驚きかもしれません。 関係って、関係ですよね? ……って、あたしは何を言ってるんでしょう」
僕「関係は、関係だよ。 たとえば順序関係というのは関係の一種」
テトラ「……」
僕「不等号 $<$ で表されるような《数の大小》も関係の一種だし、 等号 $=$ で表される《数が等しい》というのも関係の一種だね」
テトラ「なるほど……?」
僕「三角形の大きさは違うけど形は同じというような《図形の相似》も関係の一種。 相似は《数が等しい》と同じく同値関係という関係の一種だと思う。 《図形の合同》も同値関係だね」
テトラ「……確かに、先輩がいまおっしゃったものはすべて《関係》という感じはします。
僕「そうだね。当たり前のように出てくる」
テトラ「でも先輩? 《関係》って何なんでしょうか?」
僕「……」
テトラ「《関係》は数じゃないですよね。大きい小さいは数同士の関係ですけど、 大きいことや小さいこと自体は数じゃありません」
僕「そうだね」
テトラ「《関係》は図形でもありません! 合同や相似は図形同士の関係ですけど、 ぴったり重なることや拡大縮小して重なること自体は図形じゃありませんよ!」
僕「その通り」
テトラ「はっきりとわかる感じがするのに、何かは言えないって、 とってもモヤモヤします。 いったい《関係》って何でしょう!?」
僕「すごいなあ、テトラちゃん。 テトラちゃんは自分が言語化できない気持ちまで、 言語化するのが上手いんだね!」
テトラ「き、恐縮です」
僕「関係は数の話じゃなくて、図形の話でもない。 強いて言えば《論理》の話だと思うよ」
テトラ「論理……?」
こんなふうにして、 僕とテトラちゃんの数学対話が始まった。
《関係》についてのおしゃべりだ。
僕「話を簡単にするために、 $0, 1, 2$ という三つの数を用意して、 二つの数が《等しい》という関係で説明するね」
無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには「読み放題プラン」へのご参加が必要です。
ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 460本以上の記事がすべて読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。
参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら
結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加(2026年3月20日)