登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
ここは僕の部屋。
僕といとこのユーリは、 数学の《順序》についておしゃべりしていた。
彼女が持ってきた《三人の発表順を決める問題》の議論(第461回参照)から始まり、 僕はボンスカという仮想的なゲームを使って《順序》の定義を話したところ(第462回参照)。
僕「……さあユーリ。これでようやく順序に到着したよ」
ユーリ「?」
僕「推移律と反射律と反対称律という三つのルールを満たしている関係のことを、 数学では順序というんだ」
推移律
どんなX, Y, Zに対しても、 X→YとY→Zの両方が成り立っていたら、X→Zも成り立っている。
反射律
どんなXに対しても、 X→Xが成り立つ。
反対称律
どんなXとYに対しても、 X→YとY→Xの両方が成り立っていたら、X = Yが成り立つ。
ユーリ「ほえー」
僕「僕たちは、ボンスカというトランプゲームで、 J, Q, K の三種類のランクの強さを考えてきた。 J→Q, Q→K, J→K という強さの関係があると決めた。 JにQは負けないし、QにKは負けないし、JにKは負けない。 それから、J→J, Q→Q, K→Kも決めた。自分自身に負けない。 まとめると、ボンスカの《→》という関係では、
ユーリ「そだね」
僕「このとき、ボンスカの《→》という関係は、 推移律、反射律、反対称律を満たす。 だから、ボンスカの《→》という関係は数学の《順序》なんだ」
ユーリ「ん? ん? んんんん?」
ユーリは急に難しい顔をして、近くにあった紙に何かを書き始めた。
僕「?」
ユーリ「さっきお兄ちゃんは、ボンスカのこと、
が出てきてない! こーゆーことじゃん」
ユーリは紙に書いた表を見せてくれた。
ボンスカの表(ハテナ?がある)

※J→Q, Q→K, J→K, J→J, Q→Q, K→Kが成り立つことをマル○で表記
※Q→J, K→J, K→Qが成り立つかどうか不明であることをハテナ?で表記
僕「おお、なるほど!」
僕は、ユーリの指摘で気がついた。
確かにユーリの言う通り。Q→Jはちゃんと決めていなかった。
J→Qを《JにQは負けない》という解釈をつけたことで、 無意識のうちにその解釈を使って、 J→Qが成り立つんだから、 Q→Jは成り立たないと判断してしまった。
せっかく、 直感的な解釈に頼るのではなく形式論理的に議論を進めたいと思っていたのに、 うっかり解釈に頼ってしまったんだな……。
ユーリ「ねーねー、違うの? 抜けてたよね?」
僕「ユーリの指摘は正しい。 J→Qが成り立つことは決めたけど、 Q→Jについては明示的に決めていなかった」
ユーリ「ふふん!」
僕「もちろん、 ゲームの意味を考えれば、 J→Qが成り立つんだからQ→Jが成り立たないのは当たり前のように見える。 でも、それは僕が J→Qが成り立つときにQ→Jが成り立たない世界をイメージしてまとめたからだ。 でもいまはせっかく数学的な順序構造を考えようとしているんだから、 すべてを網羅的に書く方がいい。 ユーリ、ありがとう」
ボンスカの表(ハテナ?がない)

※J→Q, Q→K, J→K, J→J, Q→Q, K→Kが成り立つことを○で表記
※Q→J, K→J, K→Qが成り立たないことを×で表記
ユーリ「あー、ハテナがなくなってスッキリした!」
僕「ボンスカというゲームでJ,Q,Kの三種類のランクの強さについて《→》という関係を定めていった。 そして、この三種類のランクに《順序》という構造を入れたことになる」
ユーリ「ふんふん」
僕「推移律、反射律、反対称律のような《律》は、ゲームのルールのようなもの。 どんなルールを採用するかで、ゲームはがらっと変わるよね。 それと同じように、どんな《律》を採用するかで構造はがらっと変わる。 あるいは、自分の知っているものでは、 どんな《律》が成り立つのかを調べると、 ぜんぜん違うものを同一視できたりするんだ」
ユーリ「どーいつし?」
僕「あたかも同じものとして扱うこと」
ユーリ「サイクリック・ボンスカとじゃんけんみたいに?(第462回参照)」
僕「まさに、その通り!」
ユーリ「ねーお兄ちゃん。たとえば、 《最強の奴がいる》ってゆーのは? J,Q,KのうちKが最強じゃん? でも、 じゃんけんには最強の手はない。ね? ね? それもゲームの構造を表すルールじゃないの?」
僕「うんうん。確かにボンスカはそのルールを満たすね。Kは最強だ」
ユーリ「それは、なんて言う名前の《律》?」
僕「《律》という名前はついてないと思うなあ、たぶん。 でも名前はさておき、 最も強い要素が存在するというのはもちろんルールとして考えられる。 最も強い要素が存在するかどうかというのは、 構造を調べるときに重要な手掛かりだと思うよ。 そういうのにさっと気付くユーリは賢いなあ!」
ユーリ「へへ……照れるじゃん。もっとほめて」
僕「このくらいで」
ユーリ「ちぇっ」
僕「J, Q, K の三種類のランクで、 じゃんけんのようなサイクリックな構造と、 ボンスカのような順序構造を作ったけど、 ここで、 もう少し違った順序構造を眺めてみようと思う。 トーナメントを考えてみよう」
ユーリ「らじゃりました」
ユーリはそう言うと、おどけて敬礼をする。
こうやって順序をめぐる冒険がさらに展開していった。
僕「いまから四人がトーナメント形式の試合を行うとしよう」
ユーリ「何の試合?」
僕「いや、別に何の試合でもいいよ。 何の試合かが問題じゃなくてトーナメントの話をしたいだけだから」
ユーリ「ポポラ」
僕「ポポラとは?」
ユーリ「何でもいーんでしょ? 名前付けたげるよ。 四人がトーナメント形式でポポラの試合をする」
僕「はいはい。ポポラね。 四人の名前はA,B,C,Dの四人としよう。 すると、たとえば、こんな試合が行われるわけだ」
ポポラのトーナメント

ユーリ「ふんふん」
僕「そして、こんなふうに第1試合、第2試合、第3試合が行われるとする。 ポポラには引き分けはないとしよう。 そして、試合が進むごとに、どんな構造が現れるかを観察したいんだ」
ポポラのトーナメント(第N試合)

ユーリ「第3試合は決勝戦になるね!」
僕「そうだね。第3試合での勝者は優勝者になる」
ユーリ「第1試合と第2試合はいきなり準決勝じゃん! あはは!」
僕「まあ……そうもいえるな」
ユーリ「待って、お兄ちゃん。第0試合は?」
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