登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕「……ようやく解決したね」
ユーリ「けっこー大変だったにゃあ」
僕「ユーリが持ってきた彼氏からの問題だけど——」
ユーリ「彼氏じゃないっつーに」
僕「某氏の問題だけど、これは面白いね。 この問題は、 局所的に順序を定めても、全体としての順序が決まるとは限らない ことを教えてくれる問題 だと思ったよ(第461回参照)」
ユーリ「うん? いま何て言った? きょくしょてき?」
僕「局所的。 物事の一部分だけを見るということだね。 AとBの発表順を決めるというのは二人だけで決めればいい。 でも、それだけではAとBとCという三人全体の発表順は決まらない。 そういう問題だったね、という話」
ユーリ「きょくしょてき……わざわざ難しく言ってるみたい」
僕「そんなことないよ。 問題を解いたときには『あー解けた解けた』で終わらせるんじゃなくて、 『結局、僕たちは何を考えたことになるんだろう』 と振り返らないとつまらないよね」
ユーリ「久々の《先生トーク》が炸裂しまくってるぜ!」
ユーリはそういってケラケラと笑う。
僕「茶化すなよ。 この問題で思い出したんだけど、 数学で順序と呼ばれる関係については、 ミルカさんに教えてもらったことがあるよ」
ユーリ「ミルカさまに?」
ユーリは笑うのをやめ、身を乗り出してきた。
彼女は、僕のクラスメートのミルカさんのことを崇拝しているのだ。
最初に二人が出会ったときの印象がよっぽど強かったんだろうな。
まるで、一目惚れだ。
【CM】
テトラ「はいっ! 今回のCM担当テトラです。 ミルカさんによる順序の《講義》は『ビットとバイナリー』でどうぞ」
テトラ「そして、 ミルカさんとユーリちゃんの衝撃的《出会い》については 『フェルマーの最終定理』をお読みくださいっ!」
僕「ミルカさんが順序について《講義》してくれたんだ」
ユーリ「ちょっと待って。順序って数学なの? ただの順序が?」
僕「うん、そうだね」
ユーリ「へー。順序なんて普通のことじゃん。 並んでるだけで何も難しくないのに、それでも数学なんだ」
僕「おいおい。いまいっしょに順序の問題を考えたばっかりじゃないか。 ただの順序や並んでるだけといったって、考えることはたくさんある。 順序というのは、立派な数学の概念だよ」
ユーリ「そーなんだ! 高校だとそーゆーのも勉強すんの?」
僕「いや、高校でも教えないと思うよ。 僕はミルカさんから聞いてから本を読んだけど」
ユーリ「ふーん」
僕「順序構造 という数学的な構造を考えるのはおもしろいよ」
ユーリ「じゅんじょこうぞう」
僕「うん。 パズルみたいなところもある。 ルールがたくさんあるゲームともいえる」
ユーリ「おもしろそ!」
僕「たとえば推移律というルールがある」
ユーリ「すいり?」
僕「『すいり』じゃなくて『すいい・りつ』。
ユーリ「すいい・りつ」
僕「推移律というのは、簡単にいうと、 『どんなXとYとZに対しても、X→YとY→Zの両方が成り立っていたら、X→Zも成り立っている』 というルールのこと」
推移律
どんなX, Y, Zに対しても、 X→YとY→Zの両方が成り立っていたら、X→Zも成り立っている。

ユーリ「そんなの当たり前では?」
僕「当たり前のように感じるのは、 ユーリがいま頭に思い描いているものが、 まさに推移律を満たしているからだよ」
ユーリ「また難しい話にしたいの?」
僕「ああ、うん、いまのは僕が悪かった。 ちゃんと順を追って話すよ」
ユーリ「順序構造だけに?(ニヤニヤ)」
僕「やかましわ(ツッコミ)」
こんなふうにして、 僕とユーリの順序構造をめぐる冒険が始まった。
ユーリ「おもしろーい話だったらいいけど、 めんどくさーい話だったらヤダな」
僕「いまから、とあるトランプゲームのルールを説明するとしよう。 話しながら、さっきの推移律みたいな言葉を順番に紹介していくよ」
ユーリ「なんてゲーム?」
僕「名前? 名前なんてないよ。 説明のための仮想的なゲームだから。実際にあるゲームじゃないし」
ユーリ「そんなん、つまんないじゃん。 ユーリが名前つけたげるよ。 えーと……ボンスカ!」
僕「ボンスカ」
ユーリ「ボンスカというトランプゲーム。よい名前じゃないか」
僕「よい名前……か? まあいいよ。 じゃあ、ボンスカのルールを説明しよう。 めんどくさい話にはならないと思うよ」
ユーリ「よかろー」
僕「トランプゲームを説明するときは、 そのゲームで使うカードが何かを説明するよね」
ユーリ「そだね。ジョーカー使うとか使わないとか」
僕「このトランプゲームでは絵札だけ使うことにしよう。 $\heartsuit, \clubsuit, \spadesuit, \diamondsuit$ の四種類のスートと、 J,Q,Kの三種類のランクを使う」
ユーリ「全部で12枚?」
僕「そうだね。 じゃあ実際にやってみよう」
僕がトランプを出してくると、 ユーリが絵札を選び出した。
ユーリ「……はい、12枚」
僕「僕が黒いカード、スペードとクラブの六枚を持つ。 ユーリは赤いカード、ハートとダイヤの六枚ね」
ユーリ「はいはい」
僕「僕とユーリがそれぞれ一枚ずつ、せーので出す。 どちらが勝つかのルールをこれから決めていく」
ユーリ「へいへい」
僕「どちらが勝つかにはスートは無関係。 ランクだけで決まるとする」
ユーリ「J,Q,Kで決まる」
僕「そういうこと。 まず、このゲームでは——」
ユーリ「ボンスカ」
僕「ボンスカでは《JよりQが強い》というルールを採用しよう。 このルールをJ→Qと書くことにする」
ユーリ「いーよ。ボンスカではJよりQが強い。J→Q」
僕「また、ボンスカでは《QよりKが強い》というルールも採用する。 これはQ→Kと書くわけだ」
ユーリ「ふむふむ。 てことは、ボンスカでは《JよりKが強い》わけだね。J→Kだ」
僕「と言いたくなるよね。でも、ちょっと待って」
ユーリ「え?」
僕「いま決めたボンスカのルールは J→Q と Q→K の二つだけ。JとKの関係はまだ何も決めていない」
ユーリ「でもJよりQが強くて、QよりKが強いんだから、JよりKが強いに決まってるじゃん」
僕「そこだよ。 ここで考えてほしいんだけど、 ボンスカのルールを決めるとしたら、 JとKの関係で二つの可能性のどちらかを採用したくなる」
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