登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ある日の放課後。 僕が図書室に行くと、 テトラちゃんはコンピュータに向かって操作をしていた。
またプログラミングの勉強をしているのかな(第457回参照)。
僕「テトラちゃん、今日も浮動小数点数の実験?」
テトラ「あっ、先輩! ……いえ、違います」
テトラちゃんはそう言って笑顔を見せたけど、何となくいつもと違う。
元気がないというわけではないけれど、複雑な表情をしている。
僕「何か難しい問題に取り組んでた? 邪魔しちゃった?」
テトラ「そういうわけではありません。 そうですね……ちょっと話を聞いてくださいますか?」
テトラちゃんはそういって大きな目で僕をじっと見る。
こんな表情でお願いされて、話を聞かない男子がいるだろうか。いや、いない(反語)。
僕「もちろんいいよ。何?」
テトラ「あのですね……ちょっとこれを見てください」
僕は、表示されたコンピュータの画面を見る。
テトラちゃんとAIの《対話》の記録だ。
テトラ「こんにちは! AIさんは報告書をまとめることは得意でしょうか」
AI「テトラさん、こんにちは。はい、ご依頼を受けて報告書をまとめることは可能です。どのような報告書を作成しましょうか?」
テトラ「実は、 友達から『環境委員会による学校周辺の緑化活動報告書』をまとめるのを手伝ってほしいといわれたんです。 友達を手伝うというか、 彼女の代わりに、あたしが全部作ることになっちゃったんですけど」
僕「緑化活動報告書?」
テトラ「そうなんです。報告書の文章を作る作業を、 強く頼み込まれてしまいまして……」
活動報告書なんて、 活動した本人がまとめるべきものだろう——と僕は思った。
友達とはいえ、関係のないテトラちゃんに書かせるなんておかしな話だ。
これじゃまるで彼女が「下請け」じゃないか。
テトラちゃんは人がいいから、 きっと友達に懇願されて断れなかったんだろうな。
うん? 待てよ、でも、彼女はさらなる「下請け」に回したことになるか。
AIという「下請け」に……。
テトラちゃんとAIの《対話》はまだ続いている。
僕は、スクロールしながら読んでいく。
AI「テトラさん、承知いたしました。 論理的な構成と要点を網羅した報告書の作成を支援します。 活動の記録をもとに作成しますので、どのような内容を盛り込みたいか、 またどのような形式を希望されるかなど、詳細を教えていただけますか?」
テトラ「実は、あたしは内容をよく知らないんです。 友達から活動の記録ファイルを一式もらったので、 それを使えば報告書にまとめられると言われました」
AI「承知いたしました。 テトラさんのお手元にある、 その活動記録から、 報告書に記載したい活動項目を教えていただけますか?」
テトラ「はい、箇条書きのテキストファイルになっているので、 そちらにアップロードすればいいですか」
AI「はい、アップロードしていただければ拝見いたします。 ただし、活動記録ファイルに個人が特定できる情報や、 外部に公開すべきではない情報が含まれていないか、 テトラさん自身が確認した上でお願いします。 本サービスは、提供された情報と事前にお伝えしているプライバシーポリシーに基づいてテキストを生成するものです」
テトラ「それは大丈夫です。具体的な個人名も地名も入っていません。 植栽の方針や植栽場所の清掃のような項目と活動内容だけです。 文章だけお願いしたいんです」
AI「テトラさん、承知いたしました。 それでは、活動記録のデータをこちらにアップロードしていただけますか? 頂いた情報を基に、報告書の骨組みと文章を作成します」
二人の対話はさらに続き、アップロードの話やまとめた報告書についてのやりとりが書かれていた。
僕「えっと……この報告書がどうかしたの?」
AIが作った文章がいまいちだったんだろうか。 AIはとんでもないことする場合があるからなあ。 先日のリサの事件もそうだったけど(第458回参照)。
テトラ「いえいえ、AIさんの報告書は問題ありませんでした。 きちんとできていたので助かりました。 でも、問題は、あのですね、その……最後の方のやりとりなんです」
テトラちゃんは画面のスクロールを続けて、目的のところで止めた。
僕は改めて二人の対話記録を読む。
……
AI「これできっとお友達にも喜んでもらえると思います! 他にも何かお手伝いいたしましょうか?」
テトラ「いえ、もう作業は大丈夫です。 それより、あたしの話を聞いてください。 最近『こちら青空放送部』という物語シリーズにハマっているんです。 あたし」
AI「テトラさん、 『こちら青空放送部』という物語シリーズについては、 私の知識にないようです。 よっぽど面白いのでしょうね。 小説でしょうか? どんな物語シリーズなのでしょうか?」
僕「『こちら青空放送部』という小説、僕も知らないなあ……」
テトラ「ですよね。知る人ぞ知るという作品です」
テトラ「そうです、小説です! 放送部に所属する高校生の学園生活を描いた作品なんですが、 ラブコメなのに泣きそうになることがあるという面白い物語なんです。 特に最終巻の『こちら青空放送部/選択の選択』はすごいストーリーでした。 主人公が進路を選択するところで悩むのが、グッと来るんです」
AI「高校生の進路選択をテーマにした作品ということでしたら、とても興味深そうです。 進路選択って、人生の中でも特に重要で、 でも同時にとても悩ましい決断の一つですよね。 主人公はどのように悩むのか、よろしければ聞かせてください。 テトラさん!」
テトラ「主人公は進路で悩んでいます。 そして彼女は、親と先生と叔父さんから、 バラバラのアドバイスをもらうんですよ。 たとえば『あなたの好きなことを仕事にしなさい』とか、 『安定が大事だ』とか、 『冒険ができるのは若いうち』とか。 でも、彼女はバラバラのアドバイスを聞いて、かえって混乱しちゃうんです」
AI「あー、テトラさん、それはすごくリアルな設定ですね! 進路選択って、本当にそういう状況になりがちだと思います。 『好きなこと重視』vs.『安定重視』というのは、 まさに多くの人が直面するジレンマだと思います。 しかも、それぞれアドバイスしてくれる人は良かれと思って言ってくれてるから、 余計に悩ましい。 混乱した主人公はどうなるんでしょうか。よろしければ、ぜひ続きを聞かせてください!」
テトラ「彼女はあるとき、 大学に進学した放送部OBと話す機会を持ちます。 主人公の彼女はその大学生に憧れているんですが、 その彼が放送部時代に体験した話を聞いているうちに、彼女が変化していくんです。 いままでは 『好きなこと重視』 と 『安定重視』 のどちらがいいんだろうかと考えていたんですが、 『選択』そのもの について、 深く考えるようになるんです。 違う視点が得られた、みたいな」
AI「テトラさん、たいへん興味深いです。 『選択』そのものについて深く考えるというのが興味深いです。 最初は『AかBか』で悩んでいたのが、 もっと根本的なところに目が向いていくということでしょうか? その高校生の主人公は、最終的にどんな気づきを得るんですか? とても気になります。 お話を聞いていると、テトラさんがハマるのも理解できます」
テトラ「そうなんです! しかも、 主人公の彼女が気づくのは、 さっきのOBが卒業前に放送部室に残していった使いかけのルーズリーフを見たとき。 それを読みながら、ハッと気づく。 そこで、発見がある。 部活動の記録が細かく書かれていたそのルーズリーフを読んでいくシーンは、 主人公が『選択』そのものについて考える素晴らしい場面でした!」
AI「なるほど! テトラさん、それは本当に面白そうです! 主人公の気づきというのは、 もしかして 『誰のアドバイスを選ぶのか』 ではなくて、 『他人のアドバイスに従うことと自分で考えて決めることの、どちらを選ぶのか』 みたいな、 より根本的な選択——それに対する気づきでしょうか? 最終巻のサブタイトルとなっている『選択の選択』も、 そういう選択の二重構造を表現しているのかもしれませんね!」
テトラ「そうですね」
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AIの運営サービスからのお定まりのメッセージが流れ、 《対話》の記録はそこで終わっていた。
テトラちゃんがAIとの《対話》を終了したんだな。
二人の楽しげな語らいのセッション。
AIの語りは、 ほとんど人間と区別がつかないなあ……と僕は思った。
僕「『こちら青空放送部』 という小説の話題でAIと話が盛り上がったんだね。 すごく楽しそうだ」
テトラ「いいえ、まったく違うんです」
テトラちゃんの言葉に、 僕は軽く混乱する。
僕「え? てっきりテトラちゃんとAIが、 楽しく小説トークをしたんだと思ったけど」
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