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第449回 シーズン45 エピソード9
友愛数の楽しみ(前編)

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

友愛数

ユーリ、そしてテトラちゃんは、 双倉ならびくら図書館で開催されているイベント会場を回っている。 会場にはパネルがたくさんあり、解説や数学の問題が書かれている。

僕たちは、 9世紀の学者サービト・イブン・クッラによる友愛数を見つける方法を探っているところ(第448回参照)。

友愛数を見つけるサービト・イブン・クッラの方法(再掲)

サービト・イブン・クッラは友愛数を見つける方法を示した。

整数 $n \GEQ 2$ に対して、次のように $p,q,r$ を定める。 $$ \beginCases p &= 3\times 2^{n-1} - 1 \\ q &= 3\times 2^n - 1 \\ r &= 9\times 2^{2n-1}-1 \endCases $$ このとき、 $p,q,r$ が素数ならば、 $$ (2^npq, 2^nr) $$ は友愛数となる。

たとえば $n = 2$ のとき最小の友愛数 $(220,284)$ が得られる。

ただし、 この方法で得られる友愛数は非常に限られている。

ユーリ「なんで? なんて、こんな方法でうまくいくのー?」

テトラ「$n = 2$ で検算しましたけど(第448回参照)、やっぱり不思議な方法です」

「サービト・イブン・クッラの方法に出てくる《素数ならば》ってすごい条件だよね。 この《$p$ と $q$ と $r$ が素数である》という条件は、 いったいどこ・・に効いてくるんだろう……やっぱり、ちゃんと証明してみないといけなさそうだなあ」

問題

サービト・イブン・クッラの方法で、友愛数が得られることを証明せよ。

ユーリ「待って待って。うまくいく理由がわかんないのに、 証明できんの?」

「違う違う。 ちゃんと証明するつもりになって考える。 そうやってしっかり考えて、 理由をはっきりさせたいっていう意味だよ」

ユーリ「そーゆーもんなんだ」

「そういうもんだよ」

テトラ「まずは《定義にかえれ》にしたがって、 友愛数の定義を確認しましょうっ!」

友愛数(再掲)

二つの自然数 $\RFM$ と $\BFN$ の組 $(\RFM,\BFN)$ が友愛数ゆうあいすうであるとは、 $\RFM$ と $\BFN$ が次の性質を持つことをいう。

  • $\RFM$ の約数の総和から $\RFM$ を引くと $\BFN$ に等しい。
  • $\BFN$ の約数の総和から $\BFN$ を引くと $\RFM$ に等しい。

言い換えると、自然数 $x$ の約数の総和を $\sigma(x)$ で表すとき、 $\RFM$ と $\BFN$ の組 $(\RFM,\BFN)$ が友愛数であるとは、 $$ \beginCases \sigma(\RFM) - \RFM &= \BFN \\ \sigma(\BFN) - \BFN &= \RFM \endCases $$ が成り立つことである。

古代のピタゴラス学派は $(\REDFOCUS{220},\BLUEFOCUS{284})$ が友愛数であることを知っていた。 これは最小の友愛数である。

$\sigma(x)$の$\sigma$はギリシア文字シグマの小文字である。

一般に「約数」は正と負の両方を考えるが、ここでは正の約数に限って考えることにする。

「やっぱり、カギになるのは 自然数 $x$ の約数の総和を求める $\sigma(x)$ という関数だろうなあ……」

テトラ「サービト・イブン・クッラの方法を、この友愛数の定義に当てはめてみるとどうなるでしょう……」

「サービト・イブン・クッラの方法だと、得られる友愛数は $$ (2^npq, 2^nr) $$ だから、友愛数の定義に出てきた $\RFM$ と $\BFN$ を使って、 $$ \beginCases \RFM &= \RF{2^npq} \\ \BFN &= \BF{2^nr} \endCases $$ と置いてもいいね。 もちろん $\RFM$ と $\BFN$ は反対にしてもいいけど」

テトラ「はい。ということは、友愛数の定義にそれを当てはめるなら、 $$ \beginCases \sigma(\RF{2^npq}) - \RF{2^npq} &= \BF{2^nr} \\ \sigma(\BF{2^nr}) - \BF{2^nr} &= \RF{2^npq} \endCases $$ が成り立つことを証明すればいいことになりますね?」

「うん、そうだね。あ、そうだ。 移項して $$ \beginCases \sigma(\RF{2^npq}) &= \RF{2^npq} + \BF{2^nr} \\ \sigma(\BF{2^nr}) &= \RF{2^npq} + \BF{2^nr} \endCases $$ を証明した方が計算が楽かもね。 要するに、 $$ \sigma(\RF{2^npq}) = \RF{2^npq} + \BF{2^nr} = \sigma(\BF{2^nr}) $$ を証明するわけだ」

テトラ「なるほど。その式があたしたちのゴールになるわけですね」

ユーリ「あ、それって、 $(\RFM,\BFN)$ が友愛数のとき、 $$ \sigma(\RFM) = \RFM + \BFN = \sigma(\BFN) $$ ってやつだね(第448回参照)!」

「そうだね」

テトラ「では、ここまでをまとめます! あたしたちの《証明の方針》はこうなりました」

《証明の方針》

サービト・イブン・クッラの方法で友愛数が見つかることを証明するために、 次のような方針で考えます。

整数 $n \GEQ 2$ に対して、次のように $p,q,r$ を定めます。 $$ \beginCases p &= 3\times 2^{n-1} - 1 \\ q &= 3\times 2^n - 1 \\ r &= 9\times 2^{2n-1}-1 \endCases $$

このとき、 $p,q,r$ が素数ならば、 $$ \sigma(\RF{2^npq}) = \RF{2^npq} + \BF{2^nr} = \sigma(\BF{2^nr}) $$ が成り立つことを計算で示します。

「うん、はっきりしてきた」

ユーリ「はっきりしてきた? 何だか、どんどん複雑になってきたんですけどー?」

「複雑にみえるのは、 $\RFM$ を $\RF{2^npq}$ に置き換えて、 $\BFN$ を $\BF{2^nr}$ に置き換えたからだよね。 でも、それは複雑にしたわけじゃないんだ。 $\RFM$ や $\BFN$ のように一文字になっているままじゃ、 どうしようもない。 $\RF{2^npq}$ や $\BF{2^nr}$ のように、 整数の《内部構造》が見えた方が手がかりが増える」

ユーリ「ふーん……どんな手がかり?」

「それをいま考えてるんだけどね。たとえば、 $$ \sigma(\RF{2^npq}) $$ はどういうものかというと——」

ユーリ「$\RF{2^npq}$ の約数をぜんぶ足した数でしょ? でもそんなの、 $n$ とか $p$ とか $q$ とかが変われば変わるじゃん」

「具体的な値は変わる。でも、 $p$ も $q$ も $n$ で表せるんだから、 $\sigma(2^npq)$ を $n$ で表せると思うな」

テトラ「あたし、わかったかもしれません! 約数の総和を求めるときに 《積の和》を《和の積》に変えましたよね(第448回参照)。 あの考え方が使えそうです!」

ユーリ「テトラさん。どゆこと?」

テトラ「$\sigma(220)$ を計算する簡単な方法のことですよ。 $$ \begin{align*} \sigma(220) &= 2^0 \times 5^0 \times 11^0 && (a = 0,b = 0,c = 0) \\ &+ 2^0 \times 5^0 \times 11^1 && (a = 0,b = 0,c = 1) \\ &+ 2^0 \times 5^1 \times 11^0 && (a = 0,b = 1,c = 0) \\ &+ \cdots \\ &+ 2^2 \times 5^1 \times 11^1 && (a = 2,b = 1,c = 1) \end{align*} $$ のように《積の和》を計算する代わりに、 $$ \sigma(220) = (2^0 + 2^1 + 2^2) \times (5^0 + 5^1) \times (11^0 + 11^1) $$ のように《和の積》を計算すれば簡単になりました(第448回参照)」

ユーリ「因数分解したんでしょ? でも、それで $\sigma(\RF{2^npq})$ も計算できる……?」

「わかった。テトラちゃんが言う通りだよ。それでいける。 《$p,q,r$ が素数》という条件もそこで効いてくる!」

ユーリ「わかんない!」

「ちゃんと説明するよ。 そうか、整数の《内部構造》を探るんだから、 やっぱり素因数分解が大きな力となる。 $p$ と $q$ は素数だから、 $\RF{2^npq}$ は $2$ と $p$ と $q$ という異なる $3$ 個の素因数から作られていることになる。 だから、 $\sigma(\RF{2^npq})$ は、 $$ \sigma(\RF{2^npq}) = \underbrace{(2^0 + 2^1 + \cdots + 2^n)}_{\textrm{$2^n$の約数の和}} \times \underbrace{(p^0 + p^1)}_{\textrm{$p$の約数の和}} \times \underbrace{(q^0 + q^1)}_{\textrm{$q$の約数の和}} $$ として計算できるんだ!」

テトラ「そうですね!」

ユーリ「ほほー! ……あれ? ほんとに素因数は $3$ 個なの? $p = 2$ になったり、 $p = q$ になったりしないの?」

「ユーリは鋭いなあ! その指摘は鋭い。 でも、その心配はいらない。 なぜならサービト・イブン・クッラの方法を思い出せばわかる。 $p$ と $q$ は勝手な素数じゃない。 整数 $n \GEQ 2$ に対して、 $$ \beginCases p &= 3\times 2^{n-1} - 1 \\ q &= 3\times 2^n - 1 \\ r &= 9\times 2^{2n-1}-1 \endCases $$ として計算したものだった。 だから、 $p \NEQ 2$ だし、 $q \NEQ 2$ だし、もちろん $p \NEQ q$ になる」

ユーリ「あー、そっか」

テトラ「《$2^n$ の約数の和の部分》は、等比数列の和の公式から、 $$ 2^0 + 2^1 + \cdots + 2^n = 2^{n+1} - 1 $$ になりますよね? それから、 $p^0 + p^1 = 1+p$ で、 $q^0 + q^1 = 1 + q$ です。 これで、 $\sigma(\RF{2^npq})$ は完全に求められます!」

$$ \begin{align*} \sigma(\RF{2^npq}) &= (2^0 + 2^1 + \cdots + 2^n)\times(p^0 + p^1)\times(q^0 + q^1) \\ &= (2^{n+1} - 1)\times(1 + p)\times(1 + q) \\ &= (2^{n+1} - 1)\times(1 + 3\times 2^{n-1} - 1)\times(1 + 3\times2^n - 1) \\ &= (2^{n+1} - 1)\times(3\times 2^{n-1})\times(3\times2^n) \\ &= (2^{n+1} - 1)\times(3\times3\times 2^{(n-1) + (n)}) \qquad \REMTEXT{指数法則} \\ &= (2^{n+1} - 1)\times(9\times 2^{2n - 1}) \\ &= 9\times2^{(n+1)+(2n-1)} - 9\times2^{2n-1} \qquad \REMTEXT{指数法則} \\ &= 9\times2^{3n} - 9\times2^{2n-1} \end{align*} $$

ユーリ「これが $\RF{2^npq} + \BF{2^nr}$ に等しくなるの?」

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(2025年4月18日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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