登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕とユーリは、パスカルの三角形を使って数学トークを楽しんでいる。
パスカルの三角形の中に組み合わせの数が出てくるのはどうしてかというユーリの疑問をきっかけにして(第391回参照)、 僕たちは、組み合わせの数についておさらいした(第392回参照)。
いまは、各行に出てくる数の和に注目しているところ(第393回参照)。
僕「パスカルの三角形に出てきた $1 4 6 4 1$ を足し合わせると、 $16$ 通りになる。 $$ 1 + 4 + 6 + 4 + 1 = 16 $$ それから二進法 $4$ 桁の数は、 $4$ 桁のそれぞれが $0$ または $1$ の $2$ 通りあるから、 ぜんぶで $16$ 個ある」
$$ 2\times 2\times 2\times 2 = 2^4 = 16 $$ユーリ「すごい偶然——んにゃ、偶然じゃない。 パスカルの三角形のどの行でも同じはず!」
僕「そうだね。 パスカルの三角形の $n$ 行目の数をすべて加えると、 $2^n$ になる」
パスカルの三角形の $n$ 行目の数をすべて加えると、 $2^n$ になる
ユーリ「おもしろーい!」
僕「こういうの、おもしろいんだ」
ユーリ「おもしろいよー! 高く評価したげよう」
僕「偉そうだな」
ユーリ「おもしろいってことさ!」
僕「でも、どうして $2^n$ になるかわかる?」
ユーリ「わかるよん。パスカルの三角形をてっぺんから降りてくる道筋でわかる」
パスカルの三角形を降りてくる
僕「なるほど」
ユーリ「$n$ 行目まで降りてくるのに $n$ 回、 $\RA$ を選ぶかどうかを決めるんでしょ。てことは——
$$ \underbrace{2\times2\times2\times\cdots\times2}_{\textrm{$n$個の$2$}} = 2^n $$
僕「すばらしいなあ!」
ユーリ「これ、お兄ちゃんに教えてもらった覚えがある」
僕「そうだっけ」
ユーリ「そーだよ。パスカルの三角形で一段下がるたびに $2$ 倍になるんでしょ」
僕「そうだね。パスカルの三角形を作るときに、 左上の数と右上の数を二つ加えるけれど、 それは見方を変えれば、各行の数を $2$ 倍にして次の行を作っていることになる。 だから、一段下がるごとに行の合計が $2$ 倍になるのは当然といえば当然」
パスカルの三角形では、一段下がるごとに行の合計は $2$ 倍になる
ユーリ「ふーん……これって、 $1 3 3 1$ をずらして足すと、 $1 4 6 4 1$ になるってことだね……」
$1 3 3 1$ をずらして足すと、 $1 4 6 4 1$ になる
僕「ああ、そうなるね。 左に落ちる $1 3 3 1$ と 右に落ちる $1 3 3 1$ をずらして足すと $1 4 6 4 1$ になる。 だから、一段下がるたびに合計は $2$ 倍になる」
$$ \begin{array}{cccccccc} 1+3+3+1 & + & 1+3+3+1 &=& 1 + 4 + 6 + 4 + 1 \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ 8 & + & 8 &=& 16 \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ 2^3 & + & 2^3 &=& 2^4 \end{array} $$ユーリ「バイバインだにゃ」
僕「バイバイン?」
ユーリ「ドラえもんのひみつ道具。バイバインは何でも増やす薬だよん!」
僕「いや、知らないなあ」
ユーリ「栗まんじゅうに一滴垂らすと、 $5$ 分ごとに倍々に増えてくんだよ」
僕「それはヤバい」
ユーリ「ヤバいよね」
僕「ところで、 $2$ を $n$ 個掛ける $2^n$ は、こんなふうに表すこともできるよ」
$$ \underbrace{(1+1)\times(1+1)\times(1+1)\times\cdots\times(1+1)}_{\textrm{$n$個の$1+1$}} = 2^n $$
ユーリ「そりゃそーだ。 $1 + 1 = 2$ だもん」
僕「$n$ 個出てくる $(1+1)$ という式をよく見る。そして——
左の $1$ は《$\LA$ を選ぶ》、右の $1$ は《$\RA$ を選ぶ》
ユーリ「何言ってるかイミわかんない」
僕「たとえば、 $n = 4$ を考えてみると、 $2^4$ は $$ (1+1)\times (1+1)\times (1+1)\times (1+1) $$ という掛け算になる。ふつうは $1+1$ を先に計算するけれど、式の展開を考えるなら、 $4$ 個の $(1+1)$ のどちらか片方から $1$ を選んで掛け算することがわかる」
ユーリ「うーん……」
僕「実際に書いてみた方が早いかな。 $16$ 個の場合が出てくる様子がわかるから」
ユーリ「ははーん……お兄ちゃんの言いたいことは何となくわかった。 見立てるってそーゆー意味ね。 $(1+1)$ のどっちの $1$ を選ぶかで、 $\LA$ と $\RA$ のどっちを選ぶかを決める」
僕「うん、そうだよ」
ユーリ「雰囲気はわかったし、 $16$ 通り——つまり $2^4$ 通り——が出てくるのはわかったけど、計算として意味あんの、これ?」
僕「よく考えればわかるよ。たとえば、 $(a + A)(b + B)$ という式を展開するときは、こんな計算になる。 $$ \begin{align*} (a + A)(b + B) &= a(b + B) + A(b + B) \\ &= a b + a B + A b + A B \end{align*} $$ になるけど、さっきと同じように、 $(a + A)$ と $(b + B)$ のそれぞれから一つずつ選んで掛け算して、それを全部足してる。 これは、 $(a+A)(b+B)(c+C)(d+D)$ を計算するときでも同じ」
ユーリ「むむ……」
ここでユーリは長考に入った。
何を考えているかはよくわからないけれど、真剣に考えていることはわかる。
式を指さしながら何かぶつぶつ言ってるからだ。
僕「……」
ユーリ「……でもって、それぞれから一つずつ選ぶってことだから。あー、わかったよ。 さっきの $(1+1)\times(1+1)\times(1+1)\times(1+1)$ のときは、 $1\times1\times1\times1 = 1$ を $16$ 個足してるってことか! その選び方が $1$ 通りあることにつながってるんだ。わかった!」
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