登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
僕とテトラちゃんは、村木先生からの《カード》に書かれていたベクトル空間の定義に取り組もうとしている。
今日はいつもとは違う。
僕が教えるのではなくて、二人で一緒に読んでいくというスタイル——《二人三脚読み》——を試みようとしているのだ(第384回参照)。
僕「……これで、『$K$ を、体とします』を読んだことになるね。 ここからさらに体の定義を厳密に追う方向に進む選択肢もあるけど、 いまは《カード》を先に進めることにしようか」
テトラ「《理解の最前線》……といえるかどうかわかりませんが、いま読んでいる《最前線》が一歩進みました!」
僕「そうだね。《二人三脚読み》で一歩進んだことになる!」
テトラ「それでは、引き続き《カード》を読んでいきましょう!」
村木先生の《カード》
(1)$K$ の任意の元 $a$ と、 $V$ の任意の元 $x,y$ に対して、$$a(x + y) = ax + ay$$が成り立つ。
(2)$K$ の任意の元 $a,b$ と、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$(a + b)x = ax + bx$$が成り立つ。
(3)$K$ の任意の元 $a,b$ と、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$(ab)x = a(bx)$$が成り立つ。
(4)$K$ の単位元を $1$ とすると、 $V$ の任意の元 $x$ に対して、$$1x = x$$が成り立つ。
※松坂和夫『代数系入門』を参考にしています。
僕「なるほど。今度は $V$ だね」
テトラ「はい。先ほどは $K$ についてでした。今度は $V$ についてです。 ここから先、《カード》に出てくる $V$ というものが何を表しているか。 $V$ はいったい何を表すものとして議論が進むのか……それをはっきりさせるために、 ここで $V$ の説明が書かれいてる——わけですよね?」
僕「そうだね」
テトラ「それはいいんですけれど、あたし……正直いいまして、目がちらちらします」
僕「というと?」
テトラ「$K$ については、《体》という一言で済みました。 でも、ここに出てくる $V$ では《加法群》《群演算》《加法》《二項演算子》《アーベル群》という用語がどんどこ襲ってきます……こういう状況は、 苦手なんです」
僕「なるほど……どんどこ、ね。でも、テトラちゃんは群について、知ってるんじゃない?」
【CM】
ユーリ「テトラさんの《群》へのチャレンジは、『数学ガール/フェルマーの最終定理』をどーぞ!」
テトラ「はい……ぜんぜんわからないわけではありません。先輩やミルカさんから《群》についてのお話は何回かおうかがいしましたから。 でも、《加法群》《群演算》《加法》《二項演算子》《アーベル群》のようにばばばばっとやってくると、 あれもこれも、あたしはちゃんと理解はしていないんだ……と思ってしまいます。それで、どきどきしちゃうんです」
僕「テトラちゃんは、すべての用語といっぺんに《お友達》になろうとする傾向があるからね」
テトラ「ああ……そうかもしれません」
僕「たくさんの用語が出てくると、確かにちょっと焦っちゃうけれど、逆に手がかりが増えるから助かるともいえるよ」
テトラ「手がかり——といいますと?」
僕「つまりね、文章を読みながら、出てくる用語を使って、自分の理解が正しいかどうかを軽くチェックできるということ。 《体》という一言だと、それを知ってるかどうかだけで決まっちゃうけど、 いろんな用語が書かれていると、それを使って自分の理解をチェックできる」
テトラ「はあ……でも、意味がわからない用語があると、困りませんか?」
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