登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
テトラちゃんが村木先生からプレゼントされた《カード》にはひとつの曲線を描く手順が書かれていた(第367回参照)。
僕とテトラちゃんはそれがどんな曲線なのかを探っている。 そしてそこに隠されていた謎にようやく気付いたところ。
村木先生からの《カード》(第367回参照)(再掲)
以下の手順で点
まず、中心が点
次に、円
ここで、原点
点
僕「ねえ、テトラちゃん……村木先生からやってきた《カード》だけど、
ここに書かれた手順で生まれる曲線
テトラ「カージオイド!? ……でも、そんなこと、あるんでしょうか? だって、
カージオイドは、円板のまわりを別の円板が転がるときに生まれる曲線ですよね?
でもこの曲線
僕「いやいや、《違う作り方》から《同じ曲線》が生まれることはあるよね」
テトラ「そう……ですか?」
僕「もっとも、この曲線
テトラ「証明——証明する? この曲線
僕「そうだね。どうやら僕たちは、村木先生の《カード》の謎をやっと見つけたみたいだよ。 問題は、ここから始まるんだ」
問題
村木先生の《カード》で描かれる曲線
では、曲線
テトラ「カージオイドであることを証明する……いったい、どうすればいいんでしょうっ!」
僕は考える。
図形の証明はたくさんやったけれど、 「カージオイドであることの証明」なんて習ったことはない。 でも、習ったことがなくても考えることはできる。
僕「この村木先生の《カード》に書かれている曲線
テトラ「どんなことを考えればいいか……これは、あれですよね。
曲線
僕「うんうん! そうだよね」
テトラ「あたしの頭には、《定義にかえれ》というポリア先生の言葉がいま浮かびました」
僕「なるほど。すばらしい!」
テトラ「い、いえ、違うんです。
《定義にかえれ》といっても、あたしは、カージオイドの定義を知りません。
たとえば『この曲線
僕「《定義にかえれ》というテトラちゃんの考え方は、すごく正しいと思うよ。 でも確かに、カージオイドの定義は、円みたいにシンプルに与えられているわけじゃないから、 どう考えていいかわからない」
テトラ「はい」
僕「といっても、僕たちはカージオイドのことを知っている。 僕たちが、どんな曲線のことをカージオイドと呼んでいるかというと、 ひとつの固定された円板があって、同じ半径を持つ別の円板をそのまわりに転がしたときに生まれる曲線だよね(第366回参照)」
テトラ「はい……それはそうです。
そのときに描かれた形をカージオイドと呼んで、
そして、その形と《カード》の曲線
僕「うん、だから、《定義にかえれ》で考えるべきことは、
円板のまわりに円板を転がしたときに生まれた曲線と、
この曲線
テトラ「……そこまではわかったように思います。 円板のまわりに円板を転がすというのが、 いわばカージオイドの定義に相当すると考えるわけですね」
僕「そうだね。だって、そうやって描いたものをカージオイドと呼んだから」
テトラ「はい。《あの曲線》——心臓の形をしたあの曲線にカージオイドと名前を付けました。
ですから、《この曲線》——村木先生の《カード》に描く手順が書かれている《この曲線》
僕「まずは名前を付けようか」
テトラ「名前?」
僕「うん。《あの曲線》や《この曲線》だと混乱するから、まずは名前を付けよう。
《円板のまわりに円板を転がして生まれるあの曲線》のことは曲線
テトラ「はい」
僕「だから、僕たちの目標は、
曲線
テトラ「あ、いいですね。名前が付くとはっきりします!」
僕「それで、この二つがどうすれば同じといえるかというと……」
僕とテトラちゃんはしばし、二つの曲線について思いをはせる。
テトラ「……」
僕「いったん、円板のまわりに円板を転がすという発想から離れてみようか」
テトラ「え、せっかく見つけた手がかりを離してしまうんですか」
僕「そういうことじゃなくて、図形的な発想から離れて数式で考えてみるんだ」
テトラ「数式?」
僕「僕たちは、曲線
テトラ「そうですね」
僕「だから、
曲線
テトラ「え……」
僕「ただし注意がいる。
曲線
テトラ「……あ、あの! お話の腰を折ってすみませんが、ちょっとお話を聞いていただけますか?」
僕「もちろん。どうぞどうぞ」
テトラ「先輩は、曲線
僕「ええと、ああ、うん、そうだね。テトラちゃんが言いたいのは、
曲線
テトラ「そうです! その通りです。
《カード》の手順にある、《接線》や《垂線》や《交点》のようなものとつなげないことには、
曲線
僕「テトラちゃんの主張はまったく正しいなあ……。
僕としては、考えを進めるための手がかりとして、すでにわかっている数式を使えないかと思ったんだ。
曲線
テトラ「はい」
僕「だけど、
そこまでの話とは別に、《カード》の手順をもとにして曲線
テトラ「そ、そこなんです。あたしが引っかかるのは」
僕「引っかかるって?」
テトラ「数式——数式はもちろん大切なんですけど、
結局最後に《カード》の手順を考えるのであれば、
最初から曲線
僕「いやいや、とんでもないよ。テトラちゃんの方針はまずは曲線
テトラ「はい、そうです! 曲線
僕「うん、でも、やっぱりどこかでは数式は使うことになると思うけど。二つの曲線が同じ数式で表現できるのを示すのが楽だから。 数式で表現することは《お友達》になったしるしの一つともいえる」
テトラ「数式で表現というのは、曲線のパラメータ表示のことですね?」
僕「いやいや、それに限らないよ。曲線の表現方法はいろいろある」
テトラ「?」
僕「つまりね、曲線を表現するためには、パラメータ表示や、方程式や、極方程式などがある。だから、そのどれかに帰着させればいい」
テトラ「ああ、なるほどです」
僕「たとえば、原点中心で半径
原点中心で半径
原点中心で半径
原点中心で半径
テトラ「はいはい、わかります、わかります。表現方法は違うけれど、同じ曲線を表しています」
僕「それで、と。
テトラちゃんは曲線
テトラ「はい!」
僕「曲線
テトラ「そうですね。点
僕「うん。あ、そうか。点
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