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第292回 シーズン30 エピソード2
グラフ理論:僕らは隣接探偵団(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

高校生のと中学生のユーリ《連結ゲーム》を楽しんでいた(第291回参照)。

の必勝法を見抜いたユーリは、 ほんとうにそれが必勝法になっているかを証明しようとしている。

《連結ゲーム》のルール

プレイヤーは二人。 紙に $1$ 個以上の頂点を描き、交互に二頂点を結ぶを描く。 先に描けなくなったプレイヤーが負けである。

辺を描くときのルールが三つある。

ルール1:辺は多重にしない

ルール2:ループを作らない

ルール3:サイクルを作らない

「ユーリが推理した必勝法はこういうことだね。でも、推理は推理に過ぎない。証明しないと」

ユーリの推理

《連結ゲーム》では、最初に描いた頂点の数で勝者が決まる。

  • 奇数個ならば、後手必勝になる。
  • 偶数個ならば、先手必勝になる。

ユーリ「お兄ちゃんが言った通り、小さい数で試したよ! まず、頂点が $1$ 個だと、後手必勝!」

頂点が $1$ 個の場合

頂点が $1$ 個の場合、もう辺は描けない。 無理に描こうとするとループになってしまうので《ルール2》に反する。 だから、先手になった方が負ける。

$1$ は奇数だから、確かに「奇数個ならば、後手必勝」になっている。

「頂点が $2$ 個の場合は、先手必勝だね」

頂点が $2$ 個の場合

頂点が $2$ 個の場合、先手が結ぶ辺は一種類しかない。

後手がさらに無理に描こうとすると辺が多重になるか、ループになってしまう。

辺が多重になったら《ルール1》に反する。

ループになったら《ルール2》に反する。

だから、後手になった方が必ず負ける。

$2$ は偶数だから、確かに「偶数個ならば、先手必勝」になっている。

ユーリ「ははーん……」

「何か気がついた?」

ユーリ「頂点が $1$ 個の場合、頂点が $2$ 個の場合と来たら……」

「と来たら……」

ユーリ「お兄ちゃんの大好きな一般化だ! 頂点が $n$ 個の場合を考えるんでしょ? でしょでしょ?」

「ええっ?」

ユーリ「へ? 違うの?」

「いや、それは《早すぎる一般化》だと思うよ。 $1$ 個、 $2$ 個と来たら、頂点が $3$ 個の場合も考えようよ」

ユーリ「えー、めんどいよー」

頂点が $3$ 個の場合

「頂点が $3$ 個の場合、どんなふうに《連結ゲーム》が進むか考えてみよう」

頂点が $3$ 個の場合

ユーリ「あー、先手は $3$ 通りあるじゃん?」

頂点が $3$ 個の場合、先手ははじめに $3$ 通りの辺を描くことができる

「うん、確かに $3$ 通り描けるけれど、つながり方を考えると、実質的には $1$ 通りしかないと考えてもいいよね」

頂点が $3$ 個の場合、先手が描ける辺は実質的に $1$ 通り

ユーリ「あ、そーだね。どこかの $2$ 点がつながるだけだから」

「これに対して、後手の描き方は?」

ユーリ「後手は……うん、これは $2$ 通りあるけど、ジッシツテキには $1$ 通り? 裏返して考えたら」

頂点が $3$ 個の場合、後手が描ける辺は $2$ 通りあるけれど……

「うん、 $1$ 通りだね。裏返してもいいし、鏡に映してもいい」

頂点が $3$ 個の場合、後手が描ける辺は実質的に $1$ 通り

ユーリ「これでもう先手は描けないから勝負あった! 頂点が $3$ 個のときは後手必勝だ!」

「うん、そうだね」

頂点が $3$ 個の場合

頂点が $3$ 個の場合、先手が描ける辺は実質的に一種類しかない。

それに対して後手が描ける辺も実質的に一種類しかない。

それに対して先手が描ける辺はない。

だから、先手になった方が必ず負ける。

$3$ は奇数だから、確かに「奇数個ならば、後手必勝」になっている。

ユーリ「さてさて、お待ちかねの一般化!」

「いやいや、まだ具体例を考えていこうよ」

ユーリ「どしたのお兄ちゃん。いつもならそろそろ《文字の導入による一般化》じゃあ! って腕まくりするとこじゃん? キャラ壊れたの?」

「だって、まだこれじゃ一般化できそうにないからね」

ユーリ「えー、そっかなー。だっていつもなら《頂点が $n$ 個の場合》から《頂点が $n + 1$ 個の場合》へと華麗に進むでしょー?」

「ユーリがいってるのは、《数学的帰納法》を使うって意味だよね」

数学的帰納法

どんな正の整数 $n$ についても条件 $P(n)$ が成り立つことを証明するには、次の二つのステップを踏めばいい。

ステップA: $P(1)$ が成り立つことを証明する。

ステップB:任意の正の整数 $n$ について「$P(n)$ が成り立つならば、 $P(n + 1)$ も成り立つ」ことを証明する。

ユーリ「それそれ、そーゆーやつ。ステップAはめっちゃ簡単で、ステップBが華麗なやつ」

ユーリ「奇数と偶数、交互に進むから、簡単に証明できんじゃないの?」

ユーリの推理

《連結ゲーム》では、最初に描いた頂点の数で勝者が決まる。

  • 奇数個ならば、後手必勝になる。
  • 偶数個ならば、先手必勝になる。

これを証明したい!

頂点が $4$ 個の場合

「……うん、大まかにはわかってきたけど、やっぱり《頂点が $4$ 個の場合》を考えよう」

ユーリ「へいへい、お兄ちゃんには逆らえませんな。 $4$ 個並べますとも」

頂点が $4$ 個の場合

「まず先手は……」

ユーリ「先手は、えーと……何通り?」

「つながり方を考えれば、この $1$ 通りだよ」

頂点が $4$ 個の場合、先手の描き方

ユーリ「あー、そっか。そーだね……」

「単純化して進まないと、考える場合の数が増えちゃうから気を付けないと」

ユーリ「次は後手でしょ。後手も $1$ 通り……んにゃ!  $2$ 通りある! 辺をつなげるのと、辺をバラけさせるのと」

頂点が $4$ 個の場合、後手の描き方

「次は先手に戻るんだけど、二つの場合のそれぞれを考えなくちゃいけなくなる……」

ユーリ「うわあ……すでにめんどくさい……」

僕たちは、議論しながら先手のパターンを調べて、①②③を得た。

頂点が $4$ 個の場合、先手の描き方

「……あれ?」

ユーリ「②と③のジグザグは結局同じだよね?」

「そうだね。つまり、頂点 $4$ 個から始めて、先手→後手→先手と来たときにできるグラフは、この $2$ 通りになる。そしてこれ以上は辺は引けない」

頂点が $4$ 個の場合、勝負が付くパターンは $2$ 通りある

ユーリ「そっかー、場合の数がぞくぞく増えるようだけど、実際は同じになったりするんだね! んじゃ、そろそろ一般化に参りますか」

「そうだね。じゃあ、証明するよ。まず……」

ユーリ「まって。ユーリ、謎を解いちゃったもん!」

「え?」

ユーリ「あのね、ユーリは名探偵なのじゃ。すでに謎はすべて解けておるのじゃ。まずは聞きたまえ」

「聞いてるよ」

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(2020年6月12日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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