[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
Share

第269回 シーズン27 エピソード9
分数を極める:連分数の果てに(前編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

図書室にて

ある日の放課後。

が図書室に行くと、テトラちゃんが熱心に書き物をしていた。

「テトラちゃん、何を書いてるの?」

テトラ「あっ、先輩! グラフですっ!」

「グラフ……何のグラフ?」

テトラ「連分数のグラフです。あ、いいえ、違いますね。 連分数のグラフといいますか……数列のグラフです」

「?」

テトラ「あのですね。 あたしがもらった《カード》とミルカさんの《カード》から、 調和数のことや、 連分数のことを考えたじゃないですか」

「そうだね。いろんな話題が繋がって楽しかった」

テトラちゃんの《カード》

ミルカさんの《カード》

テトラ「はい。不等式で大きさを調べたり、極限を考えたりしました。 でも、あたし、グラフを描いていなかったことに気付いたんです」

「なるほどね。一般項が Hn で表される数列 H1,H2,H3, のグラフを描くとか?」

Hn=11+12++1n

テトラ「はいはい、そうです。それから、連分数で表せる ϕn もです。 ϕn=1+11+11+111+11(横線n本) これを使った、 ϕ1,ϕ2,ϕ3, のグラフも描きます。グラフだとの変化がわかりやすくなりますから」

「確かに」

テトラy=Hn のグラフはこうです」

y=Hn のグラフ

「なるほどね。 Hn の方は、 nHn になることを証明したから、正の無限大に発散するはず」

テトラ「はい、そうですね。グラフではじわじわ増えていく感じなんですね」

ϕn も描いたの?」

テトラ「はい。 y=ϕn のグラフはこうなります。わかりにくかったので、 y 方向に引き延ばしてあります」

y=ϕn のグラフ

「へえ……こんな感じになるんだ。すぐに収束しちゃうんだなあ……」

テトラ「はい。 ϕn の方は、 nϕnϕ に収束します。黄金比 ϕ が極限値です」

ϕn=Fn+1Fn だったよね」

テトラ「そうです。 ϕn は、フィボナッチ数列の隣り合う項の比でした(第264回参照)……それを計算してみると、 ϕn の値は増加と減少が交互にやってくるようです」

「ああ、そうなんだ」

テトラ「え?」

「うん、あのね、 Fn<Fn+1 だから、つい ϕn も単調増加すると思っちゃったんだよ。錯覚、錯覚。勘違い、勘違い。 フィボナッチ数列 Fn が増加するからといって、その比 ϕn まで増加するとは限らないよね。当たり前の話」

テトラ「ああ……そういうことですか。 具体的に計算するとよくわかります。こんなふうになりましたから」

ϕn の表

ϕ1=1/1=1ϕ2=2/1=2ϕ3=3/2=1.5ϕ4=5/3=1.6˙ϕ5=8/5=1.6ϕ6=13/8=1.625ϕ7=21/13=1.61˙5384˙ϕ8=34/21=1.61˙90476˙ϕ9=55/34=1.61˙764705882352941˙ϕ10=89/55=1.61˙8˙ϕ11=144/89=1.61˙7977528089887640449438202247191011235955056˙ϕ12=233/144=1.61805˙ϕ13=377/233=1.6˙180257510729613733905579399141630901287553648068669527896995708154506437768240343347639484978540772532188841201716738197424892703862660944206008583690987124463519313304721030042918454935622317596566523605150214592274678111587982832˙ϕ14=610/377=1.6˙18037135278514588859416445623342175066312997347480106100795755968169761273209549071˙ϕ15=987/610=1.6˙180327868852459016393442622950819672131147540983606557377049˙ϕ16=1597/987=1.6˙18034447821681864235055724417426545086119554204660587639311043566362715298885511651469098277608915906788247213779128672745694022289766970˙ϕ17=2584/1597=1.6˙180338134001252348152786474639949906073888541014402003757044458359423919849718221665623043206011271133375078271759549154664996869129˙ϕ18=4181/2584=1.6180˙34055727554179566563467492260061919504643962848297213622291021671826625386996904024767801857585139318885448916408668730650154798761609907120743˙ϕ19=6765/4181=1.6˙18033963166706529538387945467591485290600334848122458741927768476441042812724228653432193255202104759626883520688830423343697679980865821573786175556087060511839272901219803874671131308299449892370246352547237502989715379095910069361396795025113609184405644582635733078210954317149007414494140157856972016264051662281750777325998564936˙ϕ20=10946/6765=1.61˙803399852˙

「これは……」

テトラϕ1=1 から ϕ2=2 では大きくなり、 ϕ2=2 から ϕ3=1.5 では小さくなり、 ϕ3=1.5 から ϕ4=1.6˙ では大きくなり……と、 大きくなるのと小さくなるのが交互にやってきます。 ϕ7 より後はぜんぶ 1.61 になりますから、グラフではもう区別つかないですね」

ϕ4=1.6˙ というのは ϕ4=1.666 のことだよね。 ϕ4=1.6˙=1.666 から ϕ5=1.6 は小さくなってる」

テトラ「はい、そうです。 小数表記で繰り返しになる範囲は、数字の上にドットを打ちました。 たとえば、 ϕ7=21/13=1.61˙5384˙ というのは、 1 から 4 までを繰り返す、 ϕ7=21/13=1.6 15384  15384  15384  15384  のことです」

「おもしろいなあ。 ϕn=Fn+1Fn だから必ず有理数になる。 だから、小数表記すると必ずどこかで割り切れるか循環するんだけど、 ときどきものすごく桁数が多くなる小数もあるんだね」

テトラ「そうなんですよ。びっくりしました。特に ϕ19 がものすごいですっ!」

ϕ19=6765/4181=1.6˙1803396316670652953838794546759148529061.00334848122458741927768476441042812724221.86534321932552021047596268835206888304231.34369767998086582157378617555608706051181.39272901219803874671131308299449892370241.63525472375029897153790959100693613967951.02511360918440564458263573307821095431711.49007414494140157856972016264051662281751.0777325998564936˙

「これを根気よく計算するなんて、さすが!」

テトラ「あ、あの……」

「うん、やっぱりテトラちゃんだね!!」

テトラ「あの……おほめいただいてすみませんが、あたし、WolframAlphaを使ってしまいました……」

無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには「読み放題プラン」へのご参加が必要です。

ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 447本すべての記事が読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。


参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら

結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加

(2019年8月9日)

[icon]

結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

Twitter note 結城メルマガ Mastodon Bluesky Threads Home