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第228回 シーズン23 エピソード8
微分係数ジグソーパズル(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

$ \newcommand{\FBOX}[1]{\fbox{ $#1$ }} \newcommand{\LEQ}{\leqq} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} $

テトラちゃんは《平均値の定理》の一般化についておしゃべりをしている。

「つまりね、《平均値の定理》の一般化っていうのは、 次のものを使って関数 $f(x)$ を表せないか……という話なんだ」

  • $f^{(n)}(a)$
  • $(x - a)^n$

テトラ「はあ……」

「$f(x)$ を $f^{(n)}(a)$ と $(x - a)^n$ で表すっていうのは、テトラちゃんお気に入りのテイラー展開だよね!」

テトラ「あっ!!」

「$f(x)$ を $f^{(n)}(a)$ と $(x - a)^n$ で表すとしたら、いったいどうなるか……を考えていこう」

テトラ「はいっ!!」

「テトラちゃんはテイラー展開が好きだよね」

テトラ「そうです。先輩から $\sin x$ の冪級数展開を教えていただきました(『数学ガール』第9章参照)」

$$ \sin x = +\frac{x^1}{1!} - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \frac{x^7}{7!} + \cdots $$

「そうだったね。うん、あのときは $\sin x$ という関数を、 $$ \sin x = a_0x^0 + a_1x^1 + a_2x^2 + \cdots $$ という冪級数展開(べききゅうすうてんかい)で表せるとしたら、係数 $a_n$ はどういう形になるかを調べたんだよね」

テトラ「はい、そうでした。あのときには《平均値の定理》と関係があるなんてわかりませんでした。 そもそも《平均値の定理》も知りませんでしたし、冪級数展開も知りませんでしたし……」

「でも、一次関数や二次関数は知ってたよね」

テトラ「はい? え、ええ。一次関数も二次関数も知っています。 たとえば……」

$$ \begin{align*} f(x) &= ax + b && \REMTEXT{一次関数} \\ f(x) &= ax^2 + bx + c && \REMTEXT{二次関数} \\ \end{align*} $$

「そうそう、そういうものだよね。 $x$ に関する一次関数といったら、二つの定数 $a,b$ を使って $ax + b$ という式で表される。一次関数だから $x$ がなくならないようにするために $a \NEQ 0$ とするけど、ともかく $ax + b$ という式」

テトラ「はい。同じように二次関数だったら $ax^2 + bx + c$ で、 $a \NEQ 0$ になります。これはよく知っています」

「$a,b,c$ という形だと一般化しにくいから、定数項は $a_0$ にして、 $x^1$ の係数は $a_1$ にして、 $x^2$ の係数は $a_2$ にする。 ああ、それから $x^0$ はいつも $1$ をあらわすことにすると、 一次関数や二次関数はこう書いても構わないことになる」

$$ \begin{align*} f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 && \REMTEXT{一次関数} \\ f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 + a_2x^2 && \REMTEXT{二次関数} \\ \end{align*} $$

テトラ「はいはい、わかります。 先輩やミルカさんとのお話で、こういう場面はよく出てきますから」

「こういう場面って?」

テトラ「あたしは、 $a,b,c$ のように、つい個別の文字を使いたくなるんです。 これが $a$ だな、あれが $b$ だな、と顔が見えた方がわかりやすいからです」

「文字の顔ね……なるほど」

テトラ「でも、先輩は $a,b,c$ のような文字を、 $a_0,a_1,a_2$ のようにするっと置き換えるんですよ」

「うん、そうだね。さっきの二次関数の例だと $a$ を $a_2$ に、 $b$ を $a_1$ に、 $c$ を $a_0$ に置き換えたね」

テトラ「え……あ、そうですね。逆順でした。 それで、 $a_0,a_1,a_2$ のようにすると急に一人一人の顔が見えなくなるんですが、 その代わりに、この人たちは《同じチーム》ってわかるんですよ!」

「同じチーム?」

テトラ「そうです。 $a_0,a_1,a_2$ というのはみんな $a_n$ という一つのチームです。 同じチームで同じユニフォームを着ていて、背番号が違うだけ」

「なるほどね!確かに背番号だ。 $a_0,a_1,a_2$ の $0,1,2$ という添字が背番号になっている」

テトラ「そういう場面がよく出てくる……とあたしは思うんです」

「$a,b,c$ だとまとめて扱いにくいけど、 $a_0,a_1,a_2$ だと、 $a_n$ のようにまとめて扱えるからだね」

テトラ「あっと、すみません。話の腰を折ってしまいました」

「いやいや、いまのテトラちゃんの話はおもしろいと思ったよ。 実際、背番号に注目することになる」

$$ \begin{align*} f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 && \REMTEXT{一次関数の例} \\ f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 + a_2x^2 && \REMTEXT{二次関数の例} \\ \end{align*} $$

テトラ「?」

「$a_0,a_1,a_2$ のように係数を表すと、 一次関数や二次関数というくくりを越えて、一般化できるからね。 $n$ 次関数はこんなふうに書けるし」

$$ f(x) = a_0x^0 + a_1x^1 + a_2x^2 + \cdots + a_kx^k + \cdots + a_nx^n $$

テトラ「はい。そして $a_n \NEQ 0$ ですね」

「そういうこと。そして、背番号の変化……つまり、添字の変化に注目すると、 シグマを使ってこんなふうに書ける」

$$ \begin{align*} f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 + a_2x^2 + \cdots + a_kx^k + \cdots + a_nx^n \\ &= \sum_{k=0}^{n} a_kx^k \\ \end{align*} $$

テトラ「は、はい。大丈夫です。シグマが出てきても焦りません」

「$n$ 次関数をシグマで表すと、和の本体になる部分にスポットライトがあたるから、どんな和を求めているのかがわかりやすいよ」

テトラ「和の本体というのは、 $\sum_{k=0}^{n} a_kx^k$ でいうと、 $$ a_kx^k $$ の部分ですね?」

「そうそう、その部分」

$$ f(x) = \sum_{k=0}^{n} \FBOX{a_kx^k} \qquad \REMTEXT{和の本体} $$

テトラ「それで、ええと、 $n$ 次関数はシグマを使って書き表せる……と」

「うん。一次関数でも二次関数でも、一般に $n$ 次関数は、 $a_0,a_1,a_2,\ldots,a_n$ という係数が決まれば関数も決まることになるよね」

テトラ「係数が決まれば決まります。そ、それは、当たり前のことですよね?」

「うん、そうなんだけど、じゃ、 $n$ 次関数における係数とはいったい何だろう、という話になる」

テトラ「$n$ 次関数における係数とはいったい何かといいますと、 $n$ 次関数を決めているもの……でしょうか。 $n$ 次関数を決めている数列……といいますか」

「そうだね。そこで、その係数は $x = 0$ における微分係数とどんな関係があるだろうかというのがポイントなんだ」

テトラ「ははあ……それでテイラー展開になる?」

「うん、テイラー展開につながっていくことになる。 そのまえに、僕たちがよく知っている一次関数や二次関数における係数について考えてみよう」

テトラ「たとえば、 $2x + 3$ という一次関数があったとき、 $2$ は何なのか、 $3$ は何なのか……という意味ですね?」

「そういう意味。 ちょうどいいからその例を使ってみるよ。《例示は理解の試金石》だから、具体例で考えるのがいいよね。 $f(x) = 2x + 3$ と置いたとき、関数 $f$ は何度でも微分できる」

テトラ「はい。すぐできます!」

$$ \begin{align*} f(x) &= 2x + 3 \\ f'(x) &= 2 \\ f''(x) &= 0 \\ \end{align*} $$

「そうだね。これで、係数は……」

テトラ「はいはい。 $x = 0$ にして考えれば、 $2x + 3$ の定数項 $3$ は $f(0)$ ですし、 $x$ の係数 $2$ は $f'(0)$ になります」

「そうそう、 $\sin x$ を冪級数展開したときも同じように考えたよね」

テトラ「はい。ですから、 $f(x) = 2x + 3$ は、 こんなふうに書けます」

$$ \begin{align*} f(x) &= 2x + 3 \\\ &= f'(0)x^1 + f(0)x^0 \\ \end{align*} $$

「そういうこと。 この式をよく観察すると、 $x$ の係数は $f'(0)$ になっている。 $y = 2x + 3$ のグラフは直線になるけど、 $x$ の係数はその直線の傾きで、その値は $f'(0)$ になるのはよくわかる」

テトラ「なるほどです。 $x = 0$ での接線の傾きは直線の傾きそのもの……ということですね。 $x = 0$ 以外でも同じですけれど」

「そうそう。もちろん、いまの話はテトラちゃんが作ってくれた $2x + 3$ という一次関数だけにいえることじゃなくて、 $5x - 4$ でも $123x + 456$ でも同じ。一般的に……」

テトラ「はい、一般的に $f(x) = a_1x^1 + a_0x^0$ としたら、 $a_1 = f'(0)$ で、 $a_0 = f(0)$ が成り立ちます」

$$ \begin{align*} f(x) &= a_1x^1 + a_0x^0 \\ &= f'(0)x^1 + f(0)x^0 \\ \end{align*} $$

「一般化するために、項の順番は逆にしておくよ」

$$ \begin{align*} f(x) &= a_0x^0 + a_1x^1 \\ &= f(0)x^0 + f'(0)x^1 \\ \end{align*} $$

テトラ「そうでした、そうでした」

「何をやっているかはわかるよね?」

テトラ「はい、わかります。 $n$ 次関数 $f(x)$ が与えられたとき、 その $f(x)$ の係数 $a_0,a_1,\ldots,a_n$ を、 関数 $f$ の $f(0),f'(0),f''(0),\ldots,f^{(n)}(0)$ で表すお話です」

「じゃ、二次関数でやってみよう」

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(2018年6月15日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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