[logo] Web連載「数学ガールの秘密ノート」
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第172回 シーズン18 エピソード2
裏の裏は表(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

僕の部屋

ここはの部屋。ユーリは、論理についてのおしゃべりをしている。

真理値表

「命題は真か偽か判断できる。真の命題と偽の命題という 2 通りがある。 でも、命題が多くなってくると、真と偽の組み合わせはどんどん増える。 それを整理するために真理値表(しんりちひょう)というものがある」

ユーリ「しんりちひょう」

「命題 P は真か偽の 2 通りのどちらか。そのそれぞれに対して、 命題 Q は真か偽の 2 通りのどちらか。だから組み合わせは全部で何通り?」

ユーリ4 通り」

「そうだね。 2×2=4 通りある。 それをこんなふうにまとめたものが真理値表」

PかつQの真理値表

PQPかつQ

ユーリ「ふんふん。これ、見たことある」

「まあ、よく書くからね」

ユーリ「……これって、命題 P が真で、命題 Q が真のときに限って、 PかつQが真になるっていってるんでしょ?」

「そうだよ」

ユーリ「これって《計算》してるみたい」

「そうだね! その通り。その考えで合ってるよ。真と偽という 2 つの値を使って、 《かつ》という計算をしていると考えることができる。 《真かつ真》のときだけ計算結果が真になるという計算だね」

ユーリ「んー、だったら、真理値表って、こー書いてもいいね!」

PかつQの真理値表(書き換え)

かつ

「いいねえ!」

ユーリ「ね! 九九の表みたい! ……あ、思い出した。ほら、リサねーのこと」

「リサちゃん?」

ユーリ「あのね、双倉図書館でリサ姉からお話聞いたとき、同じ計算が出てきた!」

「いつのことだろう……」

ユーリ「お兄ちゃんはいなかったよ。インフルインフル。双倉図書館(ならびくらとしょかん)の 《変幻ピクセル》イベント(第103回参照)」

「ああ、あのとき?」

ユーリ「そんときは、《ビット単位の論理積》てゆーのがあった。 《かつ》と同じだよ」

論理積(ビット単位) 0&0=00&1=01&0=01&1=1両方が1 のときだけ1

「確かにそうだね。 0 を偽に置き換えて、 1 を真に置き換えて、 & を《かつ》に置き換えればぴったり同じだね。 書くのがたいへんだから、偽を《F》と書いて、真を《T》と書いて、《かつ》を《》にするよ」

論理積(かつ) FF=FFT=FTF=FTT=T両方がT のときだけT


F は偽、 T は真、 は《かつ》を表す。

ユーリ「同じ計算だ」

「そうだね。文字の置き換え、記号の置き換えをするだけで、 完全に入れ替わるってことは、同じ計算といえるよね」

ユーリ「『もしかして』」

「『わたしたち』」

ユーリ「『いれかわってる〜?』」

「時事ネタ自重!」

ユーリ「お兄ちゃんのノリツッコミ初めて見た」

「まじめに行こう」

ユーリ「あのね、 《変幻ピクセル》イベントで、 リサ姉が機械見せてくれたの(第103回参照)。 紙をスキャンして、 色が黒いところが 1 になって、白いところが 0 になるとき、 黒と黒が重なるときだけ黒をプリントする……みたいなの。 それが論理積」

「なるほどね。それは計算結果を図形の色に対応させてるんだ」

ユーリ「そんな感じ」

または

ユーリ「否定と、《かつ》と、それから《または》でしょ?」

「そうだね。命題を扱う命題論理だと、その 3 つは大事だね。 《または》の真理値表はわかる?」

ユーリ「お兄ちゃんから聞いたことある。 少なくとも片方が真のときだけ、全体が真になるんでしょ?」

PまたはQの真理値表

PQPまたはQ

「そうだね」

ユーリ「ビット単位の論理和ってゆーのもあったよ!」

論理和(ビット単位) 0|0=0両方が0 のときだけ00|1=11|0=11|1=1

「それに合わせて、 FT で書いてみようか。《または》は にして」

論理和(または) FF=F両方がF のときだけFFT=TTF=TTT=T

ユーリ「こっちも、《|》と《》は同じ計算なんだね!」

「そうだね。同じ計算をやってるように見えるね」

ユーリ「あれ? もしかして……」

「もう時事ネタはいいよ」

ユーリ「違うの! そーじゃなくて、思いついたの!」

「何を?」

ユーリ「同じなの! 《かつ》と《または》って同じ計算じゃん!」

「?」

ユーリ「置き換えちゃう。 FT を置き換えて、 を置き換えるの!」

「書いてみようよ」

置き換えたらどうなる?

F⇠⇢T⇠⇢

真理値表の置き換え

ユーリ「ね? ね? でしょでしょ?  FT を交換して、 を交換しても、真理値表は正しいじゃん?」

「まったくその通り! すごいな!」

ユーリ「ねー、これって大発見?」

「そうだね! ユーリのこの発見は、 《ド・モルガンの法則》の言い換えになっているよ」

ユーリ「なにそれ」

「ド・モルガンの法則っていうのは、 論理の法則の一つだよ。 真偽を交換することと、論理和と論理積を交換することの関係を表してる」

ユーリ「へー」

「ド・モルガンの法則はいろんな書き方ができるけど、 たとえばこんなふうに書ける。 ¬P というのは P の否定のこと」

ド・モルガンの法則

命題 P と命題 Q の真偽に関わらず、 PQ¬((¬P)(¬Q)) の真偽はつねに一致する。


このことを PQ¬((¬P)(¬Q)) と書く。


は《論理同値》を表す。

ユーリ「へ?」

「何が『へ?』なの? ユーリが発見したことと同じになってるよ」

ユーリ「お兄ちゃん得意の数式が出てきたけど、 これってユーリが言ったことと同じなの?」

「同じだよ。ユーリは FT を交換して、 を交換しても、 正しい真理値表ができるっていってたわけだろう?」

ユーリ「まーね」

FT を交換するということは、真偽を交換するわけだから、 否定 ¬ を使えばいいよね。 P があったら ¬P にして、 Q があったら ¬Q にする。 最後に全体の式もまとめて否定 ¬ する」

ユーリ「そっか……」

「そういうつもりでもう一度式を読んでごらんよ」

ユーリ「じー」

PQ¬((¬P)(¬Q))

「ね?」

ユーリ「なーるほど! わかった。ほんとだ。 左辺の P¬P で置き換えて、 Q¬Q で置き換えて、 で置き換えて、全体に ¬ 付けたのが右辺になってる」

「そうそう。それで正しく式を読んでいるよ。 左辺 PQ の真理値表と、 右辺 ¬((¬P)(¬Q)) の真理値表を比べてみれば、 そうすると、この 2 つの真理値表が一致することがわかるよ」

PQ の真理値表

¬((¬P)(¬Q)) の真理値表

ユーリ「……両方とも、 FFFT ?」

「そうだね。ということは、 P,Q の真偽に関わらず、 この 2 つの式の真偽は一致するといえる。 PQT のとき、 ¬((¬P)(¬Q))T になるし、 片方が F なら、他方も F

ユーリ「……」

「ド・モルガンの法則はもう一つあるよ。 もう一度 を置き換えたものだね。 まとめて書いておこうか」

ド・モルガンの法則

PQ¬((¬P)(¬Q))PQ¬((¬P)(¬Q))

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(2016年10月14日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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