この記事は『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』として書籍化されています。
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
ミルカさん:数学が好きな高校生。僕のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。
リサ:自在にプログラミングを行う無口な女子。赤い髪の《コンピュータ少女》。
僕とテトラちゃん、それにミルカさんは今日、双倉図書館(ならびくらとしょかん)に集まっている。
リサがプログラミングに関する発表を行うのを見に来たのだ。
発表は無事に終わり、いまはみんなでお茶を飲んでいるところ。
テトラ「リサちゃんの発表、あたしには難しかったみたいです」
リサ「《ちゃん》は不要」
ミルカ「今回は、大半がマニア向けの話だったような」
リサ「全部が」
テトラ「あ、でも、コンピュータグラフィクスの星空はきれいでした! あんなのが作れるってすごいです!」
僕「確かにきれいだったよね。あそこから星座の話にもってくるのか、という」
リサ「普通」
テトラ「ああいうプログラムって、難しいんでしょうね……」
リサ「基本は簡単」
ミルカ「簡単なものを基本という。大量の行列計算?」
リサ「ライブラリで一発」
テトラ「行列? 行列がプログラムに出てくるんですか?」
僕「なるほど。座標の計算をすることになるからか」
ミルカ「お茶が済んだら、リサに簡単なデモをしてもらおう。行列計算の基本」
僕たちは双倉図書館の一室に移動した。
リサがコンピュータをプロジェクタにつなぐと、 広い壁の中央にグラフ用紙……座標平面が描かれた。
座標平面
リサ「ミルカ氏が解説」
ミルカ「ふむ。まずは、座標平面上に点を打つことにしよう。テトラが点の座標を言う」
テトラ「ど、どこでもいいんですか? それでは、先手のあたしは、点
僕「テトラちゃん……囲碁将棋じゃないんだから」
リサがキーを叩くと、座標平面上に点が映し出される。
点
僕「まあ、確かに点
ミルカ「
点
ミルカ「そしてここで適当な行列を決めよう。君が決める」
僕「え、適当に決めていいの?」
ミルカ「いい。センスが問われるけれど」
僕「(何のセンスなんだろう)じゃあ、とりあえず簡単なもので……たとえば、
ミルカ「その行列
テトラ「ちょ、ちょっと待ってください。確認なんですが、 《行列と縦ベクトルの積》というのは、 行列の積と同じような計算をするんですよね。 《掛けて、掛けて、足す》です」
ミルカ「もちろん」
行列と縦ベクトルの積
行列
テトラ「すみません、話の腰を折ってしまいました」
ミルカ「行列
テトラ「そうですね」
ミルカ「こんなふうにも言える。
すなわち、
テトラ「移す……」
ミルカ「リサ、矢印出る?」
リサ「当然」
行列
テトラ「……」
僕「行列が変われば、点が移る先も変わるよね。
たとえば、
リサ「いま出す」
行列
テトラ「え、ええっと。あ、そうですね。計算すればすぐに出ます」
テトラ「あ……でも、考えてみれば当たり前です。
だって、点は
ミルカ「その通り。しかし、ここで自然な疑問が浮かんでくる」
テトラ「疑問……」
ミルカ「君が答える」
僕「それはもちろん……ひとつの行列が与えられたとき、 《この行列は、どんなふうに点を移すのか?》 という疑問だよね」
テトラ「え? でも、それは根気よく計算すればいい話ではないんでしょうか。 行列の積の方法はわかっています。ですから、行列が与えられれば、 点がどこに移されるかはわかりますよね。計算すれば」
リサ「あるいはプログラムで」
僕「もちろんそうだよ、テトラちゃん。計算すれば具体的にわかる。 でも、行列はその形を見るだけで、どんな変換を行うかわかるんだ。 パターンがあるんだよ」
テトラ「そうなんですか。……変換?」
ミルカ「
テトラ「はあ……」
ミルカ「さっきは一点だけを移動した。行列がおこなう変換を見るために、 もっとたくさんの点を移してみよう。リサはすぐ出せるかな」
リサ「曖昧な指示」
ミルカ「しかし応えるリサ」
テトラ「きゃああっ! ……失礼しました。びっくりしてしまいました」
僕「たくさん出たなあ」
ミルカ「多すぎる。象限ごとに点の描き方も変えて」
リサ「仕様変更」
ミルカ「しかし応えるリサ」
僕「なるほど。一辺が
テトラ「この点を全部、行列を使って変換するわけですね」
ミルカ「たとえば、
行列
ミルカ「矢印でも出せるかな」
リサ「要求過多」
ミルカ「しかし応えるリサ」
行列
テトラ「なるほどです! 点がわあっと広がって」
僕「
テトラ「
僕「点が広がる様子は、一般的な点
行列
テトラ「わかりました。
リサ「
行列
テトラ「なるほどです。
リサ「単位行列」
行列
テトラ「パターンという意味が少しわかりました。たとえば、
僕「そうだね。
テトラ「ああ、
僕「うんうん」
ミルカ「
リサ「表示開始」
行列
テトラ「なるほどです。横方向には
僕「数と違うところだね。《方向》によって変えられる」
ミルカ「別の行列を試してみよう。
たとえば、そうだな。
クイズ
以下の点を行列
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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