ここは僕の部屋。今日は土曜日の午後。 いつものようにユーリは僕の部屋でたいくつそうに本を読んでいる。
ユーリ「ねーお兄ちゃん、何かして遊ぼーよ! たいくつたいくつ!」
僕「人の部屋に来て『たいくつたいくつ!』もないと思うんだけど……」
ユーリ「そういえば朝ドラで『マッサン』が始まったよね」
僕「だから、そういう時事ネタ禁止」
ユーリ「金髪っていーなあ! ユーリみたいな栗色ってパッとしないよね」
ユーリはそう言ってポニーテールの先をいじる。
僕「いやいや。ユーリだって、ほら数学の問題解いているとき……」
ユーリ「なーに?」
僕「まあいいや。たいくつだったら、クイズ出そうか」
ユーリ「クイズ? おもしろいならいーけど」
僕「こういうクイズ」
クイズ1
「もしも、
ユーリ「成り立つ! はい、次のクイズは?」
僕「答えるの早いな!」
ユーリ「こんなの簡単じゃん! はい、次のクイズ!」
僕「ちゃんと理解して答えたのかなあ……」
ユーリ「えー、ユーリさまを疑うの? だって
僕「そうだね」
ユーリ「
僕「そうそう」
ユーリ「
僕「なるほどね」
ユーリ「何がなるほど?」
僕「いやいや、じゃあ次のクイズに進んでもいい?」
ユーリ「いいよん。早く!」
僕「じゃ、次のクイズ。これは簡単かな?」
クイズ2
「もしも、
ユーリ「おっと、そう来るのね。ええっと、ええっと……うん、成り立つ成り立つ!」
僕「ちゃんと問題を……」
ユーリ「分かって答えてるよ! 今度は両辺から同じ数
僕「そうそう」
ユーリ「
僕「うん、それでいいんだけど」
ユーリ「だけど?」
僕「さっきのクイズ1は即答したのに、どうしてこのクイズ2は一瞬だけ答えるのが 遅れたのかなと思って」
ユーリ「だって、引き算でも大丈夫かなって、ちょっと考えたんだもん。悪い?」
僕「いやいや、悪くはないよ。考えることはまったく悪くない。でもね」
ユーリ「……」
僕「でも、クイズ1とクイズ2はまったく同じ問題なんだよ」
ユーリ「何で?……あっ、そうか!」
僕「だよね」
ユーリ「にゃるほど!
僕「そうだね」
ユーリ「
僕「まあ、だいたいそういうことだね。説明はちょっとあやふやだけど。
ユーリが答えたように
ユーリ「そー! そー言いたかったの!」
僕「
ユーリ「そだね」
僕「では、それを踏まえて次のクイズ」
ユーリ「?」
僕「これはどうかな」
クイズ3
「もしも、
ユーリ「なーるほど、そう来たか。これもカンタンだよ。これは成り立たないね!」
僕「そうだね。いつも成り立つとは限らない」
ユーリ「《いつも
僕「うん、それで?」
ユーリ「
僕「……」
ユーリ「え? 違うの?」
僕「……待ってるんだけど」
ユーリ「何を?」
僕「何かを」
ユーリ「ん? だってそーじゃん。
僕「……」
ユーリ「……あっ! もう一つあった。ゼロだ!
僕「はい、大正解! 待っててよかった」
ユーリ「これを待ってたの?」
僕「そう。《いつも成り立つか》に対しては《成り立つとは限らない》でいいよ。
でも、さらに
クイズ3の答え
「もしも、
僕「掛ける数が負なら、不等号の向きが逆になるというのはミスしやすいところだね」
ユーリ「まー、これも大したことないクイズだよ。カンタン、カンタン」
僕「言ったな。じゃ、こんなクイズはどう?」
クイズ4
「もしも、
ユーリ「へー、これがお兄ちゃんの本気なの? これは成り立つ!」
僕「そうだね。どうして?」
ユーリ「どーしてって?」
僕「どうして、
ユーリ「だってさ、
僕「そうだね。それでいい。でも念のため、式を使って確かめてみようか」
ユーリ「式を使う?」
僕「いま証明したいのは
ユーリ「どゆこと?」
僕「
ユーリ「なんで?」
僕「なぜかというと、この式
《同値なので、どちらを証明してもいい》
ユーリ「ほほー」
僕「あとは式変形をしていけば、糸口が見えてくるはずだよ」
ユーリ「ふむふむ?」
僕「つまり、
ユーリ「そだね」
僕「ところで、いま僕たちが考えている
ユーリ「え? ああ、そーだね。
僕「ところで、
ユーリ「そりゃそーだ」
僕「だから、
ユーリ「なーる。これで
僕「そうだね。だから確かに、
クイズ4の答え
「もしも、
僕「じゃ、もう一つクイズだよ」
クイズ5
「もしも、
ユーリ「やっぱり!」
僕「何がやっぱり?」
ユーリ「やっぱり、そー来ると思ったよ! ふはは」
僕「キャラおかしいぞ」
ユーリ「さっき
僕「あ、そう……それで、答えは?」
ユーリ「これは、成り立たない!」
僕「どうして?」
ユーリ「だってさー、
僕「それでいいんだよ、ユーリ。いまのは
ユーリ「そゆこと!」
僕「だから、
ユーリ「そーそー、反例、はんれい」
僕「そうだね」
クイズ5の答え
「もしも、
ユーリ「……」
僕「ユーリ、どうした?」
ユーリ「今度は、ユーリがクイズ出す!」
クイズ5
「もしも、
僕「なるほど、これはいい問題だね」
ユーリ「上から目線はいいから、答える答える!」
僕「うん、これは成り立つね」
ユーリ「何で?」
僕「不等式の問題を解く定石通りだよ。
《大きい式から小さい式を引く》を計算すればすぐだから。
つまり
ユーリ「にゃるほど。それでもいーね。ユーリはこう考えたの。
僕「あはは、確かにね。ユーリの言いたいことはよくわかるよ。
ユーリ「うん、そーそー!」
僕「確かにそれで直観的にはよくわかるなあ。 でも、式を使った方がいいと思うよ」
ユーリ「何で?」
僕「だって、直観はまちがうことがあるからね。勘違いというか、だまされるというか」
ユーリ「ユーリはまちがえないよ」
僕「大胆発言だな。そういう人がうっかりミスするんだよ。 自分はまちがうかもしれないと思っている人は慎重に考えるけど、 自分はまちがえないと思っている人はミスする」
ユーリ「たとえば?」
僕「たとえばって?」
ユーリ「お兄ちゃん、よくゆーじゃん。《例示は理解の試金石》って。 例を出せるかどうかで理解度がわかるんでしょ。 《ユーリがまちがえそーなクイズ》の例を出してよ。 言っとくけど、お兄ちゃんが今日出してる問題、ユーリ全問正解してるからね!」
僕「むっ……そこまで言われたら、本当の本気を出さないとな」
ユーリ「えっ……ねー、お兄ちゃん。何か目がマジなんですけど」
僕「そうだなあ……」
ユーリ「……ちょっと待ってよ。ねー」
僕「じゃあ、これ」
クイズX
もしも、
ユーリ「うわなにこれいきなり難しくなってるんですけど!」
僕「がんばってもらいましょう」
ユーリ「……《何がいえるか》ってどーゆー意味?」
僕「
ユーリ「ぐえー、そーゆーことかー。たとえば、
僕「そう。たとえば、ね」
ユーリ「ぐえー、ユーリにこれ解けんの?」
僕「解けるよ。絶対に解ける」
ユーリ「ぐえー」
僕「直観に頼らず、式に頼ればね」
ユーリ「えっ、ここで《次回に続く》なの?」
僕「たいくつしなくて、いいだろう?」
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(2014年10月3日)