今日は土曜日。ここは僕の家。 ユーリと僕は《円筒形を平面で切った断面》について調べていた。 ちょうどいま、断面が楕円になることを証明したところ。
ユーリ「ソーセージの断面は、楕円! 証明できた!」
僕「けっこうたいへんだったなあ(第87回参照)」
ユーリ「いやいや、なかなかでしたよ、お兄ちゃん」
僕「図に描くのはやっぱり大事だ」
ユーリ「お兄ちゃんって、よくサイン・コサイン・タンジェント教えてくれるじゃん? あれってほんとに使うんだね」
僕「《ほんとに使う》って、何のこと?」
ユーリ「いやほら、サイン・コサイン・タンジェントって、三角形描いて、いろいろ計算するじゃん。 でも、さっきは《円筒を平面で切った形が楕円になる》ことを証明するときに、 $\sin \alpha$ が出てきた」
僕「そうだね」
ユーリ「そーゆーこと!」
僕「三角関数の $\cos$ や $\sin$ や $\tan$ は、とてもよく使う数学の道具だよ、ユーリ。 テトラちゃんなら《バトルの武器ですっ!》なんて言いそう」
ユーリ「テトラさん?」
僕「三角関数っていかにも難しそうに見えるけれど、 角度が登場するときにはしょっちゅう使う道具だよ。 それからもちろん、円や楕円もそうだね」
ユーリ「うん。お兄ちゃんがサイン・コサインの話するとき、 必ず円を描くよね」
僕「そう。こういう円だろ? 原点を中心にして、 半径が $1$ の単位円」
ユーリ「そーそー!」
単位円上の点 $(x,y)$ と $\cos \theta, \sin \theta$ の関係
僕「単位円の上にある点を $(x,y)$ とすると、 $x = \cos \theta$ で、 $y = \sin \theta$ で表せる。 角度 $\theta$ を動かしていったとき、 $(x,y)$ は変化していくけれど、 そのときの $x$ と $y$ の値として、 $\cos \theta$ と $\sin \theta$ が定義されるんだよ。 タンジェントは $\tan\theta = \dfrac{\sin \theta}{\cos \theta}$ で定義するね。 円を扱うときには自然に三角関数が出てくる」
ユーリ「三角なのに必ず円が出てくるっておかしーね」
僕「そうだね。直角三角形の代表的な定理は《三平方の定理》(ピタゴラスの定理)だけど、それを使うと、 $\cos \theta$ と $\sin \theta$ のあいだにどんな関係があるかもわかるよ。コサインとサインの関係式」
$\cos \theta$ と $\sin \theta$ の関係式
ユーリ「ふんふん」
僕「$\cos^2 \theta + \sin^2 \theta = 1$ というのは、 三角関数でいちばん基本的な式なんだけど、 それは原点中心で半径が $1$ の円の方程式 $x^2 + y^2 = 1$ だといってもいいんだよ」
ユーリ「円の方程式、ね」
円の方程式
原点中心で、半径が $1$ である円の方程式は、 $$ x^2 + y^2 = 1 $$ である。
僕「そうそう。そして、この円を横方向に $a$ 倍して、 縦方向に $b$ 倍したものが楕円になる。 逆にいえば、楕円を横方向に $a$ 分の $1$ して、 縦方向に $b$ 分の $1$ したら単位円になるということ」
ユーリ「うん、こないだやったやった(第83回参照)」
僕「円筒を真横($90$ 度)じゃなくて、角度 $\alpha$ の平面で切ったとき、 $a = \dfrac{1}{\sin \alpha}, b = 1$ という値になった(第87回参照)」
ユーリ「うんうん」
円と楕円の関係
ユーリ「こないだの《ささやきの回廊》もそーだし、 円筒を平面で切るのもそうだけど、楕円っておもしろいね」
僕「そうだね」
ユーリ「それに、お兄ちゃんが何でもちゃちゃっと証明してくれるのがすごいよ!」
僕「何でもじゃないよ。証明できるものだけ」
ユーリ「アニメネタ禁止」
僕「てへ」
ユーリ「そんなことより、楕円でもっとおもしろい話ないの? ねーねー!」
僕「そうだなあ……たとえば、円筒の中に《球を入れる》という話がある」
ユーリ「球を入れる?」
僕「そう。円筒にぴったり入る大きさのボールみたいなものを考えればいいよ。 円筒の半径と球の半径が等しいということ。 円筒を斜めに切った平面を固い紙だとすると、 円筒に入れたボールはすうっと降りていって、平面にそっとタッチして止まる」
ユーリ「ふんふん?」
僕「平面と球は一点で接する……図に描いてみようか」
円筒の中に球を入れる
ユーリ「ほほー、なるほど。この $A$ が平面で、斜めに切ってるんだね」
僕「そうそう。そこに球を入れた。そうすると一点で接する。 もしも平面 $A$ が水平になっていたら、この《接点》は断面の円の中心になる」
ユーリ「……でも、平面 $A$ が水平じゃなかったら?」
僕「水平じゃなかったら……この接点は何だと思う?」
ユーリ「何か特別な点なの?」
僕「そうだよ。楕円にとって特別な点。ユーリも知ってるはず」
ユーリ「えっ! 《楕円の焦点》なの? もしかして!」
僕「大正解! そうなんだよ」
ユーリ「う、うわーっ! なにそれすごい!」
僕「不思議だよね。円筒を斜めに平面で切る。円筒に球を入れる。 球と平面の接点は、断面となる楕円の焦点に一致する。 これはとってもきれいな性質だよね!」
ユーリ「へーっ! ……あれ、でも何か変だよ」
僕「何が?」
ユーリ「だってさ、焦点っていうのは、楕円を描くときに使ったよね。 ピンを刺したところでしょ?(第83回参照)」
僕「そうだね」
ユーリ「なんで、その焦点が、入れた球と関係があるの? ぜんぜん関係ないじゃん!」
僕「うーん、まあ確かに関係はないといえばないんだけど」
ユーリ「偶然?」
僕「いや、どんな角度で切った場合でも、必ず楕円の焦点で接するから、 偶然というわけじゃない。まあ、だから楕円の性質としかいいようがないけど」
ユーリ「もやもやするにゃ……あっ! お兄ちゃん! これも証明してよ!」
僕「え……」
ユーリ「そーだよ! お兄ちゃんならできるよ!」
問題
円筒を平面で斜めに切る。 円筒と半径が等しい球を円筒に入れたとき、 球と平面の接点は、断面となる楕円の焦点に一致するか。
僕「これは……どうすればいいのかな……」
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