ユーリ「にゃあにゃあ!」
僕「へんな猫が来た」
ユーリ「へんにゃねこじゃ、にゃいにゃ!にゃにいってるにゃ!」
僕「無理に猫語で話すなよ。何いってるか、わからないし」
ユーリ「猫物語の(白)読んだ影響で猫化が加速中…」
僕「数学にぜんぜん関係ない前振りって珍しいな」
ユーリ「そんなことより、指数関数の話なんだけど」
僕「なにそれいきなり」
ユーリ「お兄ちゃん、こないだ指数関数と対数関数の話、してくれたじゃん?(第76回参照)」
僕「そうだったね」
ユーリ「ふと気付いたんだけど、お兄ちゃん、グラフ描いてくれたよね」
僕「これ?」
指数関数のグラフと対数関数のグラフ
ユーリ「それそれ。でも、これってごまかしてるよね」
僕「え、どこが?」
ユーリ「だってさ、 $y = 10^x$ のグラフっていっても、 考えたのは $x$ が $1$ とか $2$ とかじゃん? だったらグラフってテンテンになるんじゃないの?」
僕「ああ、そういうこと? $x$ が $\ldots, -3, -2, -1, 0, 1, 2, 3, \ldots$ という整数しか考えてないって?」
ユーリ「そーそー。そして $x = 1$ のとき $10^x$ は $10$ だから、グラフ用紙からはみ出しちゃうよね」
僕「まあ、そうなるよね。でも指数関数 $10^x$ そのものは、 $x$ が整数以外でも定義できるよ。たとえば $10$ の $\dfrac12$ 乗も」
ユーリ「え! $\dfrac12$ 乗!?」
僕「あれ? この話、したことなかったっけ」
ユーリ「あったっけ。でも忘れた」
僕「がく。 $10$ の $\dfrac12$ 乗は、 $10$ の $0$ 乗を定義したときと同じように考えて定義すればいいんだよ」
問題
$10^{\frac12}$ の値は何と定義するのがいいか。
$$ 10^{\frac12} = \REMTEXT{?} $$
ユーリ「$10$ の $0$ 乗って $1$ でしょ?」
僕「そうだね。 $10^0$ は $1$ に等しい。これは指数法則を満たすように定義したんだったよね。冪乗を掛け算すると、指数の部分の和になるという指数法則 $10^m \times 10^n = 10^{m+n}$ を使う」
$$ \begin{align*} 10^m \times 10^n &= 10^{m+n} && \REMTEXT{指数法則} \\ 10^0 \times 10^1 &= 10^{0+1} && \REMTEXT{$m = 0, n = 1$とした} \\ 10^0 \times 10 &= 10 && \REMTEXT{$10^1 = 10$で$10^{0+1} = 10$だから} \\ 10^0 &= 1 && \REMTEXT{両辺を$10$で割った} \\ \end{align*} $$
ユーリ「うんうん、そうだった。なんか思い出した。でも $10^{\frac12}$ は?」
僕「同じように、今度は $10^{\frac12} \times 10^{\frac12}$ も指数法則を満たすとしたら……と考えるんだよ。 $m$ と $n$ が $\dfrac12$ でも指数法則を満たすとしたら、 $10^{\frac12}$ はどんな値にならなくちゃいけないか、と考える」
$$ \begin{align*} 10^m \times 10^n &= 10^{m+n} && \REMTEXT{指数法則} \\ 10^{\frac12} \times 10^{\frac12} &= 10^{\frac12+\frac12} && \REMTEXT{$m = \dfrac12, n = \dfrac12$とした} \\ 10^{\frac12} \times 10^{\frac12} &= 10^1 \\ \left(10^{\frac12}\right)^2 &= 10 \\ \end{align*} $$
ユーリ「ふむふむ?」
僕「だから、 $10^{\frac12}$ は《$2$ 乗すると $10$ に等しい数》だとうれしい。だから、そう定義する」
ユーリ「《そう定義する》って?」
僕「《$2$ 乗すると $10$ になる数》は二つある。 $\sqrt{10}$ と $-\sqrt{10}$ だ。 そのうち正の数を採用することにして、つまり、 $10^{\frac12} = \sqrt{10}$ と定義するってことだよ」
ユーリ「うわそんな勝手に」
僕「$10^{\frac12}$ は《$10$ を何個か掛ける》という考え方では定義できないから、 指数法則を頼りにすることにした。それは自然な拡張になるからだね」
ユーリ「ふーん。あれ、でも、指数法則を満たすだけなら $10^{\frac12}$ を $-\sqrt{10}$ と定義してもよかったよね?」
僕「そうだね。なぜマイナスにしなかったかというと……なぜだろう。 たぶん、そうしてしまうと、 $10^x$ の変化がとっても不自然なものになるからじゃないかな。 $x$ が整数のときは $10^x > 0$ で、 $x$ が整数じゃないときには $10^x < 0$ になっちゃうから」
ユーリ「そっか」
解答
$$ 10^{\frac12} = \sqrt{10} $$
僕「$10^\frac12 = \sqrt{10}$ で、 $10^\frac13 = \sqrt[3]{10}$ になる」
$10$ の $\dfrac1n$ 乗
$$ \begin{align*} 10^{\frac11} & = 10 \\ 10^{\frac12} & = \sqrt{10} \\ 10^{\frac13} & = \sqrt[3]{10} \\ 10^{\frac14} & = \sqrt[4]{10} = \sqrt{\sqrt{10}} \\ 10^{\frac15} & = \sqrt[5]{10} \\ \vdots & \end{align*} $$
ユーリ「$\sqrt{\sqrt{10}}$ って何?」
僕「$\sqrt{10}$ は $10$ のルート、つまり平方根の正の方だね。二乗すると $10$ になる二つの数のうち、正の方。 $\sqrt{\sqrt{10}}$ はその数のさらにルートを取ったもの」
ユーリ「$10$ のルートのルート?」
僕「そうだね。 $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $10$ の四乗根の一つになるよ」
ユーリ「それって、どんくらい大きい数なの?」
僕「え?」
ユーリ「$\sqrt{\sqrt{10}}$ って数でしょ? どのくらいの大きさかなって」
僕「計算してみようか」
僕は電卓で$\sqrt{\sqrt{10}}$を計算する。$10$→$\sqrt{\mathstrut\REMTEXT{ }}$→$\sqrt{\mathstrut\REMTEXT{ }}$とキーを打った。
$$ \begin{array}{rllll} 10^{\frac12} &= \sqrt{10} &= 3.16227766016838\cdots \\ 10^{\frac14} &= \sqrt{\sqrt{10}} &= 1.778279410038923\cdots \\ \end{array} $$
僕「$\sqrt{10}$ は $3.16$ くらいで、 $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $1.77$ くらい。四捨五入すれば $1.78$ ってとこかな」
ユーリ「あっ! $10$ より小さいんだ!」
僕「そうだね。 $\sqrt{10}$ も $\sqrt{\sqrt{10}}$ も $10$ より小さい。 それは指数関数のグラフからもわかる」
ユーリ「どゆこと?」
僕「$\sqrt{10} = 10^\frac12 = 10^{0.5}$ だし、 $\sqrt{\sqrt{10}} = 10^\frac14 = 10^{0.25}$ だよね」
ユーリ「$10^{0.5}$ と $10^{0.25}$ ……そーだけど?」
僕「ほら、指数関数のグラフは右上がり。 $x$ が大きい方が $10^x$ も大きい。 $0.5$ より $1$ は大きいし、 $0.25$ より $1$ は大きい」
ユーリ「ごめん、何言ってるかわかんない」
僕「難しい話じゃないよ。《$x < 1$ ならば $10^x < 10^1$ だ》っていってるだけ」
ユーリ「……あ、そゆことか。あたりまえじゃん!」
僕「そうそう。あたりまえのこと。指数関数のグラフみたいに右上がりの関数を増加関数っていう。 指数関数が増加関数であるっていうのは、《$a < b$ ならば $10^a < 10^b$ が成り立つ》ということだね」
ユーリ「んー……んんん。数学って、当たり前のことをめんどくさく言うんだね」
僕「めんどくさくっていうより、きっちり言おうとしているんだよ」
ユーリ「まー、そゆところは好きだけど」
僕「$a < b$ ならば $10^a < 10^b$ が成り立つし、 $10^a < 10^b$ が成り立てば、 $a < b$ が成り立つ。 《指数関数を通しても、数の大小関係は変化しない》ともいえるね」
指数関数を通しても、数の大小関係は変化しない
$$ a < b \qquad \Longleftrightarrow \qquad 10^a < 10^b $$
ユーリ「ふんふん。簡単だね!」
僕「言ったな。ではクイズを出すよ。 $\LOG{\sqrt{10}}$ を求めよ!」
クイズ
$$ \LOG{\sqrt{10}} = \REMTEXT{?} $$
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