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第67回 シーズン7 エピソード7
分けて並べて置き換えて(前編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/場合の数』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/場合の数』として書籍化されています。

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宿題を終えて

今日は土曜日。ここはの家のダイニング。 ユーリがテーブルの上でノートを広げて宿題をしている。

ユーリ「……あーできたできた! 宿題おーわりっと」

「ユーリ、なんでわざわざうちに来て宿題するんだ?」

ユーリ「別にいーじゃん」

「まあいいけどね」

ユーリは近所に住んでいる僕のいとこだ。 栗色のポニーテールにジーンズ。 しょっちゅうの家に遊びにやってくる。

ユーリ「遊びにやってくるって……ちゃんと宿題もやってるよ」

「だから、地の文に突っ込むなって。メタな行動、自重」

ユーリ「ふーん」

「宿題は数学?」

ユーリ「気になる? まー簡単な問題だよ。組み合わせの数。たとえばこんなの」

問題1(組み合わせの数)

$5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。

「なるほど。ユーリには簡単だろうな」

ユーリ「簡単だよん。こうでしょ?」

解答1(組み合わせの数)

$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_2 &= \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$

だから、 $5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。

「そうだね」

ユーリ「こんなの簡単すぎ!」

「$10$ 通りだったら具体的に書くこともできるね」

$5$ 人の生徒(a,b,c,d,e)から $2$ 人を選ぶ組み合わせ

「ところでユーリは、なぜこの計算で組み合わせの数が求められるか、わかってる?」

$$ \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} $$

ユーリ「え? ……だって、 $5$ 人から $2$ 人選ぶけど、選ぶ順序考えないから半分」

「うんうん、そうだね。ユーリはよくわかっている」

ユーリ「えへん」

「こういうことだよね。 $5$ 人の中から $1$ 人選ぶ選び方は $5$ 通りある。 そしてそのそれぞれの場合に対して、残った $4$ 人の中からもう $1$ 人選ぶ選び方は $4$ 通りある」

ユーリ「うん」

「ここまでで $5 \times 4 = 20$ 通りの場合の数があるけれど、 それは選ぶ順序を区別してしまっている。 順列(じゅんれつ)を考えているわけだ。 でもいまは $1$ 人目にaを選んでから $2$ 人目にbを選ぶのと、 $1$ 人目にbを選んでから $2$ 人目にaを選ぶのとは区別しない。 組み合わせを考えたい。 つまりさっきの $20$ 通りはだぶって $2$ 倍数えていたことになる」

ユーリ「ふんふん」

「$20$ 通りの順列はabとbaの両方を数えてる。でも組み合わせはどちらか片方だけ数えればいい」

ユーリ「だから、半分になって $10$ 通り! ユーリが言った通りじゃん」

$5$ 人の生徒(a,b,c,d,e)から $2$ 人を選ぶ《順列》と《組み合わせ》

「そうだね。ユーリの言った通りだよ。順序を考えて $2$ 人を選んでおいてから、 順序は考えないことにするから割り算する」

ユーリ「そーそー」

「$5$ 人から $3$ 人選ぶときも同じようにいえる?」

問題2(組み合わせの数)

$5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。

ユーリ「同じ計算じゃん!」

解答2(組み合わせの数)

$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_3 &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$

だから、 $5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。

「そうだね。 $\dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1}$ の分子 $5 \times 4 \times 3$ は、 《$5$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》で、 分母 $3 \times 2 \times 1$ は、 《順序を考えて選んだ $3$ 人を並べ替える場合の数》だね。 分母は《$3$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》ともいえる」

$$ \begin{align*} & \REMTEXT{《$5$人から$3$人を選ぶ組み合わせの数》} \\ &= \dfrac{\REMTEXT{《$5$人から$3$人を選ぶ順列の数》}}{\REMTEXT{《$3$人から$3$人を選ぶ順列の数》}} \\ &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ \end{align*} $$

ユーリ「くどい説明だにゃー」

「そう?」

ユーリ「そーだよー。順序を考えて、とかいちいち」

「まあ、そうだけど、そこは大事なポイントだからなあ。 順序を考えて一列に並べるのが順列で、 順序を考えずに選ぶのは組み合わせ」

ユーリ「まーいーや。宿題終わったし、お兄ちゃん、何して遊ぶ?」

「ねえユーリ。ユーリはこの《$5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》を《一般化》できる?」

一般化

ユーリ「いっぱんか?」

「そう。《変数の導入による一般化》だね。 $5$ 人から $3$ 人選ぶんじゃなくて、 $n$ 人から $r$ 人選ぶ」

問題3(一般化した組み合わせの数)

$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。

ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数($0,1,2,\ldots$)とする。

ユーリ「あ、知ってる知ってる。学校でちゃんと習ったもん。 それよりさ、お兄ちゃんって、組み合わせの数を${}_n\textrm{C}_r$じゃなくて、$\displaystyle\binom{n}{r}$って書くよね」

「そうだね。${}_n\textrm{C}_r$と$\displaystyle\binom{n}{r}$は同じ数だよ。 学校では${}_n\textrm{C}_r$を使うけど、 数学の本ではよく $\displaystyle\binom{n}{r}$ が使われるよ」

ユーリ「へーそーなんだ。ユーリは見たことないけど」

「それにね、${}_n\textrm{C}_r$よりも$\displaystyle\binom{n}{r}$の方が、 大切な $n$ や $r$ をはっきり書けるしね。 式も書きやすい。たとえば、${}_{n+r-1}\textrm{C}_{n-1}$よりも$\displaystyle\binom{n+r-1}{n-1}$の方が見やすいだろ?」

ユーリ「数式マニアは考えることが違うね」

「こんなのマニアじゃないよ……ところで $\displaystyle\binom{n}{r}$ はどうなった?」

ユーリ「どーなったって?」

「$\displaystyle\binom{n}{r}$ を求める話。 つまり、 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せる?」

問題3(一般化した組み合わせの数)[補足あり]

$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。

$\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せ。

ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数($0,1,2,\ldots$)とする。

ユーリ「うん、知ってるよ。こーでしょ?」

解答3(一般化した組み合わせの数)

$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表すと、 $$ \displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!} $$ になる。

ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数($0,1,2,\ldots$)とする。

「そうだね。 $n!$ は階乗(かいじょう)」

階乗 $n!$

$$ n! = n \times (n-1) \times (n-2) \times \cdots \times 2 \times 1 $$

※ただし $n = 0,1,2,3,\ldots$ とする。 $0! = 1$ と定義する。

ユーリ「知ってるよ」

「$\displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!}$ は正しいんだけど、 さっきユーリが答えた《$5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》と見比べると、 少し気になることがある」

ユーリ「気になること?」

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(2014年2月28日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/場合の数』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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