この記事は『数学ガールの秘密ノート/場合の数』として書籍化されています。
僕とテトラちゃんは屋上で数学トークをしている。 テーブルに座る場合の数を例に、円順列の説明をしていたところ。
僕「うん、そうそう。 $(n-1)!$ 通り。これが円順列(えんじゅんれつ)の個数」
円順列の個数
$n$ 人の人を円形に並べる並べ方は、 $$ (n-1)! $$ 通りある。
テトラ「円順列……名前があるんですね!」
僕「うん、最初に言おうと思ったんだけど、テトラちゃんに答えを封じられたから言えなかった」
テトラ「あ……すみません」
僕「この円順列、もう少し考えてみようか。あのね」
テトラ「先輩、ちょっとお待ちください。先に進む前に……」
僕「え?」
テトラ「先輩が先ほど説明してくださった、円順列の求め方をあたしなりにまとめたくて」
僕「なるほど」
テトラ「というか、たくさんのことを一度にやるとごちゃごちゃしちゃうからですけど」
僕「そうそう、とてもいいまとめだね。 これは円順列を順列に帰着させて求めたことになるね、テトラちゃん」
テトラ「帰着……?」
僕「そうだよ。円順列を求めたいけれど、直接求める方法は知らなかったわけだよね。 でも一人を固定すれば、自分が知っている《順列を求める方法》が使えた」
テトラ「そうですね」
僕「つまり、円順列という《知らない問題》を、順列という《知っている問題》に変形させて解いたことになる。 これは《円順列を順列に帰着させて求めた》といえるよね」
テトラ「なるほど、確かにそうですね」
僕「こういう解き方をするためには、自分の《知っている問題》をよく把握してないといけないけれどね」
テトラ「あっ! それは、自分の武器を知っているってことですね!」
僕「あはは、そうだね。その通り。 自分がどんな武器を持っているのか知らなくちゃいけないね。 それを知っていれば、自分が解けない問題にぶつかっても、 どういうところに持ち込めば問題が解けるかがわかるんだね」
テトラ「なるほどです」
僕「そして、ねえ、テトラちゃん。これで武器が一つ増えたことになる」
テトラ「はい?」
僕「円順列のことだよ。順列に帰着させて円順列は理解した。 ということは、円順列もテトラちゃんの武器に加わった。 わからない問題があっても、 円順列に帰着させるという方法が使えることになった」
テトラ「確かに……」
僕「こんな問題はどう?」
問題(ブレスレットの問題)
$5$ 個の異なる宝石を使って輪にし、ブレスレットを作ります。 何種類のブレスレットが作れるでしょうか。
テトラ「ブレスレット……これも円形に並べるわけですよね。 だったら、円順列を使って $(5-1)! = 24$ 通りでしょうか」
僕「いや、そうはならないんだよ」
テトラ「どうしてですか?」
僕「中華レストランの $5$ 個の椅子と、 ブレスレットの $5$ 個の宝石とでは大きな違いがあるから」
テトラ「……」
僕「違いはブレスレットは《裏返せる》ところ。 中華レストランは裏返せない」
テトラ「あっ! こういうことですねっ!」
ブレスレットは裏返せる
僕「そうそう。中華レストランでは《違う》と見なされるパターンが、 ブレスレットでは《同じ》になってしまうわけだね」
テトラ「なるほど。だぶってしまいます! 多すぎです!」
僕「どのくらい多いかというと、ちょうど $2$ 倍になっちゃう。 ブレスレットを円順列のやり方で計算すると、 《裏返したら同じ》というパターンまで数えてしまうから」
テトラ「はい! ということは、ブレスレットは $(5-1)!\div2 = 12$ 通りですね」
解答(ブレスレットの問題)
$5$ 個の異なる宝石を使って輪にし、ブレスレットを作ります。 すると、 $12$ 種類のブレスレットが作れます。
僕「そうだね。正解」
テトラ「あたし、こういう条件を見抜くの苦手なんです……」
僕「これも、知っている問題に帰着させたというのはわかる?」
テトラ「え……あ、そうですね。 ブレスレットの問題を、いったん円順列で求めておいて、半分にしたからですね」
僕「そうだね。円順列という武器をさっそく使ったことになる」
テトラ「あたし、うまく使えませんでしたけど」
僕「このブレスレットの問題を一般化したのを数珠順列(じゅずじゅんれつ)と呼ぶこともあるね。 順列、円順列、数珠順列は深く関連している」
テトラ「あ、これにも名前があるのですね」
数珠順列の個数
$n$ 個の玉を数珠状に並べる並べ方は、 $$ \dfrac{(n-1)!}{2} $$ 通りある(裏返しを同一視する)。
ミルカ「風がなかなか気持ちいいな」
テトラ「あ! ミルカさん」
僕「ミルカさん、どうして屋上に?」
ミルカ「ちょっと通りかかっただけだ」
(どうやって屋上にちょっと通りかかるんだろう……)
ミルカ「何?」
僕「い、いや、何でもないよ。 いま順列・円順列・数珠順列の話をしていたんだ」
ミルカ「ふうん……」
ミルカさんは僕たちが広げていたノートをのぞき込む。
テトラ「数珠順列は円順列に、円順列は順列に帰着させて求めるというお話を していただいたところなんです」
ミルカ「これを書いたのは、誰? 『$n$ 個の玉を……』」
$n$ 個の玉を数珠状に並べる並べ方は、 $$ \dfrac{(n-1)!}{2} $$ 通りある(裏返しを同一視する)。
僕「僕だけど?」
ミルカ「$n$ の範囲が書いていないから、テトラが書いたのかと」
僕「$n$ の範囲って……玉の数だから自然数に決まっているよ」
ミルカ「それなら、 $1$ 個の玉を数珠状に並べる並べ方は $\dfrac{1}{2}$ 通り?」
ミルカさんは表情を変えず、いたずらっぽい口調で言う。
僕「え……あっ!」
テトラ「どういうことですか?」
僕「$\dfrac{(n-1)!}{2}$ で $n = 1$ にすると、 $\dfrac{(1-1)!}{2} = \dfrac{1}{2}$ になってしまうんだよ。 だから、さっきの数珠順列の個数は $n \geqq 2$ という条件を付けなくちゃいけなかったんだ!」
ミルカ「ふうん……それなら、 $2$ 個の玉を数珠状に並べる並べ方は $\dfrac{1}{2}$ 通り?」
僕「あれ? ほんとだなあ! あれれ?」
テトラ「確かにそうですね……ええと、 $n = 2$ だと、 $\dfrac{(2-1)!}{2} = \dfrac{1}{2}$ です。こちらも $\dfrac{1}{2}$ 通りになってしまいます!」
僕「$n \geqq 2$ でもだめか。おかしい。なぜだ?」
ミルカ「君があわてるのを見るのは久しぶりだな。それならこれは問題にする価値がある」
問題(数珠順列の条件)
$n$ 個の玉を数珠状に並べる並べ方の数を $\dfrac{(n-1)!}{2}$ で表すと、 $n = 1$ と $n = 2$ では正しく求められない。それはなぜか。
ここで午後の授業の予鈴が鳴った。 昼休み終了だ。
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/場合の数』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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