この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。
僕「オセロゲームはもういいよ」
ユーリ「なんで? ユーリにかなわないから?」
僕「そういうわけでもないけど、別の並べ方で遊んでみよう」
ユーリ「また、エル字?」
僕「いやいや、たとえばね……ユーリ、オセロの盤こっちによこして」
ユーリ「やだ」
僕「やだ……って」
ユーリ「ユーリが並べる。こんなのはどーお?」
僕「黒白のマダラ?」
ユーリ「ちがうちがう。ナナメに見るの」
僕「なるほどね。これは $1,2,3,\ldots$ という数列になるね。自然数の列だ。ああ、じゃ、これで遊ぼう。盤、貸して」
ユーリ「へーい」
僕「せっかく並べてくれたところ悪いけど、ナナメは考えにくいからヨコにするね」
ユーリ「これじゃつまんないよ」
僕「まあまあ。ヨコに並んだ石を数えていくと、何がわかるかな」
ユーリ「何がわかるかな……って、順番に $1,2,3,4,\ldots$ ってなってるだけじゃん」
僕「そうだね。オセロ盤は $8 \times 8$ だから、 ここでは $1,2,3,4,5,6,7,8$ までだけど、その気になればいくらでも続けられるね。自然数の列だ」
自然数の列
$$ 1,2,3,4,5,6,7,8,\ldots $$
ユーリ「それで?」
僕「それでね、上から順番に見ていくと、いつも $1$ 個ずつ増えていることがわかる」
ユーリ「まー、そりゃそーだね。順番に並べたんだもん」
僕「これを見ると《$1,2,3,\ldots$》から《$1,1,1,\ldots$》ができることがわかるよね」
ユーリ「え? どゆこと?」
僕「《どれだけ増えたか》を並べてやれば、新しい数列になるってことだよ。こんなふうに書いたほうがわかりやすいかな」
ユーリ「ふんふん」
僕「数列に並んでいるひとつひとつの数のことを、数列の項っていうんだけど」
ユーリ「こう?」
僕「うん、数列の項。 で、《$1,2,3,\ldots$》という数列の、隣り合った二つの項の差をとって《$1,1,1,\ldots$》という別の数列を作ったことになる」
ユーリ「別の数列?」
僕「そう。《$1,2,3,\ldots$》という数列から、《$1,1,1,\ldots$》という別の数列を作ったんだ。 こんなふうにして作った数列のことを階差数列っていうんだよ」
ユーリ「かいさすうれつ……ねえ、お兄ちゃん。《$1,1,1,\ldots$》みたいに同じ数が並ぶのも数列っていうの?」
僕「うん、いうよ。 $1$ という一つの定数が並んだ数列だから、定数列だね」
ユーリ「そーなんだ」
僕「だから、《$1,2,3,\ldots$》の階差数列は、《$1,1,1,\ldots$》という定数列になるということ」
ユーリ「ふむふむ」
僕「今度はね、オセロに並べた石の列を《一つおき》に抜き出してみよう。するとこうなる」
ユーリ「一つおきだから、 $1,3,5,7$ になった」
僕「そうだね。オセロ盤の制限がなければ $1,3,5,7,9,11,13,\ldots$ と続けられるよね。 これは奇数の列になる」
奇数の列
$$ 1,3,5,7,9,11,13,\ldots $$
ユーリ「ふんふん、そりゃそーだね」
僕「それでね、この奇数の列について上から順番に見ていこう。 そうすると、今度はいつも $2$ 個ずつ増えていることがわかる」
ユーリ「おおっ、これは! ……って、お兄ちゃん! それは、あたりまえではないんでしょーか」
僕「ノリツッコミありがとう」
ユーリ「自然数の列は $1$ 個ずつ増えてたんだもん。一つおきなら $2$ 個ずつ増える計算じゃん」
僕「それじゃね、奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は何になる?」
クイズ
奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は何になる?
ユーリ「カンタン、カンタン! 奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は $2,2,2,\ldots$ でしょ?」
僕「そうだね。 $2$ という定数から作られる定数列になる」
クイズの答え
奇数の列($1,3,5,\ldots$)の階差数列は、 $2,2,2,\ldots$ という定数列になる。
僕「今度は、奇数の列を抜き出した残りをみてみよう」
ユーリ「偶数じゃん」
僕「うん、偶数の列だね」
偶数の列
$$ 2,4,6,8,10,\ldots $$
僕「偶数の列の階差数列は何になるかな」
ユーリ「これもカンタン。 $2,2,2,\ldots$ でしょ?」
僕「そうだね」
ユーリ「あれ? 奇数の列も、偶数の列も、階差数列はおんなじだね」
僕「そうだね。どちらも $2,2,2,\ldots$ になる」
ユーリ「ねえお兄ちゃん。階差数列っていつも定数列になるの?」
僕「そうとは限らないよ」
ユーリ「でも、奇数も、偶数も、自然数も、定数列になったよ」
僕「そうだね。でもたとえば、自由に考えた数列の階差数列を求めたら、定数列にはならないさ」
ユーリ「そかそか、そーだよね」
僕「じゃ、たとえば、平方数の列の階差数列はどうなると思う?」
平方数の列
$$ 1, 4, 9, 16, 25, 36, \ldots $$
ユーリ「どうなるの?」
僕「やってごらんよ」
ユーリ「えーと……そっか、順番に引けばいいだけか。最初が $4 - 1 = 3$ で、次が $9 - 4 = 5$ で……」
ユーリ「……できた。 $3, 5, 7, 9, 11, 13, \ldots$ って、これ、奇数の列! これってエル字の石の個数じゃん!」
僕「そうだね。いまユーリが計算してくれたように、《平方数の列》の階差数列は、《$3$ から始めた奇数の列》になる」
ユーリ「くう、計算いらなかった! やられた!」
僕「じゃ、ここでクイズだよ。この《謎の数列》は何だろうか」
クイズ(謎の数列)
$$ 1, 2, 6, 15, 31, 56, 92, \ldots $$
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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