この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
ユーリ「ねーお兄ちゃん! 目、つぶって!」
僕「三つ、ぶって?」
ユーリ「いきなりバイオレンスですか! メ・ヲ・ツ・ブ・ッ・テ!」
僕「日本語でお願いしまーす」
ユーリ「……いいから目をつぶるんじゃー!」
僕「はいはい」
ユーリは中学二年生、僕の従妹だ。 まあ、従妹っていっても、小さい頃からいっしょに遊んでたから兄妹みたいなものだけれど。 ユーリはしょっちゅう僕の部屋に遊びに来てはおしゃべりしていく。
ユーリ「じゃじゃーん! 目、開けていいよ」
僕が目を開けると、こんなものが机に置かれていた。
僕「何この変な機械」
ユーリ「変な機械ってゆーなー!」
僕「だって変だからね」
ユーリ「これ、時計パズルなんだよ」
僕「時計パズル?」
ユーリ「そだよん。ほら時計が三つ並んでるっしょ?」
僕は、三つ並んだ時計を順番に観察する。
僕「時計といっても、針は一つだし、この左端の時計には数字が二つしかないな」
ユーリ「そこがパズルだよねー。これ《$2$ の時計》ってゆーんだよ」
《$2$ の時計》
僕「真ん中にある時計は文字盤に数字が三つあると」
ユーリ「そだね。これは《$3$ の時計》だよ」
《$3$ の時計》
僕「そして右端の時計は数字が五つと。これは《$5$ の時計》かな」
ユーリ「そーそー。ねねね、おもしろそーっしょ?」
《$5$ の時計》
僕「確かにおもしろそうだけれど、これでどうやって時間を計るの? 止まってるみたいだけど」
ユーリ「あのね、これって自動で時間を計るんじゃないんだよ。数を数えるの」
僕「ほほう?」
ユーリ「ほらここにボタンが二つあるじゃん?」
僕「あるね。リセットとカウントと書いてある」
ユーリ「リセットボタンを《カチャッ》て押すと、三つの時計の針はこんなふうに全部 $0$ に戻るの。 時計パズルはここからスタートすんだよ。えっと、パターン $0,0,0$ だにゃ」
リセットボタンを押すと、全部 $0$ に戻る(パターン $0,0,0$)
僕「うん、いいよ。それで?」
ユーリはけんめいに時計パズルとやらの説明をしてくれる。 いつもはすぐに《めんどい!》って叫ぶくせに、 こういうときは意外に粘り強いんだな。
ユーリ「そんでね、カウントってボタンを $1$ 回《カチャッ》って押すと、ほらほら、針が進んだっしょ?」
僕「なるほど。カウントボタンを押すと、三つの時計の針が同時に $1$ だけ進むんだね」
カウントボタンを押すと、三つの時計の針が $1$ 進む(パターン $1,1,1$)
ユーリ「ほらほら、お兄ちゃん。よく見なきゃだめだよ」
今日のユーリはちょっと先生っぽいしゃべりかただな。 先生っぽいというか……いつもの僕の話し方みたいだ。
僕「はいはい。見てますよ。ユーリ先生」
ユーリ「針はどんなふーに進んだかわかる?」
僕「三つの時計の針が全部 $1$ ずつ進んで、 $1$ が並んだね。パターン $1,1,1$ になった」
ユーリ「カウントボタンをもっかい押したらどーなると思う?」
僕「そりゃ、全部 $1$ ずつ進むだろうね」
ユーリ「やってみよー! 《カチャッ》」
パターン $0,2,2$
僕「そらね。全部 $1$ ずつ進んだ。お兄ちゃんの言った通りだよ。パターン $0,2,2$ になった」
ユーリ「確かにそーなんだけど、《$2$ の時計》の針は $0$ に戻ったっしょ? だから、 《針は進んでも数が大きくなるとは限らない》のが重要ポイント。はい、ここ試験に出ます」
僕「なに言ってるんだよ」
ユーリ「へへー」
僕「でも、確かにそこは大事だな。ねえ、ユーリ。お兄ちゃんにもカウントボタン押させてほしいな」
ユーリ「いいよん」
僕はカウントボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。 《$2$ の時計》の針は $1$ になり、《$3$ の時計》の針は $0$ に、そして《$5$ の時計》の針は $3$ になった。 パターン $1,0,3$ だ。
パターン $1,0,3$
僕「これはなかなか…楽しいな。《$3$ の時計》が $0$ になった」
ユーリ「だよねー。ぐるっと戻った」
さらに僕はカウントボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。 《$2$ の時計》の針は $0$ になり、《$3$ の時計》の針は $1$ に、そして《$5$ の時計》の針は $4$ になった。 パターン $0,1,4$ だ。
パターン $0,1,4$
僕「ここでさらにもう一回押すと、《$5$ の時計》が $0$ になるな。《カチャッ》」
ユーリ「ぐるっと戻ったねー」
パターン $1,2,0$
僕はボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。
僕「ふむ。今度は左の時計二つが $0$ を指すと……」
パターン $0,0,1$
ユーリ「はい! お兄ちゃん、そこでストップしてねー」
僕「どうして?」
ユーリ「お兄ちゃん、ここまで何回押したか覚えてる?」
僕「え? $5$ 回、いや、 $6$ 回か。うん、 $6$ 回だ」
ユーリ「はい、それではここで時計パズルの問題でーす」
時計パズルの問題
リセットボタンを押すとパターン $0,0,0$ になります。
ここからカウントボタンを何回押せば、目的のパターン $0,2,4$ になるでしょうか。
僕「なるほど。ぱっと見にはわからないな」
ユーリ「ほれほれ、カウントボタン押さないでもわかるかにゃ?」
無料で「試し読み」できるのはここまでです。 この続きをお読みになるには「読み放題プラン」へのご参加が必要です。
ひと月500円で「読み放題プラン」へご参加いただきますと、 440本すべての記事が読み放題になりますので、 ぜひ、ご参加ください。
参加済みの方/すぐに参加したい方はこちら
結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加(2013年3月8日)
この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!