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第19回 シーズン2 エピソード9
ぐるぐるワンの作り方(前編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

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の部屋

ユーリ「ねーお兄ちゃん! 目、つぶって!」

「三つ、ぶって?」

ユーリ「いきなりバイオレンスですか! メ・ヲ・ツ・ブ・ッ・テ!」

「日本語でお願いしまーす」

ユーリ「……いいから目をつぶるんじゃー!」

「はいはい」

ユーリは中学二年生、従妹いとこだ。 まあ、従妹っていっても、小さい頃からいっしょに遊んでたから兄妹みたいなものだけれど。 ユーリはしょっちゅうの部屋に遊びに来てはおしゃべりしていく。

時計パズル

ユーリ「じゃじゃーん! 目、開けていいよ」

が目を開けると、こんなものが机に置かれていた。

「何この変な機械」

ユーリ「変な機械ってゆーなー!」

「だって変だからね」

ユーリ「これ、時計パズルなんだよ」

「時計パズル?」

ユーリ「そだよん。ほら時計が三つ並んでるっしょ?」

は、三つ並んだ時計を順番に観察する。

三つの時計

「時計といっても、針は一つだし、この左端の時計には数字が二つしかないな」

ユーリ「そこがパズルだよねー。これ《$2$ の時計》ってゆーんだよ」

《$2$ の時計》

「真ん中にある時計は文字盤に数字が三つあると」

ユーリ「そだね。これは《$3$ の時計》だよ」

《$3$ の時計》

「そして右端の時計は数字が五つと。これは《$5$ の時計》かな」

ユーリ「そーそー。ねねね、おもしろそーっしょ?」

《$5$ の時計》

時計パズルを動かす

「確かにおもしろそうだけれど、これでどうやって時間を計るの? 止まってるみたいだけど」

ユーリ「あのね、これって自動で時間を計るんじゃないんだよ。数を数えるの」

「ほほう?」

ユーリ「ほらここにボタンが二つあるじゃん?」

「あるね。リセットRESETカウントCOUNTと書いてある」

ユーリ「リセットボタンを《カチャッ》て押すと、三つの時計の針はこんなふうに全部 $0$ に戻るの。 時計パズルはここからスタートすんだよ。えっと、パターン $0,0,0$ だにゃ」

リセットボタンを押すと、全部 $0$ に戻る(パターン $0,0,0$)

「うん、いいよ。それで?」

ユーリはけんめいに時計パズルとやらの説明をしてくれる。 いつもはすぐに《めんどい!》って叫ぶくせに、 こういうときは意外に粘り強いんだな。

ユーリ「そんでね、カウントってボタンを $1$ 回《カチャッ》って押すと、ほらほら、針が進んだっしょ?」

「なるほど。カウントボタンを押すと、三つの時計の針が同時に $1$ だけ進むんだね」

カウントボタンを押すと、三つの時計の針が $1$ 進む(パターン $1,1,1$)

ユーリ「ほらほら、お兄ちゃん。よく見なきゃだめだよ」

今日のユーリはちょっと先生っぽいしゃべりかただな。 先生っぽいというか……いつものの話し方みたいだ。

「はいはい。見てますよ。ユーリ先生」

ユーリ「針はどんなふーに進んだかわかる?」

「三つの時計の針が全部 $1$ ずつ進んで、 $1$ が並んだね。パターン $1,1,1$ になった」

ユーリ「カウントボタンをもっかい押したらどーなると思う?」

「そりゃ、全部 $1$ ずつ進むだろうね」

ユーリ「やってみよー! 《カチャッ》」

パターン $0,2,2$

「そらね。全部 $1$ ずつ進んだ。お兄ちゃんの言った通りだよ。パターン $0,2,2$ になった」

ユーリ「確かにそーなんだけど、《$2$ の時計》の針は $0$ に戻ったっしょ? だから、 《針は進んでも数が大きくなるとは限らない》のが重要ポイント。はい、ここ試験に出ます」

「なに言ってるんだよ」

ユーリ「へへー」

「でも、確かにそこは大事だな。ねえ、ユーリ。お兄ちゃんにもカウントボタン押させてほしいな」

ユーリ「いいよん」

はカウントボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。 《$2$ の時計》の針は $1$ になり、《$3$ の時計》の針は $0$ に、そして《$5$ の時計》の針は $3$ になった。 パターン $1,0,3$ だ。

パターン $1,0,3$

「これはなかなか…楽しいな。《$3$ の時計》が $0$ になった」

ユーリ「だよねー。ぐるっと戻った

さらにはカウントボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。 《$2$ の時計》の針は $0$ になり、《$3$ の時計》の針は $1$ に、そして《$5$ の時計》の針は $4$ になった。 パターン $0,1,4$ だ。

パターン $0,1,4$

「ここでさらにもう一回押すと、《$5$ の時計》が $0$ になるな。《カチャッ》」

ユーリぐるっと戻ったねー」

パターン $1,2,0$

はボタンを《カチャッ》と押す。針がまた $1$ ずつ進んだ。

「ふむ。今度は左の時計二つが $0$ を指すと……」

パターン $0,0,1$

ユーリ「はい! お兄ちゃん、そこでストップしてねー」

「どうして?」

ユーリ「お兄ちゃん、ここまで何回押したか覚えてる?」

「え?  $5$ 回、いや、 $6$ 回か。うん、 $6$ 回だ」

時計パズルの問題

ユーリ「はい、それではここで時計パズルの問題でーす」

時計パズルの問題

リセットボタンを押すとパターン $0,0,0$ になります。

ここからカウントボタンを何回押せば、目的のパターン $0,2,4$ になるでしょうか。

「なるほど。ぱっと見にはわからないな」

ユーリ「ほれほれ、カウントボタン押さないでもわかるかにゃ?」

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(2013年3月8日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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