この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
僕と後輩のテトラちゃんは、素数を求める《エラトステネスのふるい》について話し合っていた。
テトラ「あ、あの……先輩がおっしゃっていた《ゼロと単数と合成数を除いて素数を求める》という意味が、 とてもよくわかりました。《エラトステネスのふるい》は合成数を《ふるい》にかけて素数を求めているのですね……あれれ?」
僕「うん?」
テトラ「ひとつ疑問がわいてきました」
僕「というと?」
テトラ「《エラトステネスのふるい》はいいんですけれど、 合成数を選り分けて素数を求めるのではなく、 もっと直接に素数を求める方法はないんでしょうか?」
僕「直接に?」
テトラ「《エラトステネスのふるい》って、 $2$ の倍数を消していって、 $3$ の倍数を消していって、 $5$ の倍数を消していって……と進む方法ですよね」
僕「そうだね」
テトラ「そうやって数を消した《残り》が素数です」
僕「うん、テトラちゃんの言う通りだよ」
テトラ「合成数を消すことで素数が浮かび上がってくる感じですよね。 そうじゃなくて、素数を直接《はいこれ、はいこれ、はいこれ》ってピックアップはできないんでしょうか」
僕「テトラちゃんはおもしろいことをいうなあ。なるほど……いや、僕は知らないんだけど」
ミルカ「何をしてる?」
テトラ「あ、ミルカさん! ちょうどいいところに」
ミルカさんは、長い黒髪の饒舌才媛。 数学がとても得意で、僕たちを数学の世界に導くリーダー的存在だ。 彼女はメタルフレームの眼鏡をくいっと上げ、僕たちのノートを見る。
ミルカ「ふうん。《エラトステネスのふるい》か」
テトラ「はい! ……やっぱりみなさんご存じなんですね」
ミルカ「どうして、こう並べた?」
ミルカさんはノートの表を指さす。
$0$ 以上の整数の表
テトラ「ええっと、あの……あれれ、でも、《エラトステネスのふるい》は $0$ 以上の整数から、 $0$ を消して、 $1$ を消して、 $2$ は素数で、 $2$ の倍数を消して、 $3$ は素数で、 $3$ の倍数を消して……」
ミルカ「それはいい。《ふるい》を掛けた後はこうなって、赤丸の部分が素数なのだろう?」
《エラトステネスのふるい》を掛けた後の表(赤丸が素数)
テトラ「は、はい……そうですが。ええと、この表は先輩が」
僕「うん、僕が書いたんだよ。何かおかしいかな、ミルカさん」
ミルカ「おかしくはない。理由を聞いているだけ。君は、どうしてこう並べた?」
僕「どうしてって、特に理由はないよ。 区切りよく $10$ 個ずつ $1$ 行にまとめると消しやすいってくらいで」
ミルカ「テトラ。 $0$ 以上の整数はどう並べたくなる?」
テトラ「え、あ、そうですね……あたしなら、数列なので一列にこう」
ミルカ「それもいい」
テトラ「でも、これだとノートの幅がすごおおおく長くないと不便ですね」
テトラちゃんは両手を思いっきり広げる。
僕「でも、いずれにせよ $0$ 以上の整数は無数にあるんだから、いくら長くても足りなくなるよ。 どこかで折り返さなきゃね」
ミルカ「だとしても $10$ 個ずつ折り返さなければいけないという法はないな」
テトラ「あ! こうしたらどうでしょう。たとえば $2$ 個ずつ折り返すんです」
ミルカ「ふむ?」
テトラ「ああっ! 発見ですっ! これだとタテに見たとき、左の列には赤丸が $2$ しかありませんっ! $2$ 以外の素数はすべて右の列に!」
僕「それは……あたりまえじゃないかな。だって、素数のうち偶数なのは $2$ だけだから。 $2$ 以外の素数はすべて奇数で、すべての奇数は右の列にあるんだからね」
テトラ「あ……そ、そうですよね。 うまく折り返したら《素数が見える》と思ったんですが……」
ミルカ「見ようか」
テトラ「はい?」
ミルカ「素数を、見ようか」
テトラ「……うまく折り返せば《素数が見える》んですか?」
ミルカ「まあね」
僕「え?」
ミルカさんがノートに向かい、 僕とテトラちゃんは両側から彼女が書くのをのぞきこむ。
僕「それで?」
ミルカ「まずはゼロ($0$)と単数($1$)を並べる」
テトラ「さっきあたしが $2$ 個で折り返したのと同じですね」
ミルカ「テトラは下の行に進んだ。私は上に進もう」
テトラ「上……ですか?」
僕「でもこれだとさっきとは違うよね。 上に進むなら、 $0$ の上に $2$ を置くべきじゃない?」
ミルカ「そうしたら、テトラと同じ表になるだろう?」
僕「まあ、そうだけど」
テトラ「次はどうするんですか?」
ミルカ「左へ進む。 $3$ だ」
テトラ「なるほど。次は、上に進んで $4$ ですね!」
ミルカ「いや、違う」
テトラ「あれれ?」
ミルカ「$4$ は、左に進む」
テトラ「はみ出しちゃいました」
僕「だとするなら、次は上に進んで $5$ かなあ」
ミルカ「いや、次の $5$ は下に進む」
僕「?」
テトラ「次の $6$ は左でしょうか……」
ミルカ「いや。 $6$ はさらに下」
テトラ「始めは右で、次が上、左、左、下、下…? →↑←←↓↓?」
僕「あ、わかった! ぐるっと回っているんだね、ミルカさん!」
ミルカ「ビンゴ」
ミルカさんはウインクして指を鳴らした。
テトラ「ははあ……」
僕「ということは、 $7, 8, 9$ はずっと右に進むんだね」
ミルカ「その通り」
テトラ「すると、次の $10, 11, 12$ は上に進むんですか」
ミルカ「そうだ」
僕「ねえミルカさん。ぐるっと回りながら数を書いていくと《何かおもしろいこと》が起きるの?」
ミルカさんは顔を上げて僕を正面から見すえた。
ミルカ「君は、自分で見つけたいの? 私に教えてほしいの?」
僕「わかった、わかった。そうだよね。続けていこう」
テトラ「次は、ええと……はい、 $16$ までは左に進みます」
僕「$20$ までは下に進むんだね」
テトラ「次は $25$ まで右です。はいはいはい!」
テトラちゃんが大きく右手を挙げてぶんぶん振っている。
僕「どうしたの?」
ミルカ「気づいた?」
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この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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