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第18回 シーズン2 エピソード8
選べないのに見える数(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

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図書室にて

と後輩のテトラちゃんは、素数を求める《エラトステネスのふるい》について話し合っていた。

テトラ「あ、あの……先輩がおっしゃっていた《ゼロと単数と合成数を除いて素数を求める》という意味が、 とてもよくわかりました。《エラトステネスのふるい》は合成数を《ふるい》にかけて素数を求めているのですね……あれれ?」

「うん?」

テトラ「ひとつ疑問がわいてきました」

「というと?」

テトラ「《エラトステネスのふるい》はいいんですけれど、 合成数を選り分けて素数を求めるのではなく、 もっと直接に素数を求める方法はないんでしょうか?」

「直接に?」

テトラ「《エラトステネスのふるい》って、 $2$ の倍数を消していって、 $3$ の倍数を消していって、 $5$ の倍数を消していって……と進む方法ですよね」

「そうだね」

テトラ「そうやって数を消した《残り》が素数です」

「うん、テトラちゃんの言う通りだよ」

テトラ「合成数を消すことで素数が浮かび上がってくる感じですよね。 そうじゃなくて、素数を直接《はいこれ、はいこれ、はいこれ》ってピックアップはできないんでしょうか」

「テトラちゃんはおもしろいことをいうなあ。なるほど……いや、僕は知らないんだけど」

ミルカ「何をしてる?」

テトラ「あ、ミルカさん! ちょうどいいところに」

ミルカさんは、長い黒髪の饒舌才媛。 数学がとても得意で、たちを数学の世界に導くリーダー的存在だ。 彼女はメタルフレームの眼鏡をくいっと上げ、たちのノートを見る。

ミルカ「ふうん。《エラトステネスのふるい》か」

テトラ「はい! ……やっぱりみなさんご存じなんですね」

ミルカ「どうして、こう並べた?」

ミルカさんはノートの表を指さす。

$0$ 以上の整数の表

テトラ「ええっと、あの……あれれ、でも、《エラトステネスのふるい》は $0$ 以上の整数から、 $0$ を消して、 $1$ を消して、 $2$ は素数で、 $2$ の倍数を消して、 $3$ は素数で、 $3$ の倍数を消して……」

ミルカ「それはいい。《ふるい》を掛けた後はこうなって、赤丸の部分が素数なのだろう?」

《エラトステネスのふるい》を掛けた後の表(赤丸が素数)

テトラ「は、はい……そうですが。ええと、この表は先輩が」

「うん、僕が書いたんだよ。何かおかしいかな、ミルカさん」

ミルカ「おかしくはない。理由を聞いているだけ。君は、どうしてこう並べた?」

「どうしてって、特に理由はないよ。 区切りよく $10$ 個ずつ $1$ 行にまとめると消しやすいってくらいで」

ミルカ「テトラ。 $0$ 以上の整数はどう並べたくなる?」

テトラ「え、あ、そうですね……あたしなら、数列なので一列にこう」

ミルカ「それもいい」

テトラ「でも、これだとノートの幅がすごおおおく長くないと不便ですね」

テトラちゃんは両手を思いっきり広げる。

「でも、いずれにせよ $0$ 以上の整数は無数にあるんだから、いくら長くても足りなくなるよ。 どこかで折り返さなきゃね」

ミルカ「だとしても $10$ 個ずつ折り返さなければいけないという法はないな」

テトラ「あ! こうしたらどうでしょう。たとえば $2$ 個ずつ折り返すんです」

ミルカ「ふむ?」

テトラ「ああっ! 発見ですっ! これだとタテに見たとき、左の列には赤丸が $2$ しかありませんっ!  $2$ 以外の素数はすべて右の列に!」

「それは……あたりまえじゃないかな。だって、素数のうち偶数なのは $2$ だけだから。 $2$ 以外の素数はすべて奇数で、すべての奇数は右の列にあるんだからね」

テトラ「あ……そ、そうですよね。 うまく折り返したら《素数が見える》と思ったんですが……」

ミルカ「見ようか」

テトラ「はい?」

ミルカ「素数を、見ようか」

テトラ「……うまく折り返せば《素数が見える》んですか?」

ミルカ「まあね」

「え?」

素数を見よう

ミルカさんがノートに向かい、 テトラちゃんは両側から彼女が書くのをのぞきこむ。

「それで?」

ミルカ「まずはゼロ($0$)と単数($1$)を並べる」

テトラ「さっきあたしが $2$ 個で折り返したのと同じですね」

ミルカ「テトラは下の行に進んだ。私は上に進もう」

テトラ「上……ですか?」

「でもこれだとさっきとは違うよね。 上に進むなら、 $0$ の上に $2$ を置くべきじゃない?」

ミルカ「そうしたら、テトラと同じ表になるだろう?」

「まあ、そうだけど」

テトラ「次はどうするんですか?」

ミルカ「左へ進む。 $3$ だ」

テトラ「なるほど。次は、上に進んで $4$ ですね!」

ミルカ「いや、違う」

テトラ「あれれ?」

ミルカ「$4$ は、左に進む」

テトラ「はみ出しちゃいました」

「だとするなら、次は上に進んで $5$ かなあ」

ミルカ「いや、次の $5$ は下に進む」

「?」

テトラ「次の $6$ は左でしょうか……」

ミルカ「いや。 $6$ はさらに下」

テトラ「始めは右で、次が上、左、左、下、下…? →↑←←↓↓?」

「あ、わかった! ぐるっと回っているんだね、ミルカさん!」

ミルカ「ビンゴ」

ミルカさんはウインクして指を鳴らした。

テトラ「ははあ……」

「ということは、 $7, 8, 9$ はずっと右に進むんだね」

ミルカ「その通り」

テトラ「すると、次の $10, 11, 12$ は上に進むんですか」

ミルカ「そうだ」

「ねえミルカさん。ぐるっと回りながら数を書いていくと《何かおもしろいこと》が起きるの?」

ミルカさんは顔を上げてを正面から見すえた。

ミルカ「君は、自分で見つけたいの? 私に教えてほしいの?」

「わかった、わかった。そうだよね。続けていこう」

テトラ「次は、ええと……はい、 $16$ までは左に進みます」

「$20$ までは下に進むんだね」

テトラ「次は $25$ まで右です。はいはいはい!」

テトラちゃんが大きく右手を挙げてぶんぶん振っている。

「どうしたの?」

ミルカ「気づいた?」

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(2013年3月1日)

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この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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