この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
ユーリ「ねーお兄ちゃん! 目、つぶって!」
僕「なんで?」
ユーリ「きれいな女の子に『目、つぶって』って言われたら即、つぶるもんだよ!」
僕「どこにきれいな女の子が……はいはい、つぶりましたよ」
ユーリ「じゃじゃーん! 目、開けていいよ」
僕「何このカード」
ユーリ「ふふふ、これからユーリは《数当てマジック》を始めまーす!」
僕「プロのマジシャンは、これからどんなマジックをするか、先に言わないそうだよ」
ユーリ「うっさいなー。いいから、ユーリのゆーこときくの!」
僕「はいはい。ところで、お兄ちゃんが目をつぶる理由はどこにあったんだ?」
ユーリ「演出というものだよ、エンシュツ」
僕「いいけど、とにかくユーリが数を当てるんだね」
ユーリ「そだよん」
数当てマジック
これから、あなたの好きな日を当ててみせましょう。
何月でもかまわないので、好きな日の数を思い浮かべてください。
・2月14日が好きなら→14
・3月16日が好きなら→16
・12月24日が好きなら→24
思い浮かべたら、5枚のカードのうち、 《その数が出てくるカード》だけをすべて表にしてください。
《その数が出てこないカード》は裏返しに伏せてください。
僕「ええとね、ユーリ。盛り上がっているところ悪いんだけど、このマジックの……」
ユーリ「ねーお兄ちゃん! どーせお兄ちゃんのことだから、 『このマジックのタネ、知ってるよ』とかゆーんでしょ?」
僕「うん。このマジックのタネ、知ってるよ」
ユーリ「んもー! そーゆーときはね、知らないふりをして驚いてみせるのがエチケットだよ。 そんなことだから女の子の気持ちがわからないんだよー」
僕「はいはい。わかったよ。わからないふりをしてあげよう」
ユーリ「はい! お兄ちゃん、数を思い浮かべた? ユーリに言っちゃダメだよ」
僕「いいよ。思い浮かべた。 $1$ 〜 $31$ の間だよね」
ユーリ「そーそー。では、その数が出てくるカードだけを、ぜんぶオモテにしていただけますかな?」
僕「そうだな。これと、これだね」
思い浮かべた数が出てくるカードだけをすべて表にする
ユーリ「ほほー。……なら、そなたの思い浮かべた数は《$12$》じゃな?」
僕「そうだね」
ユーリ「ノリ悪いにゃあ! そこで『うわっ、すごいなユーリ! なんでわかるんだっ!』って驚いてみせるのがエチケット」
僕「うわすごいなユーリなんでわかるんだ」
ユーリ「……きらい」
僕「わかったわかった。……ところで、お兄ちゃんにもそのマジックさせてくれないかな。今度はユーリが数を思い浮かべる番」
ユーリ「へ? お兄ちゃんもこれ、できんの?」
僕「タネ知ってるからね」
ユーリ「……いいよ、思い浮かべたよ。数」
僕「では、その数が出てくるカードだけを、すべて表にしていただけますかな?」
ユーリ「えーっとね、これとこれと、これだにゃ」
僕「ほほう、それなら、ユーリの思い浮かべた数は《$21$》じゃな?」
ユーリ「そーだね」
僕「ノリ悪いにゃあ」
ユーリ「ユーリのまねするなー!」
僕「この数当てマジックで《数を当てる方法》は簡単だよね」
ユーリ「うん! あのね、相手が選んだカードの左上の数を足せばいいんだよ!」
数を当てる方法
相手が選んだカードの左上の数を足せば、相手が選んだ数になる。
相手が $12$ を選んだときの様子
相手が $21$ を選んだときの様子
僕「うん、そうだね。だから、このカードを持っていて、この《数を当てる方法》を知っている人なら、 誰でもこのマジックができるね」
ユーリ「なんか引っかかる言い方」
僕「ところでユーリ。《数が当たる理由》は、わかってる?」
ユーリ「へ? もちろん、わかってるよ。いま言ったじゃん。カードの左上の数をぜんぶ足して」
僕「それは、《数を当てる方法》じゃないの? どうして数を当てることができるかという《数が当たる理由》はわかっていないんじゃない?」
ユーリ「《数を当てる方法》と《数が当たる理由》って……おんなじじゃん」
僕「いやいや違うよ。《数が当たる理由》というのは、 《カードの左上の数をすべて加えると相手が想像した数になる》というその理由のことだよ。なぜ、そうなるか」
ユーリ「そんなこといったって……だって、そーゆー具合にカードを作ったからそーなるんじゃん!」
僕「いやいやいや、それじゃ理由にも何もならないよね」
ユーリ「そっかなー」
僕「じゃあ、こういう言い方をしよう。 ユーリが持ってきたこの $5$ 枚のカードをなくしちゃったとしよう。 ユーリは何も見ないでこの $5$ 枚のカードを作れる?」
何も見ずにこの $5$ 枚のカードを作れるか
ユーリ「う。……作れにゃい。あ、でもこの付録がついてきた雑誌、もっかい買えばいい!」
僕「これ、雑誌の付録なのか。まあとにかくユーリは作れない、と。 それは《数が当たる理由》を知らないからだよ。それ、ちょっとつまらないよね?」
ユーリ「う。……ま、まーね」
僕「じゃあね、『どうしてこのカードで、どうしてこの方法で、数が当たるのか』 という理由をじっくり考えてみよう」
ユーリ「ふんふん」
僕「理由がきちんとわかったら、数当てマジックをさらにバージョンアップできるかもしれない」
ユーリ「ばーじょんあっぷって?」
僕「たとえば、ユーリが持ってきた $5$ 枚のカードだと、 $1$ から $31$ までしか当てることができない。 でも、 $31$ より大きな数まで当てられるようにカードの枚数を増やせるかもしれない——《数が当たる理由》がわかればね」
ユーリ「へー……あのね、お兄ちゃん。ユーリはね、 $31$ まで当てることができるのは、 日付が $1$ から $31$ までだからだと思ってた。違うの?」
僕「違うよ。きっとこのカードを作った人は、 $31$ が一番大きな日付になっていることを利用したんだと思う。 でも、 $31$ には別の意味があるんだよ。 《数が当たる理由》がわかれば、それもわかる。 カードの謎を解けば《$31$ の謎》も解ける」
ユーリ「お兄ちゃん! 教えて教えて!」
僕「教えてもいいけれど、お兄ちゃんがぜんぶ話したらつまらないだろ。 いっしょに考えてみよう」
ユーリ「それはいーけど……考えるって?」
僕「いきなり $31$ はたいへんだから、まずは《小さな数で試す》のが大事だね。 つまり、《$1$ から $31$ まで当てるカード》じゃなくて、 まずは《$1$ から $1$ まで当てるカード》を作ってみることにしよう」
ユーリ「$1$ から $1$ まで当てる……って、なに言ってんのお兄ちゃん。そんなの、当たるに決まってんじゃん」
僕「まあまあ。《$1$ から $1$ まで当てるカード》ならユーリも作れる。カードは $5$ 枚もいらないよね」
ユーリ「こーゆーカードが $1$ 枚あればいーんでしょ? ぜんぜん意味ないけど」
《$1$ から $1$ まで当てるカード》
僕「そうそう、いいね。 $1$ と書かれたカードが一枚あればいい。 そして、相手は《$1$ から $1$ までのうち、好きな数を思い浮かべてください》といわれて、 このカードを選ぶわけだ」
ユーリ「変なの」
僕「こういう《極端なことを考える》のは大事なんだよ」
ユーリ「そーかなー」
僕「じゃあ次だよ。ユーリは《$1$ から $2$ まで当てるカード》を作れるかな」
ユーリ「あっ、そーゆーことか。だんだん増やすんだね」
僕「そうそう」
ユーリ「こーすればいい?」
《$1$ から $2$ まで当てるカード》
僕「いいね。 $2$ が書かれたカードと、 $1$ が書かれたカード。この $2$ 枚があればいいよね」
ユーリ「これさー、思い浮かべた数のカードを相手が見せてくれることになるじゃん。 マジシャンは《数を当てる》じゃなくて、《数を教えてもらう》ことになるよ!」
僕「おっ、ユーリは賢いなあ」
ユーリ「へ? だってそーでしょ?」
僕「その通りだね。マジシャンは相手に《数を教えてもらう》ようなものだ」
ユーリ「? ……そんで次は、 $1$ から $3$ まで?」
僕「そうだね。《$1$ から $3$ まで当てるカード》を作りたいとしたらどうする?」
ユーリ「また教えてもらえばいーんだよ。こーゆー $3$ 枚で」
《$1$ から $3$ まで当てるカード》?
僕「確かに $3, 2, 1$ の数がそれぞれ別なカードに書いてあれば、数は当てられるけど……」
ユーリ「けど?」
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結城浩のメンバーシップで参加 結城浩のpixivFANBOXで参加(2013年2月8日)
この記事は『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』として書籍化されています。
書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。
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