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第13回 シーズン2 エピソード3
センター試験の数学的帰納法(前編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう』

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放課後の図書室。後輩のテトラちゃんに質問してきた。

テトラ「先輩。センター試験で数学的帰納法すうがくてききのうほうというものが出題されましたね」

「そうだね」

テトラ「名前から、なんだかとっても難しそうなんですが……」

「名前からは難しそうに見えるけど、 理解するのはそれほど難しくないよ。 先走った思い込みを捨てて、ていねいに一つ一つ考えれば」

テトラ「それで……あのう……」

「ん?」

テトラ「もし先輩のお時間がよろしければ、解説していただければと思いまして……」

「ああ、そうだね。じゃあいっしょにセンター試験を解いてみようか」

テトラ「はいっ!」

「数学的帰納法が出てきたのは大学入試センター試験(2013年)の数学II・数学Bの第3問(選択問題)で、そのうちの(2)だね」

テトラ「はい」

「第3問には(1)と(2)があって、両方とも数列の問題だよ。 (1)はよくあるタイプの問題で、数列の一般項と数列の第 $n$ 項までの和を求めるもの。 (1)の答えは(2)の最後にちょこっと関連しているだけだから、(2)だけを話すね」

テトラ「はい、わかりました。よろしくお願いします」

「まずはふつうに問題文を読んでみよう」

問題文(その1)

問題文(その1)2013年大学入試センター試験 数学II・数学B 第3問(選択問題)(2)より

正の数からなる数列 $\{ a_n \}$ は、初項から第 $3$ 項が $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ であり、すべての自然数 $n$ に対して $$ a_{n+3} = \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} \qquad \REMTEXT{$\cdots$【2】} $$ を満たすとする。 また、数列 $\{ b_n \}, \{ c_n \}$ を、自然数 $n$ に対して、 $b_n = a_{2n - 1}, c_n = a_{2n}$ で定める。 数列 $\{ b_n \}, \{ c_n \}$ の一般項を求めよう。 まず、【2】から $$ a_4 = \frac{a_1 + a_2}{a_3} = \REMTEXT{[シ]}, a_5 = 3, a_6 = \frac{\REMTEXT{[ス]}}{\REMTEXT{[セ]}}, a_7 = 3 $$ である。 したがって、 $b_1 = b_2 = b_3 = b_4 = 3$ となるので、 $$ b_n = 3 \qquad (n = 1, 2, 3, \ldots) \qquad \REMTEXT{$\cdots$【3】} $$ と推定できる。 【3】を示すためには、 $b_1 = 3$ から、すべての自然数 $n$ に対して $$ b_{n+1} = b_n \qquad \REMTEXT{$\cdots$【4】} $$ であることを示せばよい。このことを……(以下続く)

テトラ「ちょ、ちょっと待ってください先輩。もうすでに頭がパンクしそうです」

「あ、そうだね。ごめんごめん。一度にぜんぶ読むんじゃなくて、一文ずつ説明しようか」

テトラ「ず、ずいぶん長くて複雑な問題文で……しかも、まだ先があるんですよね」

「そうだね。長い文章で書かれた問題文はどうしても身構えてしまうかな。 試験のときはすばやく読むことも必要だけど、いまは理解することが大事だから、 くぎって《少しずつ読む》ようにしようか」

テトラ「少しずつ……」

「そう。中途半端な理解のまま、全体を急いで読んだとしても結局なにもわからないで終わってしまう。 せっかくだから、少しずつ読もう。ひとつひとつ理解を確かめながら」

テトラ「はいっ!」

「まずこんな表現が出てくる」

正の数からなる数列 $\{ a_n \}$ は……

テトラ「はい。せいの数というのはわかります。プラスの数のことですね」

「そうだね。それでいいよ。 それから数列すうれつというのはその名の通り、数の列のこと。 $1, 2, 3, 4, \ldots$ も数列だし、 $2, 4, 6, 8, \ldots$ というのも数列になる。 $1.1, -3.2, 0, 5.3, -7.4, \ldots$ なんていうのも数列」

テトラ「あれ、でも、プラスの数……」

「あ、そうだね。この問題文では《正の数からなる数列 $\{ a_n \}$》といってるから、 数列 $\{ a_n \}$ は、 $1.1, -3.2, 0, 5.3, -7.4, \ldots$ のようなゼロやマイナスの数が入っている数列ではないわけだ」

テトラ「はい」

「いろんな数列を考えることができるけど、一般的に数列はこんなふうに表現できる」

$$ a_1, a_2, a_3, a_4, \ldots $$

テトラ「この $a_1$ や $a_2$ といったものがすべて数を表している……ということですね?」

「そうそう。実際には数だけど、それに番号付きの名前を付けているわけだね。 この数列の $1$ 番目の数を $a_1$ と表し、 $2$ 番目の数を $a_2$ と表し……という具合だ」

テトラ「はい、わかります」

「そして、ある数列全体のことを $\{ a_n \}$ と書き表しているんだね、この問題文では」

テトラ「ははあ……これっていうのは、実際には何かの数の列なんですよね?」

「そうだよ。問題文の続きを読むと、どんな数の列なのか、最初のいくつかは具体的に書いてあるよ」

……初項から第 $3$ 項が $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ であり……

テトラ「あ、そうですね。数列の $1$ 番目の数が $3$ で、 $2$ 番目の数が $3$ で、 $3$ 番目の数が $3$ で……あれれ? ぜんぶ $3$ ですか?」

「いやいや、問題文にはそうは書いていないね。ほらほら、それが先走った思い込みだよ!」

テトラ「あちゃちゃ! そうですね、すみません」

「問題文をここまで読んできてわかったのは、数列 $\{ a_n \}$ は、 $3, 3, 3, $ という数で始まるということだ」

$$ 3, 3, 3, \ldots $$

テトラ「そうですね」

「センター試験はマークシート式だけど、マークを塗ることだけを考えていちゃだめなんだよ。 あくまで出された数学の問題を解く、という気持ちになること。 数学の問題がきちんと解ければ正しくマークできる。 そして、問題をきちんと解くためには問題文をしっかり読まなくちゃいけない」

テトラ「なるほど。それはそうですね……問題文をしっかり読む」

「じゃ、問題文の続きを読もう。数列 $\{ a_n \}$ の説明が続いているよ」

数列 $\{ a_n \}$ は、…(略)…すべての自然数 $n$ に対して $$ a_{n+3} = \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} \qquad \REMTEXT{$\cdots$【2】} $$ を満たすとする。

テトラ「先輩、あたし、【2】のように文字がたくさん出てくる数式が苦手なんです……」

「こわがらないでよく見てごらん。 この【2】という式を見て、何かわかることはあるかな」

テトラ「ええと……ええと……【2】に出てくる文字はぜんぶ、$a_\REMTEXT{なんとか}$という形ですね」

「そうそう。 もう少しきちんと読むと、【2】に出てくる文字は、 $a_n$ と $a_{n+1}$ と $a_{n+2}$ と $a_{n+3}$ だ」

テトラ「あの……ここに出てくる $n$ って何でしょう」

「問題文を読もう。《すべての自然数 $n$ に対して》って書いてあるよね。 自然数というのは $1,2,3,4,\ldots$ という数のことだから、 この【2】という式の $n$ に $1,2,3,4,\ldots$ のどの数を入れても、【2】という等式が成り立つ——っていってるんだ」

テトラ「誰がですか? 誰がそういってるんですか?」

「問題作成者が、だよ。この問題を作った人がそういってる。 問題作成者は、この【2】という式を使って 数列 $\{ a_n \}$ を定義しているんだよ!」

テトラ「ははあ……」

「数列は数の列。さっき、 $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ という三つの式で、数の列のうち最初の $3$ 項はわかっている。 でも、そこから先はわからない。 だけど、この【2】という式を使えば、その先の項 $a_4, a_5, a_6, \ldots$ をずっと決めることができる」

テトラ「ずっと……ずっと決められるんですか。無限に?」

「まあそうだね。《無限に決める》という言い方は誤解を生みそうだけれど。 どんなに大きな自然数 $n$ に対しても $a_n$ は決められるということ。 たとえば $10000$ に対しても、 $a_{10000}$ は決められる。【2】の式を使えばね」

テトラ「あ、あの……ごめんなさい、【2】の式をどう《使う》のかわからないです。ものわかりが悪くてすみません」

「もう一度【2】の式をよく見よう。こわがらずに落ち着いて、式の形をよく見るのは大事だよ」

$$ a_{n+3} = \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} \qquad \REMTEXT{$\cdots$【2】} $$

テトラ「複雑ですね。えっと、式の形は、分数です。それから……えっと、あとは?」

「うん。ここで大事なのは、《右辺》に $a_n, a_{n+1}, a_{n+2}$ があって、《左辺》に $a_{n+3}$ があるというところなんだ」

テトラ「はあ……どうしてでしょう」

「なぜ大事かというとね……いいかい、ここがポイントだよテトラちゃん。 【2】の式を使えば《$a_1, a_2, a_3$ から $a_4$ が計算できる》からなんだよ」

テトラ「え……あっ! 確かにそうですねっ!」

「【2】の $n$ に $1$ を代入すれば、右辺に出てくる $a_1, a_2, a_3$ から左辺の $a_4$ が計算できる。 次に、【2】の $n$ に $2$ を代入すれば、右辺に出てくる $a_2, a_3, a_4$ から左辺の $a_5$ が計算できる——これは、わかるよね?」

テトラ「先輩っ! わかりますわかります! 《$a_1,a_2,a_3$ から $a_4$》、 《$a_2,a_3,a_4$ から $a_5$》、《$a_3,a_4,a_5$ から $a_6$》……これを繰り返せば、 どんなに大きな自然数 $n$ についても $a_n$ が計算できるんですねっ!」

「そうそう。さえてるよ、テトラちゃん。 機械的に繰り返せばいいということがわかる。 だから、《$a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ という具体的な数》と、 《【2】という式》の二つを使って、 数列 $\{ a_n \}$ を定義していることになる。 【2】の式が分数かどうかというのはまずはどうでもいい。 最初に押さえておかなくちゃいけないのは、 ここで《数列 $\{ a_n \}$ を定義している》ということなんだ」

テトラ「はわわ……数式はそういうふうに読むんですか……」

「【2】のように数列を定めている数式のことを、数列の漸化式ぜんかしきっていう。 この問題文では《数列 $\{ a_n \}$ を、最初の $3$ 項と、次の $1$ 項を得る漸化式によって定義している》といえる。 ここまで、わかった?」

テトラ「はいっ! よくわかりました」

テトラ「先輩! あたしは最初、文字がいっぱいあるし、ややこしい式が出ている……って思ったんですが、 先輩の説明をお聞きしてよくわかりました。 ここではとにかく、数列 $\{ a_n \}$ を計算できるようにしてるんですね!」

「そうそう、そういう理解でいいよ。 数学の問題は、こんなふうに一歩一歩読めばちゃんと理解できるんだよ。 でも、なかなか数学的帰納法まで行き着かないなあ」

テトラ「いえいえ、先輩。 ここまででも、すごく勉強になります。 なんだか、頭の中がすごく整理されたようです。 数式がごちゃごちゃごちゃっと散らかっていたのに、 スキッと片付きました」

「それはよかった。じゃあ、センター試験の問題文、続きを読もうか」

テトラ「あ、あの……先輩、すみません。 せっかく計算のやり方がわかったので、あたし、【2】を使って具体的に $a_4, a_5, a_6, \ldots$ を計算してみたいんですけど……」

「ああ、そうだね。テトラちゃんの気持ちはよくわかるよ。やってみて」

テトラ「はいっ! では、計算します。まず $a_4$ ですね」

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(2013年1月25日)

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書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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